インプレッション

クライスラー「300」

 2011年モデルとしてフルモデルチェンジを果たしたクライスラーのフラッグシップサルーン「300」が、このほど新たなインポーターとなるフィアット クライスラー ジャパンにより、日本マーケットへ正式導入されることになった。

 「300」というネーミングは1955年に登場し、1950~60年代を通じて生産された同名の伝説的高性能モデルに端を発するもの。それが「300M」の名称とともにクライスラーの最上級FFセダンとして復活したのが、前世紀末となる1999年であった。

 そして2004年には、アメリカを中心に新たなアイコンとなり、日本でもカルト的な人気を得るに至った先代「300」が、FRレイアウトのビッグセダンとしてデビュー。つまり今回発表されたモデルは、新世代の「300」としては実質的な2代目ということになる。

 今回日本デビューを果たしたのは、V型6気筒3.6リッターユニットを搭載し、新型300シリーズのメイングレードとなることが期待される「300 リミテッド」と「300C ラグジュアリー」。ともに右ハンドル仕様のみが用意され、300 リミテッドが398万円、300C ラグジュアリーが538万円という、かなり意欲的な価格設定がなされることになった。

ワイルドな外観と上品な内装

 新型クライスラー300は、先代300シリーズからFRレイアウトのLXプラットフォームを踏襲するものの、ボディーをリニューアル。スリーサイズは60mm長く、15mm広く、5mm低くなったという。

 しかし、たっぷり取ったホイールベースにロングノーズ+ショートデッキのプロポーション、オーバーフェンダー風に張り出したフロントのホイールアーチとウエストラインを前後に走るキャラクターラインなど、デザインモチーフは先代300でカリスマ的評価を得たスタイルを正常進化させたもの。 ウェストラインを高くする一方、グラスエリアを薄くした、いわゆる「チョップトップ」風のスモールキャビン・デザインとされている。

 特筆すべきは、プロポーション優先のスモールキャビンとしながらも、室内スペースがあまり犠牲になっていないことである。新型300では、先代よりもウィンドシールドが寝かされたというが、前/後席ともにヘッドルームにはまだ余裕がある。加えて3mを超える長いホイールベースのおかげで後席のニースペースにも不満はなく、あくまで「心地よいタイトさ」が保たれているのだ。

 また、歴代クライスラー300に継承されてきたモチーフをモダナイズした大型フロントグリルを、「リキッドクローム」と呼ばれるサテンクローム仕上げとするなど、旧きよきアメリカ車の力感をコンテンポラリーに表現しているアピアランスによって、これまでの300と変わらないダンディな魅力を獲得しているのだが、これでもまだアメ車的な「ワルっぽさ」が足りないと思われる向きは、来年早々の日本市場ローンチが予想される高性能版で、内外装もよりスポーティに仕立てた「HEMI」バージョンを待つ方がベターかもしれない。

 一方、今回のモデルチェンジで最も改善が図られたと思われるのは、インテリアの質感であろう。クライスラー・ブランドは、クライスラー系グループの中でも「ダッジ」や2002年をもって閉鎖された旧「プリムス」よりも上位に当たるプレミアムブランド。GMでいうところの「キャデラック」や、フォード系の「リンカーン」とは若干ニュアンスが異なるものの、比較的高級なラインナップを展開してきた。

 ところが従来型の300のインテリアは、特にインストルメントパネルやスイッチ類の触感に、いささかながらチープな印象を受けざるを得ないところもあったのだが、今回の新型300シリーズでは、現代の高級サルーンとして、そして「クライスラー」ブランドのトップモデルとしても充分に上質なフィニッシュが与えられているのだ。

 シートおよびインテリアの材質は300 リミテッドがプレミアムファブリック、300C ラグジュアリーが本革レザー仕立てとされる。300C ラグジュアリーのシートは、メルセデスなどの現代プレミアムカーに使われることの多いナッパレザー張り。一方インストゥルメントパネルやアームレスト、ドア内貼り上部のトリムには、イタリアポルトローナ・フラウの「フォリーニョレザー」を贅沢に用いている。

 ご存じの方も多いだろうが、新型300は、ヨーロッパ大陸ではランチア「テーマ」として販売され、特にイタリアでは社用車や公用車としても使用されることもあるからだろうか、手や肌に触れる部分のタッチは満足すべき高級感を獲得しているだけでなく、デザインやディテールの作り込みもむしろ「ランチア的」に上品なものと感じられてしまうのだ。

 これだけの高級感と装備ならば、最高の仮想敵と見なしている日本製高級サルーンはもちろん、ドイツ勢のライバルとも充分以上に渡り合えるのは間違いないところだろう。

アメ車の常識はもはや過去のもの?

 このクラスの高級サルーンとしては骨太でワイルドな外観と、相反するように上品なインテリアを持つ新型クライスラー300だが、走りから受ける印象はインテリアと同じく上品さが表側に現れたものとなっていた。

 今回のテストドライブに供されたのは、上級版に当たる300C ラグジュアリー。エンジンは、現代クライスラーの基幹ユニット、4カム・24バルブヘッドを持つV型6気筒の3.6リッターの「ペンタスター」が搭載される。このエンジンはクライスラーの会心作という触れこみに違わず、素性のよさに感銘を受けることになった。

 ちょっと前までのアメリカ製V6といえば、アメリカ人が愛してやまない旧きよきV8 OHVエンジンのフィールを投影したかのように「ドロドロ感」を強調したものが多かったと記憶しているが、翻ってこのペンタスターV6は徹頭徹尾スムーズな回転マナーを見せる。極低回転域から豊かなトルクを湧き立たせ、そのまま極めてナチュラルな回転感を保ちつつ、中・高回転域まで吹け上がっていくのだ。

 昨今のヨーロッパ車、さらには北米でもフォードやGMが導入を図っている小排気量4気筒+過給器付ユニットにはまだ望み難い、自然で骨太なトルク感は、今なお大排気量自然吸気エンジンならではのメリットと言えるだろう。サウンドも回転フィールに見合ったもので、特に3000rpmを超えたあたりからは、あくまで音量は高級サルーンとしての常識的レベルに抑えられつつも健康的なエキゾーストノートを聴かせてくる。

 ただし、ことアメリカ車としては、少々ジェントルかつ軽快すぎる感が無きにしも非ず……というのも正直な感想である。日本車やドイツ車にも似た、グローバルスタンダードに即したフィーリングには、古くからのアメ車ファンの間では意見が分かれるだろう。

 したがって、ワイルドなエンジンフィールにこそアメ車の魅力を感じるという熱心なファンには、この点についてもやはり来年早々の日本デビューが噂される「HEMI V8」SRTバージョンを待つことをお勧めすべきかもしれない。

 ちなみにトランスミッションは、当代最新のZF製8速ATが組み合わされる。さらに今回の試乗車である300C ラグジュアリーにはシフトパドルも備わるものの、マニュアル時の変速スピードはシフトアップ/ダウンともに穏やかなもの。エンジン自体のトルクが豊かなこともあり、通常のATモードでも充分にキビキビとした走りが堪能できる。

 一方シャシーは先代300のLXプラットフォームを踏襲するものの、乗り心地や操縦性については、現代のプレミアム・サルーンとして合格点がつけられるレベルを獲得している。あえて意地悪くアラ探しをするならば、前輪サスペンションにW220時代のメルセデスSクラス、後輪サスペンションにはW210時代のEクラス用マルチリンクをリファインして使用するという基本設計のせいか、路面の荒れた道では車体全体が揺すられる感覚が若干大きめに感じられたことくらいだろう。ただしこれも、後輪がリーフリジッドだった時代の大らかなアメリカ車の味わいに近いと言えなくもない。

 また、ボディー剛性が現代車の水準から判定しても非常に高いこと、さらに300C ラグジュアリーに標準装備される20インチの大径ホイール&タイアが少々オーバークォリティなことが、古典的な足まわりと相まって不利に働いた可能性も否定できまい。今回は乗るチャンスが無かったが、機会があれば300 リミテッドの18インチタイヤとの相性も試してみたいところである。

 しかしその一方で、ステアリングの切れ角が大きく小回りが非常に利くのは、メルセデス由来の足まわりを持つことの大きなアドバンテージと思われる。堂々たるボディーサイズながら、何処へでも安心してノーズが向けられる安心感は絶大なものと断言できるのだ。

国産高級サルーンへの挑戦状

 11月に行われた発表会ではトヨタ「クラウン」や日産「フーガ」などの日本製大型サルーンを念頭に置いた価格設定とし、輸入車への乗り換えを促すとした意欲的な姿勢がアピールされていたが、少なくともクルマの仕上がりについてのみ言及するならば、それら出来のよい国産ライバルはもちろん、ヨーロッパ勢とも充分以上に渡り合えるだけの商品力は備えていると言えるだろう。

 なんといっても、大人のオトコのダンディズムをこれほどまでに体現した大型サルーンというのは、かなり稀有な存在である。このアグレッシヴで艶っぽい存在感に匹敵する車といえば、今や身内となったマセラティ「クワトロポルテ」やジャガー「XJ」など、遥かに高価なモデルばかりしか思い当たらない。

 それがベーシック版ならば400万円以下で手に入れられるというのは、なかなかのバーゲンプライスと思われる。そして価格帯の近い「クラウン」や「フーガ」が、たとえ「アスリート」や「GT」などのスポーティグレードを選んだとしても、本質的には「平和な日本のお父さん」の車と見られがちであるのに対し、「クライスラー300」はその気になれば愛車で自身をセルフプロデュースできるファッションツールともなり得るのだ。

 あとは新しいフィアット・クライスラー系ディーラーの販売ネットワークとサービス体制が、至れり尽くせりのもてなしに慣れた日本の高級車ユーザーの要望に、どこまで応えられるか? それがこの車の成否を左右することになるだろう。

(武田公実/Photo:安田 剛)