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リッチなディスプレイ表示を大衆車にももたらすスパンションのTraveoグラフィックマイクロコントローラ

メータークラスターなどのHMI向けマイクロコントローラ

2014年10月3日発表

Spansionのデモ、製品のパッケージはQFPを採用するが、現時点ではBGAになっていた

 半導体メーカーのSpansion(スパンション)は10月3日、都内で記者会見を開催し、同社が同日発表したメータークラスターなどのHMI向けマイクロコントローラとなる「Traveoグラフィックマイクロコントローラ」を発表した。Traveoグラフィックマイクロコントローラは、2DをサポートしたS6J324シリーズ、2D/3Dの両方をサポートしたS6J326Cシリーズの2シリーズが用意されており、画面の描画時に外部のフレームバッファを必要としない同社の技術を活用することで、QFPパッケージというピン数の少ないパッケージが可能になっている。チップパッケージが小さければ、自動車メーカーは基板サイズを抑えることができるので、低コストでリッチなコンテンツを作成するディスプレイデバイスを製造することが可能になる。

 Spansion 副社長兼自動車事業部 事業部長 赤坂伸彦氏は「自動車におけるディスプレイ表示は重要になりつつある。高級車であれば高価なSoCを使ってということも可能だが、それには高い部材コストが必要となる。しかし、QFPを採用したTraveoグラフィックマイクロコントローラであれば、大衆車にもそうした機能を実装することが可能になる」と述べ、自動車メーカーが普及価格帯の自動車などでメータークラスターなどに液晶ディスプレイを装着する場合などに低コストで実現できることを配慮した製品であると説明した。

富士通のマイクロコントローラ・アナログ半導体部門を買収したSpansion

 Spansionという会社は元々は米国の企業で、NOR型フラッシュメモリ(スマートフォンやPCのSSDとして利用されているNAND型のフラッシュメモリとは方式が異なる)のトップメーカーとして知られている。そのSpansionは昨年日本の総合電機メーカー富士通からマイクロコントローラ・アナログ半導体を生産している事業部を買収し、新たに自動車向けの半導体事業に取り組むようになった。というよりは、正確にはSpansionと富士通のマイクロコントローラ・アナログ半導体部門が合体して、現在のSpansionができあがったという方が実情に近い。

 実際、Spansionの社員の大半は、そうした富士通のマイクロコントローラ・アナログ半導体部門から来ており、半ば日本の企業という趣が強い会社だ。今回の記者会見でもスピーカーとして登壇したのは、Spansion マイクロコントローラ事業部担当上席副社長 布施武司氏、Spansion 副社長兼自動車事業部 事業部長 赤坂伸彦氏の2人で、いずれも富士通から移籍してきた幹部になる。そうした富士通時代も含めたSpansionの自動車向けマイクロコントローラ事業は長い歴史があり、自動車向けのマイクロコントローラ事業では、日本市場でシェア 2位のメーカーとなる。

 Spansionの布施氏は「弊社はこれまで自社のプロプライエタリの命令セットを採用したマイクロコントローラを展開してきたが、現在ではそれを転換してARM社の命令セットを採用したマイクロコントローラの提供を開始している。そのARMを採用したTraveoファミリーの製品として5月に2つのモーターを制御するECU向けの製品を、6月にCAN-FDに対応したボディ制御向けの製品を投入したが、今回紹介するグラフィックス向けの製品がその第三弾になる」と述べ、新製品を投入することで、自動車メーカーのニーズを満たしていきたいと説明した。

Spansion マイクロコントローラ事業部担当上席副社長 布施武司氏
Spansion の会社概要
Spansionのグローバル拠点、本社は米国カリフォルニア州のサニーベール
富士通時代から継承している国内各地の拠点
富士通時代を含めたSpansionの自動車向けマイクロコントローラの歴史
従来は自社の独自命令セットのマイクロコントローラをやっていたが、ARM社の命令セットへの移行を勧めている。5月と6月にもTraveoシリーズの製品を出したが、今回の発表はその第三弾となる製品
新しいTraveoシリーズの特徴

フレームバッファを必要としない独自の3Dエンジンが特徴

 引き続きSpansionの赤坂氏が、同社が発表したTraveoグラフィックマイクロコントローラについて説明を行った。赤坂氏は「今回の製品を開発した狙いは、車載向けに適した軽量かつ十分な性能を持つグラフィックスを提供するということ。そのため、外付けのメモリを極力使わず、パッケージもできるだけ小型にして基板のサイズを削減しながらリッチなインターフェイスを搭載するという仕様にした」と説明した。

 赤坂氏によれば今回の製品に採用されているグラフィックスコアはSpansionが独自に開発した2D/3Dグラフィックスコアだという。「2Dエンジンはできるだけ高速にレンダリングができ、フォントレンダリングのためのベクター描画、ゆがみ補正機能、動作を確実に行うためにASILに準拠したセーフティ機能などを有しており、できるだけ必要とするメモリの量を減らしオンダイのメモリだけ完結するようにしている」(赤坂氏)と、自動車のメータークラスターの中の液晶ディスプレイやヘッドマウントディスプレイなどを意識した設計になっているという。

 また、3Dグラフィックスコアに関しては、これまでにないユニークな機能が採用されているという。赤坂氏によれば「通常はデータをフレームバッファに展開しながら描画するが、弊社の3Dエンジンは直接ディスプレイ出力エンジンに対してデータを展開しながらレンダリングを行う」(赤坂氏)と、従来の3Dエンジンとは大きく違った構造になっていると説明する。一般的に3Dのグラフィックスエンジンは、フレームバッファと呼ばれるメモリにデータを展開しながらそのデータに様々な処理を加えることで3D画像をディスプレイに表示する。

 このため、何らかの外部メモリが必要になるのだが、その場合にはメモリデバイス自体のコストがかかること、マイクロコントローラ側のパッケージのピン数も増やさないといけないためより高価なパッケージを利用しないといけない、さらには基板にコントローラとメモリの両方を実装しないといけないため基板自体のコストも上昇することになる。しかし、今回Spansionの3Dエンジンではメモリを使う必要がないため、メモリデバイス自体が必要なくなり、それに合わせてコントローラのパッケージ(BGAからQFPへと)を簡素化することができ、基板自体も簡素化できた。そのため、極めてコンパクトかつ低コストで基板を製造することができるのだ。なお、赤坂によれば、どのようにしてフレームバッファなくディスプレイコントローラに直接データを展開できるかについては同社の特許に絡む内容と言うことで、具体的には公開されなかった。また、APIに関してはOpenGL ES 1.1のサブセット、ベクターフォントだけとなるがOpenVGに対応となる。

 赤坂氏によれば、このほかにも、Traveoグラフィックマイクロコントローラには、ARM製のCortex-R5というARM v7の命令セットに対応した32ビットCPUがシングルコア構成で実装されているほか、自動車メーカーが必要とする各種セキュリティ機能、CAN-FDやEthernet-AVBなどの各種ネットワーク機能、オーディオ再生機能などに対応しているという。また、OSとしては現在自動車向けでよく利用されているAUTOSARなどに対応しており、それに向けたドライバーやライブラリーなどをSpansionから提供していく予定だという。

 Traveoグラフィックマイクロコントローラは、2DをサポートしたS6J324シリーズ、2D/3Dの両方をサポートしたS6J326Cシリーズという2つのシリーズが用意されており、製造プロセスルールは55nmで、富士通の三重工場で生産される。今回は開発段階の途中のサンプルが、BGAパッケージに入れられた状態でデモが行われており、実際に2Dグラフィックスが表示される様子などが示された。なお、製品化の段階では、QFPパッケージが採用されることになる。

Spansion 副社長兼自動車事業部 事業部長 赤坂伸彦氏
今回発表されたTraveoグラフィックマイクロコントローラはメータークラスターやセンタコンソールのディスプレイ用のマイクロコントローラとなる
今回発表されたTraveoグラフィックマイクロコントローラの概要
Traveoグラフィックマイクロコントローラのブロック図
Traveoグラフィックマイクロコントローラに採用されているARM社のCPUデザインIP"Cortex-R5"の説明。ARMv7の32ビットCPUで、Traveoグラフィックマイクロコントローラに採用されているのはシングルコア
Traveoグラフィックマイクロコントローラのグラフィックスのアーキテクチャ
2Dグラフィックスの機能、車載用に必要な機能はそろっている
3Dグラフィックスの機能、ディスプレイエンジンに直接レンダリングする形というユニークな構造
フレームバッファとなる外部メモリが必要無いのでパッケージを簡素化し、さらに基板もコンパクトにできるので、低コストで実装することができる。解像度はWVGA程度が想定されている
セキュリティ機能やネットワーク機能も車載向けの機能が搭載されている
オーディオコントローラも内蔵されているので、PCM音声などを再生することも可能に
ソフトウェアの開発環境。AUTOSAR向けの開発環境なども用意される
開発環境に搭載されているTraveoグラフィックマイクロコントローラ

(笠原一輝)