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レクサスの生まれ故郷、トヨタ自動車九州 宮田工場に行ってみた

レクサス品質は“クリーン&サイレント”のもの作りから生まれる

トヨタ自動車九州 宮田工場のラインを流れるレクサス RX。宮田工場は、世界最高峰の生産品質を誇る工場としてもの作りを行っている

 改めて説明する必要はないと思うが、レクサスはトヨタ自動車が展開するプレミアムカーブランドになる。レクサスを象徴する最高級セダン「LS」のほか、日本では「GS」「IS」「HS」「CT」「RX」「NX」を展開。先日は、プレミアムクーペとなる「RC」および、限定生産された「LFA」代わるハイパフォーマンスカー「RC F」が発売となった。

 ラインアップが広がる中で、レクサス=高級セダンというイメージから、スポーツやパワー、ハイブリッドというイメージも加わってきた。多様に展開しつつあるレクサス車種において、どの車種でも守られているのはレクサスならではの製造工程&製造品質になり、それを支えているのがトヨタのもの作りだ。

 レクサスは、つい先日までトヨタ自動車 田原工場で主にFR車が、トヨタ自動車九州 宮田工場で主にFF車が作られていた。2014年8月からはトヨタ自動車 元町工場でGSの生産が開始されており、これは世界的に販売を伸ばすレクサスの増産体制の一貫と言われている。今回は、トヨタ自動車九州 宮田工場を紹介する。

宮田工場で生産しているレクサス車
夏に生産が始まったばかりのNX
海外向け生産が残っているIS C
ハイブリッド車CT
HSはカットモデルが展示されていた
地域の学生が社会科見学を行いやすいような工夫がされている

 トヨタ自動車九州に関して説明していただいたのは、トヨタ自動車九州 総務部 秘書・広報室 室長の湧川展史氏をはじめとする広報スタッフ。トヨタ自動車九州では社会科見学などを広く受け入れており、地域とのコミュニケーションを積極的に図っていこうという姿勢がうかがえる。

 湧川氏によると、トヨタ自動車九州は宮田工場とともに1991年設立された会社で、その背景にはバブル期に大ヒットしたマークII 3兄弟があったという。マークII 3兄弟のヒットなど、当時のトヨタは増産する必要があったが、本拠地である愛知県では労働市場が逼迫、第2の生産拠点として良質な働き手が確保できる九州が選ばれたとのことだ。

宮田工場のレイアウト
工場の外観模型

 1992年に当初年産20万台規模でスタートしたが、すでにバブルは崩壊。同時にマークII 3兄弟の売れ行きも下がり、マークII 3兄弟でフル生産となることはなかった。それに代わるように生産を伸ばしたのがレクサス「ES」・ウィンダム、RX・ハリアーでハイランダーが加わることで、2000年には20万台を突破。その後順調に生産数を伸ばしたため、第2ラインを設立。2005年には年産43万台体制となり、2007年には44万3000台を記録した。年産体制は定時どおり働いた際の数字となり、44万3000台は残業や休日出勤があったことを示している。

宮田工場の生産1号車
生産1号車となるマークIIのグレードはグランデ2.5G
ハリアー ザガートも展示してあった

 その最高の生産台数を記録した翌年に襲ったのがリーマンショック。これによりクルマがこれまで同様には売れなくなり、2008年に29万1000台に急降下。2013年は31万台にまで回復している。

 現在の宮田工場で生産しているレクサス車は、NX、ES、RX、HS、CTに加え先代ISのコンバーチブル車となるIS C。ESとIS Cは日本で販売していない車種になる。また、トヨタ車としてSAIやクルーガー、ハイランダーの生産も行っている。

 最新式の工場とあって、写真撮影が許されたのは2個所のみ。撮影はできなかったものの、見学コースに自動車工場として珍しい塗装工程が含まれていたのは意外だった。宮田工場の生産コンセプトは“クリーン&サイレント”で、きれいにすることで作業品質や効率が上がり、静かな工場とすることで労働環境の改善のほか不具合の確認もしやすくなる。

 撮影が許された1個所目は、電動ツールによるサスペンションまわりの増し締め工程。ラインに流れてきたクルマに対し、フロントサスペンションユニットとリアサスペンションユニットの増し締めを行う。その増し締めを行う電動ツールは複数の軸がセットされており、一気に増し締めを実施。締めたトルクの管理が行われている。電動ツールを用いることで工場の静けさが保たれ、重要部品取り付けの履歴が1台1台記録されていく。

増し締め工程。増し締め機械がラインの両脇から自動で流れてくる。ライン下に照明が設けられており、下まわりを見やすくしている
増し締めは、フロントが2人、リアが1人の3人1組で行われていたように見えた

 2個所目は生産車確認工程。クルマの上部には直管型蛍光灯タイプのLEDが並び、光の映り込みによってボディー塗装や各種の仕上がりが分かりやすいような配慮がされていた。

黒いボディーだと、光の映り込みがとくによく分かる
この時間帯のラインでは、ESが主な生産車種となっていた。北米や欧州向け車種は一旦愛知県に出荷された後、愛知で製造されたクルマと専用船に混載されて目的地へと向かう。中国向け車種のみ、距離的に近い九州から直接出荷するとのことだ

 宮田工場内の組立ラインは、トリムライン、シャシーライン、アセンブリーライン、ファイナルライン、アセンブリー検査ライン、機能検査ラインの6つのメインラインに加え、インストルメントパネルなどのインナーパーツやサスペンションユニット、シート、タイヤなどを組み立てるサブラインか構成されている。

 年産43万台の際のタクトタイム(1工程を流れる時間で、1工程の組み立てはタクトタイムで納める必要がある)は60秒で、この日は70秒程度となっていた。80秒になると1人が複数の組み立てを行えるようになるため人員の余剰が発生する。その際は愛知県の工場に応援いくなどの配置転換が図られるとのことだ。クルマの生産が地域の雇用に直結していることになる。

 この組み立てラインのほかに、撮影禁止のため写真では紹介できないが塗装ラインを見ることができた。レクサス車もトヨタ車も現在は水性塗料で塗られているが、レクサスの塗装ラインはトヨタブランドのクルマと異なる工程が組まれている。総計46工程10時間の塗装ラインでは、ボディー洗浄、電着塗装、中塗り、水研磨、ベース塗装、クリア塗装の順に作業が進んでいき、レクサス車の塗装は中塗り後に人の手による水研磨が組み込まれている。

 かつては行われていた水研磨工程は、塗料や塗装技術の進歩で不要になっていたが、レクサスではあえてその工程を復活することでボディー塗装のツヤなどの品質を高めているという。ボディー塗装はスプレーガンによる吹きつけが一般的で、どうしても塗装粒子の乾燥時間の差による小さな凸凹が発生している。これは乾燥時間の長い塗料を使うと軽減できるが、今度は塗料が垂れるという問題が発生するほか、一般的に塗膜が弱い(柔らかい)という特徴を持っている。水性塗料の進歩により、その凸凹を減らしているのだが、レクサス車では水研磨というお金も時間もかかる工程を加えることで、塗装面の平滑度を上げているのだ。

 それによって得られたツヤは独特のものがあり、仕上がりも人の手による触感チェックなどが行われている。その仕上がりが気になる方は、レクサスディーラーと、そのほかのディーラーで塗装面を確認してみてほしい。環境光が複雑だと塗装面の凹凸が分かりにくいので、直管型のハンディLEDライトなどの光を反射させると分かりやすいだろう。手でそっと触れるのも効果的だ。レクサス生産のこだわり、トヨタの最高峰のもの作りを体感しやすい部分だろう。

 トヨタ自動車九州のもの作りの高さは世界的に評価されており、J.D.パワーの米国自動車初期品質調査(IQS)では、工場部門において何度も世界一に輝いている。ちなみに2014年はアジア地域No.1となり、世界一は宮田工場が指導し、レクサス「RX」の生産を行っているトヨタ・モーター・マニュファクチャリング・カナダのケンブリッジ南工場が受賞した。これもマザー工場である宮田工場の品質の高さを示す1つのトピックだろう。

 今回紹介した工場見学工程は、レクサスオーナーならレクサスディーラーに申し出ることで体験できるとのこと。もちろん旅費や宿泊費は別途用意する必要があるが、世界最高峰のもの作りの一端を垣間見ることができるのであれば、旅行の立ち寄り先に組み込むのは楽しそうだ。詳細は最寄りのレクサスディーラーに相談してみてほしい。そのほか、参観通路からの見学も受け付けており、こちらはトヨタ自動車九州のWebサイトに詳細が紹介されている。

●トヨタ自動車九州 工場見学
http://www.toyota-kyushu.com/factory/reservation.html

 トヨタ自動車九州は、今後開発&研究機能を持つことで、生産現場に密着したクルマを生み出す役割も担っていく。

(編集部:谷川 潔)