【インプレッション・リポート】
岡本幸一郎のトヨタモデリスタ「マークX +Mスーパーチャージャー」インプレッション



 トヨタ モデリスタインターナショナル(以下「モデリスタ」)は、1997年にスタートしたトヨタグループのカスタマイズブランド。TRDやトムス、あるいは2010年の東京オートサロンで突如披露されたGスポーツはスポーツ色が濃いのに対し、モデリスタはどちらかというとドレスアップのブランドというイメージが強い。

 ところがどっこい、今回紹介するコンプリートカー「マークX +Mスーパーチャージャー」はちょっと違う。2009年秋にモデルチェンジした現行マークXをベースに、エクステリアはいわずもがな、足まわりやブレーキ、そしてスーパーチャージャーまで追加したという、なかなか本格的にモディファイされたクルマである。そんなマークX +Mスーパーチャージャーのデモカーを、オープンして間もない袖ヶ浦フォレスト・レースウェイで試乗するチャンスに恵まれたので、そのインプレッションをお届けしたい。

 試乗車両として用意されたのは、ラグジュアリーな「プレミアム」とスポーティな「350S」をベースとする2台。いずれのエンジンにもトムス製の2GR用スーパーチャージャーを搭載する。これは、プーリーがオグラクラッチ製、コンプレッサー部がIHI製という、すでに実績のあるルーツブロア式のスーパーチャージャーだ。過給圧は50kPa弱で、スペックは最高出力265kW(360PS)/6400rpm、最大トルク498Nm(50.8kgm)/3200rpmまで引き上げられている。ピーク値で比較すると、パワーがノーマルの31kW(42PS)アップ、トルクでは、実に118Nm(12.1kgm)アップとなっている。スーパーチャージャーらしく、トルクの大きな上がり幅が印象的だ。このようなカスタムカーの場合、カタログスペックの高さも、所有することへの満足感につながるというものだ。

マークX +Mスーパーチャージャーの「プレミアム」の試乗車外観はほぼノーマルのままだが、グリルだけはモデリスタフロントグリルに交換されていたホイールもノーマルのままだ
「350S」の試乗車。モデリスタのエクステリアパーツ(オプション)でドレスアップをしているモデリスタのフロントスポイラーとフロントグリルを装備
ドアミラーカバードアのサイドにアクセントを加えるサイドドアガーニッシュ。サイドスカートも装備前ドアには「SUPER CHARGER」のエンブレム
バンパー下部にはリアスパッツ。マフラーはノーマルのままリアトランクに「+M」のエンブレムホイールはオプションの19インチアルミホイール&タイヤセットが装着されていた。タイヤはミシュランパイロットスポーツ

 まずはプレミアムから、いざコースイン。せっかくなのでトラクションコントロールをOFFにして、アクセルペダルを大きく踏み込んでみる。すると、ありあまるトルクにより、いとも簡単にホイールスピンを引き起こした。最近は筆者も高性能車に触れる機会がめっきり少なくなったので、この感覚がなんだかなつかしい。クローズドコースなので遠慮なく踏むことができるのはありがたい。アクセルをONにすると、エンジンはスーパーチャージャーによる独特のミューンという作動音を発しながら、低い回転域から図太いトルクを湧き上がらせ、タコメーターの針は一瞬にしてレッドゾーン手前に到達してしまう。自然吸気エンジンではまず得ることのできない、いかにも「過給」された感覚の強烈なトルク感だ。また、スーパーチャージャーというとトップエンドで頭打ち感のあるものが少なくないのだが、このクルマは上まで回したときの抵抗感もほとんど気にならないほど小さく抑えられている。

まずはプレミアムからインプレッション

 350Sにも同じスーパーチャージャーが搭載されるが、ドライブモードを純正と同じく「スポーツ」「ノーマル」「スノー」の3つのモードから選ぶことができる。これがプレミアムと異なる点で、プレミアムでは、350Sのスポーツに相当する1モードのみの設定となる。なのでスポーツモードでは、プレミアムと同様に、これでもか!というくらい速いのだが、一方のノーマルモードを選ぶと、その走りはいたってジェントルになる。スロットルをかなり絞っているらしく、ノーマル・プラスアルファ程度にとどまるのだ。その味付けの差は明瞭で、モード選択は、これぐらいメリハリがついていたほうがよいと思える納得のセッティング。

続いて350Sの試乗
350Sにはスポーツやノーマルといった走行モードを選べる機能があり、それによってドライブフィールが変わる試乗中、終始笑顔の絶えない岡本氏。カスタマイズカーならではの刺激を満喫しているようだ

 大小14のコーナーを持つ1周約2.4kmというコースは、メインストレートが400mとそれなりに長いにもかかわらず、最終コーナーを立ち上がってフルスロットルにすると、あっというまに1コーナーが目の前に迫ってくる。その1コーナーの奥にはあまりエスケープゾーンがないので、やや余裕を持ってフルブレーキングを試みる。また、このコースは全体的にアベレージスピードが高く、ハイスピードからのブレーキングが必要なポイントがいくつかある。車両重量1600kg近くに達しようかというクルマを、短時間で大きく減速させるのだから、ブレーキへの負担も小さくない。

 どちらのデモカーのブレーキにも同じスポーツパッドが装着され、350Sではさらにユニークなデザインのスリットを入れたディスクローターに換装されている。さすがに周回を重ねると、タッチが徐々に甘くなってはくるのだが、ブレーキパッドのみ交換したプレミアムでも、耐フェード性の向上により減速感自体が損なわれることはなかった。また、ディスクローターも交換した350Sでは、よりフィーリングの変化の幅が小さく、安定していた。タッチの剛性感も若干高く、コントロール性に優れる印象だ。

350Sの試乗車には、ブレーキパッド交換のほか、ダブルバレルドローターと呼ばれるスリット入りのローターが装着されていたこちらはプレミアムの試乗車。パッドは変わっているものの、ローターはプレーンブレーキキャリパーは純正のモノブロックタイプの対向キャリパーが装備されている

 ちなみに筆者は、トムスの旧世代のスーパーチャージャーを装着した車両をドライブしたこともあるのだが、同じくトルクフルではあるものの、全体的に抵抗感が大きく、いささか強引に速く走らせているという印象が強かった。絶対的な「速さ」はあったので、それはそれで面白いのだが、いわゆる「胸のすく加速」と呼べる気持ちよさとは少々違うと感じていた。それは開発陣にとっても同様だったようで、今回のスーパーチャージャーではギクシャク感を払拭することに大いに注力したと言う。その第一歩として、従来用いていたマグネットクラッチを廃し、よりシンプルな機構とした。

 従来のクラッチ式は、アイドリングやごく低い回転時にはクラッチを切ることでロスを抑え、あるエンジン回転数に達した時点でクラッチをつなぎ、過給し始める仕組みになっていた。加えて、任意に過給をON/OFFすることもできた。それを、現行の仕様ではクラッチをなくし、エンジンが回っている間、常時スーパーチャージャーも駆動するようにし、アクセルをちょっと踏んだところから、過給された空気が入るようにするとともに、エンジン回転の低い領域からスムーズにパワーが立ち上がるように味付けした。これにより、発進時のスムーズさ、力強さが格段にレベルアップしたというわけだ。

 また、前記のスーパーチャージャー特有の作動音について、量産車では「不快な音」として、できるだけ乗員に聞こえないようにしている車種も多い。たとえばメルセデスがそうだ。しかし、+Mスーパーチャージャーではそのまま生かされている。実際の話、作動音を消すのはそう簡単ではなく、かなり大掛かりな手当てが必要となるわけだが、このクルマはこのままでよいと思う。ベース車にスーパーチャージャー仕様のないマークXでは、作動音もまたスーパーチャージャーの存在を感じさせ、ドライビングプレジャーをかき立ててくれる「演出」のひとつになると思えるからだ。また、こうしたキットを後付けしたコンプリートカーを選ぶオーナーにとっては、せっかくの「らしさ」を消さないでくれたほうがありがたいはず。このクルマの場合は、これが正解なのだろう。

 一方で、踏み込んだ際に最初に出やすい、ベルトの滑る「キュッ」という不快な音はなくしたかったとのことで、現行キットではアイドルプーリーを1つ追加し、鳴きを抑えていると言う。こうした心配りが行き届いているところもありがたい。

エンジンルーム。エンジンは専用のカバーで覆われるエンジンの上に載っかるようにつくスーパーチャージャーキットにはトムスの文字がこの下あたりにコンプレッサーがある

 スーパーチャージャー化に合わせてECUのセッティングも変更しているが、よくありがちな、サブコンピューターのようなものを使って燃調マップに係数を掛けるような手法ではなく、純正ECUの中のマップを全面的に専用に書き換えて、理論空燃比に近いところできめ細やかな制御を行っている。トヨタのECUの制御は難しく、独自で解析し、変更しているところはまずない。しかし、トヨタ本体と直接的な関係にあるモデリスタは、情報の一部を提供してもらうことができるおかげで、ECUのセッティング変更も行えたのだと言う。その上で、スーパーチャージャー自体の開発は、トムスの開発陣と共同で進めているとのことだ。ちなみに、燃費や排ガス性能は公表されていないが、ノーマルに比べてあまり落ちていないそうだ。

 トランスミッションについては、基本的にはノーマルの制御をそのまま用いているのだが、ドライバビリティとしては、正直、あまりよろしくない部分も見て取れる。そもそもトヨタのAT自体が、スムーズだがリニアさに欠けるような言われ方をしている。このクルマも確かにダイレクト感に乏しく、マニュアル操作したときの変速レスポンスも速くはないし、Dレンジだとエンジンブレーキもあまり効かない。しかし、これは耐久性を優先して、ノーマルの制御のメリットを生かしているため。ここをいじるとリスクが増えてしまうので、あえてこうしているのだ。

 ひとつ意外だったのは、マフラーをいじっていないことだ。現行マークXは、テールエンドが先代のバンパー一体型ではなくなっていて、むしろいじりやすくなっているはずなのに、なぜかと思ったのだが、構造的に手を加えるのが難しいというのが主な理由のようだ。さらに、今の時代は大きな音を出しづらいことや、個々のユーザーの好みの音質を追求するのは難しいことなどの理由から、マフラーの変更は見送ったとのこと。少々残念な気もするが、時代を考えると、たしかにそれは見識かもしれない。

 フットワーク面では、いずれも約20mmローダウンするスポーツサスペンションが装着されている。路面のキレイなサーキットのみでの試乗だったため、乗り心地の話はあまり参考にならないかもしれないが、あまりスポーツ走行に合わせてガチガチになっているわけではない。350Sでは、もともとノーマルにあるAVS(アダプティブ・バリアブル・サスペンション・システム)を生かし、減衰力の3段階の調整が可能となっている。また、2台の試乗時に装着されていたタイヤの銘柄やサイズも異なっていた。プレミアムは、あくまで快適性重視のクルマなので、乗り味はやはりソフトにまとまっていた。350Sは、サーキットとなると物足りない印象はあるが、「スポーツ」に合わせると、ロールスピードがゆっくりになり、ロール量はけっして小さくはないものの、攻めた走りにもなんとか応えてくれるという印象だった。箱根ぐらいのちょっとペースが速めでRのそれほど大きくないワインディングロードであれば、おそらく現状でも十分にカバーしてくれるのではないかと思う。基本的にはプレミアムも350Sも、いずれも一般道を快適に走ることに主眼を置いてセットアップされていると考えてよいだろう。

20mm車高がダウンするスポーツサスペンション。350Sはドライブモードに合わせて減衰力も変化するストラットタワーに付いたユニットが減衰力を調整するユニット。350Sにのみ付くスポーツサスと言ってもガチガチに硬い足ではない。適度にロールしながらコーナーを駆け抜ける

 ちなみにボディー補強については何も行っていない。これについて開発陣によると、後付けでパーツを装着すると、もちろんメリットもあるが、応力が部分的に集中してしまうなどして、かえって弊害を招く恐れがあるためというのが理由。ボディー補強については、個々のオーナーの判断に任せたいとのことだった。

 今回、こうしてモデリスタが手がけたコンプリートカーに触れてみることができたわけだが、まずはカスタマイズの楽しさをあらためて思い出した次第。大量生産されるクルマにはない、何かが突出した楽しさ。それを純正と同等の安心感の中で楽しめる、メーカー直系ブランドのコンプリートカーならではの信頼性。また、昔からトヨタの高性能車といえばスーパーチャージャーといったイメージもあると思うのだが、その点でもこのクルマは、往年のイメージが上手くオーバーラップするところも気分を盛り立ててくれる。

 モデリスタの開発陣は、新車でクラウンアスリートあたりを選ぼうかという人に、こういった選択肢もあることを提案したいと言う。クラウンは快適に乗れるクルマである半面、走行性能に不満を持つ人は少なくない。しかしモデリスタでは、この+Mスーパーチャージャーを、“純粋に走りを楽しめるクルマ”に仕上がっていると自負していると言う。同じ出費を払うのであれば、ノーマルで上の車格のクルマを選ぶというのもよいが、心ある人には、こうした独自の楽しさを持つ少数派にもぜひ目を向けてみてほしいと思う。かつて若いころにハイソカーを味わった団塊世代の、走りへの欲求が萎えていない人に、まずは、こうした魅力的なクルマが存在することを広くお知らせしたい。

(岡本幸一郎)
2010年 4月 16日