インプレッション

BMW「428i クーペ」「435i クーペ」

「世界一美しいクーペ」の再来

 「BMWのクーペ」というと、かつての初代6シリーズを評した「世界一美しいクーペ」というフレーズをいつも思い出す。そして新しい4シリーズを目の前にして、その言葉が今もっとも当てはまるのはこのクルマかもしれないと感じた。

 ボンネット、キャビン、トランクの比率と、それぞれをつなぐラインの美しさ。低められた全高と拡大されたトレッドにより強調されたワイド&ローフォルム。オーソドックスなスタイルの中で醸し出す独特の美しさが4シリーズにはある。

 往年の6シリーズも何ら奇抜なところのないクルマにもかかわらず、いまだ多くの人を魅了してやまないわけだが、昔も今もBMWはクーペを美しく見せるための何か特別なノウハウを持ち合わせているのではないかと思わずにいられないほどだ。

 すでに伝えられているとおり、BMWでは今後、奇数で始まる車名のシリーズをセダンやツーリングとし、クーペは偶数で始まる車名のシリーズとする方針を打ち出した。なじみのないうちは少しばかり違和感を覚えるが、ゆくゆくは定着することだろう。

 むろん4シリーズは内容的には3シリーズとの共通性がかなり高いのだが、内外装の仕上がりなどを見るにつけ、数字が増えたことに呼応して、4シリーズはひとクラス上の風格を備えたように感じさせる。

直列4気筒DOHC 2.0リッターツインパワーターボエンジンを搭載する428i クーペ。435i クーペを含め、全モデル8速ATを組み合わせる。撮影車は428i クーペ Luxuryで、ボディーカラーはメルボルン・レッド。衝突の危険性が高まった際にドライバーに警告を発する「前車接近警告機能」、追突が不可避な場合にブレーキをかけて衝突の回避・被害の軽減を図る「衝突回避・被害軽減ブレーキ」、車線の逸脱をドライバーに警告する「レーン・ディパーチャー・ウォーニング」がセットになる「ドライビング・アシスト」は、全モデル標準装備
オプションとなるLEDのハイ/ロービーム、フロントターンインジケーター、アクセントライン、スモール・ライト・リング、フォグランプをセットにした「アダプティブLEDヘッドライト」を装着
ホイールは19インチで、ブリヂストンのランフラットタイヤ「ポテンザ S001(タイヤサイズ:フロント225/40 R19、リア255/35 R19)」を装着
ドラミラーにはターンシグナルランプを内蔵
フロントタイヤの後方に、ホイール周辺で発生する乱気流を低減させる「エア・ブリーザー」を標準装備
片側2本出しのエキゾースト・テールパイプ(クローム仕上げ)
ブラックでまとめられた428i クーペ Luxuryのインテリア。ダコタ・レザー・シートやマルチファンクション・スポーツ・レザー・ステアリングを標準装備。シフトレバー右側に配置される「iDrive コントローラー」は、従来の機能に加えスマートフォンのような指先での操作に対応
電動ガラス・サンルーフはオプション設定(17万円)
センターコンソールボックス
装飾のないシンプルなペダル類
インパネ中央に8.8インチワイドコントロールディスプレイが備わる
メーター内の表示例
8.8インチワイドコントロールディスプレイはカーナビの地図に加え、車両周辺を真上から見た画像を合成して表示することが可能。またPDC(パーク・ディスタンス・コントロール)を備え、車両の前方/後方にある障害物との距離を、信号音とともにコントロールディスプレイでの表示によりアナウンスする

 従来の3シリーズクーペ(E92型)に対しては、時間の経過分のメカニズム面での技術的な進化に加えて、充実した装備が与えられている。それでいて車両本体価格の上昇はE92型の同等グレードと比較して10万円以下に収まっているところもよい。

 E92型の325iクーペが598万円、335iクーペが729万円だったところ、今回のF32型は428iクーペが604万円、435iクーペが738万円と、それぞれ価格差は6万円と9万円にすぎないのだ。

スタイリッシュながら実用性高し

 エクステリアパーツの大物では、ボンネットのみ現行F30型3シリーズとの共通らしい。バンパーの違いは一目瞭然として、ワイドなキドニー・グリルやヘッドライトも専用品だ。

 インテリアのつくりは、もともと個人的にも気に入っていたF30型3シリーズとの共通性のある、あくまでドライバーを優先して設計されていることを感じるもので、質感が高く、操作性も良好だ。低めの着座位置もクーペらしくてよい。

 上質なダコタ・レザー・シートは、435iの全車と428iでは「Luxury」のみに標準装備される。このため、価格設定および価格差が、435iではSportが754万円、Luxuryが758万円と4万円差のところ、428iではSportが624万円、Luxuryが646万円と22万円差になり、設定価格の関係に少しややこしいところがある。

撮影車は435i クーペ M Sport。直列6気筒DOHC 3.0リッターツインパワーターボエンジンを搭載する。ボディーカラーはミネラル・グレー。ダイナミックなスタイリングを強調するMエアロダイナミクス・パッケージやMスポーツ・サスペンションなど、BMW M社が開発したパーツを多数装備する
ダブルスポークの19インチホイールに、428i クーペ Luxuryと同様にブリヂストンのランフラットタイヤ「ポテンザ S001」を装着。サイズも変わらない
インテリアはコーラル・レッド/ブラック・ハイライトの組み合わせ

 運転環境や車内の居住性を犠牲にすることなく、これほど美しいスタイリングを披露しているところはたいしたものだ。リアシートが広いことも特徴的で、このクラスのクーペで最大の空間が確保されている。先々代のE46型までは5人乗りだったところ、先代のE92型より4人乗りとされ、同じく新しいF92型も完全4人乗りを踏襲した。

 一体化されたヘッドレストを持つシートはサイズが大きく、E92型比で12mm拡大したというニースペースも十分に広い。クーペながら乗降しやすく、乗り込んでしまえば居心地はわるくない。なだらかに落ちるラインを描くルーフにより、さすがに後席の頭上空間を3シリーズセダン並みに確保するのは難しかったようだが、面積の広いリアのサイドウインドーと細身のCピラーは、運転席からの良好な後方視界と、後席乗員に開放感をもたらしている。

 トランク容量も十分で、奥行きがかなり広い。オプションの「スルー・ローディング・システム」(2万8000円)を選ぶと、リアシートを40:20:40で分割して前倒しすることができるのも重宝しそうだ。クーペでこんなことができるというのは、ちょっと思い当たらない。こうした実用性の高さも、このクルマの魅力のうちの1つだ。

オプションの「スルー・ローディング・システム」を選ぶとリアシートを40:20:40で分割可倒式となる

大幅に洗練されたドライブフィール

428i クーペの直列4気筒DOHC 2.0リッターツインパワーターボエンジンは最高出力180kW(245PS)/5000rpm、最大トルク350Nm(35.7kgm)/1250-4800rpmを発生
435i クーペの直列6気筒DOHC 3.0リッターツインパワーターボエンジンは、最高出力225kW(306PS)/5800rpm、最大トルク400Nm(40.8kgm)/1200-5000rpmを発生

 428i クーペには直列4気筒DOHC 2.0リッター、435i クーペには直列6気筒DOHC 3.0リッターの、いずれも「ツインパワー」と呼ぶ直噴ターボエンジンが搭載され、8速ATが組み合わされる。E92型では途中から335iのみATに替えてDCT(デュアル クラッチ トランスミッション)を採用したが、F32型ではどちらもATとされた。

 パワートレーンは、基本的には3シリーズや5シリーズに設定のあるものと同じと考えてよいが、初めて出たときに比べると進化していることがよく分かった。それぞれ印象が明らかによくなっていて、回転フィールが滑らかになり、中〜高回転域での伸び感が増すなど、より洗練されているのだ。シフトダウンでの素早いレスポンスも気持ちよい。428i クーペと435i クーペでは4気筒と6気筒という大きな違いがあるので、サウンドや振動の感覚は異質のものだが、出力特性は似ている。

 パワー感については、カタログスペックで最高出力45kW(61PS)、最大トルク50Nmの差がありながら、回すと先入観としてイメージしていたほど速さの感覚には大きな差がないように感じられた。あとで確認すると、0-100km/h加速は428i クーペが5.8秒であるのに対し、435i クーペは5.1秒とのことで、その差は0.7秒。やはり思ったよりも差は小さかったと感じたものの、とにかくどちらも速いことには違いない。

 なお、両グレードのベースモデルでの価格差は124万円。どちらを選ぶかという話になると、個人的にはBMWに乗るからには「シルキー6」にこだわりたいと常々思っているのだが、速さも大差なく、4気筒もほとんどネガを感じさせないほど洗練されていたので、これなら428iでもよいかなと思えた。

 さすがはBMWと感心しつつ、フットワークの仕上がりにも感銘を受けた。19インチのランフラットタイヤを履くせいか、一般公道では少し固さを感じたのだが、ワインディングではしなやかに路面を捉え、フラットな姿勢を保ちながら、4輪を最適な状態で路面に追従させる。

 現行BMWモデルでもっとも低い重心位置を実現していることも、少なからずこの走りに寄与しているはずだ。

 大きなギャップを越えても路面に叩きつけられることはなく、何かで包み込まれたような優しさで着地し、そのまま狙ったラインを正確にトレースしていける。その走りにはまったく神経質なところがない。

 Mスポーツには電子制御ダンパーである「Mスポーツ・サスペンション」が装備される。走行モードを変えると、アクセル、シフト、ステアリングの特性やDSCとともにダンパーの減衰力が調整されるが、足まわりのしなやかさが大きく損なわれることはない。

 また、今回の試乗車にはいずれもバリアブル・スポーツ・ステアリングが装着されていた。少し前までは同機構を搭載する車両に乗ると違和感を感じていたのだが、もはやそんなこともなく、俊敏で応答遅れのないハンドリングを堪能できる。これには新たに施されたステアリングまわりの剛性向上や、現行BMWモデルでもっとも低い重心位置を実現していることも、少なからず寄与しているに違いない。

 4気筒と6気筒では、エンジンの重量や搭載位置がそれなりに違うはずで、実際にドライブしても428i クーペには鼻先の軽さを感じる。箱根のようなワインディングでは、この軽快感が気持ちよい。

 反対に、この日はワインディングのみドライブしたが、高速道路を巡航するときには、435i クーペの上質なエンジンの響きやフロントの適度な重量感がより心地よく感じられることだろう。また、3つの機能を組み合わせた「ドライビング・アシスト」やACCなど、ドライブをより快適で安全にサポートしてくれる先進装備が用意されているのも心強い。

 4シリーズはこれ以上望むべくもないほど、すべてにおいて洗練されていた。筆者にとって、執筆時点においてこのクラスでもっとも理想的なクーペとなった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸