【インプレッション・リポート】
岡本幸一郎のスバル「エクシーガ」インプレッション



 スバル「レガシィ」の持つ高い運動性能とツーリングワゴンとしてのユーティリティ性に、多人数乗りミニバンとしての要素を持たせたのが、「エクシーガ」だ。2008年6月に発売後、1年目となる2009年9月のマイナーチェンジで、年改とは思えぬほどの大幅な改良が行われ、2リッターNA(自然吸気)モデルにリニアトロニックCVTを搭載。さらに2009年12月、2.5リッターエンジンとCVTを組み合わせた「2.5i-S」と「2.5i-S アルカンターラセレクション」を追加設定している。おなじみモータージャーナリストの岡本幸一郎氏が、2.5i-S アルカンターラセレクションをインプレッションする。

レガシィのDNAを引き継いだエクシーガ
 2008年6月に登場したエクシーガの実車を初めて見たときには、「ここまでレガシィに似せなくても……」というのが実は第一印象だった。もともと「レガシィツーリングワゴンのような感じで、シートが3列あるクルマが欲しい」という声に応える形で企画されたクルマであり、聞けば「レガシィセブン」という車名の案もあったそうだ。ところが、その割にはエクシーガの発売直後に開発陣と話をした際には、「レガシィとは別のクルマ」であることを強調している印象もあって、ちょっと「?」だった。

 どうせなら、すでに確立されたレガシィのイメージを活かした戦略を打ったほうが、ユーザーにも伝わりやすいのではと思っていたところ、2009年秋に年次改良を経たころから、TVCMで、「レガシィのスピリッツを7人乗りへ」というフレーズが使われ始めた。同じメーカーとはいえ、ここまで具体的に別の車種名をTVCMに使ったものもあまり記憶にないところだが、エクシーガの本質をストレートに表現していて分かりやすいと思う。

 年次改良では、装備類が見直されるとともに、ついにCVT搭載車がラインアップされたことが大きなトピックだ。スバルがこのクラスでCVT化を考えていることは、2009年5月にモデルチェンジしたレガシィにCVTが採用されたことでも明らかで、エクシーガに(いずれはインプレッサやフォレスターにも)搭載されるのも時間の問題だと思っていたのだが、意外と早くその時が訪れた。同CVTをスバルでは「リニアトロニック」と名づけたほどで、燃費だけでなく走りにもこだわったことは想像に難くない。より高速域での燃費向上が期待できるチェーン式のバリエーター(主変速機機構)を採用したことも特徴だ。

 ところが、おそらくレガシィと同じ2.5リッターエンジンとの組み合わせで登場するものと見込んでいたエクシーガのCVT車に、まず設定されたエンジンは、2.5リッターのEJ25ではなく、2リッターのEJ20だった。ひとまず価格帯の低いモデルから先にと、既存の「2.0i-L」と「2.0i-S」グレードで、従来のATからCVTに換装という形が採られたのだ。

 その2リッターのCVTの2WD(FF)車に乗ったこともあるのだが、正直、それほどよいものではなかった。CVTの制御は細かく一生懸命がんばっているのだが、いかんせん車重に対しエンジンの低速トルクが足りない。細いトルクをなんとか使おうとするから、CVTが無理をして変速を繰り返すので、変速比が細かく変わりすぎて、イメージした加速と実際の加速にズレが生じがち。結果的にアクセル開度はえてして大きくなってしまう。また、常に変速比が小刻みに震えている感覚もあった。どうも「リニア」とはいえないリニアトロニックだと感じたのもやむなしだった。おそらく、燃費計測におけるモード燃費には相当に配慮しただろうし、ATに比べて約700回転も低下した100km/h巡航時のエンジン回転という強みはあるので、CVTの伝達効率の低さを差し引いても、それらのシチュエーションでの燃費向上は見込めるだろうが……。

 とは言うものの、CVT車の追加は販売面には大きく貢献した。2008年夏の発売直後こそ、それなりに伸びたエクシーガの販売だったが、ほどなく停滞期に入り、月販平均800台程度となった。ところがCVT車が追加されてからというもの、1200台程度に伸び、その大半がCVT車だと言うのだ。どうやら「CVT」という記号性は、実力をとやかくいう以前に、かなり“商品力”はあるようだ……。

 であれば当然、次の一手。そう遠くない将来にレガシィと同じ2.5リッターエンジンのEJ25にリニアトロニックを組み合わせたモデルが市場に投入されるはずと思っていたのだが、2009年12月24日にそれは現実の話となった。

スバル「エクシーガ2.5i-Sアルカンターラセレクション」
2.5リッター水平対向4気筒SOHCエンジンを搭載トランスミッションにリニアトロニックCVTを組み合わせる

2.0iともレガシィとも違う2.5i-Sの走り
 EJ25エンジンは、北米市場で主力となっているパワーユニットで、最高出力125kW(170PS)/5600rpm、最大トルク229Nm(23.4kgm)/4000rpmのスペック。吸気側にi-AVLS(可変バルブタイミング&リフト機構)を備えるSOHCユニットで、低中速域でのトルク特性に優れるのが特徴だ。ちなみに2リッター車のスペックは、110kW(150PS)/6000rpm、191Nm(19.5kgm)/3200rpmなので数値だけ比べてもそれなりに違う。

 ドライブした印象は、やはり2リッター車とはずいぶんと違った。低回転域から比較的十分なトルクが得られるので、小さなアクセル開度でもあまり不満を感じさせることもなく加速する。そして、CVTの変速比の振幅が小さく、ビジーな印象が薄れて、だいぶリニアになっている。おかげでイメージした速度まで到達させやすい。けっこうな上り勾配でも引っぱってくれるので、2リッター車のような「苦しそう」という印象もない。とくに、ドライブモードを最もエコ寄りなi(インテリジェント)モードにしたときの印象が違う。また、EJ25は4気筒エンジンとしては比較的排気量の大きな部類に入るが、水平対向らしく、高回転まで回しても振動感が小さいのも強みである。

 おそらく、一般ドライバーが運転した場合の平均的なアクセル開度が、2リッターのCVT車に比べてだいぶ小さくなるだろうから、カタログ上の10・15モード燃費では、2.0i-Sの4WD車が13.8km/Lで、こちらは12.6km/Lだが、実用燃費では逆転するシチュエーションもあるのではないかと思う。

 半面、同じ2.5リッターのレガシィと比べると、やや大人しめの印象ではある。イメージとしては、レガシィの「S(スポーツモード)」と、エクシーガの「S#(スポーツシャープ)」が似たような感じの加速感となる。レガシィがもっと走りを意識したマッピングだったのに対し、エクシーガはより燃費を優先したという印象だ。

 2リッターに比べると動力性能は上々だし、2.5リッター車を単体で見ると大きな不満はないわけだが、このモデルに何を期待するかによって、見方は変わってくると思う。筆者はこれで十分だと感じたが、レガシィのCVT車の味を知っていて、それと同等の性能を期待すると、ちょっと物足りなく感じる人が少なくないかもしれない。ゆくゆくは、SI-DRIVE自体を好みに合わせていじれるような仕組みもあればなおよいのにと思う次第。アフターパーツの世界では、そういったアイテムも出ていることだし……。

レガシィと比べるとマイルドな味付け。しかし伝統のスバルAWDの恩恵で雨でも安心して走ることができる

 ところで、EJ25搭載モデルは、まずは「2.5i-S」という、内外装がちょっとスポーティな仕様の1グレードのみの設定となっている。スポーティといっても、走り味はそれほどスポーティなわけではない。乗り心地は概ね良好で、その印象は後席も同様。シートの取り付けが従来よりもしっかりしたようで、余計な振動が払拭されたように感じられる。

かなりの広さを持つパノラミックガラスルーフ。車内は明るくなるが、乗り比べれば重量の増加を感じる

 大面積を誇るパノラミックガラスルーフを選ぶと、頭上が30kg近くも重くなる。ペースを上げたコーナリングでは、その影響が少なからず感じられ、ロールしやすくなるわけだが、クルマ自体が素性として持つ重心の低さにより、破綻しそうになることはない。むしろ一般走行では、クルマの動きをゆるやかにドライバーに伝え、いたって乗りやすいことに好感を抱く。それは、走りの「よさ」を乗り手に直感させるというよりも、雨など条件の悪い中でも、あまり気になる部分もなく、心配せずに乗れるという、「なんとなくよい」という感覚だ。

乗用車サイズのボディープラス3列シートを巧みにパッケージ
 エクシーガに触れるたびに感心させられることに、パッケージの巧みさがある。スバルではこのクルマをミニバンと呼んでいないし、ミニバン=3列シート車としては極めて乗用車に近い室内空間を持つことも、このクルマの特徴だが、その中で限られたスペースを有効に使い切っていると思えるからだ。

 レガシィよりもちょっと小さめ外寸のボディーに3列シートを配置し、後ろに行くにしたがって、70mmずつ座点が上がっていく。おかげで後席でも見晴らしがよい。2列目はまったく問題なし。3列目に成人男性が座っても、足さえ何とかすれば、背中を丸めることなく座れるサイズのシートとクリアランスが確保されている。こうしたところにも、スバルのこだわりが感じられる。

 ただし、ラゲッジスペースについては見方が分かれるところだと思う。3列目を活かしてても、さらに少量の荷物を積めるスペースは残る。たとえばウィッシュやストリームあたりの小型ロールーフミニバンだとほとんど残らないので、これらと比べるとそこは大きな強みに違いない。そして、3列目を倒せばそれなりに大きなスペースを得ることはできる。ところが、フロアがフラットにならず、3列目の背面にあたる部分がかなり前上がりに斜めになる。これでは使いにくいと感じる人も少なくないはず。純粋にワゴンとしての使い勝手を求めるのであれば、レガシィツーリングワゴンのほうが適しているだろう。このあたりの見極めも、このクルマを選ぶべきかどうかの分かれ道になる。

 3列のシートを収めながら、ボディーサイズはレガシィと同等(微妙に小さい)で、レガシィでは「大きい」と評されたこのサイズも、オデッセイやMPVあたりと比べると小さいわけで、日本の道路事情でも、それほどおっくうな思いをせずに乗れる上限ではないかと個人的には思っている。

3列シートレイアウト(写真は2.5GTのもの)運転席をドライバーズポジションに合わせた状態での2列目と3列目のニースペース。身長182cmの編集部瀬戸と172cmの筆者が座っても足下に余裕がある3列目に乗り込むときに便利なステップもある
7人乗車の状態でもラゲッジスペースはそれなりに確保されている分割シートにより、長尺物を収納することもできる3列目シートを倒した状態。奥行きがグッと広がるが、若干床面が手前下がりになる。この辺ではレガシィに軍配があがる
ラゲッジ下にはサブトランクもあるサブトランクの下には車載工具やスペアタイヤが収納される

走りも使い勝手も環境性能もそつないエクシーガ、買いは2.5i-Sアルカンターラセレクション
 総じて、エクシーガはいろいろな要素を実にそつなく身につけたクルマだ。まず、ボクサーエンジンにシンメトリカルAWDというコアな部分をベースに、3列シート車としてのスペースユーティリティを非常に効率よく確保している。装備面も充実している。それらを維持しつつ、今回追加された2.5i-Sでは、走りやエコにより効果的なアイテムを身につけたわけで、1台ですべてをまかないたい、その中でも走りとエコにプライオリティを置くユーザーにとって、このマルチぶりはかなり“刺さる”のではないかと思う。

 価格については、2.0i-Sの4WDの車両価格が241万5000円で、2.5i-Sが260万4000円だから、見かけ上は2.5i-Sが20万円弱ほど高いように感じられる。ところが、2.0i-SではオプションとなるHIDやクリアビューパックが2.5i-Sには標準で付き、さらにSI-DRIVEやパドルシフトも備わるので、実質的には5万円程度の価格差にすぎない。また、2.5i-Sでは7万3500円のプラスでアルカンターラ/レザーシートを選べるのもありがたい。これは2リッター車はおろか、上級グレードの2.0GTにも設定がない(レザーは設定あり)。今回、アルカンターラ/レザーシート付きの試乗車に乗って、アルカンターラという素材がシート生地として使うのに最適だということをあらためて痛感した。見た目も触り心地もよく、フルレザーシートでありがちな不快に滑ることもないし、着座感も申し分ない。主観的な意見で言うならば、こちらのアルカンターラセレクションを選ばない手はないと思う。

2.0i-Sより価格は張るが装備が充実した2.5i-S。ヘッドライトは標準でHIDスポーティフロントグリルも2.5i-Sの装備ホイールはハイラスター塗装の17インチアルミ
モモ製本革巻きステアリングはアルカンターラセレクション専用装備。シフトパドルもつく3つのドライブモードから選べるSI-DRIVEアルミパッド付スポーツペダル
サイド部にレザー、中央にアルカンターラを使った、アルカンターラセレクション専用シート滑りにくいアルカンターラはクルマのシートに最適

(岡本幸一郎/Photo:大湊博之)
2010年 4月 9日