【インプレッション・リポート】
トヨタ「FJクルーザー」

Text by 岡本幸一郎



 発売直後の1カ月では2100台もの受注をマークしたという“日本の”FJクルーザー。日本導入は「吉」だったと言えそうだが、すでにこのカタチで世に出て時間が経ち、あまり目新しさもないし、逆輸入車を頻繁に見かけるほど走っているこのクルマが、国内正式販売でこれほどの売れ行きを見せるとは、やはり心に響く何かを持ってるクルマなのだと思う。

 その際オーダーした人の大半は、初めてFJクルーザーのことを知ったわけではなく、もともとも右ステアリング車がトヨタディーラーで買えるのなら欲しいと思っていたとか、逆輸入車よりもずっと安い価格設定に背中を押されたとか、とにかくFJクルーザーに興味を持ち続けていた人たちだろう。

 FJクルーザーについてざっと振り返ると、2003年のデトロイトショーでのコンセプトモデルが披露されたのが世に出た最初の出来事だ。それが大きな反響を呼んだことで、市販化が検討され、そして3年後の2006年春より北米を皮切りに市販開始された。以降、南米、アフリカ、中国、中近東などの市場に投入。もともと左ステアリング専用設計だったため、導入は右側通行の国に限られた。

 日本でも、多くの逆輸入車が国内に持ち込まれ、一定の人気を得ていたことから、これまでも日本発売の噂が、たびたび上がっては消え……を繰り返していたところ、2010年秋、ついに現実となった。

 日本導入の経緯を訊いたところ、やはり日本でももともと人気が高かったことはもちろんだが、「もっと若者にクルマに興味を持って欲しかったから」とチーフビークルエンジニアの西村氏は語った。「最近の若い人は、クルマに興味を示してくれない。しかし、考えてみると、若い人がいいなと思ってくれるクルマ自体がなかった。そこで今回のFJクルーザーはアメリカでは若い人に人気があったので、日本に導入することで、若い人が、たとえ実際には買わなくても、興味を持ち、クルマの楽しさに気づいてくれればと思い、導入を決断した」とのことだった。そして西村氏は、このクルマで、「見る」「操る」「遊ぶ」「選ぶ」という4つの楽しみを訴求したいと述べた。

 まず「見る」楽しみについて。特徴的なルックスは、往年のFJ40型ランドクルーザーを髣髴とさせるものだが、しかしトヨタの開発責任者は、「まったく新しいコンセプトから生まれたSUV」だと言う。そして今回の日本仕様では、右ステアリング化だけでなく、法規対応の面から細かな変更が加えられている。インテリアも、ステアリングホイールやインストルメントパネルだけでなく、いろいろなものを右ステアリング化に合わせて最適化。左ステアリング仕様のままとされることの多いATセレクターのゲートの区切り方も、右ステアリングで使いやすいようにされているし、トランスファーレバーもちゃんと外側に設定している。

 エクステリアでは、リアのナンバープレートとウインカーの位置が変更されている。これは後方で45度の角度から見えなければいけないという日本の保安基準への対応を図ったもので、本来はテールゲート上にあったナンバーも、リアコンビランプに内蔵されていたウインカーも、いずれもバンパーに組み込まれた。

 これにより若干ではあるが、オフロードでのディパーチャーアングルが犠牲になってしまうため、前出・西村氏によると「泣く泣く」とのことだったが、ナンバープレートについては、強固なブラケットを付けて、「ナンバーよりもブラケットが先に当たるようにした」と言う。

 そして「操る」楽しみについて。足まわりに3タイプが用意される中で、ノーマルとビルシュタインの付くオフロードパッケージの2種類は、北米仕様とチューニングを含め同じ。さらに、X-REASと20インチ仕様のタイヤ&ホイールという組み合わせが、日本専用に用意されており、乗り味も3タイプそれぞれに特徴がある。なお、20インチタイヤ&ホイールは単独でも選べる。

FJクルーザーのインテリア
20インチ仕様のホイールダンパー下部にX-REAS用の配管が見える

 試乗した中では、予想どおりX-REAS仕様の走りのよさが印象的だった。ノーマルを基準にすると、X-REAS仕様は、ロールの感覚が小さく、高速巡航でもよりフラットな印象。外輪の沈みこむ感覚も、内輪の浮き上がる感覚も小さく、縦揺れも小さいという、カタログでも記されているとおりで、姿勢変化がなめからに制御されている。

 20インチといっても、245mm幅の60%扁平だから、縦バネも十分にあるので、乗り心地もわるいわけはない。オンロードを走る分には、間違いなくこれがベストだ。

 一方のオフロードパッケージについては、今回はオフで乗ることができず、オンのみでの試乗だったわけだが、興味深い乗り味だった。そもそもビルシュタインと聞いて想像するのは、どちらかというとオンロード。

 そんなわけで、これもクルマ自体はオフのイメージながら走りはオン向け、という設定かと予想したのだが、そうではないらしい。同パッケージの設定の目的は、名前にあるように、あくまでオフロードでの走行安定性や乗り心地を高める点にあると言う。とはいえ、今回の試乗ステージでの印象は、オンも結構いけるじゃないか、というものだった。

 一言で言うと、ノーマルよりも減衰力を高めた、引き締まった乗り味という印象。減衰力が硬いということは、ノーマルよりも荷重移動のスピードが速く、機敏に反応するので、ステアリングレスポンスがよい。

 さらに、ノーマルに比べてロールも抑えられている。X-REAS付きほどではないものの、姿勢変化が小さく抑えられていて、結構スポーティな乗り味だ。ただし、素早いステアリング操作に対しては、サスペンションの問題よりもタイヤがつぶれてしまうので、X-REAS+20インチ仕様のようにソリッドについてくるわけではない。

 これがオフロードでどうなるかが気になるところだが、前出の西村チーフビークルエンジニアによると、「ちょっとした凹凸でも、揺れ方や振動の感覚に差が出てくるが、オフロードでは、ドンと落ちたときに、そのドンをいかに抑えてくれるが重要。ノーマルもビルシュタインも走破能力自体が変わるわけではないものの、そこでフワッといくのか、スッといくのかという違いは大きい。スキーのモーグルでも、ボディー揺れがスッと収まってくれたほうが、即座に次のアクションに移ることができる。やはりボディーの揺れは、スポーツカーのように瞬時に止まったほうがいい。それをビルシュタインの足を使ってやっている」とのこと。オフでノーマルと乗り比べると違いが顕著に分かるらしい。いつかぜひオフでも乗ってみたいところだ。

 ところで、まるでノーマルがよくないかのようなことを述べてしまったが、普通に乗る分にはノーマルで十分というか、マッチングとしては、ノーマルはオールラウンドで乗りやすく、とくになにか問題があるわけではない。X-REAS仕様はオンロードに特化したもので、ノーマルとオフロードパッケージについては、前述のような2種類の方向性がある、と認識いただければと思う。

 また、走りの基礎となる部分の話をすると、去年、プラドのモデルチェンジの際に、FJクルーザーにも手が加えられ、見た目やサイドレール等の骨格の部分は変わっていないが、エンジンやAT、エンジンマウント等が改良されている。

 ボディーサイズが4670×1905×1830mm(全長×全幅×全高)というと、全長はたいしたことはないが、この全幅で、小回りも効かないとなると、日本で乗るには、それなりに気を使うシチュエーションもあるだろう。だが、それもこのクルマの持ち味として受け入れ、むしろ楽しむぐらいの心の余裕を持ちたいところだ。

 インテリアの作りはいたってシンプル。目の前にある、直立気味に設定されたフロントウインドーが印象的だ。大きなノブやダイヤルは、見た目の雰囲気の演出としての側面もあり、グローブを装着したままでも操作しやすいようにとの配慮の産物でもある。

 「カラーパッケージ」を選ぶと、インパネのセンターやインナードアパネルがボディー同色となり、筆者としてはこちらが好み。クルマのキャラクターどおり、アウトドアユースに向けてフロア面は防水仕様となっているし、シート表皮も撥水・防水仕様となっている。

 また、ダブルフォールディングが可能なリアシートの背もたれを前倒しすると、奥行き1500mm以上のスペースが生まれるので、スノーボードもラクに積載できる。「遊ぶ」楽しみこそ、このクルマの真骨頂だ。

 リアシートには、海外で「アクセスドア」と呼ばれるピラーレスの観音開きのドアを開けて乗り込む。後席は、居住空間もそれなりだし、シートの造りもそんなにしっかりしているわけではない。基本的には前席重視のクルマといえそうだ。フロントよりも先にリアドアを開閉することはできない構造となっている。

 バックドアは横開き式で、せっかくガラスハッチを単独で開閉できるようになっているのはありがたいのだが、かなり高い位置にあり、しかもスペアタイヤを背負っているから、小柄な女性には少々使いにくいかもしれない……。

使い勝手の良好なラゲッジルーム。リアシートは6:4分割可倒式。ただし、ラゲッジルームの床面は、地面からかなりの高さにある

 さらに、「選ぶ」楽しみとして、自分だけのオリジナルの1台にカスタマイズできるという、新たな試みが用意されている。アメリカでも、ショップで豊富にある中から好きなパーツを選べるようになっているそうだが、日本では専用のWebサイトで、デカールなどを自由に組み合わせたり、自分だけのオリジナルデザインを実現できるといったカスタマイズが用意されている。ちなみに、パーツカタログに、トヨタのイメージもSUVのイメージも薄いトミーカイラのデモカーまで掲載されていたのは意表をつかれた。

 こういう特徴的なクルマが好きな筆者としても、FJクルーザーはかなり気になる存在。エコ一辺倒の世の中だけど、こんなワクワクさせるクルマがあってくれることを喜ばしく思う。



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2012年 6月 20日