試乗インプレッション

他車を寄せ付けないスポーティ性と質感の向上。魅力的に進化したBMW「X5 xDrive35d M Sport」

まさに“BMWの6気筒エンジン”のイメージをディーゼルでも表現

 BMWのSAV(スポーツ・アクティビティ・ビークル)「X5」がモデルチェンジして4世代目に進化した。しかし、BMWの今の話題は「X7」で、その陰に隠れてしまいがち。そこで新型X5を500kmほどの試乗に連れ出し、その真価を探ってみることにした。

大きくなったX5

BMW「X5 xDrive35d M Sport」(999万円)

 新型X5は1999年に登場した初代モデルのコンセプトを継承し、BMWらしい「走行性へのこだわり」と「高い実用性」を兼ね備えたモデルであるという。実は新型X5を見るのは試乗車を借り出した時が初めてだった。ボディがホワイトということもあり、かなりのサイズに感じたのだが、実際には先代よりも全長が25mm、全幅が65mm、全高が10mm、ホイールベースが40mmそれぞれ大きくなって、ボディサイズは4935×2005×1770mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2975mmとなっている。とくに2mを超えた全幅はX7よりも広く、現BMWラインアップ中最大だ。

 これはX7がスクエアな形状であるのに対し、X5はより走りが感じられるよう、ボディサイドの面に抑揚を持たせたのが要因だ。とくにリアフェンダーまわりはキャラクターラインを上側に伸ばすことでリアタイヤを強調。後輪駆動のDNAと、高い走行性能へのこだわりを象徴しているという。このようにサイズアップしながらも、車重は先代に比べて約15.5kgの軽量化を実現している。

ボディサイズは4935×2005×1770mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2975mm。車両重量は2190kg

 足まわりにはスチール製のサスペンションを採用し、M SportモデルにはXモデルとして初めて「4輪アダプティブエアサスペンション」を導入(オプション)。各ホイールに設置されたセンサーが、常に路面状況および荷重を検知し、必要に応じて上下40mmの間でホイールごとの高さ調整を自動で行なうため、安定感のある快適な走りを維持することができる。また、手動で高さを調整することも可能で、重量物を乗せる際や、路面状況がわるい時など、ドライバーの好みや状況に応じて設定変更することが可能だ。

 今回日本に導入されるX5のエンジンは1機種のみで、直列6気筒DOHC 3.0リッターディーゼルターボエンジンだ。このエンジンは、最高出力195kW(265PS)/4000rpm、最大トルク620Nm/2000-2500rpmを発生し、0-100km/h加速は6.5秒を達成している。

「B57D30A」型の直列6気筒DOHC 3.0リッター直噴ディーゼルターボエンジンを搭載。最高出力195kW(265PS)/4000rpm、最大トルク620Nm(63.2kgfm)/2000-2500rpmを発生する。トランスミッションは8速ATで駆動方式は4WD

室内の質感を重点的に改良

X5 xDrive35d M Sportと筆者

 今回、試乗とは別に、ビー・エム・ダブリューのX5商品担当者から少し話を聞く機会があったので、そのコメントをまとめてみた。

 今回のフルモデルチェンジで最大のポイントは、走りとインテリアの質感にこだわったことで、「このセグメントを越えたクオリティを提供したい」と話すのは、BMWブランドマネジメントディビジョン・プロダクトマーケティング プロダクトマネージャーのデックスビクター・ファンウネン氏だ。

 そもそもBMWは「エンジニア寄りのメーカーというイメージが強いのですが、それだけではなく、近年は属するセグメントに対してクオリティの高い内装にこだわるようになりました。これはユーザーから、もう少しラグジュアリーな空間を望まれているからです」という。実際に価格帯を踏まえた品質感を備えてほしいという声が少なからずあり、日本側からも本社に要望したとのこと。

フルデジタル式のメーターパネルや12.3インチのタッチパネルディスプレイなどで先進性を高めつつ、ラグジュアリーな空間演出にもこだわったというインテリア

 新型「3シリーズ」以降はこれらの声をもとに、インテリアの質感について見直されている。シフトセレクターまわりの物理スイッチもこれまでは独立して存在していたが、現在はその上にピアノブラックのカバーを使って全体を覆い、タッチパネルのような装いに変わった。これは見た目は大変いいのだが、実際にスイッチに触れると覆ったカバー全体がパカパカと動いてしまい、高いクオリティとはあまり思えなかった。

 その点についてファンウネン氏に尋ねると、「ピアノブラックに統一したことによって見た目はよくなりました。ギヤレバーにはクリスタルを採用していますので、高級感もあるでしょう。ただ、確かに覆ったカバー全体が動いてしまうのは、少し気になるかもしれません。現在、クルマがスマートフォン化しており、ボタンを押す必要がなくなっていく時代がまもなく来ると思っています。つまり、すべて音声入力になり、インテリジェントパーソナルシステムも将来的には『スポーツモードにしてほしい』とか、もっと直感的に色々操作できるようになるでしょう。今はそこにいく途中の段階」と述べ、今後このスイッチ類はさらに変化していくことを示唆した。

センターコンソールのシフトセレクター周辺にエンジンのスタート/ストップスイッチや「ドライビング・パフォーマンス・コントロール」のモードスイッチなどをレイアウト。クリスタルフィニッシュのシフトセレクタはM Sport専用オプション

 もう1つ気になるのはX7とのすみ分けだ。これは半分冗談だと前置きしながらファンウネン氏は、「もう少しX5のクオリティを下げてもよかったかな(笑)。その理由は、同じプラットフォームを使っているので、単純に7人乗れるか乗れないかの違いでしかないという考えもあるからです」と説明。ただし、そもそものコンセプトは「X5は走る喜び、ステアリングを握って楽しく走りたいというものに対し、X7はプレステージ感のあるクルマ。“ジョイ オブ ライフ、到着する喜び”を提供します。X7の方が200kg以上重いので、ドライバビリティもX5の方がいいでしょう。つまり、運転を楽しむのであればX5。家族で長距離旅行に行くのであればX7というすみ分けです」と語った。

 また、X5のサードシート(オプションで設定可能)は“1マイルシート”程度であるのに対し、X7の場合は長時間座ることが可能なものだ。さらに、X7の場合はセカンドシートに独立したキャプテンシートも選択できるので、ショーファーカーとしての利用も視野に入れて開発されている。

 従って、販売ではディーラーでのターゲティングが重要になる。ユーザーが何を求めているのかによってX5とX7を売り分けなければならないからだ。単に新しく出たクルマが欲しいからとX7を勧めるのではなく、そのユーザーのニーズにふさわしいコンセプトを持つクルマを推奨するということだ。もっともこれは、X5とX7に限らず、他のクルマにも当てはまることではある。ちなみにX7に関しては、年内分のオーダーはすべて埋まってしまっているそうだ。

コーヒーブラウン色のヴァーネスカ・レザーシートを標準装備

よりスムーズになった6気筒ディーゼルエンジン

 前置きが長くなってしまったので早速X5に乗り込むことにしよう。今回の試乗車はX5の「xDrive35d M Sport」である。

 運転席に座ると、車高が高いことを除けば、新型3シリーズ以降の見晴らしとほとんど変わるところはないので、最新のBMWに乗り慣れていれば、とくに気にすることなく走り出すことができるだろう。

 先代X5のディーゼルエンジンモデルで最も感銘を受けたのは、やはりそのエンジンだった。直列6気筒のスムーズさは何物にも代えがたく、しかも、トルクで静々と走らせるのではなく、しっかりとアクセルを踏み込み、まるでガソリンエンジン並み(というと少々大げさだが)にパワーも使って走らせるタイプだったのだ。その上で、高速道路などでは低回転で分厚いトルクを巧みに利用し、淡々と走らせることができていた。

左側にスピードメーター、右側にタコメーターを配置。スピードメーターは時計回り、タコメーターは反時計回りに指針が動く独自のスタイルを採用。タコメーターのレッドゾーンは5000rpmで6000rpmまで刻まれている

 個人的にもそこがどうなっているか一番気になったところなのだが、その期待はいい方に裏切られた。ボディ前方の骨格に高張力鋼板をより多く使用して強度が高められたこともあり、先代で少し気になっていたエンジンの振動が軽減され、かつ、静粛性も高められていたのだ。エンジン自体もパワー&トルクとも向上している上に、レスポンス自体もよりスムーズで、まさにBMWの6気筒エンジンのイメージをディーゼルでも表現しているように感じた。

やはり大きなボディサイズ

 そうやってエンジンを味わいながら市街地を走っていると、やはりそのボディサイズを気にせずにはいられない。とくに都内をウロウロとさまようといったシーンでは、すり抜けしてくる自転車やバイク、突然止まるタクシーなどを避けながら、正直なところ2mにもなる全幅を持て余してしまった。このクルマを持つのであれば、普段使いはもう1台、3シリーズあたりを用意して、休日に別荘まで一気に走るような使い方をしたくなる。

 乗り心地は先代と比べてかなり変わった。これまでは引き締まった印象で、とくにM Sportなどは大径タイヤのため、バネ下が重くなって少々足下がバタつく印象だった。しかし、新型ではどちらかというとふわっとしなやかな乗り心地が強調されており、最近の「5シリーズ」などと共通したものだった。さらに驚いたことに、フロント275/40R21、リアは315/35R21(試乗車はピレリ P ZEROを装着)というファットなタイヤを履いていたのだが、その大径タイヤをまったく感じさせず、見事に履きこなしていたことに驚かされた。確かに、高速道路の段差などでは若干その重さやショックは伝わってくるが、それほど気になるものではない。もしかしたら、先代ユーザーからは物足りないと思われるかもしれないほどだった。

 車重2tを超える車体を元気に走らせるにはブレーキも肝要だ。そのフィーリングは素直でスムーズ。他のBMWの一部に見られる踏力の変化や途中で食いつくようなフィーリングもなかった。もちろん制動力も十分である。

ちょっと甘いアクティブ・クルーズ・コントロール

 高速道路に乗り入れてみても、この印象は大きくは変わらない。「ドライビング・パフォーマンス・コントロール」のモードは基本的に「アダプティブ」を選択し、クルマ側でそのシーンに応じた適切なサスペンションやステアリング、8速ATのセッティングを変更させるようにしていたのだが、とくに不満を覚えることはなく、段差などで若干クルマがふわつく印象があるものの、おしなべて快適であった。直進安定性も高く、リラックスして高速巡行できるだろう。

 その時に役に立つのが安全運転支援システムだ。X5は3眼カメラを搭載しており、短・中・長距離をそれぞれのカメラで撮影するとともに、1秒で2兆5000億回の演算能力を持つ画像処理プロセッサーを採用。より正確なアシストができるようになっている。実際に使用しても、2眼カメラよりも「“きもち”スムーズになったかな」という印象だ。ブレーキングに関しても以前より急激な減速が減っている。ただし、高速道路の渋滞時などでは、どういうわけか車線内で左右にわずかに蛇行する傾向が見られるようになった。BMW車でこの経験をしたのは初めてなので、初期モデルのセッティングの甘さと信じたい。

光るワインディング性能

 ワインディングロードを走ってみると、アダプティブモードでは少し物足りなくなる。具体的には若干足まわりがしなやかすぎるのだ。そこで、モード変更で「スポーツ」を選択すると、一気に乗り心地は引き締まり、ステアリングやアクセルレスポンスが機敏になる。そのままコーナーをいくつかクリアするにつれて、クルマのサイズがふたまわりほど小さく感じられるようになった。「バリアブル・スポーツ・ステアリング」とサスペンションのセッティング、そしてアクセルレスポンスとのマッチングが最適なので、思った通りのラインをトレースし、きびきびとした“駆け抜ける歓び”を体験できた。

気になることもいくつか

 そのほか、気になったことをまとめて書いておこう。まずはヘッドアップディスプレイだ。これまでのBMW車よりも大型化され、はるかに見やすくなったのはうれしいのだが、このX5に限って言えば位置が低すぎるのだ。筆者は身長167cmなのだが、最適なドライビングポジションに合わせると、ヘッドアップディスプレイの位置を最上段にしても半分は見えないのだ。また、BMWでは相変わらずピラーマウントのドアミラーを採用しており、とくに右方向に大きな死角が発生してしまっている。とくに大型SUVでの右折時には大いに注意が必要だ。

 また、これも他のBMW車でも言えることなのだが、ステアリングスイッチの配置が左ハンドル仕様と共通なのか、使い勝手を考えると左右逆なのだ。つまり、ラジオなどのボリュームコントロールは右手側にあるのだが、実際の画面は左側(車内中央)にあるので、右手で操作しながら左を見るということになり、違和感を覚えてしまう。

 ボディ形状も大いに関係するところでは、サイドシルがドアより下側に出てしまっていることが気になった。SUVという形状から車高が高くなり、乗り降りする時はどうしてもボディにパンツのすそやふくらはぎあたりが触れてしまう。車高の低いセダンなどは大きく足を延ばせばそれを避けることもできるのだが、SUVではそうもいかない。しかもこの位置は汚れやすいので、どうしてもパンツが汚れてしまうことになるし、小柄な女性であればなおさらだ。ぜひこれは改良してもらいたい。同じようなSUVで、例えば「DS 7 クロスバック」や「エクリプス クロス」などはきちんと対応できているので、不可能ではないはずだ。

運転席から左右のドアミラー側を見たイメージ。とくに運転席から近い右側が気になる
ドアパネルはサイドシル全体をカバーする形状にしてほしいところ

 気になることをまとめて書いたのは、実はこれぐらいしかなかったからだ。細かく見ればもう少しあるのだが、そこまでいくと重箱の隅をつつくようなもの。あるいは好みの範疇といってもいいだろう。

 それよりも、以前に比べるとアイドルストップからの再始動が非常に静かでスムーズになったことや、オートブレーキホールドからの発進がとてもスムーズになったことなど、先代からはるかに進化したことも挙げておきたい。また、使い勝手においてもテールゲートが上下2分割になるなど、十分に考えられていることがうかがえる。

リアハッチは上下2分割で開閉
フロア下にサブトランクを設定。キャビンとのパーティションネットも収納可能
リアハッチの上側に「X5」「xDrive35d」のエンブレム

優秀な燃費

燃料タンク容量は80L。排出ガスの後処理用には「AdBlue(尿素水溶液)」を利用している

 今回の燃費についてご報告しておこう。カッコ内はWLTCモード燃費だ。

市街地:9.3km/L(8.7km/L)
郊外路:10.4km/L(11.8km/L)
高速道路:14.5km/L(13.7km/L)

 車重2tを超えるSUVとしては優秀な数値と言えよう。また、燃料タンク容量は80Lなので、高速道路を淡々と流すと余裕で1000kmオーバーという長い足を備えることになる。

 さて、新型X5だが、前述の通りボディサイズから都内での足としては少々扱いにくいものの、郊外や高速道路、ワインディングなどでのマナーはとてもいいことが分かる。とくにスポーティ性に関しては他車を寄せ付けない強みとなろう。これまではどうしても質感という面で弱さがあったが、新型ではそこを重点に改良してきたので、いっそう魅力的なクルマに仕上がったのだ。

内田俊一

AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー 25 バカラと同じくルノー 10。

Photo:内田俊一

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