インプレッション

アキュラ「RDX」

 先日、米国ロサンゼルスに行った際に、アキュラのSUV「RDX」を試乗した。

 アメリカではシティユーザー向けのプレミアムSUVが2000年前後から大人気となり、その人気ぶりは今や世界中で定着している。

 アキュラは現在、北米、カナダ、中国で販売されているホンダのプレミアムブランド。北米ではセダンのフラッグシップである「ILX」に「RLX」「TL」「TSX」、そしてSUVのフラッグシップである7人乗りの「MDX」、5人乗りの「RDX」のほか、MDXをベースとした最もハイプライスの4ドアスポーツクーペ風5人乗りラグジュアリーSUV「ZDX」の、合わせて6モデルが販売されている。

 RDXは2012年にフルモデルチェンジし、今、アキュラブランドのSUVの中で最も売れているモデルだ。

狙いは“品のよさ”?

 プラットフォームは日本でも販売されている「CR-V」と共通ながら、ボディーサイズは全長4660㎜(CR-V比+125mm)、全幅1872㎜(+52)、全高1678(-7)㎜、ホイールベースは2685(+65)㎜。これがアメリカでコンパクトSUVと呼ばれているサイズなのだが、日本車を見慣れている者からから見れば、アメリカンSUVらしいゆったりとしたサイズを室内やラゲッジスペースから感じる。

 外観は、フロントグリルとAピラーに向かって切れ上がるようにデザインされたヘッドライトが今の“アキュラ顔”を作っている。また先代のボディーのシルエットがやや立体的だったのに対し、新型は丸みを帯びた柔らかい印象が、上品さとスポーティさをうまくバランスし、演出している。これを上品と言うか地味めと表現するかは人それぞれ、微妙なところだ。

 ただロサンゼルスでさまざまなSUVを頻繁に見かけるなかで、同等クラスもしくはRDX以上の価格やポジションにあるSUVは、顔つきに威圧感やギラギラとした華やかさが感じられるモデルも少なくない。だからこそアキュラはアクの強さを抑え、他とは違う品のよさを狙っているのかもしれない。

 インテリアはデザインこそシンプルながら、質感は高い。レザーやソフトパッド素材を使い、さらにパーツの素材感やパーツとパーツの繋ぎ合わせの精度の高さなどから、繊細さや造り込みの質の高さがうかがえる。ちなみに生産はアメリカのオハイオ工場だ。

車高の高さを忘れるハンドリング

 搭載するエンジンは最高出力275PSのV型6気筒3.5リッターで、これに6速ATが組み合わされている。ボディーサイズに対し、3.5リッターの排気量は十分。滑らかな加速と静粛性、ゆったりとしたクルーズ感も味わえる。

 着座位置が高く視界も良好なRDXの運転席に座って、ロサンゼルスの街中からハイウェイをドライブしていると、渋滞のストレスも軽減される。実は、私が都会派SUVの魅力を実感したのがロサンゼルスだった。車線の多いだだっ広いハイウェイを、ゆったりと走る気持ちよさはクセになる。セダンやスポーツカーに乗る人たちよりも西海岸に広がる青い空が近く広く感じられるSUVなら、何時間ハンドルを握っていても苦ではないと思えた。その気分を今回はこのRDXで再び味わうことができたのだ。

 滑らかな走りとワインディングでの車高の高さを忘れるハンドリングも満足度が高い。ステアリングの操作フィールはやや重めだが、スムーズでクルマの雰囲気にマッチし、さらにこの操作感がドライブフィール全体の質感を高めるのにひと役買っていた。おかげでロサンゼルスで有名な峠マルホランド ハイウェイでは、想像以上にしなやかなRDXの、意外にも踏ん張りのよい走りを楽しませていただいた。

 これには、新型RDXが「Amplitude Reactive Damper」というZF Sachs製のダンパーを初採用している点が大きいようだ。これはメインのピストンバルブに加え、スプリングによって支持されるフローティング状のセカンドピストンバルブを持つダンバーが、走行状況に応じて働く。

 フラットな路面から少々の荒れた路面を走行するようなサスペンションストロークが短い領域(ストローク1~5mm)ではメインピストンバルブが減衰力を発生しつつ、セカンドピストンバルブが抑えきれなかった微振動などを遮断。荒れた路面や大きな入力がかかる領域(ストローク10mm以上)では2つのピストンバルブが一体となって大きな減衰力を発生させ、安定性をはかるというしくみだ。

 アメリカは州の財政によっても道路整備のよしあしは異なるが、個人的な認識として日本のように路面がフラットかつキレイではない印象がある。乗り味はマイルドでも、コーナーではそれなりにハードなコーナーワークを可能にするバランスのとれたSUVが求められても不思議ではない。RDXはそれを実現していた。

総合満足度の高いモデル

 ところでアキュラとホンダ、プレミアムブランドとしての違いはどれほどのものか? 個人的にはその点も非常に興味があったのだが、正直なところレクサスでさえまだ不十分と思うものの、トヨタとレクサスほどの差別化は感じられなかった。しかしそれは、トヨタのクラウンがレクサスモデルよりプレミアムじゃないかと言えばそんなことはなく、レクサスはモデルのバリエーションの豊富さと統一感が目に馴染み浸透してきているからだと思う。

 一方のホンダは、日本では軽自動車やコンパクトカー、ミニバンなどの印象が強く、実は造りのよいCR-Vやアコードの質感にさえ満足できるのに、その存在も今は少しばかり薄めだ。だったらアキュラにもチャンスがあるかと言えば、スマッシュヒットと強力なブランドイメージを植え付ける1台が必要。でもそこまでのモデルは今はない。だから日本にも導入されることを望むかと聞かれたら、例えばトヨタとレクサス、フォルクスワーゲンとアウディほどの関係を築く道のりは険しいのではないかと思う。

 少なくともRDXは総合満足度の高いモデルだ。目に見える部分よりも、本質感の高さには新鮮な感心を抱き、デザインによる押しは弱いが、質感はとても高いという点が、日本車メーカーらしく好感度を上げているのかもしれない。その結果、RDXは北米では昨年の販売開始以来、毎月のセールスレコードを更新している。

飯田裕子