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日本大学生産工学部自動車工学リサーチ・センター、「自動車技術に関するCAEフォーラム2015」開催
増岡浩氏は、EV車による「パイクスピーク ヒルクライムレース」へのチャレンジについて語る
(2015/3/9 11:00)
- 2015年2月24日・25日開催
日本大学生産工学部自動車工学リサーチ・センターは2月24日~25日、東京 ソラシティカンファレンスセンターにて、「自動車技術に関するCAEフォーラム2015~自動車研究開発・設計・製造におけるCAE最前線~」を開催した。
CAE(Computer Aided Engineering)とは、コンピュータのシミュレーションにより、設計段階などで製品の性能や騒音などの特性を把握する技術。2000年前後から自動車関連業界などを中心に急速に普及しており、今や各メーカーでは多岐にわたる分野で必須の技術となっている。しかしCAEは万能ではないもの事実であり、どうCAEを使いこなすかが課題になっている。この現状に対し、有識者の講演やCAE関連企業の展示などで少しでも課題を解決していこうということで行われたのが本イベントである。
2日間のイベントで自動車メーカーなどの技術者を中心に1000人前後が参加し、基調講演では、日野自動車 技術顧問 鈴木孝幸氏によるCAE関連の人材育成に関するスピーチが行われたほか、サイバネットシステム FC営業本部 マーケティングオフィサー 重松浩一氏による、同社の開発したシステムによる騒音シミュレーションの活用事例の紹介、ケンプトン工科大学Stefan-Alexander Schneider教授による、仮想ロードテストに最適な仮想システムに関するスピーチ、IPG Automotive代表取締役社長 小林祐範氏による車両シミュレーションの統合システムの説明などが行われた。また、日本を代表するラリードライバーの三菱自動車工業経営企画本部 広報部 上級エキスパート 増岡浩氏がEV車による「パイクスピーク ヒルクライムレース」へのチャレンジについて講演した。さらに、日本大学 生産工学部 自動車工学リサーチ・センター長 景山一郎教授をモデレーターとし、「CAEの歴史と今後」というテーマでパネルディスカッションも行われた。
講演のタイムテーブル
初日
1日目は基調講演と特別講演のほか、2つの会場で構想設計CAEと構造設計CAEの講演がそれぞれ行われた。
時間 | 講演タイトル | 講演者 |
---|---|---|
9時30分~10時40分 | 「人材育成とともに歩む、車両開発におけるCAEの活用」~失敗は人を成長させ、創造を生む~ | 日野自動車 技術顧問 鈴木孝幸氏 |
10時45分~11時25分 | 「NVH性能向上に対する取り組み」~CAEが拓く未来への挑戦~ | サイバネットシステム FC営業本部 マーケティングオフィサー 重松浩一氏 |
時間 | 構想設計CAE関連の講演 | 講演者 |
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12時20分~13時 | 「Virtual Engineering環境での“開発・ものづくりの世界動向と日本の状況”」~設計者CAE(Creative Design with CAE)から始まったVirtual Engineering~ | 本田技術研究所 四輪R&Dセンター開発推進室CVISBL シニアエキスパート 内田孝尚氏 |
13時5分~13時45分 | 「マニュアルトランスミッションシフトレバーにおける操作力と動特性の予測」 | シーメンスインダストリーソフトウェア・シミュレーション&テスト プリセールス 主管 浅野俊二氏 |
14時~14時40分 | 「概念設計手法FOA」 | 豊田中央研究所 先端研究センター 社会システム研究室 システムデザインG グループリーダー 主席研究員 西垣英一氏 |
14時45分~15時25分 | 「やさしいCAEソフトFemtetのご紹介」 | ムラタソフトウェア 営業企画部 部長 辻剛士氏 |
15時40分~16時20分 | 「SKYACTIVEの開発に関するモデルベース設計」 | マツダ パワートレイン開発本部 主査 藤川智士氏 |
16時25分~17時5分 | 「音響振動実験データをCAEに活かす」 | スペクトリス ブリュエル・ケアー事業部 事業部長 西久保武氏、アプリケーションエンジニア 坂本優美子氏 |
時間 | 構造設計CAE関連の講演 | 講演者 |
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12時20分~13時 | 「スズキの自動車開発における構造解析の取り組み」 | スズキ 開発・IT本部 技術支援部 CAE推進課専門職(課長代理) 小串俊明氏 |
13時5分~13時45分 | 「自動車設計のためのCAE」 | JSOL エンジニアリングビジネス事業部 グループマネジャー 宮地岳彦氏 |
14時~14時40分 | 「エンジンマウントゴムを含んだブラケット構造解析の取り組み」 | トヨタ自動車 車両CAE部 荒川政司氏 |
14時45分~15時25分 | 「燃費向上、ロバスト設計を実現するエンジンフルモデル解析」 | SCSK 製造エンジニアリング事業本部 解析ソリューション部 今井雅則氏 |
15時40分~16時20分 | 「波数-周波数領域における車体周囲流れ場の解析」 | 三菱自動車工業 機能実験部 奥津泰彦氏 |
16時25分~17時5分 | 「設計者のCAE利用を推進するには」 | テクノスター 技術営業本部 技術顧問 吉村昇一氏 |
時間 | 講演 | 講演者 |
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17時20分~18時50分 | CAEの歴史と今後 | モデレーター:日本大学 生産工学部 自動車工学リサーチ・センター長 景山一郎教授、パネリスト:日本自動車研究所代表理事 研究所長 永井正夫氏、Research Professor,Center for Advanced Vehicular Systems (CAVS),Mississippi State University 本山惠一氏、神戸大学大学院 深尾隆則准教授、トヨタ自動車 車輌CAE部 山岡裕生氏、日産自動車 要素技術開発本部 統合CAE部 部長 荒木敏弘氏 |
2日目
2日目も同じく基調講演と特別講演が行われ、機能設計CAEと運動と制御CAEに分かれて2つの会場で講演が行われた。
時間 | 講演タイトル | 講演者 |
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9時30分~10時40分 | 「仮想ロードテストに最適な仮想システム統合とは?」 | ケンプトン工科大学Stefan-Alexander Schneider教授 |
10時45分~11時25分 | 「"Virtual Test Drive"と"X-in-the-loop"が導くMBDの新しい世界」~コンポーネントレベルシミュレーションを如何に車両レベルのシミュレーションに統合するか~ | IPG Automotive 代表取締役社長 小林祐範氏 |
時間 | 機能設計CAE関連の講演 | 講演者 |
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12時20分~13時 | 「トポロジー最適化による制振材配置の適正化」 | 工学院大学 工学部 機械工学科 山本崇史准教授 |
13時5分~13時45分 | (前半)「COMSOLに基づくトポロジー最適化の展開」(後半)「COMSOL5.0で解析モデルを一気に標準化・全社展開」 | (前半)京都大学大学院 工学研究科 機械理工学専攻 西脇眞二教授(後半)計測エンジニアリングシステム システム部 課長 山口徹氏 |
14時~14時40分 | 「トポロジー最適化による軽量・高剛性シート構造の設計とAMによる試作」 | 豊田中央研究所 機械1部 マルチフィジックス研究室 プロジェクトリーダー 主任研究員 川本敦史氏 |
14時45分~15時25分 | 「トポロジー最適化の解析結果と3Dプリンティング造形プロセス」 | マテリアライズジャパン Software for Additive Manufacturing グループ マーケティングスペシャリスト 小林毅氏 |
15時40分~16時20分 | 「タイヤの高機能化を支えるゴム材料開発のための大規模シミュレーションについて」 | 住友ゴム工業 材料開発本部 材料第3部 兼 研究開発本部 分析センター 部長 兼 センター長 若林昇氏 |
16時25分~17時5分 | 「シミュレーションがリードする設計プロセス」 | アルテアエンジニアリング 代表取締役 社長 綾目正朋氏 |
時間 | 運動と制御CAE関連の講演 | 講演者 |
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12時20分~13時 | 「修正操舵を低減する車両剛性に関する研究」 | 日産自動車企画・先行技術開発本部 車両性能開発部 主管 田尾光規氏 |
13時5分~13時45分 | 「解析の妥当性検証に向けた光学式3次元ひずみ・変位計測の活用」 | 丸紅情報システムズ 製造ソリューション事業本部 計測製造ソリューション技術部 技術一課 担当課長 宮下進太郎氏 |
14時~14時40分 | 「インテリジェントタイヤシステムを用いた、シャシ制御のための車両運動シミュレーション」 | 現代自動車 シャシ技術センター シャシ制御開発チーム 責任研究員 曹喜永氏 |
15時40分~16時20分 | 「車両安定機能認証用シミュレーションへの取り組み」 | トヨタ自動車 車両運動制御設計部 車両運動制御システム開発室 |
室長 廣瀬太郎氏 | ||
16時25分~17時5分 | 「車両開発におけるVR活用 ~最新事例、UC-win/Road Ver.10 Driving Sim(仮)」 | フォーラムエイト システム営業グループ 執行役員 システム営業マネージャ 松田克巳氏 |
時間 | 講演 | 講演者 |
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17時20分~18時20分 | EV車の挑戦『パイクスピーク初制覇』 | 三菱自動車工業 経営企画本部 広報部 上級エキスパート 増岡浩氏 |
ダカールラリードライバーの増岡浩氏が「パイクスピークチャレンジ」について語る
数ある講演の中でも特に参加者が熱心に聞き入っていたのが、2日目の17時~20分~18:30分に行われた、ダカールラリードライバーで三菱自動車工業経営企画本部 広報部 上級エキスパート 増岡浩氏による講演。ダカールラリーの経験や「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムレース」をどうEVでチャレンジしたかという内容には、講演後の質疑応答でも様々な質問が出ていた。
増岡浩氏は講演で、「私がパリダカールラリーに挑戦し続けた理由とその魅力は、レースとしてのスケールの大きさにある。様々な国を通過しながらあるがままの大自然を走り、地形や天候、気候を読んでそれに適応して実力を発揮する。そこでドライバーは自然と同化しながら冷静さとタフさを求められつつ、東京から岡山間ぐらいの距離を毎日走ることになる。しかも、コースは一定ではなく、初めて走る道のため、視力が2.5になるメガネを作って遠方の視界を確保した。ラリーでは1秒間に最高で60mは進むため、300m先を見ないととても間に合わない。また、耐久性と軽量化という相反する性能がクルマに求められる。例えばドライブシャフトを中空にして軽量化するなど、できるところはグラム単位で軽量化の工夫をした。最後の年にはクリーンディーゼルの試作車を投入するなど、こうしたラリーの経験をもとに三菱の4WDは磨かれてきた。
次に未知数の部分が多い電気自動車の限界にチャレンジすることにした。舞台に選んだのは、アメリカ コロラド州で開催されている『パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムレース』だ。これはインディ500に次ぐ歴史あるレースで毎年7月に行われている。
標高4300mのパイクスピーク山を一気に登るレースのため、クルマには高回転、高出力のモーターが必要であり、それに伴う発熱への対応やバッテリーの瞬発的な出力を必要とする。また、4つのタイヤをいかに効率よく制御してコーナリングを早く安定させるかという点が重要であり、『S-AWC』という4WD技術を使用する。本レースは、スタートから頂上のゴールまで総延長約20km、高低差1500m、カーブの数156ヵ所、平均勾配は7%、スタートからゴール地点まで15度の温度差があり、森林限界すら超えていく。ここを平均時速130km、9分台で走行する。これに対応するためにドライバーは、カーブをすべて覚えこまないといけない。仮に1つコーナーを間違えても転落する危険性がある。電気自動車はアクセルを踏むだけで瞬時に最高出力、最大トルクが出て、わずか2秒で時速100kmに達するので有利に走れる。レースには2012年から3年のあいだに出場する計画となっており、まずは市販の「i-MiEV」に採用されているモーターとバッテリーを使ってクルマを作った。
モーターはリアに2つ、フロントに1つの3モーター制御。バッテリーはドライバーの両脇に2段重ねて搭載した。2013年は、将来の車両に搭載する出力の高いモーターを4つ使い、バッテリーも同様に強化した。バッテリーは、床一面に敷き詰める構造に変更し、低重心化と接地性を高くした。バッテリーはカーブのときに内輪と外輪の回転を変えることで、コーナリング性能を向上させている。3年目はボディの空力に力を入れて、ダウンフォース性能を向上させた。パイクスピークは、山頂付近では空気が4割も薄くなるため、当然ダウンフォースも低下する。それに対応させるボディにした。結果、2012年は2位、2013年はレース直前に大雨となり天候に負けて2位となったが、2014年はクラス優勝、総合2位を獲得できた。これで現行の技術はギリギリまで試すことができたので、次世代のバッテリーが登場するまではしばらくレースの出場は休止するが、登場したらすぐに再開したいと考えている。
さらに、いま販売しているクルマでどこまで走れるか確認の意味もこめて『アジアクロスカントリーラリー』にプライベートチームで参加した。これからも環境にやさしく、走りが楽しいクルマ作りをしていきたい」と語った。
CAE関連企業の展示
会場では、CAE関連のソフトウェアや関連機器の紹介、トポロジー最適化のシミュレーション結果を3Dプリントしたシートなどが展示されていた。
マテリアライズジャパン
3Dプリンターによるプロトタイプ試作を行うメーカー。豊田中央研究所によるトポロジー最適化を活用したクルマのシートを展示。従来の3分の1の重量に軽量化しつつ、100kgの人間が座っても実用できる構造を兼ね備えている