【インプレッション・リポート】
トヨタ「カムリ」

Text by 岡本幸一郎



 

 驚いた! まさかここまでよくなっているなんて……。9代目となる新型「カムリ」に触れての率直な第一印象だ。

 正直な話、プラットフォームほか諸々がキャリーオーバーだと聞いた時点で、すっかり見くびっていた。それは、先代カムリにあまりよい印象がなく、それが踏襲されるのであれば、期待できそうにないと思ったからだ。曖昧な感触のステアリングを切ると、ちょっとしたコーナーでも内輪は大きく浮き上がり、外輪は沈み込んでドヨーンとロールするし、乗り心地も一見ソフトでよさそうなのだが、振幅は大きく、収束性もよろしくないなど、先代カムリの走りが旧態依然としていたのは否めない。

 ところが、新型の走りは見違えるほど洗練されていた。ハイブリッドシステムについても、北米や韓国の市場に投入された先代カムリ・ハイブリッド(日本未導入)の流用であり、「プリウス」や「SAI」「レクサス HS250h」などと同じ「THS II」だから、概ね想像がつくと思っていた。しかし、それも予想とだいぶ違った。

 とにかく、あんなだったカムリが、こんなによくなってしまったという感じ。ドライバビリティ、ひいてはクルマとしての実力が、予想をはるかに上回るレベルに達していたことに、大いに感心させられてしまった。

 

フットワーク改善のカギは空力
 フットワークの洗練ぶりについてもう少し詳しく述べると、ステアリングを切ったときの応答遅れのない一体感のある動きは、先代とはまったく別物。ロールもほどよく抑えられていて、走りにはフラット感があり、操縦安定性が大幅に向上していて、スポーティな印象すらあった。

 開発陣によると、サスペンションのチューニングそのものの改良もあるが、ボディー剛性や空力性能の向上にかなり力を入れたとのことで、中でも空力の寄与度は、多くの人が想像するであろうレベルよりもずっと大きく、乗り心地にも操縦安定性にも効いているとか。ボディーの浮き上がりを抑え、フラットな姿勢を保つようになったことで、地面に対してボディーが動きにくくなったおかげだという。

 ロールについても、旋回中の絶対的なロール角やロール剛性は変わっていないのだが、整流や増速など空力の追求がロールスピードの抑制につながっていて、体感上は過渡領域の印象がだいぶ変わっているとのこと。前述のようにロールが減ったように感じられたのも、実は空力によるところが大きいというのだ。

 するとよりタイヤをうまく使えるようになり、ステアリングを切ったときにスッとスムーズなヨーの出方をするようになる。これも空力による効果の表れの1つ。従来はある程度ロールしないとタイヤに荷重がかからなかったところが、初期からかかるようになり、フロントの横力が発生するようになるので、より意のままに、遅れることなく応答するようになった。

 ステアリングは従来比で6%ほどクイックになっているのだが、高めの横Gをかけてもちゃんと問題なくついてくる。また、タイヤの指定空気圧が従来の210kPaから240kPaまで一気に引き上げられたので、路面への当たりが硬くなることが危惧されるところだが、乗り心地の維持にも大いに注力したという。

 それにしても、量産セダンの空力において、こんなことまでできるのかと目からウロコな思い。プレゼンテーション時に「F1で培ったエアロダイナミクス云々」と説明があり、カムリでF1というフレーズが出てくるなんて予想外だったのだが、そのくらい本気でつくったということだろう。

THS IIのポテンシャルを発揮
 今回は実燃費を計測することはできなかったが、10・15モード走行燃費26.5km/L、JC08モード走行燃費23.4km/Lとのことで、それなりに期待していいだろう。コンパクトカーレベルの燃費と、3リッタークラスのガソリンエンジン搭載車に匹敵する動力性能、加速性能を実現というのも、まんざらではない。

 動力性能面のチューニングも予想を超える仕上がりだ。エンジンこそ新しいものの、ハイブリッドシステム自体はキャリーオーバーであるとのことから、それなりだろうと考えていたのだが、そんなことはなかった。既存のTHS II搭載車に比べて、より瞬発力があり、ペダルワークに対する出力の出方がリニア。停止状態からの出足でも、モーターが発する力強いトルク感は、さすがはハイブリッド。

 この感覚はノーマルモードでもエコモードでもほぼ同じで、エコモードでもまったく不満なく走れてしまう。THS IIは、制御の変更のみでこれほどまでよくなるだけのポテンシャルを備えていたというわけだ。

 そして新しくなったエンジンは、振動が小さく、スムーズな印象。ハイブリッドの制御だけでなく、そもそもエンジンがよくなっていることも、加速フィールの向上にもちろん寄与している。

 アイドリングストップについては、ハイブリッドだけにいたってスムーズ。ただし、再始動時のブルンという振動については、プリウスあたりと比べると若干大きめに感じられた。むろん十分にスムーズであることには違いないのだが、もっと上を行くものがすでに世にあるため、もしも比べれば……という話である。

 

トランクスルーを実現
 走り以外の部分では、まず室内の広さに驚かされた。リアシートに座ったときの膝前のスペースの広さときたら、前席の乗員がちゃんとポジションを取れていないのではないか? 無理してないですか? と思ったくらいだ。後席フロアのセンタートンネルの張り出しが小さく抑えられているところもありがたい。

 インテリアの雰囲気も、まるでリアルレザーを貼ったようなダッシュにはステッチまで入れられていて、なかなか高級感があって好印象。レザーシートを選ぶと、さらにラグジュアリーな印象が増す。

 一方で、カーボンパネルを用いるなどして個性をアピールしているのもポイント。ベーシックなセダンで、こうした試みはまとめ方が難しそうに思えるところだが、そこにあえてチャレンジしたようだ。

 メーターについても、見た目にも特徴的なデザインのものが与えられていて、楽しみながらエコドライブを意識させられるという印象だ。

 そして、トランクにも注目。これまでHS250hやSAIでは無理だったトランクスルーが、可能となっていることに驚いた。これを実現するために、バッテリーなどをいかに搭載するかという相当な難題を克服したはず。横幅もギリギリまで攻めた感じで、そのぶん見た目はいまいち美しくないのだが、カムリのお客さんにとっては、見た目よりも少しでも広いほうがありがたがられていいのではと思う。

 ただしトランクスルーできるのは右側のみ。つまり、右ハンドル車では、助手席までつながる本当の長尺モードにできないところが少々残念。これは給油口からタンクへの配管やバッテリーなどの臓物が左側に寄せて搭載されているため。同じことを、あべこべに右側でやってくれれば、左側での長尺モードが可能なはずだが、基本的には北米市場がメインのクルマだけに、仕方のないところか、さすがにそこまではできなかったようだ。

 

すべてにおいて「よさ」を実感
 もともとカムリは、価格のわりにそこそこ立派に見えるし、室内は十分に広いし、コストパフォーマンスとしてはわるくないクルマだったと思う。ただし、先代はそこで素直に「コストパフォーマンスに優れる」と言えなかったのも否めず、いわば「安かろう、それなり(わるかろう、ではない)」という印象だった。

 そして今回のモデルチェンジでは、低価格ながらバリューの高いベーシックなセダンという、このクルマの本質的な価値を持ちながら、ハイブリッドという大きな付加価値がプラスされ、さらには視覚的な高級感や広さ、そして走りのすべてにおいて、「よさ」を実感させる仕上がりとなっていた。

 実は中身は従来と比べてそれほど変わっていないようだが、印象はお伝えしたとおり大きく変わっていた。そして開発陣から話を聞けば聞くほど、新型カムリを本腰を入れてよくしようとしたことがヒシヒシと伝わってきた。それは単に新しい分よくなったわけではなく、それなりのことにチャレンジして得られた成果にほかならない。

 それにしても新型カムリがこんなによくなっているとは思わなかった。


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2012年 2月 3日