【インプレッション・リポート】
スバル「エクシーガ 2.5i EyeSight」 & STI「エクシーガ ts」

Text by 岡本幸一郎


新型「エクシーガ 2.5i EyeSight」
 2011年から2012年にかけてスバルは、かつてないほど「攻め!」ている。新型「インプレッサ」や「BRZ」を世に送り出し、そして5月の「レガシイ」に続いて、7月には「エクシーガ」のビッグマイナーチェンジを実施した。

 キャッチコピーはズバリ、「ぶつからないミニバン?」だ。えっ、「ミニバン」!? これまでむしろミニバンという表現を避けていた感のあった「エクシーガ」で、ついにミニバンという言葉を用いたことにいささか驚いたのだが、その心は……? やや不本意そうな表情にも見えたスバル開発陣によると、ミニバン云々はさておき、3列のシートを持つクルマというくくりの中で、まだEyeSight(ver.2)のような先進安全装備の設定のある車種がエクシーガ以外に存在しないことから、分かりやすさを狙ってのことだという。

 そして、今回のマイナーチェンジは、まさに“ミニバン”としてのエクシーガに相応しく進化を遂げたというのが率直な印象だ。

EyeSight(ver.2)を搭載したエクシーガ

 EyeSight(ver.2)以外の主なポイントを挙げると、2.5iのFB型エンジンと新リニアトロニックへの換装およびアイドリングストップ機能の追加、シャシーチューニングの改良、一部エクステリアの意匠変更、後席中央席に3点式シートベルト採用、従来はオプション設定だった一部装備の標準装備化など。さらに、車種体系を見直し、2リッターの2WDモデルを廃止して全車4WDとなったのをはじめ若干整理したほか、前述の装備を向上させながらも価格を引き下げた。

 シャシーに関する具体的な変更内容を挙げると、フロントダンパーへの新バルブ採用、リアのラテラルリンクのピロボール化、電動パワステの制御の変更など。ダンパーのバルブについては、これまで2010年の改良でリアに採用した、幅広い領域でリニアにゆったりと減衰力を立ち上げる特性を持つ「SPV」という機構を、今回フロントにも採用した。よって前後ともSPVとなった。

 走り出してすぐに一連の変更により快適性が向上したことが感じ取れた。これまでもわるくなかったが、さらに全体的にしなやかさが増し、乗り心地がよくなっている。荒れた路面を走ると、よりそれがよく分かる。高速道路では、やや上下にバウンシングする傾向も見受けられたものの、快適性が向上したというメリットのほうが大きいように思う。

EyeSight(ver.2)をあれこれセットして走行中

 試しに2列目や3列目にも乗ってみたところ、乗り心地がよくなったことは体感できた。従来やや感じられた当たりの硬さが薄れている。1つ前のD型に対してもそうで、デビュー当初のエクシーガに比べると、かなり違う。乗員にとって快適性の高い、ミニバンに相応しい仕上がりだと言える。

 ステアリングフィールも洗練された。従来は低速走行時にやや重く感じられたところが軽くなり、取り回しがよくなるとともに、高速時には逆にしっかり感が増した。加えて、応答性が向上した。これまでは中立付近で微妙にワンテンポ遅れて反応し、ちょっとダルな感じがあったところがリニアになった。

運転席まわり操作性のよいステアリングホイールマルチインフォメーション可能なメーターパネル
試乗グレードは2.5i EyeSightのため、エンジンは自然吸気の2.5リッタータイヤは、215/50の17インチ3列目シートに座ってみたところ。広いとは言えないが、乗り心地は改善された

 ワインディングでは、コーナリング姿勢も洗練されていることを感じる。実測のデータによると、コーナリング時のロール角のピークが下がっており、グラつきが抑えられている。一方で、ステアリングを切り始めたときのロールの立ち上がりと、ピークを超えて収まるところでは、むしろ角度としては上がっている部分があるのだが、こうされたことで挙動がより自然になり、クルマがどういう状態にあるかが掴みやすくなっている。

 高速巡航時には、直進性が向上し、あまり修正舵を要しなくなっていることに気づく。むろんこれらはステアリング単体だけでなく、前述の足まわりの進化による部分も少なくないはずだが、常にしっかり舵が利くので、切りすぎることもなく、揺りもどしもなくなるからだろう。率直にいって、全体的なフットワークの仕上がりはレガシィのD型よりも上だと思う。

 そしてパワートレインは、レガシィと同じく「2.5i」にFB25型エンジンと新しいCVTユニットである新リニアトロニックが与えられた。この組み合わせは、すでにレガシィでも体験しているが、出足からスッと加速し、目標速度に短時間で到達させることができるところがよい。多人数が乗車する機会の多いであろうエクシーガにとっては、もたらされるメリットはより大きなものとなるはずだ。

 アイドリングストップのマナーもよく、煩わしさは感じない。燃費についても、従来は10・15モードで12.6km/Lだったところ、今回はJC08モードで13.2km/Lと、条件が厳しくなりながらも数字がかなり上がっている。今回は直接的な比較はできなかったが、イメージとしては概ね2割ほどよくなっているという。

 そしてEyeSight(ver.2)について。バージョン2の完成度が高いことはレガシィでもお伝えしたとおり。加減速の制御が非常に緻密で、挙動が乱れて不快な思いをしたり、追突するのではないかと怖い思いをすることはほぼない。今回も試して、その優れた制御を改めて体感した。

 さらに、EyeSight(ver.2)では、前走車がコーナーの先に隠れてもロストしにくくなり、ゆっくり動く人をちゃんと歩行者と認識したり、下りの坂道で減速するときに、従来はアクセルOFFだけだったところでブレーキも併用するようになるなど、いろいろ進化している。

 ただし、レガシィと違ってパーキングブレーキが電子式ではないため、停止状態は保持されないのだが、それでもEyeSight(ver.2)の本来的な恩恵は十分に享受できることには違いない。

 また、EyeSight(ver.2)を含むマルチインフォメーションディスプレイの表示の体裁がほぼ従来を踏襲していることも、インプレッサやレガシィに採用された目新しいタイプを知ってしまうと、残念に思うところもなくはない。エンジンとトランスミッションを協調制御して、ドライブモードを変更するSI-DRIVEの操作スイッチも、レガシィのようにステアリングホイール上に移設されておらず、従来どおり。このあたり、できれば新しいものを採用してくれるとありがたかったところだが、それなりにコストもかかることだろうし、いたしかたあるまい。

 内外装については、エクステリアデザインが微妙に変わり、また、今までやや小ぶりだったドアミラーがレガシィやインプレッサと同じ大きなタイプ(ステーの形状は異なる)になった。おかげで斜め後方の視界が少し広がり、ウインカーと連動して点滅する小窓も付いた。

 ボディーカラーには、全7色のうち4色が変更。レガシィの設定がほぼ水平展開され、「スカイブルー」に換えて設定された「ディープチェリーパール」を加えた計7色となった。ところで、エクシーガといえば当初の訴求色だった「サファイアブルー」のイメージが強いところだが、実は最初の改良ですでに落とされて紺系に変わっていたことを、今回改めて思い出した。

 登場から4年が経過しているが、EyeSight(ver.2)が設定され、ドライバビリティ面も大きく洗練されるなど、実のあるマイナーチェンジを遂げたエクシーガは、これで本当の買い時がやってきたといっても過言ではないのではと思う次第である。


STI「エクシーガ ts」

 今回、STI(スバルテクニカインターナショナル)の「エクシーガ tS」に乗る機会も得ることができた。ベースとなったエクシーガからの変更内容は、関連記事(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20120703_544392.html)を見ていただきたいが、2009年に発売した「エクシーガ2.0GT tuned by STI」の後継モデルとして、昨年の東京オートサロンに出展された「エクシーガ2.0GT tSコンセプト」をベースとしたSTIコンプリートカーとなる。

 搭載エンジンは水平対向4気筒DOHC 2.0リッターターボで、5速ATを介して4輪を駆動する。最高出力は165kW(225PS)/5600rpm、最大トルクは326Nm(33.2kgm)/4400rpm。このターボエンジンは、豊富なチューニング実績を誇る「EJ20型」であるものの、tsのためエンジンそのものにチューニングは施されていない。走りに関する部分では、STI製フレキシブルタワーバーフロント、フレキシブルドロースティフナーフロント、サポートフロント、フレキシブルサポートリヤSTI製チューニング倒立式フロントストラット、STI製チューニング・リヤダンパーといったSTIのオリジナルパーツ、ブレンボ製17インチ対向4ピストンフロントベンチレーテッドディスクブレーキなど大きく手が加えられている。多くのパーツ、そしてフィッティングなど手の込んだことをしながら、価格が374万8500円 に抑えられたというだけでも、かなりのバーゲンプライスではないかと思う。

STI エクシーガ ts。足まわりや内外装にSTIの手が入っている
エクステリアの変更点は、エンブレムやスポイラーなど決して派手すぎないものSTI製18インチアルミホイールや、ブレンボ製対向4ピストンキャリパーから特別なクルマであることが分かる

 STI製フロントアンダースポイラー、STI製スポーツマフラー(φ100×2)など、決して派手すぎず、それでいてスポーティさをかもし出すスタイリングはSTIならでは。また、ノーマルには設定のない「WRブルー」のボディーカラーを選ぶことができるという特権もある。乗り込むとベース車には設定のないルーフライナーまでブラックで統一され、数々の専用装備が与えられた精悍なインテリアが迎えてくれる。

 もちろんそれらもこのクルマの魅力に違いないが、やはり真骨頂はドライビングにあり。過度にスポーティさを演出することなく、エクシーガというクルマのキャラクターに相応しく快適さを確保しながらも、操ることへの楽しさを感じさせる味付けが施されている。

 ノーマルのドライブフィール全般も、従来よりもグレードアップしていたのはお伝えしたとおりだが、tSはさらに、あらゆる部分で積極的によさを感じさせる仕上がりとなっていた。ダンピングの効いた足まわりは、ほどよく引き締まっているが、路面からの入力を上手くいなしてくれるので、乗り心地に不快な印象はまったくない。よく動きながら、収束も速いので、無駄な動きが非常に良く抑えられている。それは、荒れた路面を通過したり、攻めたコーナリングをしたときだけでなく、高速道路で轍を越えたり車線変更したときのような、ちょっとした場面でも感じ取ることができる。

 操作に対して遅れることなく、素直に反応してくれるハンドリングも気持ちよい。「ボディーが小さくなったように感じる」とSTI開発者も述べていたが、走りに一体感があるので、たしかにそう感じられる。

エクシーガ tsの魅力の1つであるEJ20型ターボエンジン。最高出力は165kW(225PS)と、“最速ミニバン”をうたうtsのパワーユニット専用本革巻ステアリングホイールなどインテリアの質感も高い
1列目、2列目、3列目ともアルカンターラ/本革シート最高速度は240km/hのSTI製メーター。レッドゾーンは6500rpmを超えた辺りになる

 ブレーキは、このままサーキットを走れてしまいそうなくらいキャパシティが上がっている上、コントロール性が高く、微妙な爪先の力のかけ具合で、イメージどおりに減速Gをコントロールすることができる。ブレーキングでの制動感はしっかり伝わってくるのに、車体が前のめりになる感覚が小さく抑えられているところもよい。

 ただ、残念なことに、EyeSight(ver.2)の設定がtsにはないのだ。いったいどうして?と思うところだが、理由は、EyeSight(ver.2)を搭載するためには、綿密なテストが必要だから。そう簡単に、ただ付けるというわけにはいかないのだ。

 tSはベース車に対し、ブレーキや足まわりなど走りに関する重要な部分が変更されているので、EyeSight(ver.2)を搭載するには、その状態に合わせて制御を最適化する必要がある。そのため、専用VDC(ビークルダイナミクスコントロール)が装備されているものの、現状の開発体制ではEyeSight(ver.2)まで搭載すると、発売時期や価格に大幅に跳ね返ってくると言う。STIを代弁するようだが、ご理解いただければと思う。

 エクシーガ tSの限定販売台数は、わずか300台。STIの「tS」というラインアップにおけるエクシーガはどのようなクルマであるべきか?を考え尽くし、細部まで丁寧に煮詰めて仕上げられたのが、このクルマである。STIらしく、トータルバランスの高さには、さすがのものがあった。今後搭載車種が増えることはないと思われる、ショートストロークのEJ20型ターボエンジンを搭載した7人乗りミニバンの、STIコンプリートカーになる。


【お詫びと訂正】記事初出時、記事の重複がありました。お詫びして訂正させていただきます。


インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2012年 10月 19日