インプレッション

BMW「4シリーズ グラン クーペ」

 このところ矢継ぎ早に新型車を投入するBMW。そんなBMWが日本市場に投入した最新モデルが4シリーズのグラン クーペだ。グラン クーペは6シリーズにも設定されているように、クーペシリーズにラインアップされる4ドアバージョンとなる。一見類似しているグラン ツーリスモ(GT)は3シリーズにラインアップされており、こちらは違いを明確にするため後述する。

 3シリーズはBMWのメイン車種だけに、兄弟車種の4シリーズと合わせたシリーズ合計が6車型に及ぶ。ちなみに4シリーズではクーペ、カブリオレ、グラン クーペの3車型がラインアップされ、3シリーズではセダン、ツーリング、GTになる。

 しかも、ガソリン、ディーゼル、ハイブリットと3つのパワーソースを持っているのも3&4シリーズの特徴だ。6つの車型と書いたが、パワートレーンとの組み合わせも含めると25モデル、さらにグレードで細分すると99モデルにもなるというからなんとも凄まじい数だ。それだけBMWは3&4シリーズを重視している。

428i グラン クーペ Luxury

 グラン クーペは、クーペに4ドアの機能性とラゲッジの利便性を合わせた多機能クーペで、ドアは4枚あるが後席の乗降性などはあまり重視していない。この点、3シリーズのGTは後席の居住性を犠牲にせず、ファーストバックのボディーとしたもので似て非なるものだ。ちなみに、ディメンションは2810mmのホイールベースは変わらないものの、トレッドは4シリーズの方が広く、グラン クーペが1550/1600mm(フロント/リア、420i グラン クーペ)に対して、GTでは1540/1585mm(同、320i GT)と狭くなっている。

 ちなみに、全長はGTの4825mmに対して4640mmと短い。全幅も1830mmから1825mmとなっており、全体の第一印象は寝かせられたルーフ、四隅に配されたタイヤの効果もあって、グンと引き締まった印象だ。

 テストドライブしたのは435i グラン クーペ M Sportで、3.0リッター ストレート6をパラレルターボで過給したハイパワーモデル。出力は225kW(306PS)/400Nmと大きく、1690㎏の435i グラン クーペを軽々と走らせる。パワーウェイトレシオからすれば5.52㎏/PSなので、その動力性能の素晴らしさは想像がつくというものだ。

435i グラン クーペに搭載される直列6気筒DOHC 3.0リッターツインパワーターボエンジン。最高出力225kW(306PS)/5800rpm、最大トルク400Nm(40.8kgm)/1200-5000rpmを発生
428i グラン クーペに搭載される直列4気筒DOHC 2.0リッターツインパワーターボエンジン。最高出力180kW(245PS)/5000rpm、最大トルク350Nm(35.7kgm)/1250-4800rpmを発生
428i グラン クーペ Luxuryのエキゾースト・テールパイプ。クローム仕上げで左側にレイアウト

 全高はGTの1510mmに対して1395mmとぐんと低いため、乗降性では若干不利になるが、デザイン重視のグラン クーペではこれぐらいのトレードオフは十分に妥協できる。ただし、後席の乗降性は劣るので、後席を重視するユーザーには同じパフォーマンスを誇るGTを薦めておきたい。後席スペースではヘッドクリアランス、レッグルームなどは確保されているが、Cピラーとのクリアランスが限られており、やはり居住性の点では妥協しなければならない。

 グラン クーペは常用で4人が乗るのではなく、ときおり後席も使うというユーザーに適しているし、スタイリッシュなクーペスタイルに4枚のドアと大きなテールゲートを設けたことによる利便性の高さを狙っている。ラゲッジスペースではGTやツーリングの方が広いので、クーペの延長と考えて選んだ方がよいだろう。とはいえ、実用性は高く、後席を使っているときでも480Lのラゲッジルームを確保。さらに後席をすべて前に倒した場合は1300Lのスペースを生み出せるので、大抵の荷物は載せられる。

 このテールゲートは電動開閉式であるだけでなく、キーを持っていればリアバンパー下に蹴りこむように足を入れると自動的にオープンするBMW得意のシステム「オートマチック・テール・ゲート・オペレーション」を備えているので、両手が荷物で塞がっている状態でもテールゲートを開けて積み込めるのはなかなか便利だ。

リアウインドーといっしょに開く大型テールゲートが大きな特徴。テールゲート内外のスイッチによる電動開閉に加え、リアバンパー下部のセンサーでキーを持つオーナーの意図を感知する「オートマチック・テール・ゲート・オペレーション」も採用している
後席のシートバックは60:40の分割可倒が基本で、40:20:40の3分割式(写真)をオプション設定。定員乗車時でも4シリーズ クーペより35L多い480Lの容量を持ち、状況に合わせてシートバックを前方に倒して容量を拡大。最大で1300Lのスペースを生み出せる。さらにフロア下にも収納スペースを設定
ラゲッジ内の左側面にファーストエイドキットや牽引用のフック、DC12Vソケットなどを装備する

穏やかだが、確実性のあるグリップ感と応答性を持つ

 さて、435i グラン クーペ M Sportはフロント:225/40 R19、リア:255/35 R19のブリヂストン製ランフラットタイヤを採用しているが、さすがにBMWはランフラットを履きこなしている。タイヤ開発も進んでいるので、タイヤから感じるゴツゴツした突き上げは最少で、グリップなどの運動性能とのバランスもよく取れている。

 市街地での取りまわしでも幅広タイヤによる煩わしさは感じないし、ちょっと速度の出るような高速道路でも安定して一定のグリップ感があるのは好ましい。ワインディングでもスポーティなステアリング応答性を示し、グリップも適度に高いので安心感がある。

 ただ、バネ下とバネ上の動きにあまり一体感がないのは意外だった。BMWはこの点では一級のドライブフィールを持っているが、少なくとも435グラン クーペ M Sportでは、従来のBMWモデルで感じられたスッキリしたハンドリングの一体感よりも、ボディー上下の動きを収束させながら乗り心地を確保しようとしているように感じられた。BMWも上質な乗り心地というテクノロジーの進化と無縁ではなく、グラン クーペでは2ドアクーペ以上に乗り心地が求められているところから、このような動きになったのかもしれない。この点では、同じ4シリーズでもハンドリングに振れるクーペはBMWのイメージに合う動きを提供してくれる。

435i グラン クーペ M Sportのフロントタイヤ。ブリヂストン製のランフラットタイヤでサイズは225/40 R19。リアタイヤは255/35 R19となる
428i グラン クーペ Luxuryのフロントタイヤ。タイヤサイズは前後とも435i グラン クーペ M Sportと同じで、ホイールがダブルスポークからマルチスポークに変更される
前輪のホイールハウスから空気を抜いてホイール周辺で 発生する乱気流を抑える「エア・ブリーザー」を全車に採用。写真のLuxury仕様はクローム仕上げ、M Sportではハイグロス・ブラックに塗装される

 とはいえ、この一瞬の違和感もちょっと距離を乗ると、素直にグラン クーペのよさだと慣れていった。ハンドリングはキリッとした俊敏な動きより、穏やかだが、確実性のあるグリップ感と応答性を持っており、太いタイヤながら荒れた路面でもハンドルを取られることの少ない素直な動きになっている。

 ちなみにグラン クーペでは、フロントアクスル・キャリアとサイドシルを結ぶトーションバーが設けられ、フロント部の剛性を上げてステアリング操作に対する精度を高めている。

435i グラン クーペ M Sportはダコタ・レザーのスポーツ・シートを標準装備。写真のアイボリー・ホワイトのほか、コーラル・レッドなど4色を設定
435i グラン クーペ M Sportのインパネ
428i グラン クーペ Luxuryのインパネ。スピードメーターは260km/hスケール
アクセルペダルはオルガン式となる
「マルチファンクション・スポーツ・レザー・ステアリング」のスポークには、左側にACC(アクティブ・クルーズ・コントロール)関連、右側にオーディオやハンズフリーなどの操作スイッチを配置
センターコンソールのセレクターレバー周辺に「iDrive コントローラー」やドライビング・パフォーマンス・コントロールの操作スイッチをレイアウト
8速スポーツATはセレクターレバーとステアリングに装備するパドルで変速操作が可能
ドライビング・パフォーマンス・コントロールでは、「コンフォート」「スポーツ」「スポーツ・プラス」「ECO PRO」の4モードを選択可能。インジケーターが点灯しているのは「パーキング・アシスト」のON/OFFスイッチ
スライド、回転、プッシュなどのアクションでさまざまな操作を1個所で行える「iDrive コントローラー」は、ダイヤル部分がタッチパッドになっており、指先での文字入力などに対応する
428i グラン クーペ Luxuryのシート。Luxury仕様車は全車ダコタ・レザーシートを標準装備し、サドル・ブラウン(写真)、ヴェネト・ベージュ、ブラックのシート色は専用ステッチ入りとなる
電動フロントシートは運転席側にメモリー機能を採用する
後席用のエアコン吹き出し口
後席のシートバック中央にドリンクホルダー内蔵のアームレストを設置する

 8速ATは各ギヤの守備範囲が広く、どのようなシチュエーションでもギヤが合っており、なによりも燃費に貢献する。燃費では「ECO PROモード」を選ぶとアクセルオフでトランスミッションとエンジンを切り離す「コースティング機能」が働き、燃費向上に一役買ってくれる。もちろんアイドルストップも備わり、グラン クーペは全車エコカー減税の対象(420i グラン クーペ xDriveは申請中)になっている。

 また、ドライバー支援システムも充実している。レーンキープアシスト、前車接近警告、衝突被害軽減ブレーキなどをセットにした「ドライビング・アシスト」は全車標準装備だ。グレードは直列4気筒ターボの420i、428i、そして直列6気筒ターボの435iがあり、それぞれにStandard、Luxury、M Sportの各モデルがある。さらに420iにはAWDの「xDrive」が用意されており、手厚いラインアップを誇っている。

フロントウインドー上部に「ドライビング・アシスト」用のカメラを装備
フロントバンパー開口部に設けられた「コネクテッドドライブ」用のセンサー
フロントシート上のルーフに「BMW SOSコール」のスイッチを設定
「ドライビング・アシスト」のON/OFFスイッチは運転席前方の右側に設置。「レーン・ディパーチャー・ウォーニング」「前車接近警告機能」は全車標準装備。後方からの接近車両を感知する「レーン・チェンジ・ウォーニング」はオプション設定
BMWヘッドアップ・ディスプレイは435iと428iに標準、420iはオプション設定となる
ETC車載器はルームミラー内蔵型
USBオーディオ・インターフェイスも全車標準装備となる
6ライトウインドーのリアガラスにグラン クーペのエンブレムを設置
Luxury専用のエクステリアバッヂ、ドアシルプレートなども用意されている
ヘッドライトの点灯パターン。フロント&リアのフォグランプは全車標準装備
リアコンビネーションランプの点灯パターン

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会長/12~13年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学