【インプレッション・リポート】
GM「シボレー・ソニック」

Text by 日下部保雄



 大苦境を乗り越えて今や世界No.4のメーカーに復活した新生GMが、SUV「キャプティバ」に次いでグローバル展開するコンパクトカー「ソニック」を日本でデビューさせた。

ワールドワイドのバックアップ体制
 ソニックは世界7カ所の工場で生産され、欧州、アジア、中国、北米、南米など世界60カ国で販売される。生産規模は公表していないが、キャパシティは50万台ほどあると言われる。日本にやってくるシボレー・ソニックは韓国のブビョン工場で生産されるが、その開発は、全世界のGMグループによるバックアップ体制下で行われている。

 言うまでもなく日本におけるコンパクトカー市場の競争は厳しく、日本車はホームだけに抜群の競争力を持っている。この難しいカテゴリーに、GMがどんな戦略で切り込んでくるのか興味あるところだ。

 GMジャパンはブランドを整理して、「キャデラック」と「シボレー」の2ブランドを展開しているが、キャデラックがラグジュアリーブランドであるのに対して、誕生以来今年で100年を迎えるシボレーは「COOL」で「FUN」、そして「FREEDOM」をキーワードにした若々しいブランドに生まれ変わった。苦境を乗り越えた強さを徐々に発揮してきた印象だ。

 その旗印の下に登場したソニックは、新しいプラットフォームを持ち、これからさまざまに横展開されるプロダクトの第1弾と位置付けられる。

 もともと本国のGMが不調の時から、中国などのGM部隊は好調で、韓国デーウも元気だった。現在はGM Koreaとなっているが、そこからやってくるだけに部品などのサポート体制も充実している。

印象的なルックスとレギュラー仕様のエンジン
 「ワイルド・コンパクト」と銘打っているだけに、ソニックの印象は個性的だ。大きな丸め4灯のヘッドランプは釣り目形状で、小さいボディーを精いっぱい強調しているように見える。上下2分割のグリルも印象的で第一印象は強そうだった。

 サイドビューは、後席のドアハンドルをCピラーに同化させたようなデザインを採っているために、一見2ドアに見える。こんなところにも、マスを求めるのではなく、個性を主張しようというポリシーが感じされる。

 ところでボディーサイズは意外なことに3ナンバーサイズ。グローバルカーらしく全幅は1740㎜。全長は4050㎜と抑えられているので、横に広いデザインということができる。道理でフロントマスクが大きく感じたはずだ。これに対して全高は1525㎜とコンパクトカーとしては日本車のように高く取っている。ホイールベースは2525㎜とこのクラスとしてはオーソドックスな値に収まっている。

 インテリアは他のコンパクトとの差を出すために、エクステリア同様に個性を強調している。シボレーマークの付いたハンドルの奥にあるのは、バイクをモチーフとしたメーターナセル。正面にはデジタル式スピードメーターと燃料計、ギアポジションのインジケーターですべてデジタル。左側には6500rpmからレッドゾーンのアナログ式のタコメーターが配置される。

 メーターは見やすく、視認性は優れている。デザイン性は高いがプラスチックの造形なので見方によってはチープと映ってしまうものの、個人的には冒険した点は好感度が持てる。

 センターコンソールは2段に分かれており、上はオーディオ関係、下はエアコンになっており、操作性は分かりやすい。

 

 搭載するエンジンは直列4気筒DOHC1.6リッター「ECOTEC」。可変バルブタイミングを持ち、79㎜×81.5㎜のほぼスクウェアなボア×ストロークとなっている。嬉しいのはレギュラーガソリンを使えること。115PS(85kW)/6000rpmの出力と155Nm(15.8kgm)/4000rpmのトルクは1220㎏の重量には十分なエンジンパフォーマンスだ。馬力荷重は10.61㎏/PSだが、後述するように結構活発に走る。

 さらに6速のトルコンATを組み合わせていることが注目される。このクラスの日本車はCVTが主流なのに対して、トルコンATの多段化で燃費を稼ごうとしていることが伺える。このクラスに限らず、トランスミッションの開発に関しては、日本は出遅れてしまったように見える。

 このパッケージングを持ったソニックを街中と高速道路で走らせてみたのでそのリポートをしよう。

“ワイルド”で活気あふれるハンドリング
 ソニックのドライビングポジションは左ハンドル車を右ハンドルに変更している関係で、やや違和感がある。アクセルとブレーキペダルの距離感がわるいために、最初はちょっと右足の置き場所に気を付けることになる。ペダルが右によっているようだ。それ以外はステアリング角度もクラスなりで、妥当だと思う。

 走りはワイルド・コンパクトを標榜しているだけに、かなりキビキビとしている。まずハンドルが太めで重いために、それだけでもスポーティな印象を与える。そのハンドリングはクイックで小舵角から反応が鋭く、一定舵角でスーと曲がっていく小気味よさがある。ハンドルのロック・トゥウ・ロックは2回転2/3、ギアレシオも速いのでなおさらだ。

 サスペンションはフロントがストラット、リアがV字形状が特徴的なトーションビームの、オーソドックスなもの。試乗車のタイヤはハンコック製の195/65 R15、スピードレンジはHRだ。

 サスペンション・セッティングは硬めで、さらにリア・ショックアブソーバーの伸び側を締め上げているので、ステアリングのレスポンスをクイックにしていることとの相乗効果が出て、クルマ全体の動きをシャープにしている。タイトコーナーではイン側のリアが突っ張る感じがして、やや不安定な印象を持たせるもののグリップ力の変化は少ない。

 このハンドリングからも分かるように、乗り心地はやや硬めで、路面段差などではリアからの突き上げは若干強めだ。しかしうねりなどでは上下収束は強めで、姿勢がすぐに落ち着くのは好ましい。

 タイヤ、サスペンション、ボディー、ステアリングのトータルで演出するハンドリングの味付けは、ソニックのキャッチコピーどおりにワイルドで活気にあふれたものだ。すべてをよくしようとは考えておらず、キャッチコピーのままに忠実にクルマ作りが行われている印象だ。

 かといって決してガチガチの乗り心地ではなく、2時間ほどの試乗では「もういいや」と感じたことはなかったことを記しておこう。

 ブレーキはフロントがベンチレーテッドディスク、リアがドラムで、クラスなりの割り切りを感じるが、コントロール性などはよく、使いやすい部類に入るだろう。ペダル配置を除いて、踏力とストロークのバランスもまずまずだった。

 しかもソニックは、横滑り防止装置のESCやトランクションコントロール、ブレーキアシスト、荷重が変わっても制動力変化を抑える前後ブレーキ力配分のEBD、坂道発進の際の後退を抑えるヒルスタートアシストなど、多くの安全装備を標準としている点も特徴だ。

日本車の強力なライバル
 エンジンはアクセルの踏み込み量に対して正直に反応するタイプで、低速トルクも予想以上にあって、力強い加速をする。馬力荷重10㎏を超えているとは思えないほど強力だ。マニュアルシフトでレッドゾーンが始まる6500rpmまで引っ張っても、無理なく加速していく。ちなみにマニュアル操作をすると、1速で45㎞/h、2速では約70㎞/hまで引っ張れる。

 さすがに高回転ではノイジーで、いつまでも回しているのは抵抗があるが、クルマの性格に合わせて元気のよいエンジンだ。最大トルクは4000rpmで出しているが、もっと低回転からもトルクの盛り上がり感があるので、街中でも使いやすい。

 トランスミッションは6速ATだが、シフトノブ側面にスイッチがあって、マニュアルモードではこのスイッチが親指1つで有効に機能して使いやすい。6速ATのよいところを引き出すことができ、エンジンブレーキの必要な際や、ツイスティなコースではワイドなレシオ設定で必要なギヤを選びやすく、遺憾なく威力を発揮する。6速100㎞/hでは2250rpmに留まり、クルージング燃費にも貢献するはずだ。

 この活発なコンパクトカーのキャビンを改めて見てみると、大型のドアポケットやセンタークラスター左右の物入れ、2つあるグローブボックスなどこもの入れがたくさん備わる。日本車のお株を取られた感じだ。

 サポート性の高いフロントシートと違って、リアシートは平板で硬めだが、レッグルームは前席の足入れ性も含めてたっぷりしており、これまたたっぷりしているヘッドクリアランスと相まって、このクラスでもトップクラスの居住空間を持つ。もちろんバックレストは2/3で可倒する。

 

 ISOFIX対応のチャイルドシートフックが備わっているように、安全性でもかなり頑張っており、6エアバッグ、5人分の3点ベルトを持つだけでなく衝突安全でもユーロN-CAPで5つ星を獲得している。

 そして装備充実し、価格はウォン安の効果も少なからずあり、輸入車最安価の189万円と、かなり競争力のあるプライスタグがつく。

 キャラクター明快のソニック、新生GMらしい元気のあるコンパクトカーだ。日本車はまた世界で強力なライバルと戦うことになる。


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2012年 2月 22日