ニュース
【インタビュー】SUPER GT最終戦もてぎ直前タイヤメーカーインタビュー(ミシュラン編)
(2014/11/15 20:40)
SUPER GTタイヤインタビューの2社目は、グローバルでブリヂストンと激しくトップシェアを争う仏ミシュランの日本法人となる日本ミシュランタイヤだ。ミシュランは古くからモータースポーツに積極的に参戦しており、近年でも2006年のF1のワンメイク化により撤退するまでブリヂストンと激しく開発競争を繰り広げたのを記憶しているファンも少なくないだろう。現在では、WRC(世界ラリー選手権)、WEC(世界耐久選手権)といったグローバル規模の選手権にもタイヤ供給を行っているほか、先日始まったフォーミュラEのタイヤもミシュランだ。
世界的なモータースポーツの中でも最も厳しいタイヤ開発競争が繰り広げられているSUPER GTにも積極的に参戦しており、2011~2012年にはトップカテゴリーであるGT500で、2年連続装着車両がチャンピオンを獲得した。2013年こそ競合他社に奪回されたものの、今年もチャンピオン奪還を狙ってさらに力を入れた活動を続けることになる。
日本ミシュランタイヤ モータースポーツマネージャ 小田島広明氏に、2014年シーズンのSUPER GT活動について、SUPER GT第2戦富士開催時にお話をうかがってきた。
WEC、WRC、SUPER GTといった競争がある選手権にタイヤを供給するミシュラン
ミシュランは、フランスのタイヤメーカーで、モータースポーツファンにはモータースポーツに熱心な会社としてよく知られているだろう。冒頭でも説明したとおり、2000年代前半のF1を舞台にしたブリヂストンとの開発競争は、それから10年近くが経過しつつある今でも語り草だ。もちろん、それ以外のモータースポーツ活動にも非常に熱心に取り組んでおり、特筆すべきは、ル・マン24時間レースを頂点としたWECへのタイヤ供給が上げられるだろう。
今年も6月の第3週に行われたル・マン24時間レースは、アウディの2号車アンドレ・ロッテラー/ブノア・トレルイエ/マルセル・ファスラー組の優勝で幕を閉じたが、そこに装着されていたのはミシュランタイヤだった。WECはワンメイクタイヤ制度が導入されておらず、自由にタイヤメーカーを選ぶことができるのだが、トップカテゴリーとなるLMP1は結果的にすべての車両がミシュランタイヤを装着する形になっている。というのも、1998年以降、ル・マン24時間のトップカテゴリーで優勝した車両はすべてミシュランタイヤを履いており、現在17連勝中と結果を残しているからだ。
実際、今シーズンのWECの開幕戦はタイヤ選択がレースの結果を左右するレースになった。優勝したトヨタ TS-040 Hybridの8号車は、他者がスリックタイヤやウェットタイヤで走る中で、“ハイブリッドタイヤ”と呼ばれる溝はないけどウェット路面も走れるタイヤを装着して、大きなリードを築き、そのリードを活かして優勝したのだ。小田島氏によれば「このハイブリッドタイヤというのはいわゆる“インターミディエイト”と呼ばれる種類に属するタイヤ。インターミディエイトタイヤが必要になるのは、排水性が必要ないけど、完全には乾いていないという状況。ドライタイヤが機能するには不安定な状況で、濡れている路面に親和性があるコンパウンドを使ってゴムの熱とかタイヤ自体で路面にグリップさせるメカニズムになっている」とのことで、タイヤのコンパウンドなどはウェットタイヤに近い素材が利用されているが、スリックタイヤと同じように溝のないタイヤのことを“ハイブリッドタイヤ”と呼んでいるとのことだった。
実際、WECの開幕戦をTVで観戦した熱心なファンは、雨でまだ濡れている路面をスリックのように溝のないハイブリッドタイヤを装着したトヨタ TS-040 Hybridがスイスイ走るのに驚かれた方も少なくないだろう。実際、今年のル・マン24時間レースも、序盤は雨がらみの展開になったため、このハイブリッドタイヤも重要な役割を果たしている。
また、多くの注目が集まっているレースという意味では、電気自動車のフォーミュラカーによる自動車レース“フォーミュラE”にタイヤをワンメイク供給するのもミシュランだ。これまでミシュランはモータースポーツにタイヤを供給する際には、ワンメイクよりも競争があることを条件にしてきた。そのミシュランがワンメイクであるフォーミュラEへの供給に踏み出したのは「フォーミュラEは動力源が電気であるなどユニークな取り組みだし、何より技術的なチャレンジがある。通常フォーミュラのタイヤはF1を始めとして13インチになっているが、主催者と話しをしてフォーミュラEのタイヤは18インチのタイヤにしている。ウェットとドライはトレッドパターンをつける共通のタイヤにしており、いずれも技術的に市販車タイヤへのフィードバックがダイレクトにできる点をミシュランは評価している」(小田島氏)と技術的なチャレンジを重視してワンメイク供給に踏み切ったとのことだ。
安全性を確保しつつ性能も引き出すという相反する命題に取り組み第3戦で優勝
そうしたミシュランのSUPER GTでの活動だが、ここ数年力を入れてきたGT500へのタイヤ供給は、ニッサン陣営の23号車 MOTUL AUTECH GT-Rと46号車 S Road MOLA GT-Rの2台、ホンダ陣営は18号車 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GTと、昨年同様の体制になっている。ただし、ドライバーには若干のシャッフルがあり、小田島氏としては全体的には満足のいく体制になったと評価しているという。「23号車には弊社のユーザーチームには初めて乗る松田次生選手が加わった。もちろんすでに速さは証明されているドライバーですので心配はしてませんでした。テストで走ってもらったときにも引き出しが多いし、特性もすぐつかんでくれて弊社のタイヤを使いこなしてくれました」(小田島氏)と、松田次生選手/ロニー・クインタレッリ選手という23号車、本山哲選手/柳田真孝選手という46号車の体制に満足しているということだった。
こうしたGT500だが、何度か触れているとおり、今シーズンからドイツのDTMと車両規定が統合された新規定が導入された。もちろんミシュランもそうした新規定にあわせた開発を冬のオフシーズンから行ってきたが、やはり新規定にあわせて安全性を確保することが最初のターゲットだったという。「フロントタイヤが小さくなっただけでなく、車両そのもののタイムもサーキットによっては2秒近く速いので、負荷が増えている。このため、シーズンオフのテストでもその対応に重点を置いて開発してきたが、開幕戦のレースを無事に終えることができ、安心した」(小田島氏)とは新規定への対応がきちんとできたことが開幕戦を終えて率直な感想だったという。実際、昨シーズン中、そしてシーズンオフのタイヤテストでは「テストが始まった当初では、車両側もなんとか走っているという状況で5周もすればピットに戻ってしまうような現状だった。その中で、13年型タイヤのタイヤ開発を続けながら、14年型のサイズが違うタイヤ開発をしなければいけないのは苦労した」(小田島氏)とそうして苦労して作ったタイヤが安全に走りきることができた、そこに安心したということだった。
小田島氏によれば「昨年までのクルマであればリアの左側が最も厳しかったが、新規定のクルマではレイアウトとその特性からフロントの左側が厳しいことが分かっている。そこでその対策には最も注意を払っている。とはいえ安全を追求しつつも、性能を実現しないといけないので、その妥協点を見いだすことが重要」と冬のテストでは、特にその妥協点をどこに見いだすかに焦点を置いて開発をしたという。
では、その妥協点を見いだす上で、複数の要素に注意を払って開発を進めたという。「例えばバランス配分では、タイヤのコンパウンドが従来はミディアムだったものが、負荷が大きくなるのでソフトになってくる可能性がある。そのように競争の軸が変わってくる」(小田島氏)と、タイヤ開発そのものが従来の軸とは大きく変わってきているという。その一方、昨年のSUPER GTで話題になった路面のゴミを拾ってしまい急速にタイヤの性能が低下する現象(ピックアップ)に関しては今年も続くと予想しており、「岡山ではその対策となる技術を投入した。決勝での順位はさほど上位には来なかったが、決勝でのラップタイム推移を見る限りは予想通りの性能を発揮している」とその対策も行っていると述べた。
なお、GT500のタイヤはこれからもシーズン中のテストなどを通じて開発を進めて行くという。「今後はGTAのテストとして用意されている菅生、鈴鹿テストなどで、さらなる開発を続けていきたい。未勝利のタイヤメーカーには別途テスト時間も用意されるが、それを使うつもりはまったくない」(小田島氏)と、もちろんシーズン中での勝利を見据えているミシュランとしては、合同テストや実戦などを通じて開発を進めて行く方針だ。実際、ミシュランユーザーである23号車 MOTUL AUTECH GT-Rがこのインタビュー後に行われた第3戦オートポリスで見事優勝を遂げ、第6戦終了時点でポイントランキングトップに立っている。
予選番長を返上しレースでの結果を追い求めていくことになるGT300
もう1つのミシュランユーザーとなるチームが、GT300の61号車 SUBARU BRZ R&D SPORTだ。GT300のBR-Zは昨年非常に印象に残る活躍をした。特に予選での速さは圧倒的で、全8戦中5回ポール・ポジションを獲得した。ただ、勝利となると第5戦鈴鹿での1勝だけで、予選の速さをどのように決勝の結果につなげていくか、それが課題になった年だった。
小田島氏は「確かに昨年は予選がよくてということが多く、それも狙っていた訳ではなく結果的にそうなってしまった。しかし、チームとも話あってこのままではよくないねということはお互いにコンセンサスをとっているので、14年に向けては、タイヤ性能を上げるとしても、それを持続できるような形でやっていこうと考えている」と、今年のタイヤに関しては予選だけでなく決勝を見据えた開発を優先しているとした。ただ、「BRZとも2年目で我々も車両の理解が進み適合は進んでいる。しかしながら、BRZはJAF-GTの中でも唯一のハイブリッドではない車両。また、FIA-GT3ともBOPの関係もあるので、相対的にどうなるかは今後の展開次第」(小田島氏)と、GT300特有の事情である性能調整もあるため、見通しには慎重な姿勢だった。
そうしたミシュランの今年の目標だが小田島氏によれば例年と同じだという。「GT500に関しては各車両の中でのトップを目指し、その車両が上位に来ればチャンピオンになる。昨年はチャンピオンを譲ったが、今年は取り返せる可能性があると考えている、チャレンジャーのポジションとしてやりがいのあるシーズンだと思っている」と、チャンピオン奪回に向けて自信を示す。「どのカテゴリーでも両社は変わらないレースを繰り広げてきたので、ブリヂストンさんとの戦いは終わらないと思う」(小田島氏)と、宿敵とも言えるブリヂストンとの"好バトル"を楽しみにしている様子だった。GT300に関しては「絶対値として去年より進化していかなければいけない。戦略、開発方向を適正にして上で、混沌としているGT300の中でより上位を目指したい」とまずは昨年の結果を上回るのが目標だとした。
昨年GT500王者の座を奪い返されたミシュランだが、チャレンジャーとして再びその座を奪い返す意欲は充分に感じられた。最終戦もてぎを前にして、GT500では、MOTUL AUTECH GT-Rの松田次生/ロニー・クインタレッリ組と、ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GTの山本尚貴がミシュランユーザーとして、チャンピオンを争っている。