【インプレッション・リポート】
トヨタ「プリウス」

Text by 日下部保雄


 3代目となる現行「プリウス」は2009年の5月に登場して以来、順調に販売を伸ばしており、今ではトヨタ自動車の乗用車の国内販売ではトップの座にいる。

 昨年12月に行われたマイナーチェンジは、一般的な内外装の変更にとどまらず、「プリウスα」で投入した技術をオリジナルのプリウスでも採り入れて熟成を図ったものだ。また、このマイナーチェンジにあわせて、GAZOO RACINGの手により、さらにスポーティにしたスポーツコンバージョン車「プリウス“S ツーリングセレクション G's”」も発売された。

 まずオリジナルのプリウスのエクステリアだが、フロントバンパー、フロントグリルの形状を変更して彫の深い力強い顔つきになっている。ヘッドランプもハロゲンに代わりディスチャージドヘッドランプをLを除いて標準装備にするなど、夜間の視界が広がったのに加えて目つきも若干鋭くなったように見える。


初のマイナーチェンジが行われた3代目プリウス

 リアコンビネーションランプも形状そのものは変わらないが、レンズの造形が変わり、縦長で新鮮さのあるものになった。また15インチのアルミホイールとホイールキャップのデザインも風車タイプからストレートなものに変更された。クリアランスランプをLEDにして省電力化すると同時に、点灯した時の雰囲気が上質になった。

 ボディーカラーではボルドーマイカメタリックなどの新色が加わり、全8色となっている。

 インテリアもシフトノブやステアリングのスポーク部分のシルバー加飾の輝度を増し、合わせて加飾部分も同様の変更を受けているので質感が向上している。センターコンソールボックスのカップホルダーもこれまでスライド式からオープンタイプになり使い勝手はよくなっている。

 シートも新色のツートンをメーカーオプションで設定し、選択の幅が広がっている。

 さらにGグレードにはスーパーUVカットガラスを標準装備とし、メーカーオプションのナビには、ビーコンからの情報を取り入れてドライバーのアクセル操作や交差点までの距離などから、追突などの危険な場面をあらかじめ警報してくれるドライビング・セーフティ・サポート・システム(DSSS)を内蔵する。ITS技術の具体的な活用例だ。

 試乗は幕張周辺の市街地で、限られた時間の中で行ったが、それでもプリウスがかなり進化したのが確認できた。

 テストカーはプリウスG。3つあるプリウスのグレードの中でも最上級グレードになる。装着タイヤは195/60 R15。ツーリングセレクションでは215/45 R17になるが、バランス的にはこの15インチがもっともよいと思う。

 ファブリックシートのサイズは標準的だが、乗員のシートにかかる面圧を平均的に受け止めてくれるので体によくフィットして無理がない。リアシートは比較的平板でそれほどストローク感はないものの、足下も広くて開放感はある。

 従来のプリウスでは走行中にロードノイズが大きく、特にリアから入ってくるノイズが大きかったので、路面によっては前後の会話が不明瞭になるほどだったが、マイナーチェンジ後のプリウスは静粛性が向上し、ゴー音がかなり抑えられた。遮音材の補強もそうだが、車体の補強がかなり効果をあげている。上下動に関する乗り心地にも少なからず効果が高く、これだけでも今回のマイナーチェンジでプリウスは従来モデルよりもかなり質感が上がったと言えるだろう。

 もともと微低速ではモーターで走れるのでコンベンショナルなエンジン車に対して有利なのが、中高速でも快適性は増した。ちなみにモーターだけで走った場合、歩行者がプリウスの接近に気付かないケースもあるので、国の指針にしたがって車両接近通報装置が標準装備となっている。不快な音ではなく、歩行者が気付く音に上手な着地点を見つけたようだ。

 乗り心地に関してはバネ上の動きがフラットになっている。細かいピッチングに対して押さえがよく効いているのがフラット間につながっているが、同時に凹凸路でボディーがぶるぶると震えるところもピタリと抑えられている。

 ちなみにリアドアまわりの剛性も上がっており、例えばリアドアを開閉した時の締まり感がバシッとしており、従来のちょっと安っぽかった音から変わっている。

 この乗り心地は中高速で道路の継ぎ目などを乗り越えた時にもダンピングが向上したように感じられ、この面でも質感が上がっている。さらに石畳のような路面でも好印象は変わらなかった。

 走りの質感が向上しているのは、このような日常的な走行で十分に分かるので、有効なマイナーチェンジだ。

 ハンドリングでは接地感が向上しているが印象的だ。車体の減衰性が向上しているのでクルマの接地性が向上した影響だと思うがなかなか好ましい変化だ。ライントレース性も幾分上がっているように感じたが、テストコースのような速度を上げての確認はできなかったが、一般的な走行シーンでもドライバーには何となくしっとりとしたドライブフィールが確認できるのではないだろうか。

 プリウスのドライブフィールはキビキビ感を感じさせるものだったが、マイチェン後はこれにしっとり感が加わった印象で、ロール制御なども穏やかさがあり好ましい。

 パワートレイン系も車体同様に特にインフォメーションがないので詳細は不明だが、減速時のドライブトレーンのしゃくりなどが小さくなったように感じるのはこの面の制御に変更が加えられたのかもしれない。もともとTHS-IIは完成度が高いシステムだが、磨きがかけられたように感じられるのは気のせいか? そして相変わらず加速力はシャープで力強い。

 さてその力強さをさらに強調したモデルにS“ツーリングセレクション G's”がある。このモデルは冒頭にも記したようにGazoo Racingが手掛けた「意のままに操る喜び」をコンセプトにチューニングされたものだ。パワートレインは手を付けられず、主としてポイントは車体とサスペンションにある。

S“ツーリングセレクション G's”
アグレッシブなデザインとなったフロントまわりタイヤは18インチ。ダンロップのDIREZZA DZ101が標準装着。赤いラインの入ったアルミホイールはオプション装着各所にG'sのスペシャルエンブレムが付く

 もちろんエクステリアやインテリアにも手が加えられており、プリウスとは思えない過激な内容になっている。まずエクステリアだが、専用のフロントバンパー&グリルで特に台形のロアーグリルに迫力がある。バンパーの両サイドにはLEDのイルミネーションランプが装備される。これと連続してディスチャージドヘッドランプも黒で加飾され、目つきが鋭くなっている。この手法はリアバンパーにも使われており、ディフューザーを連想させるアンダー部分と大径のマフラーがフロントとバランスしたデザインになっている。テールランプも黒で加飾されているのはヘッドランプと同様だ。エクステリアについては好みが分かれるだろう。

 インテリアはフロントに専用のスェード調のバケットシートが装備されているが、合わせてステアリングホイールも本革に変更され手になじむものになっている。ドライバーズシートに座ると、腰が深く入り、ステアリングホイールとの位置関係もノーマルよりもやや手が伸びるスタイルでレーシーだ。乗降性はちょっとわるいがホールド感は抜群で、硬いアシでもよくショックを吸収してくれる。

 またオリジナルのプリウスではシルバー加飾の施されていたところがカーボン調になっており、内装もタフなイメージで統一されている。例えばシフトノブがクリアスモークに赤のラインを入れ、ダークシルバーにするなど凝ったものになっている。スタータースイッチは赤となり、ペダルもアルミとなるなど、かなりレーシーだ。

 ボディーはオリジナルのプリウスがリポートの様に剛性を高められているようだが、それに加えてG'sはアンダーボディーにブレスの補強を張り巡らせて、土台をしっかりさせてダイレクトなドライブフィールを狙っている。

 フロント側ではサスペンションメンバーの前端に橋渡しをし、たわみ剛性を向上させている。またスタビライザーブラケットも補強して、スタビライザーによるサスの動きを抑えており、ねじれを抑制している。またリアサスペンションとボディーを大きく台形につなぐブレスはリアサスペンションが余分な動きをするのを妨げる役割がある。

 さらにリアエンドのバンパー構造材を補強することで、ボディー後半部の動きを規制していることで、時々使われる手法ではあるものの、プリウスでここまで行うのは意外だった。またサイドロッカーパネルのスポット溶接を追加してボディー横曲げ剛性を上げている。後付パーツが多いとはいうものの、かなり真剣にボディー補強に意欲を見せていることがわかる。

 サスペンションに関しては、詳細な数値は聞けなかったが15㎜ダウンのスプリングとダンパーチューニングでグリップを上げたタイヤに対応したアシに仕上げられている。

 装着タイヤはダンロップのDIREZZA DZ101、サイズは18インチの215/40 R18を履き、ホイールは7.5Jとなる。

 さて、ヴィッツのG'sでミニレーサーのようなハードなアシの体験をしたあとだけにプリウスG'sではちょっとドキドキしていたが、これが意外としなやかな仕上がりで乗りやすかった。

 もちろんバネの硬さはあり、路面のゴツゴツはかなりダイレクトに乗員に伝わってくるが、跳ね上げられるような不快感はなく納得のできる硬さだ。バネの硬さによるピッチングはダンパーの減衰力の伸び側がかなり上げられているようで、よく抑えられておりスッキリと収まる。大きな段差を越えたときにはゴツンとした衝撃があるが、これもダイレクトに乗員に来る感じではないので、乗員がポンポン跳ね上げられることはない。乗心地に関しては、それほど心配することはなかった。硬いことには変わりがないが、チューニング好きなら不快感はないだろう。

 ハンドリングはサーキットでテストできたわけではないので限界域は不明だが、日常的なドライビングの範疇でもステアリングレスポンスが向上しているのが分かる。電動パワーステアリング(EPS)のチューニングまでは手が回らなかったようだが、ステアリングフィールとしては非常にスッキリとしたものだ。重心高が下げられていることと、ロールが少ないことに加えて、サスペンションを取り付けている部分剛性が上がっているので余分な動きがない。街角を曲がったところでもステアリングの反応がわかりやすいのがちょっとワクワクする。さらにボディーの動きもステアリングの反応と一体感があり、ライントレース性も非常に優れたものになっている。

 ハンドルの左右の切り返しにおいても追従性が高く、スタビリティが高いだけではなく、クルマの反応がわかりやすいのがとっても好ましい。パワートレインに変更はないので、パフォーマンスに変わりはないが、もともとプリウスは結構パワフルで、瞬発力があるのでこのままでもそれなりに楽しめる。ただTHS-IIのシステムはアクセルに対するレスポンスはそれほどシャープではないのは残念なところだ。

 ペダルの剛性感も若干上がっているように感じられ、この意味でもクルマにダイレクト感があり、クルマの一体感が向上しているので、作り手側の意図は十分に伝わってくる。

 ボディー補強パーツはノーマルのプリウスに移植することも可能だが、やみくもに補強するだけでは全体のバランスが崩れる可能性があり、ドライバーの好みに応じた適応が必用になると思う。G'sはメーカーチューンのモディファイカーとして妥当なところだろう。価格は284万円。この価格は割安感があると思うがどうだろう。


インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2012年 3月 30日