【インプレッション・リポート】 マツダ「デミオ」 |
ハイブリッドシステムなどの飛び道具(?)も使わずに、30km/Lもの燃費を実現すると謳うデミオ。今回、新エンジン「SKYACTIV-G」を搭載してビッグマイナーチェンジを敢行したデミオに箱根で試乗し、さらに個人的に数日間都内を中心に足として使ってみた。その結論を報告しよう。
■リッター30kmの内訳
まずは箱根の試乗会の場。開発陣に対して単刀直入に「どうやって30km/Lを達成したのか」を質問した。返ってきた答えは、エンジンで24km/L、CVTで2km/L、車体で4km/Lという内訳になるというものだった。ハイブリッドもなくエンジンのみで30km/Lは確かに出来過ぎだとは思っていたのだが、エンジンのみで24km/Lも驚く数値。まずはそのテクノロジーに迫ってみよう。
デミオに搭載されているのは、新開発ガソリンエンジン「SKYACTIV-G」の中でも1.3リッターのモデル。というのも、今後アクセラなどこのテクノロジーを採用したエンジンが登場するのは間違いなく、この1.3リッターエンジンはマツダのSKYACTIV-Gシリーズの始まりに過ぎないのだ。
この技術の基本となるのは、量産ガソリン車としてはトップクラスの高圧縮比14.0を採用していることだ。余談だが、マツダが欧州で展開するディーゼルエンジンも同じ14.0の圧縮比で、21.0などという高圧縮比が当たり前だったディーゼルエンジンの世界では逆に低圧縮比の技術開発を行っているのである。
14.0という高圧縮比を実現したSKYACTIV-Gエンジン |
では、圧縮比を上げると何がよいのだろうか。圧縮比とは、ピストンが下死点まで下がりいっぱいに吸い込んだ混合気を上死点まで押し上げ圧縮したときの容積比のこと。総排気量(排気量+燃焼室容積)÷燃焼室容積=圧縮比という計算式で求める。つまり、最後の爆発燃焼のステージとなる燃焼室容積が小さければ小さいほど、圧縮比は高くなるのだ。
単純に圧縮比を上げることで爆発力が強くなり、それに比例してパワーやトルクが上がる。レーシングエンジンのチューニングでも、圧縮比を上げる方法がこれまでよく使われてきた。それでも12.0前後がレーシングエンジンの常識的な数値だ。このことからもSKYACTIV‐Gの14.0がいかに高い数値であるかが分かる。
しかし、圧縮比を上げるとさまざまなトラブルが発生する要因となる。そのもっとも大きなものに「ノッキング→デトネーション」というものがある。ピストン上死点に達する前に混合気が自然着火してしまい、異常燃焼を起こしてエンジン内部がダメージを負ってしまうトラブルだ。
ロングストロークにすることでピストン径を小さくできた |
SKYACTIV‐Gではこれらの問題に対し、エンジンをロングストローク化した。ロングストロークにすることでピストン径(ボア)を小さくすることができ、火炎の伝播距離を短くして燃焼時間を短縮しノッキングを抑制するというわけだ。
また、直噴のインジェクターに6つの燃料噴射口を持たせた「マルチホールインジェクター」を採用して燃料の微粒子化を図り、吸気行程で2段階の噴射を行うことで気化潜熱による筒内温度の下降、さらにEGRクーラーで冷却された排気ガスを一部吸気に還流させるといったことで自然着火をコントロールした。また、くぼみを付けたキャビティ付きピストンによって均一燃焼促進と冷却損失を抑えている。
まぁ、とにかくあらゆる技術が投入され、さらにそれらのマネージメントが正確に行われたことで、初めてこの14.0という高圧縮比が達成されているのだ。
しかし、1つ忘れてはならないことは、このエンジンはミラーサイクルであるということだ。ミラーサイクルは、膨張比をそのままに圧縮比を下げる技術。これも詳しく説明すると長くなるので詳細は省くが、ピストンが吸気行程から圧縮工程に入るときにインテークバルブが閉じるのを遅らせる。すると一部の空気が戻されるため、実質の吸気量が少なくなり圧縮比が下がるのだ。しかし、爆発の工程はピストン下死点まであるため十分な膨張比が得られるというわけである。
EGRクーラーで排気ガスを冷却 |
SKYACTIV-Gでは、低負荷時にこのミラーサイクルになるようにバルブの開閉をコントロールする。つまり、このとき圧縮比は14.0よりも下がりデトネーションなどのリスクが減る。それでいて、パワーを必要とする高負荷時には14.0の圧縮比でドライバーの要求に応えるのだ。この考え方は、フォルクスワーゲンなどが採用するダウンサイジングエンジン(過給機付き)の方向性を変えた技術と言えはしないだろうか。しかもデミオはダウンサイジングではなく、電気モーターも過給機も必要としていないのだ。
長くなってしまったが、以上が24km/Lを達成したエンジン部分の説明である。そしてもう1つ、アイドリングストップによる恩恵も忘れてはならないことを、付け加えておく。
トランスミッションはCVTを採用 |
■CVTがエンジンをうまくコントロール
次は2km/LのCVTについてだが、ここからは実際に試乗した際のインプレッションを交えて説明しよう。
走っていて常に感じるのがエンジン回転数の変化が大きいことだ。これは、CVTが常に最適な燃費とパワーを引き出せるようにアクティブに変速しているから。SKYACTIV-Gの最高エンジン回転数は5500rpmと、最近のエンジンにしては低回転型だ。これはバルブスプリングをソフトにして抵抗を減らしたことによるためで、この5500rpmの範囲をCVTが実にうまくコントロールしている。
しかも5500rpm近くに達しても振動感が少なく、エンジンノイズが小さい。アクセル開度が30%レベルでも、状況によっては4000rpmまでエンジン回転数を上昇させるようプログラミングされているとのことで、CVTがいかに上手くエンジンを使いきっているかが分かる。フォルクスワーゲン系のダウンサイジングエンジンでは、デュアルクラッチAT「DSG」のギヤをとにかく低回転でシフトアップさせるプログラムだったが、SKYACTIV-Gはまったく異なるアプローチに感心するのだ。
175/65 R14サイズのヨコハマ製タイヤ |
■エコタイヤの完成度に注目
残る4km/Lの車体についてだが、これはさらにエコタイヤによる2km/hと、エアロダイナミクスによる2km/hに分類することができると言う。エアロダイナミクスによるメリットは体感しづらいので、ここでは評価できない。エンジンのアンダーカバーやフロアのカバーを採用して床下の空気の流れを整流したことと、ルーフエンドのスポイラーの長さを増して渦巻きを最小限に抑えているとのことだ。
しかし、エコタイヤの転がり抵抗の小さいことには驚きを感じる。アクセルをOFFにした時の減速感の小ささは、これまで試乗したどのモデルも敵わない。おそらくCVT系のクラッチ操作もあるものと思われる。この転がり抵抗の小ささの割に、ウエット路面の箱根試乗ではスキール音を立てるほどのグリップ性能を発揮した。エコタイヤのグリップレベルをまったく信用していなかった私としては、このヨコハマ製エコタイヤの性能に感嘆するとともに、さらに進化するであろう今後が楽しみになってきた。このエコタイヤにプラスして、横滑りなどを防止するDSC(ダイナミック・スタビリティ・コントロール)やTCS(トランクション・コントロール・システム)を標準装備していることも、付け加えておきたい。
■都内での印象は……
では、個別に数日都内を乗り回した印象だ。結論から言うと、都内での燃費は13km/L前後だった。これにはちょっとガッカリしたことも事実だが、酷暑であることと、エコランはできるだけしないように心がけたこともあったので、「そんなものかな?」という印象。
しかし、ハンドリング特性を確認するために攻め込んだ箱根で、メーター読みながら8km/L強を記録していたことを考えれば、エコランで30km/L近い燃費を記録することは想像できるというもの。発進加速を含めて、フラストレーションの溜まる走りをしなくとも、それなりの燃費を記録するという期待感は依然として持っている。
1つだけ気になるのは、高級感を持たせたという電動パワーステアリングのニュートラル域のダイレクト感のなさには馴染めなかった。従来のダイレクトなタッチの方がまだよかった。しかし、サスペンションを含め乗り心地と、フロントガラスに吸音シールドを採用したことで、室内静粛性とくつろぎ感が出たことは大きな進化と言えるだろう。
余談だが、エクステリアで簡単にSKYACTIVEを見分けるには、ストップランプとハイマウントストップランプにLEDを採用し、サイドミラーカバーにウインカーランプが埋め込まれていることだ。
巷では、新しいデミオの30km/Lという燃費性能のことばかりが騒がれているが、ビッグマイナーチェンジによって進化した乗り味も注目に値すると感じた次第である。
乗り心地のよさと室内静粛性が高まったのは大きな進化 |
■インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/
2011年 9月 7日