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【連載】西川善司の「NISSAN GT-R」ライフ

第15回:実はGT-Rに適合するOBD2対応レーダー探知機は存在した

 本連載第6回(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20120702_542952.html)でレーダー探知機を取り付ける話をしたが、GT-Rを取り巻くレーダー探知機事情が大きく変化したので、今回はその話題を紹介したい。

広がるOBD2ポート関連グッズワールド

 レーダー探知機は、オービス(自動速度取り締まり装置)やレーダー波を使った速度取り締まりを事前に知らせてくれる装置で、カーライフ支援グッズとしてはカー用品量販店などでは常に人気の高い商品だ。

 最近では、その地域の駐車場情報やグルメ情報を教えてくれるなど、カーナビ機能と一体化したものまで登場しており、もはや自動車用情報端末の定番商品になりつつある。

 そして、特に最近人気を博しているのが、車両の故障診断ポート(OBD2ポート)を利用して車両のリアルタイム情報を表示する「OBD2対応機能」を備えた製品だ。2011年初頭、ユピテルはOBD2対応のレーダー探知機を初めて市場に導入した。その後、対応車種を広げてきたのだが、残念ながらR35 GT-Rへの適合は依然「不可」のままとなっている。

 ユピテルの後に続いたのがCOMTECで、2012年半ばに同社もOBD2ポート対応のレーダー探知機の製品を発売した。発売は奇しくも本連載第6回のレーダー探知機編を掲載した直後の事であった。COMTECはOBD2ポート対応機能に関しては後発ということもあり、適合車種がユピテル製のものよりも多く、実際GT-Rへの適合を「可」としている(ただし、2012年モデル以降に限定)。

 さて、ユピテル製にせよCOMTEC製にせよ、このOBD2ポート対応機能を利用するためには、OBD2ポートアダプタケーブルを別途買い求める必要がある。ちなみに、ユピテル製レーダー探知機に対応するのは同社製「OBD12-RD」、COMTEC製の方は「OBD2-R1」が対応品としてラインアップされており、実勢価格はいずれも5000円~5980円前後。

 連載第6回で取り上げたように、筆者はユピテル製のレーダー探知機「GWR-73sd」を選択してGT-Rに搭載したわけだが、公式に「GT-RではOBD2ポートの利用不可」と表明されていたため、この時はヒューズボックスから直接電源を取る形での配線を行った。

 後に、GT-R対応のCOMTECの製品に買い替えて試してみたいという気持ちはあったが、本連載のネタは、車体も含めすべて自腹で仕入れているので、サイフ事情がそれを許してくれず、傍観しているだけだったのだ。ただ、ずっと気になっていたのは、COMTEC製のOBD2ポートアダプタとユピテル製のOBD2アダプタが酷似しているという点だった。

 形状は同じものに接続する装置なので当然として、ディップスイッチの設定や、適合車種リストの可否分布もよく似ている。もしかして、中のSoC(System on a Chip:ワンチップマイコン)は似たようなもの、あるいは仕様がほとんど同じものなのではないかと考えるにまで至っていた。

 そういえば、最近はレーダー探知機だけでなく、OBD2ポートを使った関連グッズが急激に増加傾向にあり、スマートフォンに車両情報をリアルタイムに表示させるグッズや、OBD2ポートを使ったスロットルコントローラ製品までリリースしている。さらに、「ELM327」のような汎用のOBD2ポートリーダーのようなものまで出てきており、DIYユーザーが独自にOBD2ポートを読み出してオリジナルアプリケーションを作ることも不可能ではなくなってきている。

 こうしたOBD2関連グッズの広がりは、おそらく安価で汎用性の高いOBD2対応SoCの入手性がよくなったからだろう。

カーメイトのOBD2連携アクセサリー「DriveMate Connect DX500」。スマホ側で動作させるアプリによってさまざまな機能を提供できる、いわばOBD2アプリケーションプラットフォームだ
OBD2ポート接続のPIVOT製スロットルコントローラ「3-drive・X」

 2013年になって間もない頃、ふとしたきっかけで、COMTECのOBD2アダプタであるOBD2-R1と、ユピテルのOBD12-RDのコネクタ形状がまったく同一であるという事実を知る。

 この辺りの情報を、R35 GT-Rオーナーズクラブのarieru21_seeさんと話していた流れで、2つの実験検証を行ってみようということになった。

 1つ目は「COMTECのOBD2-R1をユピテルのOBD2対応レーダー探知機に接続してうまくGT-Rで動作できるか」という実験。2つ目は「ユピテルのOBD12-RDの車種適合用ディップスイッチを日産にこだわらず設定してGT-Rで動作できるかどうか」という実験だ。

 話の流れで前者を筆者が担当することになり、arieru21_seeさんは後者を実験することになった。

ユピテルのOBD12-RDのコネクタ形状。D型の8ピン端子
COMTECのOBD2-R1のコネクタ形状。同じくD型の8ピン端子

COMTEC製OBD2アダプタをユピテルのレーダー探知機で試してみる

 筆者は、COMTEC製OBD2-R1をイエローハット大宮17号バイパス店で5980円で入手。さっそく、取り付け実験をしてみることに。

 R35 GT-RのOBD2ポートは、トランクオープナーのさらに足下寄りにあり、取っ手付きのプラスチックカバーで覆われているだけなので、誰でも簡単に取り外すことができる。ただ、OBD2ポートがこのカバーに直付けされているので取り回しはわるい。

 ただ、OBD2ポートは爪付きレールにはめ込まれているだけなので、蓋裏にある爪を押し下げながら端子接続面方向に引き出してやるだけで、簡単に外すことができる。

GT-RのOBD2ポート端子(上)とそのカバー(下)。取り外しは簡単で、元に戻すのも簡単だ
COMTEC製OBD2-R1。筆者は定価での入手となったが、ネット通販だと相場的には5000円前後のようだ
車体側のOBD2ポートとCOMTEC製OBD2-R1を接続

 これをそのままCOMTECのOBD2-R1と接続するだけで接続は完了だ。ディップスイッチ設定は4つあるので、組み合わせ的には16通りが提供できるはずなのだが、COMTECが適合車種と対応する形で公開しているものは下図の13パターンとなっている。

 このうち、COMTECが発表している適合車種一覧(http://www.e-comtec.co.jp/taiou/set/obd.pdf)によれば、OEM車種を除く主な日産車用は設定(3)となっているのだが、GT-Rに関しては設定(13)が指示されている。

公開されている13個の設定パターン
GT-Rは設定(13)が指示されている。ちなみに、2011年モデル以前は非対応だ

 実際に、設定(13)を設定してOBD12-RDをGWR73sdに接続してみたところ、普通に起動してしまった。

 メーカーが違うのに起動してしまったことには驚いたが、しかし喜びも束の間。リアルタイム車両情報への表示モードは、メニュー上で不活性のまま選択できない。つまり電源が取れているというだけのようだ。

 設定(3)の日産車用も含め、4つのディップスイッチが提供できる16パターンをすべて試してみたが、電源が入る組み合わせが幾つかあるだけで、OBD2ポートからの読み出しは成功しなかったのであった。

 一方、ユピテルのOBD12-RDでテストしたarieru21_seeさんからは、「ホンダ車向け設定で動作してしまった」という実験報告が届く。

 arieru21_seeさんは、ユピテル製のOBD2対応レーダー探知機の「Z955si」「GWR70sd」でテストしたようなのだが、そのいずれにおいても「ホンダ車向け設定でOBD2ポートからの読み出しに成功したとのことだった。

起動はするも、OBD2ポートからの情報は取れず。速度情報が表示されたときには「おっ」と思ったが、実はこれはGPS情報から算出されたモノで、OBD2ポートからの情報ではない
arieru21_seeさんからの実験報告写真。「GWR70sd」でのOBD2ポート読み出し正常動作を確認
arieru21_seeさんからの実験報告写真。「Z955si」でのOBD2ポート読み出し正常動作を確認

 arieru21_seeさんの実験成功報告を聞いて興奮気味の筆者は、こちらの実験が失敗したことに落ち込む暇もなく、COMTEC製のOBD2-R1を外し、すぐさまユピテル製のOBD12-RDを買い求めに走るのであった。

ユピテル製OBD2アダプタをホンダ車向け設定にするとGT-Rで正常動作!

 ユピテル製OBD12-RDは、幸い地元のスーパーオートバックス大宮バイパス店に在庫があり、5980円で購入した。

ユピテル製「OBD12-RD」
車体側のOBD2ポートとユピテル製OBD12-RDを接続。ディップスイッチ設定はホンダ車向け設定に

 COMTEC製OBD2-R1を取り外し、ユピテル製OBD12-RDへとすげ替える。その際には、arieru21_seeさんからの報告のホンダ車向け設定にディップスイッチを変更。ちなみに、ユピテルが発表している適合車種一覧はこちら(http://www.yupiteru.co.jp/harness/obd2.pdf)になる。

ユピテル製OBD12-RDは公式情報としてはGT-Rは未対応で、適合車種リストに記載がない
日産車設定ではダメで、ホンダ車設定にするとGT-Rに適合するという不思議さ

 エンジンスタートボタンを押して待つこと十数秒、いつもよりゆっくりとGWR73sdは起動した。OBD2アダプタでの初回起動時は、レーダー探知機側の初期化プロセスがあるため少々待たされるので、このこと自体に不思議はない。

 続いてOBD2関連項目が有効かどうかを確認。おおっ、これまで一度たりとも活性化していなかった「OBD」メニューが煌々と輝いているではないか。OBD2ポートからの読み出し情報を画面に表示するためには、GWR73sdの「待受画面」を「OBDデータ」に設定する必要がある。

 ただしGT-Rでは、GWR73sdが想定しているすべての車両情報を得られないようで、一部の情報項目は「0」のままだったり、「---」と表示なし状態だったりする。

正しくOBD2ポートが読み出せないと「OBD」項目は灰色表示となる。このように「OBD」の3文字が煌々と輝いていれば読み出しが行えているということの証
「待受画面」モードを最下段の左から2番目(AUTOの左隣)を選択することでOBD2ポートからの情報が見られる
GT-Rでは燃費関連の情報はすべて「---」となってしまっていた。それ以外の情報は取れているようだ

 そこで、GT-Rでは、どんな情報が取れるのかを実際に調べてみた。

 下表がその調査結果になる。「○」を付けたのがGT-Rで正常な値が表示できている項目。「×」は未対応の表示項目に対応する。

GT-RでOBD12-RDを用いて正常に読み出せた項目(筆者独自調べ)
速度:○平均速度:○最高速度:○5秒速度:○平均5秒速度:○最高5秒速度:○
回転数:○平均回転数:○最高回転数:○エンジン負荷:○平均負荷:○最大負荷:○
スロットル開度:○平均スロットル開度:○最大スロットル開度:○点火時期:○燃料レベル:×インマニ圧:×
最大インマニ圧:★MAF:×INJ:×冷却水温度:○最高冷却水温度:★吸気温度:○
最高吸気温度:★外気温:×最高外気温:★残燃料:×燃料流量:×最大燃料流量:★
消費燃料:×生涯消費燃料:×瞬間燃費:×今回燃費:×最大今回燃費:★生涯燃費:×
平均燃費:×一般道平均燃費:×高速道平均燃費:×移動平均燃費:★最大移動平均燃費:★運転時間:○
走行時間:○アイドル時間:○アイドル比率:○走行距離:○生涯走行距離:○0-20km/h加速時間:○
0-20km/h平均加速:○0-20km/h最短加速:○0-40km/h加速時間:○0-40km/h平均加速:○0-40km/h最短加速:○0-60km/h加速時間:○
0-60km/h平均加速:○0-60km/h最短加速:○0-80km/h加速時間:○0-80km/h平均加速:○0-80km/h最短加速:○0-20km/h走行時間:○
20-40km/h走行時間:○40-60km/h走行時間:○60-80km/h走行時間:○80km/h以上走行時間:○生涯エンジン走行距離:★生涯エンジン走行比率:★

○:GT-Rで正しい表示を確認
×:GT-Rでは未対応
★:筆者のGWR73sdには存在しない表示項目

 なお、表中の情報項目名は、2013年モデルのユピテル製レーダー探知機のものを基準としており、筆者が所有する2012年モデルのGWR73sdには存在しない項目もあった。それらについては未調査と言うことで「★」を付けている。

 ただ、外気温関連、燃料関連、燃費関連の情報はGT-Rでは一切取れないようで、「★」を付けたものでも燃費関連項目は高確率で「×」のはずだ。筆者独自調べということで参考程度にして頂きたい。

OBD2ポートからの情報により、GT-Rライフがより深く楽しめそう

 実際にこの状態で首都高へテスト走行に出かけてみる。

 OBD2ポートを利用していなかった本連載第6回(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20120702_542952.html)時点の実験では、中央環状線(C2)トンネル内のオービス本体を通り過ぎたときに「1km先にオービスあり」の警告が始まる、という残念な結果になったわけだが、今回はバッチリ。正確な自車速度が取れているためか、屋外と同等の位置精度で警告を行っていた。

 OBD2ポートの読み出し成功で嬉しいのは、何もリアルタイム速度情報だけではない。GT-Rの場合、車両のリアルタイム情報を表示してくれるマルチファンクションメーター(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20121107_571012.html)があるので、OBD2ポートからの情報表示はあまり意味がないのでは? と思われがちだが、実際はそうでもない。

 まず便利なのは、OBD2ポートを利用したGWR73sdが、車両情報の「最高値」「平均値」といった情報を表示してくれるところ。

 GT-Rのマルチファンクションメーターは、各種パラメータをリアルタイム表示してくれるが、意外なことにピークホールド機能がない。なので、マルチファンクションメーターだけでは今回の走行において「最高速度は何km/hだったか」「最高エンジン回転数は何rpmだったのか」が分からないのだ。そう、GWR73sdではそうした情報表示を行ってくれるので、ちょうど純正マルチファンクションメーターに対して程よい補完デバイスとして活躍してくれるのである。

 そして「吸気温度」のような、純正マルチファンクションメーターにない表示項目も重宝する。吸気温度が高いことが分かれば、エンジン保護に振った運転を心がけるといった判断に繋げられる。GT-Rオーナーにとって真夏のトンネル内の渋滞、サーキットでの高負荷走行時などなど、吸気温度が気になる局面はけっこうあるので、この情報は価値が高い。

 ところで、GWR73sdでは画面の大きさと解像度の制限から、OBD2ポートから読み出し・算出された情報は最大14項目までを一括表示できるようになっている。15項目以上の表示も可能だが、その場合はスクロール表示となるので、走行中確認する用途を重視する際にはスクロールなしの静止状態で表示が維持される14項目に留めたくなる。

 筆者の場合は、前述したように「純正マルチファンクションメーターにない情報」と「平均値およひ最大値の情報」に価値があると考え、それらを優先して14項目選んで表示させている。筆者が具体的に何を選んだのかは写真で確認してみて欲しい。ここに何を表示するのかを、自分なりにカスタマイズするのも楽しい時間となるに違いない。

どの情報項目を表示させるかを決定するには、「待受画面」-「OBDデータ」メニューで設定
筆者が選択した14項目はこちら

 ところで、OBD2ポート利用前はGWR73sdの待受画面は地図表示(マップモード)にしていたのだが、OBD2ポート利用後は、その14項目情報表示モードにしている。GWR73sdは元来レーダー探知機なので、この機能もちゃんと有効利用しなければ本末転倒である。

 筆者は、普段の平常時は待受画面としてOBD2ポートから読み出し算出した14項目表示にしているが、オービス接近時などの警告動作時にはマップモードに自動的に切り替わるように設定した。こちらも活用時の参考にしていただきたい。

オービスが近づいてきたときには、OBD2ポートからの車両読み出し情報表示をキャンセルして、オービスの位置情報表示に自動的に切り替えてくれるモードに設定しよう
筆者はうるさいと感じた「時報」をOFFにしている

 なお、今回の実験はGT-Rの2012年モデルで実験した結果なので、他の年式についての動作を保証するものではないことを断っておく(arieru21_seeさんのGT-Rも2012年モデル)。また、筆者のGT-RはNISMOのスポーツリセッティングコンピュータを搭載した車両で、arieru21_seeさんのGT-Rは純正コンピュータであったことも補足情報として追加しておきたい。

西川善司

テクニカルジャーナリスト。元電機メーカー系ソフトウェアエンジニア。最近ではグラフィックスプロセッサやゲームグラフィックス、映像機器などに関連した記事を執筆。スポーツクーペ好きで運転免許取得後、ドアが3枚以上の車を所有したことがない。以前の愛車は10年間乗った最終6型RX-7(GF-FD3S)。AV Watchでは「西川善司の大画面☆マニア」、GAME Watchでは「西川善司の3Dゲームファンのためのグラフィック講座」を連載中。ブログはこちら(http://www.z-z-z.jp/BLOG/)。

(トライゼット西川善司)