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ブロードコム、車載イーサネットスイッチ「BCM8953Xファミリー」発表
先代と比べて50%ほどの小型化と約30%の省電力を実現
(2015/11/2 15:51)
- 2015年10月29日開催
半導体メーカーの米ブロードコム コーポレーションは10月29日、東京都内で記者会見を開催し、同社が車載イーサネット向けに提供している半導体「BCM8950Xファミリー」の後継製品「BCM8953Xファミリー」を発表した。
この「BCM8953Xファミリー」と呼ばれる半導体は、28nmプロセスルールで製造されることで従来製品に比べて消費電力が30%ほど削減。パッケージサイズも50%ほど削減されるなどの省電力化、小型化が実現されている。
ブロードコム コーポレーション インフラストラクチャー&ネットワーキンググループ オートモーティブ/PHY製品担当 シニアディレクター アリ・アバイェ氏は、車載イーサネットのメリットと新製品となるBCM8953Xファミリーの説明を行った。
車内をスパゲティのように這いまわるケーブルが1本にまとまる車載イーサネット
ブロードコムはWi-FiやBluetooth、イーサネットのコントローラといったネットワーク関連に強い半導体メーカーとして知られている。例えば、日本のWi-Fiルーターではトップシェアを誇るバッファローのハイエンド製品には、ブロードコムのWi-Fiコントローラが採用されていることが知られているほか、PC、タブレット、スマートフォンなどでもブロードコムのWi-Fi、Bluetoothコントローラを採用する製品は多数ある。
そのブロードコムは近年、車載向けに力を入れており、そのなかでも車載イーサネットに注力している。車載イーサネットとは、有線LANとして利用されているイーサネット(IEEE802.3として規格化されている有線のネットワーク規格)を車両内のデバイスの通信技術として利用する取り組みだ。現在の自動車の車内は、アナログケーブルとデジタルケーブルの両方が混在している状態になっている。自動車では応答性や信頼性などの観点からデジタルよりもアナログのケーブルが多く活用されている。アナログのケーブルでは信号は1つしか送れないので、信号の分だけケーブルが必要になる。このため、結果的に自動車の内部はまるでスパゲティのようにケーブルだらけという状態になってしまっている。言ってみれば、自動車の内部は細かい路地だらけの道のような状態になってしまっていると考えればよい。
しかし、それをデジタルに置き換えれば、複数の信号を1本のケーブルにまとめて送ることが可能になる。つまり、路地だらけの道を1つの幹線道路にまとめることが可能になるのだ。これには多くのメリットがあり、1つにはケーブルの量を削減することができる。アバイェ氏は「ケーブルの重量は30%削減することができる」と述べ、車載イーサネットソリューションを採用するメリットとする。すでに紹介したように、自動車の内部はアナログケーブルだらけとなっているので、その重量はかなりものだ。それを30%削減することができれば、自動車全体の軽量化が可能になり、燃費改善に加えてコスト削減も可能になる。イーサネット自体はIT業界で数十年使われている“枯れた技術”であり、信頼性も高く、次世代の自動車のケーブル技術として注目が集まっているのだ。
車載イーサネットに関してはいくつかの方式が検討されているが、ブロードコムが提唱しているのは「BroadR-Reach(ブローダーリーチ)」というブランド名で呼んでいる方式で、論理層と呼ばれる部分はPCやサーバーで使われるイーサネットと同じ仕組みをそのまま採用。物理層には100BASE-T1と呼ばれる方式を使い、ケーブルにはシールドなしのツイストペアケーブルを利用することで、低コストでかつ高い信頼性を実現する。ただし、この方式はブロードコムの独自方式ということではなく、アバイェ氏は「自動車メーカーと話すなかで、大事なことは規格化されていることだとの要求を受けた。そのため『OPEN Alliance SIG』という業界団体を作り、そこで標準規格として業界に提案している。当初は9社で始まったが、現在は300もの企業が加盟している」と語り、あくまで標準規格として提案していると強調した。
このブローダーリーチはブロードコムのブランド名だが、規格そのものは公開されている。対応する半導体はブロードコムだけでなく、NXP、フリースケール、リアルテック セミコンダクターといったブロードコムの競合半導体メーカーも製造しており、業界標準の規格となっている。OPEN(One-Pair EtherNet)Alliance SIGはそれをプロモートする団体で、規格そのものはすでにIEEEで標準規格されているとアバイェ氏は説明した。
2020年の東京オリンピック前には日本メーカーからのリリースを目指したい
今回ブロードコムが発表したのは、そのブローダーリーチ方式の車載イーサネット向けの新しいスイッチ(複数接続されているケーブルを通信のリクエストに応じて切り替える機能)の半導体。BCM8953Xファミリーと呼ばれるこの新製品は、例えば車載インフォテインメントシステムのヘッドユニットや車載コンピュータなどに搭載され、車内の各所に設置されるデバイスを複数接続したときに、それぞれを切り替える役目を果たすことになる。
アバイェ氏によれば「BCM8953Xファミリーは、前世代に比べてパッケージサイズを50%削減し、30%ほど消費電力を削減している。また、PHYを内蔵しているためトータルコストが抑えられるほか、不正侵入防止のための標準認証プロトコルに対応しているなど、セキュリティ性を高めていることが大きな特徴になる」とのこと。
BCM8953Xファミリーでは、28nmプロセスルールというスマートフォン用などにも使われている現在のメインストリームの製造プロセスルールに微細化され、その分で先代となるBCM8950Xから30%ほど消費電力が削減されている。また、PHY(ファイ)と呼ばれる物理層が新たに内蔵されている。先代ではPHYを別チップとして基板上に実装する必要があったが、内蔵化によってパッケージサイズが50%削減され、同時に製造コストの削減につながっている。このほか、業界で一般的に利用されているマイクロコントローラとなるARM Cortex R4が内蔵されており、自動車メーカーが自分でプログラミングして機能を拡張することも可能。ブロードコムによれば、BCM8953Xファミリーはすでにサンプルの出荷が開始されているとのこと。
アバイェ氏は「BCM8953Xファミリーは特にADAS、カーナビゲーション、車載ゲートウェイ、リアシートエンターテインメントを実現するときなどに役立つ」と述べ、今後そうした機能向けで自動車メーカーへの売り込みを図っていきたいとした。ブローダーリーチ方式の車載イーサネットは、すでにBMWの「6シリーズ」「X3」「i3」などいくつかのモデルに採用されているほか、ジャガーの「XF」「XJ」、フォルクスワーゲン「パサート」などにも使用されており、「高級車のみならず、普及価格帯のクルマにも大きな可能性があると考えている」(アバイェ氏)と、普及価格帯のモデルにも可能性があるとした。
なお、アバイェ氏によれば、現在日本のメーカーに対しても売り込みを行っているそうで、OPEN Alliance SIGのメンバー企業として、トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業の3社の名前を挙げた。OPEN Alliance SIGのWebサイトによれば、トヨタは幹事企業であり、日産とホンダの2社は「Adaptor」と呼ばれるメンバー企業にリストアップされている。アバイェ氏は「2020年の東京オリンピック前には、ブローダーリーチを採用した自動車が日本の道を走っているようにしたい」と述べ、2020年前に発売される自動車に採用されるよう日本メーカーに売り込みを図っていると説明した。