【インプレッション・リポート】 起亜「RIO」 |
写真/ヨッヘン・バイヒマン(Kimura Office) |
時計の針を遡ることになるが、2011年のジュネーヴ・ショーで韓国 起亜(KIA)がCO2排出量を85g/kmに抑えたディーゼルの小型車、「RIO」を発表していたのを覚えているだろうか? 日本に未上陸の韓国車メーカーのモデルということもあって、日本ではそう大きく報道されなかったが、欧州ではプリウスを下回るCO2排出量の低さがニュースになっていた。あれから1年、欧州で人気を博すRIOのディーゼル・モデルの詳細を取材した。
■「最適な技術を安価に届ける」
4代目の「RIO」は、Bセグメント市場が世界的に拡大することを予測して設計されたグローバル戦略車だ。先代までは5ドアモデルのみだったが、今回から3ドアモデルが追加された。Bセグメントに属するライバル車、フォルクスワーゲン「ポロ」やフィアット「プント」といったコンパクト・ハッチと比べて、RIOの魅力は9900ユーロ(1.2リッターガソリン車)からスタートという安価な設定だ。ガソリンは1.2リッター直列4気筒+5速MTと1.4リッター直列4気筒+6速MTの2機種、ディーゼルが1.1リッター直列3気筒+6速MTと1.4リッター直列4気筒+6速MT/4速ATの2機種が揃う。生産は韓国ソハリ工場で行われる。
“CO2チャンピオン”の1.1リッターターボ ディーゼル搭載モデルは、1万3490ユーロとなり、1.2リッターガソリン車の装備充実仕様とほぼ同等の価格設定だ。正直に言えば、スペックは驚くほどのものではない。最大出力75PS/最大トルク170Nm、0-100km/hは14.9秒と、同クラスのライバルとほぼ同等といったところだ。しかしながら、85g/kmの達成と共にノイズや振動を抑えた点は注目に値する。
はじめに聞いて面白いと感じたのは、KIAの企業哲学が「最も単純な技術を使って目標を達成すること」という点だ。技術者も「我々は技術のトップランナーではなく、現行の規制に適合させつつ、最適な技術を安価に顧客に届けるのが使命」と主張している。
実際、KIAブランドの最大の魅力は、7年の長期保証とライバルより安価ながら性能や装備が十分に達成されているという点だ。一例をあげると、KIAとしてツインターボの技術を持っているが、RIOには採用していない。2200barのピエゾ高圧燃料噴射装置も検討したが、価格と性能のバランスを鑑みて1800barを採用した。
将来に目を向けると、2014年にはユーロ6に対応する必要があるが、RIOでは現行のユーロ5に対応するに留めた。RIOは車両重量が1155kgと軽いこともあって、ユーロ5であれば、尿素SCRのような特別な後処理装置を搭載せずに排ガス規制をクリアできる。当然、次なるユーロ6への準備も進めており、KIAでは後処理装置なしでもクリアできるように研究開発を進めている。
現状、ディーゼルの主戦場はヨーロッパであるが、KIAにとって最大の市場である北米への導入も視野に入っている。北米での自動車の使われ方を視野に入れると、尿素SCRのようにユーザーによるメインテンスが加わることは好まれない。コストを重視してシングル・ターボかつ、尿素SCRなしでBIN5をクリアする方向を模索している。
■すでに日本車の脇をすり抜けた韓国車
コストを抑える話にばかりに着目してきたが、必要な性能を引き出すためにしっかりコストもかけている。例えば、RIOの1.1リッター3気筒ディーゼルには、バランサー・シャフトが採用されている。ディーゼル・エンジンでは圧縮比が高いので、ピスントンやコンロッドといった回転する部分の耐久性を保つためには、どうしても厚く重くなってしまう。その結果、振動やノイズが大きくなるのだが、それを解消することで商品魅力につながると判断し、バランサー・シャフトを採用した。
もちろん、KIAとしてはコスト高に甘んじるつもりはない。現状、RIO用の3気筒エンジンの圧縮比は16:1と、ディーゼルとしては常識的な値だが、マツダのスカイアクティブのような低圧縮比化をすることで各部の軽量化を検討し、コスト削減につなげたいところだ。当然、低圧EGRや可変バルブタイミングといった技術も検討しており、コストと効果のバランスを見たうえでの採用を考えている。
走行性能も、あくまで必要にして十分。ボア×ストローク=75×84.5mmという短めのストロークだが、4045×1720×1455mm(全長×全幅×全高)の小柄なボディを走らせるには文句ないトルクを生み出す。前/ストラット式、後/トーションビーム式の足まわりは、このクラスのコンパクト・ハッチでは常套手段といえる。
特に感心するシーンはないが、アウトバーンの右側の車線を130km/h程度で走っている分には過不足ない。150km/hを越えてくると時折心もとないシーンがあるが、最高速が158km/hなのだから、事実上、このクルマの限界に近いのだろう。
開発にあたって、燃費と並んで心をくだいた静粛性と振動対策は、試乗してみて感じるところが大きかった。実際、ディーゼルとしては静粛性が高く、3気筒としては振動が抑えられている。標準で搭載されるアイドリングストップ機構によるエンジンの停止もスムーズだ。ブレーキペダルから足を離すと、再び、スーっと違和感なく発進する。
室内に目を向けると、ドアトリムやシートの質感は、ヨーロッパ車が力を入れているだけにやや見劣りする。後席のシートが薄めで、掛け心地が落ち着かないのはいただけない。ただし、このクラスの小型車は以前は後席の居住性も重視していたが、最近では運転席に重きをおいて、後席が犠牲になることが多い。例えば、ポロでも後席の居住空間を犠牲にして、運転席周辺の空間を広く保つことに割り切っている。
性能面では及第点あたりにターゲットを絞り、バリュー・エンジニアリングを行なうのは、本来、日本車メーカーが得意としてきた分野である。しかし、KIAでは性能面で平均点をクリアするだけではなく、ライバルと比べて、いくつかのアドバンテージをもたせた。ベース車両も安価でありながら装備を充実させ、さらにペーター・シュライアーによる魅力的なデザインを与えて、RIOのCO2排出量はプリウス以下というエコ・コンシャスの高い層に訴える付加価値も備えた。
日本で実車を見る機会が少ないだけに、その魅力に気づきにくいが、グローバルで韓国車メーカーが評価されている理由が、今回のRIOの取材を通して理解できた気がする。これまで日本車メーカーのフォロワーだと思っていた人も多いだろうが、すでに日本車の脇をすり抜けて、独自の道を切り拓き始めているのだ。
RIO 1.1 CRDi | |
全長×全幅×全高[mm] | 4045×1720×1455 |
ホイールベース[mm] | 2570 |
前/後トレッド[mm] | 1521/1521 |
重量[kg] | 1155 |
エンジン | 直列3気筒DOHC1.1リッター直噴ターボディーゼル |
ボア×ストローク[mm] | 75×84.5 |
圧縮比 | 16:1 |
最高出力[PS/rpm] | 75/4000 |
最大トルク[kgm/rpm] | 17.3/1500 |
トランスミッション | 6速MT |
駆動方式 | 2WD(FF) |
前/後サスペンション | ストラット/トーションビーム |
タイヤ | 185/65 R15 |
荷室容量[L] | 288 |
0-100km/h加速[秒] | 14.9 |
最高速度[km/h] | 158 |
■インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/
2012年 5月 25日