【インプレッション・リポート】
フォード「フォーカス」



 

 フォード「フォーカス」。日本市場でその名を耳にしなくなって5年余りが経過した。2007年にサブプライムローンの問題から翌年にリーマンショックが勃発する頃、フォーカスは日本の市場から姿を消したのだ。グローバルではヒットモデルでありながら、日本市場でフォーカスは販売力の問題などから商品力ほどの売れ行きではなかった。

 しかし、2011年11月にフルモデルチェンジを行い欧州市場に参入した新型フォーカスは売れに売れ、本年度の1~6月期に世界で最も売れた乗用車となっている。そこで、新世代フォーカスのデビューに伴い、フォード・ジャパン・リミテッドも再びフォーカスの国内販売に踏み切ったのだ。多くのインポーターの例外にもれずフォードも、ここ3年はSUVを中心に販売が右肩上がりであることも、後押ししているのだろう。

 米国メーカーでありながらフォーカスは、独フォードがイニシアチブを取って開発してきた歴史がある。その意味では、日本市場にとってフォーカスは間口が広いはず。新型フォーカスの日本導入は2013年の早い時期と発表されている。その後インドでも発売され、アジア・オセアニア地区での新型フォーカスのデビューは完了。世界120カ国で販売されることになる。

 新型フォーカスの生産拠点は7つ。米国(ミシガン)、アルゼンチン(パチェコ)、ロシア(サンクトペテルブルグ)、ドイツ(ザールイ)、インド(チェンナイ)、タイ(ラヨーン)、中国(重慶)だ。これを見てもアジア・オセアニア地区を重視していることが理解できる。

 その中で日本に導入されるフォーカスは今年オープンしたばかりの最新設備を備えたタイ工場で製造される。これで、今回の試乗会がタイで行われた理由がお分かりいただけるだろう。もちろん試乗車は、このタイ工場で生産された右ハンドル車。実はタイ国も日本と同じ左側通行なのだ。日本人はいわゆる新興国で生産されたものに疑問を抱く悪い癖があるが、実際はどうなのかを検証するにも、今回の試乗会は意味のあるものとなった。

軽量かつ重厚な足まわり
 試乗会場となったのはバンコクから2時間ほど飛んだクラビ。クラビはプーケットに近いビーチリゾートだ。タイにはパタヤという有名なビーチリゾートがあるが、パタヤがいわゆる熱海などの温泉街的観光地なのに対して、クラビはどちらかというと西欧系の静かなリゾートといった雰囲気。

 それでも道路はかなり整備されている。山の中を走る峠道はアップダウンとブラインドコーナーが多く、路面は適度に荒れている。しかし、高速道路はクルマの数も少なく最高速を問題なく試せるほどの環境。

 実は、試乗会はポリスエスコートによるコンボイ走行の形式だった。10数台が隊列を組んでの走行なのだが、運よく(?)私はポリスのすぐ後ろの先頭車両。というと交通法規を厳守したつまらない走りになるものと思いきや、峠道に入った途端エスコート車のペースが上がった。どうやらレーシングドライバーがジャーナリストの中に居る、それもインディー500を走ったことがある、という情報がスタッフに入っていたようで、私がペースを合わせると、先導車がスパートをかけるかのように俄然速度を上げたのだ。

 おかげでサーキットを走る必要がないほど、新型フォーカスのハンドリングを確かめることができた。しかも、タイの峠道は1つのコーナーの中に微妙なアップダウンが存在するなど、日本では確かめられないような荷重移動が起きる。

 まず感心するのは、サスペンションがしなやかに路面に追従すること。ロールを始めてバンプするときにはソフトであるところからしっかりと締め上げる硬さがあるが、コーナー内側のサスペンションがしっかり上手に路面に追従する。リバンプのストロークが十分にあり、タイヤの接地感が薄れない。いわゆる荒れた路面をスッ飛ばす時に安心な欧州車のサスペンションだ。

 全体的にサスペンションが動き始める初期の柔らかさを嫌う人も居るだろう。しかし、それは贅沢な日本の路面に慣れ親しんだからだ。コンパクトカーはゴルフに代表されるように軽量でしっかりとした足が多いが、フォーカスのように軽量だが動かして重厚感を演出することも個性があってよい。

 ハンドリングは、狙ったラインがすぐにトレースできるオンザレール感覚。コーナーリングラインのイメージが取りやすく、切り足しもしっかりと反応する。

 これはトルクベクタリングという機能が採用されているからで、FF車ながらLSDを入れたのと同じ効果を、個別のタイヤにブレーキを作動させることで演出しているから。だから切り足しがどこまでも付いてくる。しかもドライバーがそれと感じにくいほど、自然な制御なのだ。

 これ以外にももちろん、電子制御によるスタビリティーコントロールはしっかりとしているので、安心してワインディングを攻めることができた。

デュアルクラッチAT、直噴エンジン、グリル・シャッターなどエコ装備満載
 先にハンドリングの話で盛り上がってしまったが、ここで新型フォーカスのディメンション等を紹介しよう。全長×全幅×全高は4370×1810×1480mm、これは日本へ導入予定のモデルだ。予定されているのは5ドアハッチバックのみ。試乗会には4ドアセダンも用意されていたが、ルックスも含めて日本市場には5ドアハッチバックが適応している。キネティックデザインと呼ばれる躍動感のあるデザイン。サイドビューは特に魅力的だ。

 ところで新型フォーカスのCd値はクラストップの0.287。この数字が低いほど省燃費を後押ししているわけなのだが、この低Cd値を達成するためにアクティブ・グリル・シャッターという新技術が採用されている。これはフロントグリルの中に空気の流入をコントロールするシャッターを設け低速(フルオープン)から高速(シャットオフ)まで開口レベルを16段階に調整するシステム。高速ではグリルを閉じることでボディー上面を流れる空気がスムーズになり抵抗が減るのだという。

 私がインディー500を走っていた時の話だが、最高速を上げる方法としてサイドポンツーンのラジエーター開口部や空気が抜けるホールを小さくしていたのを思い出す。また、高速ではグリルを閉じても他からのエアがしっかりとラジエーター冷却するので問題はないとのことだ。

 そして搭載されるエンジンは直列4気筒 吸排気可変バルブコントロール付きのデュラテック2リッター Ti-VCT直噴ユニット。12という高圧縮比に1インジェクター6ホールの筒内直噴式。流行りのターボやスーパーチャージャーは持たないがこのような技術でエコ=燃費削減を追求している。

 過給機などの補器類を持たないぶん部品点数も減少しトラブルリスクが低下する。また、コンパクトクラスのFFにとってリアに対してフロント荷重のバランスがハンドリングの生命線だが、補器類による重量増加も抑えることができるわけだ。

 さらにエコをサポートするシステムに6速デュアルクラッチATがある。トルコンATに比べてロスを最小限に抑えることができるのと、ギヤをダイレクトにチェンジできスポーティーな走りが楽しめ、エコとスポーティーさの両方を極めることができる。ただし、重量はMTに比べて重く、MTモデルの国内導入が見送られていることは残念ではある。

1人勝ち「ゴルフ」を脅かす存在に?
 試乗の終盤には高速道路も走った。タイの高速道路は予想以上に整備されているし、通行車両も少ない。そこでも超法規というか、ほぼ最高速での走行が許された(?)のだ。

 自然吸気エンジンのレスポンスがよく、高回転域でも振動が少ないデュラテックエンジンを、デュアルクラッチATをマニュアルモードにして各ギヤで引っ張れば、ストレスなく180km/hオーバーの世界に達する。

 峠道を走った時から感じていたことだが、タイヤが路面に吸いつくようにしっかりとしたホールド感があり、これが直進安定性を強くサポートしている。専門用語でいうスタビリティーというやつだ。加えて室内の静粛性がとても高い。乗り心地も初期のバンプなどの突起をスムーズにいなすのでボディーのフラット感が保たれとても快適だ。

 リアシートのインプレッションもとることができたのだが、前席と変わらぬコンフォートさがあった。旧型から引き継ぐデュアルプレイシーリングというドアシールを2重にする手法や、ミシュランが専用開発したタイヤを履いていることも、全てにおいてプラスにはたらいているようだ。

 インテリアは「コンプリート・ドライバーズ・パッケージ」と呼ばれていて、ダッシュボードを含めてこのクラスとしてはかなり高級感がある。ボリュームのあるインテリアと言ってよい。アンビエンスライトも装備している。

低速自動ブレーキ「アクティブ・シティ・ストップ」も搭載される

 特に感心したのは、メーターパネル中央に大きめのカラー液晶ディスプレイが埋め込まれていて、ステアリング上のボタン操作(右側)でさまざまな情報を引き出すことができる。また、ステアリング左側のボタンはセンターダッシュパネル上側に設置されたNAVIパネルと直結していて、マニュアルを見なくとも直感的に左右のディスプレーを使い分けることができるようになっている。

 インテリアのフィニッシュも含めクルマとしての仕上がりや完成度は高く、新興国タイでの製造そのものが欧州や米国と全く変わらないレベルにあると感じた。

 新型フォーカスは1人勝ちのフォルクスワーゲン「ゴルフ」を脅かす存在になるかもしれない。そう感じさせる南国での試乗会だった。


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http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2012年 10月 12日