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首都高技術、構造物の点検技術を学ぶ訓練室を公開

東日本大震災で被災した実物の損傷見本も展示

実技訓練室に展示されている実物の損傷見本
2014年3月27日開催

 首都高技術は3月27日、2月1日に設立した「構造物点検技術訓練室」を報道陣に公開した。この構造物点検技術訓練室は4月1日から正式に運用が開始される。

 同施設は首都高の道路や橋梁、トンネルなどの構造物を点検・保守をするにあたり、必要な知識や技能を学ぶために設立された施設。現場で作業にあたる首都高技術の社員や点検協力会社の点検員など約200名を対象に、点検の技術や実技、首都高の点検員資格認定試験の対策など8分野11コースを設定。各コースごとに年間で半日~5日の日程で講習を開催する。

 講習では、点検要領として首都高速道路の基準に則った点検の基本事項から、損傷事例などの講習、各種非破壊検査技術、新技術を使った点検技術などを解説。さらに橋梁工学や構造力学、土木材料学なども学び、単なる点検ではなく「目の前で起きている事象がどういった理由で発生し、今後どうなるのか」というところまで把握できるよう指導していくという。

首都高技術 代表取締役社長 土橋浩氏

 見学会の冒頭で挨拶した首都高技術 代表取締役社長の土橋浩氏は、本施設について「平成24年12月に発生した笹子トンネルの事故以来、点検に対する社会的な要求レベルが高まった。これに対応するため、現場技術の向上が重要になってきた」とその設立に至った経緯を説明。「いろいろな技術があるが、最終的には人が重要。本施設で学ぶことで、単に目の前の問題に対処するだけのテクニシャンではなく、その原因まで把握して対応できるエンジニアになってもらいたい」とも語り、現場レベルの向上に期待を見せた。

 今回公開されたのは、屋内で座学や実技の実習などを行う施設。実習室では実際に現場で使われる工具や、損傷見本として東日本大震災などで被災し、破損した実物サンプルなどを展示している。2014年度以内に屋外にも実技訓練施設を設置予定で、綱桁橋、PC(プレストレスト・コンクリート)橋、特殊構造物(トラス橋、斜張橋など)、裏面吸音板などの道路付属物関連品など、それぞれの現場で実技を学べるような訓練施設を検討中。現在は荒川湾岸橋(トラス橋)に屋外施設を整備中とのこと。

首都高技術本社 地下1階に設けられた「構造物点検技術訓練室」の実習室
研修準備室には実習で使用する資材などが置かれている
最もオーソドックスな非破壊検査の様子。空洞のある場所を叩くと音が変わるので、中に損傷があることが分かる。実習ではあらかじめ空洞を作ったコンクリートを用意している
現在、導入を準備中の無人機。機体の上部に取り付けたポールとカメラで橋桁下側の損傷などを確認しやすくしている
無人機で実際に撮影したときの映像
超音波による非破壊検査の様子。内部に損傷があると超音波の反射によってそれを検出できる
こちらは液体に混入させた磁粉と磁石を使った損傷の確認方法。磁粉を付着させて検査面を磁化させると、損傷個所に磁粉が付着する
この機材は赤外線サーモグラフィ。交通量が多い道路で綱床版とトラフリブの溶接部に亀裂が発生するとトラフリブに水が溜まる。水が溜まった場所は温度が低くなるので、赤外線サーモグラフィで問題個所が特定できる
ビデオスコープは人間が目視困難な場所を確認するために使用する
簡易型高所点検用軽量ポールカメラ。文字通りポールの先にカメラを取り付け、高所作業車などが入り込めないような場所で使用する
道路面の構造イメージ
亀裂が発生したトリフリブ。先ほどの赤外線サーモグラフィはここに溜まった水を温度差で検出するもの
疲労で亀裂が発生したデッキプレート
羽田トンネルで使用されていた天井板吊材。笹子トンネルでの事故を受けて取り外した
排水溝などに使われるグレーチング。この上を車両が通る振動により、金属疲労で写真のように破断してしまうことがある
首都高の壁面などに使われている吸音材。腐食や振動によって徐々に剥がれてきてしまうことがある
大黒JCT(ジャンクション)付近の鶴見つばさ橋で発見されたフィンガージョイントの損傷。疲労によって亀裂が発生していた
こちらは東日本大震災発生後に大黒JCT付近で発見されたフィンガージョイント部の損傷。元々はまっすぐなジョイント部が完全に変形している
同じく大黒JCT付近で東日本大震災によって破損・脱落した支承。支承は橋の上部構造と下部構造の間に入って支える部分で、右の写真の場所に挟まっていたが、地震の振動によって脱落してしまった

(清宮信志)