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SAPジャパン、コネクテッドカービジネスのインフラ「SAP Vehicle Insight」「SAP Vehicle Network」発表会

「バス危険運転検知システム」「スマート給油システム」などの新技術を開発中

 ドイツのインメモリデータベースで世界トップシェアのベンダ「SAP」(エスエイピーと発音する)の日本法人となるSAPジャパンは、3月23日に記者会見を開催。“ネットワークに接続された自動車(コネクテッドカー)”向けのビジネスインフラとなる「SAP Vehicle Insight(エスエイピー ビークル インサイト)」と「SAP Vehicle Network(エスエイピー ビークル ネットワーク)」を発表した。

 SAPは、「SAP HANA」というインメモリデータベースソフトウェアやERP(Enterprise Resource Planning:統合基幹業務システム)のソフトウェアを提供する企業として知られており、エンタープライズ(大企業)向けのITソリューションを提供するトップベンダの1社だ。SAPはHANAをベースに開発されたクラウド環境「SAP HANA Cloud Platform(HCP)」を顧客に提供しており、今回発表されたVehicle InsightとVehicle NetworkはそのHCPと連携して動作する。前者はクラウド型の車両分析アプリケーションとして、後者はコネクテッドカーに決済も含めたサービスを提供する際のインフラとして活用できる。

HCPを活用してコネクテッドカーにビジネスプラットフォームを提供

SAPジャパン株式会社 バイスプレジデント・自動車産業統括本部長 小寺健夫氏

 SAPジャパン バイスプレジデント・自動車産業統括本部長の小寺健夫氏は「SAPはデジタルビジネスプラットフォームを提供していく。単に1企業向けのシステムを提供するのではなく、企業同士がつながっていき、それにより新しい社会価値やビジネスを創出していける、そうしたプラットフォームを提供している」と述べ、SAPが提供するさまざまなエンタープライズ向けのソリューションの強みを強調した。

 SAPは、ERP(大企業での基幹業務を支援するITシステムのこと)やインメモリ型データベースソフトウェアなどを大企業などに提供しており、性能や安定性などで高い評価を受けている。近年は「インメモリデータベース」と呼ばれるサーバーのメインメモリ上にデータベースを展開して高速に処理できるタイプのデータベースソフトウェアにおいて、エンタープライズ向けでのシェアを伸ばし続けている。

 そのHANAをクラウド(インターネット上で提供されるオンラインサービスのこと)で提供しているのがHCPで、今回提供される2つの製品は、このHCP上で動くサービスとなる。小寺氏は「HCPは統合プラットフォームになっており、用意された開発環境で開発すれば容易に拡張できる。今回発表する2つの製品もそうしたものだ」と述べ、HCP上で2つのサービスが動作することが特徴だとした。

HANAをベースにクラウド上で提供されているHCP
HCPとVehicle Insight、Vehicle Networkを利用した場合のアドバンテージ

 小寺氏はそうした2つの製品のメリットとして「例えば、自動車メーカーはテレマティックに巨額の投資を行なって構築している。しかし、HCPとVehicle Insight、Vehicle Networkを利用すると、従来よりも圧倒的に低コストで、かつ短期間で構築できるようになる。軽井沢の悲しい事故を受けて、なんとかそれをITの力で防げないかとHCPを利用したバス運行管理システムを構築を開始した、1月~2月に取り組み、すでにパイロットのレベルまで来ている。かつオープンな規格に基づいて作られているので、お客様同士のITシステムが簡単に接続できるようになっている」と述べ、新しい製品を利用することで、従来の自動車向けITシステムに比べて圧倒的な低コストで、短期間で、かつオープン規格に基づいて構築できるとした。

小寺氏のスライド

車両から上がってくるデータを管理して分析できるSAP Vehicle Insight

SAPジャパン株式会社 インダストリークラウド事業統括本部 コネクテッドビークル事業開発ディレクター 松尾康男氏

 次いで登壇したSAPジャパン インダストリークラウド事業統括本部 コネクテッドビークル事業開発ディレクターの松尾康男氏は、Vehicle InsightとVehicle Networkについての説明を行なった。

 松尾氏はVehicle Insightについて「HCPをベースにしてデータを分析するだけでなく、データの管理や接続といった一連の流れをサポートするソリューション」だと説明した。HCPはインメモリデータベースのHANAをベースに構築されているクラウドプラットフォームだが、そこに自動車から送られてくるデータをHANAに保存し、分析することができるソリューションがVehicle Insightということになる。

 松尾氏はその具体的な例として、同社がドイツ本社で行なっている車両管理システムを紹介した。松尾氏によれば、同社はドイツで社員に対して車両をリースしており、その車両をVehicle Insightで管理しているという。ODB IIから上がってくる車速やエンジン回転数などのデータ、GPSによる車両位置などがすべてVehicle Insightを経由して、HCP上のHANAにデータとして保存されているのだという。デモではWebブラウザ上からHCPに直接接続して、リアルタイムにデータを取得して、速度や車両位置などを把握している様子が公開された。

Vehicle Insightのデモ。HCPに格納されているリアルタイムの車両データに日本のPCからアクセスしている

 また、前出の小寺氏も紹介したバス危険運転検知システムについても紹介。バスから上がってくる情報のうち、例えばクルマが蛇行していたらバスを止める処置をしたり、乗客の家族向けに家族が乗っているバスの位置を通知したり、旅館向けにはバスが渋滞で遅れているから食事の準備を少し遅らせるようにアドバイスするなど、これまではなかったような活用が可能になると紹介した。松尾氏は「大事なことは単にセンサーの情報を可視化するだけでなく、新しいビジネスを作り出していくことだ」と述べ、現在、国内のバス事業者数社と実現に向けて話し合いを行なっていると説明した。

Vehicle Insightで実現されるバス危険運転検知システム
バスの状況をリアルタイムに確認できる

複数の企業が提供するサービスなどを1つに統合するVehicle Network

 続いて松尾氏はVehicle Networkについて説明した。「SAP Vehicle Insightがデータを分析して可視化していくのに対して、SAP Vehicle Networkはネットワーク化を進めるソリューション」だと述べ、Vehicle Networkは自動車だけでなく、その周辺のサービス、例えばガソリンスタンドや駐車場などを接続していくためのインフラになるとした。

 その例として、SAP、トヨタIT開発センター、米国の決済事業者であるVeriFoneの3社で共同開発しているスマート給油システムを紹介した。このシステムではSAPのVehicle Networkを利用して、クルマの車載情報システムでガソリンスタンドを検索してカーナビゲーションで誘導。スタンドに到着すると、車載情報システムから目的の給油機に誘導が行なわれ、目的の給油機に到達すると決済が行なわれ、給油ノズルを挿すとすぐに給油が始まるというシステムだ。現在の技術でもこうした仕組みは実現可能だが、現状では自動車メーカー、ガソリンスタンド、決済事業者のITシステムがそれぞれ接続されていないので、それをVehicle Networkによって相互接続を実現していく。これがSAPのビジョンということになる。

SAP、トヨタIT開発センター、VeriFoneの3社で共同開発しているスマート給油システム
車載情報システムでスタンドを見つけ
スタンドに到着すると給油機を発見して決済
あとは給油ノズルを挿すだけで給油が開始される

 松尾氏によれば、2月にスペインで行なわれたMWC(Mobile World Congress)において、スペインの自動車メーカーであるSEATがVehicle Networkを利用して、Samsung Electronicsが提供する電子決済「Samsung Pay」を利用するコネクテッドカーシステムを開発すると発表しているなど採用例も出てきており、すでに米国と欧州では限定的な出荷を開始。パーキング事業者や電子決済事業者との提携も進んでいるとのことだった。

 なお、質疑応答のなかで、両製品のターゲットとなる顧客について「もちろん自動車メーカーも含まれるし、売り込みはしていきたいと考えている。だが、まずはこれまではビジネスとして成立しえなかった(小さな)規模の顧客に売り込みをしていきたい。従来から同様のシステムを導入したいが、コスト対効果が合わないという顧客は少なくなく、バスやタクシー、流通事業者なども含めてニーズがある考えている」(小寺氏)とのことで、長期的には自動車メーカーにも売り込んでいきたいが、まずは小規模の事業者での採用から進めていく可能性が高いとした。

松尾氏のスライド

(笠原一輝)