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セバスチャン・ベッテル、史上3人目の4年連続F1チャンピオン記念

「F1 on Zume」を真剣に使ってF1を楽しんでみた

 10月27日(現地時間)、インドのニューデリー郊外にあるブッダ国際サーキットコースに置いて開催されたF1インドグランプリは、F1日本グランプリでも優勝したセバスチャン・ベッテルが再びポール・トゥー・ウインを決めて、自身4度目、かつ4年連続となるF1ドライバーチャンピオンの座を確定させた。

 4年連続でF1チャンピオンになったのは、過去にファン・マヌエル・ファンジオ(1954年~1957年)と、ミハエル・シューマッハ(2000年~2004年)が達成しているだけで、ベッテルの4連覇はそうした偉大なチャンピオンに並ぶ史上3人目の偉業となり、大きくレギュレーションが変わる来年には、ミハエル・シューマッハの持つ5連覇という大記録にチャレンジすることになる。

 この記事では、そうしたベッテルの偉業を称えて?という訳ではないが、7月にTVバンクが発表したF1レースのストリーミング中継サービス「Formula 1 on Zume」について、紹介していきたい。このFormula 1 on Zumeは英国のZume Motor Racing Limitedと提携して提供されるサービスで、F1のライブ中継をインターネット経由で楽しむことができる。もちろん、中継映像という意味ではBSフジの録画中継や、フジテレビNEXTでの生中継と同じ映像だが、Formula 1 on Zumeだけの特徴としてユーザーが自分で選択したドライバーのオンボードカメラ、ピットレーンの様子を映し出すカメラの映像を任意に選択することができ、いわゆる国際映像だけでなく、特定ドライバーだけを追いかけるといった楽しみ方ができるのが特徴だ。

 ちなみに、残る今シーズンのF1は、11月22日~24日開催されるF1ブラジルグランプリのみ。TVバンクでは、このサービスを来シーズンどうするかは発表しておらず、楽しめるのは残り1回かも知れない。

Formula 1 on Zumeのレース選択画面。決勝レース終了後28日になるまではアーカイブとして保存されている以前のレースを見ることもできる
その週末に開催中のレースの場合、レースなどをライブで見ることが可能なほか、予選やフリー走行などをアーカイブとして楽しむこともできる
レースをライブで楽しんでいるところ、国際映像だけを楽しむことももちろんできる

テレビ放送ではなくインターネット経由でF1中継を楽しむためのソリューション

 日本でF1中継を楽しむ時に最も一般的な方法は、フジテレビが行っている放送を見ることだろう。一昨年までは地上波のフジテレビで、そして昨年からはBSフジで無料の録画中継が行われているほか、CS放送のフジテレビNEXTではレースだけでなく、3回あるフリー走行、予選、そして決勝を完全に生中継で放送している。特にフジテレビNEXTの中継は、今年からレースの開始30分前から中継を開始しており、レコノサンスラップと呼ばれるピットからグリッドに着くまでの周回や、グリッド上でのドライバーの様子、開催国の国歌斉唱などのセレモニーも楽しむことができるようになっている。このため、F1中継をとことん楽しみたいという熱心なファンであれば契約して視聴しているという人も少なくないだろう。

 ただし、フジテレビNEXTを契約するにはいくつかのハードルがある。1つは、CS放送を受信できる環境であることだ。フジテレビNEXTを視聴するには、「スカパー!」というCS放送のサービスを契約する必要がある。ここでは詳しい説明しないが、110度CS放送、ないしは124/128度CS放送を受信できるアンテナと、チューナーないしはTVを所有していることが前提になる。賃貸マンションだったり、建物の方向が南東を向いていないためアンテナが設置できなかったりという家庭も少なくないと考えられるため、誰でも加入することができる訳ではない。

 そうしたユーザーに朗報なのが今回紹介する「Formula 1 on Zume」だ。フジテレビNEXTの有料放送や、BSフジでの無料放送がBS/CSアンテナを持っていなければ楽しむことができないのに対して、Formula 1 on Zumeはインターネットを経由して中継を楽しむことができる。このため、ユーザーは対応する端末とある程度の速度が出る回線を所有していれば、F1中継を楽しむことができるのだ。

 Formula 1 on Zumeを楽しむには、高速なインターネット環境のほか、以下のような環境が必要になる。

デバイス:PC(Windows 7以降)、Mac(Mac OSでFlash11.1以上に対応したブラウザ)、iPadもしくはiPhone(iOS6.0以降)。

 現時点(インドグランプリの時点)で、Formula 1 on Zumeは3種類のデバイスで楽しむことができる。1つは、WindowsないしはMac OSがインストールされたPCで、Webブラウザがインストールされていれば利用することができる。ただし、Formula 1 on Zumeを再生するにはAdobeのFlash Playerのプラグインがあらかじめ導入されている必要がある。ChromeやWindows 8.xのInternet Explorerのように最初からFlash Playerが導入されているブラウザであれば特に対応する必要は無いが、そうでない場合にはAdobeのWebサイトなどからダウンロードして導入しておこう。

 残り2つはAppleのタブレットであるiPadシリーズと、スマートフォンであるiPhoneを利用して楽しむことができる。いずれもOS(基本ソフト)となるiOSのバージョンが6.0以上である必要があるので、5.xなど古いバージョンの場合には、あらかじめiOSをバージョンアップしておく必要があるので注意したい(なお、最新のiOS7でも動作はする。auのiPhone5にiOS 7.0.3を導入してテストしたが動画が再生することなどを確認した)。

 現時点ではAndroidをOSとして採用しているタブレットやスマートフォンではFormula 1 on Zumeを楽しむことができない。以前はAndroid用のFlash Playerが提供されていたのだが、現在ではAndroid向けにFlash Playerは提供されていないため、基本的には利用することができない。このため、Androidに対応したFormula 1 on Zumeの専用アプリが登場するまでAndroidのユーザーはPCなどを利用して楽しむといいだろう(Zume Motor Racingによれば、将来的にAndroidに対応する計画があるようだ)。

Formula 1 on Zumeはリアルタイム性があり、レース終了後のオンデマンド再生も可能

 Formula 1 on Zumeの使い勝手だが、BSフジやフジテレビNEXTのテレビ放送を利用したF1中継と比較してどのように違うのだろうか。

視聴手段BSフジフジテレビNEXTFormula 1 on Zume
リアルタイム性録画のみ○(数秒の遅れ)○(数十秒の遅れ)
好きなときにリプレイ--
出先で視聴--○(国内のみ)
中継音声日本語日本語英語
追加情報別途PCやタブレットを利用別途PCやタブレットを利用コース情報、ドライバー情報
国際映像
ピットレーン映像--
任意のドライバーのオンボード映像--

 まず最大の違いは、BSフジの無料放送はライブ中継ではなく、レースが終了してから放送される録画中継であるという点だ。これに対して、フジテレビNEXTとFormula 1 on Zumeは、実際にサーキットで行われている放送とほぼ同時にリアルタイムで中継されるというところにある。

 インターネットが普及する前であれば、テレビによる中継が行われる前にレースの結果を知ってしまう危険性はほとんどなかった。しかし、これだけインターネットが普及してしまうと、レース専門サイトだけででなく、一般のニュースサイトであってもBSフジの録画中継が行われる前に結果が掲載される危険性が高い。また、現代はスマートフォンやPCなどでSNSを利用している人が多いだろうが、当然リアルタイムでレースを見ている人はその結果をどんどんつぶやいたりしている。その結果、録画中継が始まる前に結果を知ってしまう危険性は高い。以前のように中継がフジテレビの録画中継しか無かった頃は、結果を知ってしまっても、見ていない人に結果を言わないというのはF1ファンのマナーのようになっていたが、現代のように努力をすればリアルタイムにレースを見る環境が整っている以上、その状況は過去のモノになったと言ってよい。レースを見るまでに結果を知らないためにできることは、絶対にインターネットを見ない(つまりスマートフォンやPCを使わない)か、自分もリアルタイムに見ることしかないのだ。

3つの動画を表示しているところ。中央が国際映像、左がベッテルのオンボードカメラ、右上はピットレーンカメラ
こちらはiPhone 5で表示しているところ。レース選択が同じようにできる
iPhoneで国際映像を楽しんでいるところ
iPhoneでは2つの画面に分割して表示できる。1つは国際映像だが、もう1つはオンボードかピットレーンカメラ
ライブでレースを楽しんでいる場合でも、レースの途中に巻き戻して見ることもできる

 その意味で有力な選択肢となるのはフジテレビNEXTと今回紹介しているFormula 1 on Zumeだ。ただ、実際にはどちらも、実際のレースからは少し遅れて放送されている(リアルタイムに周回ラップなどを確認できるライブタイミングを見れば分かるだろう)。これは、現地で撮影した動画を、インターネットや放送波に合うように変換するプロセスが入るためで、フジテレビNEXTでも数秒リアルタイムよりは遅れているのだ。Formula 1 on Zumeはもう少し遅れていて、20~30秒程度は遅れている。これは放送波はデータ量が保証されている衛星回線を利用しているのに対して、インターネットを利用するFormula 1 on Zumeは、送信できるデータ量が保証されておらず、さらに動画を送るための映像変換に少し時間がかかるからだ。これは、Formula 1 on Zumeだけの問題ではなくて、インターネットを経由して生中継を行う場合に一般的に発生することで、むしろ数十秒で済んでいることの方がすごいと言ったほうがよいくらいだ。

 一方、Formula 1 on Zumeにしかないメリットとしては、すでに終わったレースをオンデマンド(ユーザーが望んだ時にいつでも)で楽しめることだ。むろん、BSフジやフジテレビNEXTでも録画すればオンデマンドで楽しむことができるが、大抵の場合は何らかの追加機材(TV用のHDDやHDDレコーダーなど)が必要になるし、外出先でオンデマンドで楽しむことができない場合が多い(一部の専用の機械を利用すれば可能だ)。

 しかし、Formula 1 on Zumeの場合には例え家にいなくても、外出先であってもある程度の速度のインターネット回線があればオンデマンドで過去のレースを再生することができる。例えば、レース中ちょうど飛行機に乗っていてレースを見ることができなかったが、空港について結果を知ってしまう前にレースを見てみたいという使い方も十分可能だ。ただし、F1中継を提供するFOM(Formula One Management)とZume Motor Racingの契約により、日本でFormula 1 on Zumeを契約したユーザーが海外にPCやスマホを持って行ってもFormula 1 on Zumeを楽しむことはできない。これは放送権を保護するための措置で、残念だが致し方ないところだろう(F1はそうしたテレビ局が支払う放送権料に支えられていることを忘れてはならない……)。

 また、もう1つFormula 1 on Zumeで注意したいのは、レースの解説音声だ。フジテレビ作成のBSフジやフジテレビNEXTの放送では、F1中継ではおなじみの面々と言える今宮純氏、川井一仁氏、そしてCar Watchに連載を持つ小倉茂徳氏など人気の解説陣による濃厚な解説が特徴になっており、それを楽しみにしている人は少なくないだろう。もちろん、フジテレビの放送ではないFormula 1 on Zumeではそうした解説はなく、英国のZume Motor Racingのスタジオで収録されている英語による解説となっている。英語が分かる人はよいが、そうではない人にはややハードルが高いことは否定できないだろう。ただ、必要のない人は、聞かなければよいだけなので、解説はそもそも必要ないと考える人には大きな問題ではないだろう。

Formula 1 on Zumeの最大のコンテンツは、ピットレーンとオンボードカメラの切り替え

 テレビ放送にはなくてFormula 1 on Zumeのプレミアムコンテンツとして提供されるのは、ピットレーンを追いかけるカメラと、各ドライバーの車両に取り付けられているオンボードカメラを切り替えて表示できる機能だ。一般的にF1中継のテレビ放送で流されているのは、“国際放送”と総称されるFOMが制作している放送用の映像だ。これは、サーキットに複数設置されているカメラ、そして各車両に搭載されているオンボードカメラをFOMの制作室で切り替えている映像で、その時点でもっとも注目される映像が流されているものだ。

 もちろん、国際映像は“その時点で最もホットな”映像を切り取っている訳だが、もっとディープな楽しみ方をしたいファンにはやや不満が残るだろう。例えば、セバスチャン・ベッテルのファンであれば、国際映像でも十分楽しむことができるだろう。しかし、例えば、ニコ・ヒュルケンブルグのファンだったり、ダニエル・リカルドのファンだったりと中位チームのドライバーのファンだと、自分の応援するドライバーがどうなっているのかは国際映像ではほとんど分からない。それを補う意味で登場したのがライブタイミングで、PCユーザーならF1公式サイトで無料で楽しむことができるという素晴らしいコンテンツなのだが、それでも映像までは確認することができなかった。

 これに対してFormula 1 on Zumeでは、最大で3つの映像を同時に表示できる(iPhoneは2つまで)。このうち1つは必ず国際映像である必要があるので、残り2つ(iPhoneの場合は1つ)はユーザーが自由に割り当てて楽しむことができる。選択できるのはピットレーンを専用に追いかけているカメラと、各ドライバーのオンボードカメラ(ただし、ドライバーがコースを走っている必要がある)で、ピットレーンとオンボード、あるいはオンボード2つといった割り当てができる。

オンボードカメラを選択する画面。下位のドライバーに割り当ててみたりすると、また違ったレースの楽しみ方ができる
これは序盤でアロンソが接触した後のシーン。フェラーリピットがアロンソのためにピットインの準備をしていたことなどがピットレーンカメラで確認できて興味深い
このシーンでは中央がベッテルのオンボードカメラ、右上が国際映像、左がピットレーン映像。今まさにピットに止まろうとしているベッテル車の様子を、国際映像、オンボードカメラの両方で同時に確認できる。こんなことができるのはFormula 1 on Zumeだけ
このシーンも非常に印象的。前を走るロータスを追いかけるペレスのピットインの準備ができている様子がピットレーンカメラで確認できる
コースマップなどの機能も用意されているので、別途ライブタイミングなどを利用しなくても、車がどこにいるのかを確認することができる
そのほかにも、ドライバーの現在の成績なども確認できる、ちょっとゲームのような表示でサイバーな感じだ
こちらiPhone版の表示。現在(アーカイブを再生しているときはその再生時点)での順位が表示される
ドライバーごとのラップタイムを確認できる機能は意外と便利だ

 これができると何がよいかと言えば、分かりやすいのはオンボードカメラを好みのドライバーに割り当てておけば、自分の贔屓のドライバーがどんな戦いをしているのかを把握することができるということだ。また、上位のドライバーでも、例えば後ろから追いかけているドライバーに切り替えておけば、現在どのようなバトルが行われているのかを、そのドライバーの視線で追いかけることができる。これは非常にエキサイティングな体験だ。また、ピットレーンの映像にしておけば、例えば接触した後、ピットレーンでチームがフロントウイングを用意して待っている様子などを確認出来るだろう。サーキットに行ってグランドスタンドにいるとそうした体験ができるが、それが手持ちのスマートフォンやタブレット、PCなどで体験できるのは楽しいモノだ。

テレビ放送に加えて契約して楽しむのがお勧めだが、テレビ放送に替えて楽しむコスト面でのメリットもある

 Formula 1 on Zumeは、一見するとフジテレビNEXTなどのテレビ放送をネットに置きかえるサービスと捉えている人も少なくないと思うが、筆者はそうは思っていない。むしろ、F1をより深く楽しむために、テレビ放送の契約とは別途契約して楽しむサービスだと考えている。つまり、テレビ放送はライブ放送を楽しむために、そしてFormula 1 on Zumeはそれ以上のプレミアムコンテンツ(オンボードやピット映像)を楽しむという使い方こそ、本当のF1ファンがトライすべき楽しみ方だと思う。

 むろん、コストの問題で、フジテレビNEXTと両方を契約するのは無理だという人も少なくないだろう。その場合はコスト次第だろう。今年のF1は残す所1戦(今週末開催だ!!)となっており、1戦ごとに500円というのがそのコストだ。来年以降の価格がどうなるかについてTVバンクは発表していないが、最終戦をこのサービスを使って楽しむのはありだろう。

 FP1(練習走行1)は日本時間の22日21時から開始。Formula 1 on Zume(http://www.zumef1.com/ja/)のWebサイトから申込みが可能だ。

(笠原一輝)