インプレッション

マツダ「デミオ(量産モデル)」

 プロトタイプに触れて好感触を得ていたマツダ「デミオ」の量産モデルを、いよいよ公道でドライブするときがきた。試乗ステージは、芦ノ湖スカイラインを中心とするコース。アップダウンに富んだ大小多彩なRのコーナーが連なるワインディングロードだ。

 好天に恵まれた中、見慣れた景色の中に置いたデミオの姿はあらためて琴線に触れる。この車格の日本車で、ここまでデザインで魅せるクルマがかつて存在しただろうか。ボディーカラーもそうで、おなじみのソウルレッドメタリックは言うまでもないが、新色のダイナミックブルーマイカもなかなかよい。日本車にあまりない、鮮やかで深みのあるブルーも、ひと目見てお気に入りになってしまった。

 プロトタイプでも思ったとおり、インテリアも素晴らしい。マツダがアナウンスしているとおり、まさしく「クラスの概念を打ち破った」と思う。

 この日は直列4気筒DOHC 1.5リッター直噴ターボディーゼル「SKYACTIV-D 1.5」搭載車と、直列4気筒DOHC 1.3リッター直噴ガソリン「SKYACTIV-G 1.3」搭載車のATとMTという4通りともドライブすることができたので、すべて乗り終えた上での印象をお伝えしたい。

マツダ「デミオ プロトタイプ」
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/20140718_658479.html

豊かなトルク感を味わえるディーゼル

直列4気筒DOHC 1.5リッター直噴ターボディーゼル「SKYACTIV-D 1.5」エンジンは、搭載するトランスミッションによって最大トルクの数値が異なる。最高出力は77kW(105PS)/4000rpmで共通、最大トルクは6速AT搭載車が250Nm(25.5kgm)/1500-2500rpm、6速MT車が220Nm(22.4kgm)/1400-3200rpmというスペック。JC08モード燃費は26.4km/L~30.0km/L(2WD)。ちなみに燃料タンクの容量も両車で異なり、6速AT搭載車が44L、6速MT車が35Lとなる

 まずは気になっている人も多いであろうディーゼルについて。1.5リッターという小排気量ながら、可変ジオメトリーターボチャージャーをはじめ、「アテンザ」「アクセラ」に積む2.2リッターとはまた異なる技術を採用し、あまり複雑な後処理システムを要することなくディーゼルのよさを引き出しているのが特徴だ。

 ドライブしてみると、このクラスとしてはほかに心当たりがないほど静粛性に優れることは、プロトタイプでもお伝えしたとおり。圧縮比が低いおかげで振動が小さく、ディーゼルらしい豊かなトルク感を味わえる加速フィールが心地よい。トップエンドの領域も、ツインターボチャージャーの2.2リッターほどの勢いはないにせよ、キレイに吹け上がる。ディーゼルを選んだユーザーの期待をけっして裏切ることのない仕上がりだ。

6速ATを搭載するXD(2WD/178万2000円)のボディーサイズは4060×1695×1500mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2570mm。車両重量は1130kg。15インチアルミホイールを装着(タイヤサイズ:185/65 R15 88S)する。オプションとしてLEDヘッドランプ、アドバンストキーレスエントリーシステム、オートライトシステム、クルーズコントロール、フルオートエアコンなどをセットにした「LEDコンフォートパッケージ」(9万7200円)、ブラインド・スポット・モニタリングや車線逸脱警報システム、ハイ・ビーム・コントロールシステムなどをセットにする「セーフティーパッケージ」(8万6400円)をセットする
グレード別に異なるシート/トリム/加飾パネルなどのカラーや素材を用意する新型デミオ。デミオ XDはシート/ドアトリムにインディゴブラック(クロス)を採用。加飾パネルは高光沢カラー樹脂を使用する。とくに新型デミオではペダルレイアウトにこだわり、疲れにくく踏み間違えることのない最適なペダルレイアウトを実現するべく、先代モデルからフロントタイヤを80mm前方に配置したのが大きな特徴の1つとなっている
こちらはディーゼル車の最高級グレードとなるXD Touring L Package(2WD/199万8000円)。車重は1130kg。16インチアルミホイールを装着(タイヤサイズ:185/60 R16 86H)。インテリアではシート/ドアトリムに「アテンザ」「アクセラ」と同じオフホワイトレザーを採用。ガソリン、ディーゼルを通じてXD Touring、XD Touring L Package(AT車)のみパドルシフトが標準装備される。オプションとしてセーフティーパッケージや独自の減速エネルギー回生システム「i-ELOOP」(6万4800円)をセット

 ただし、大量にEGRを入れているせいもあってか、アクセルを踏み込んだ際の反応が薄いときも見受けられる。ATではそこをトルコンが上手くカバーしているのだが、低回転域ではやや本来のトルクが発揮されていないように感じる状況もある。そこはゆくゆく改善されることに期待したい。

 一方のMTは、前述の特性を把握した上で、当然ながら自分でギヤを選択できるところが強み。こうした箱根の芦ノ湖スカイラインのようなアップダウンに富んだタイトなワインディングを走ると、より楽しいのはMTの方だ。

 サスペンションセッティングも、後述するガソリン車とは異質。フロント軸重はAT同士でディーゼルの方が100㎏重いこともあり、できるだけその重さを感じさせないよう、不必要にサスペンションを動かさない方向でセットアップされている印象だ。そのおかげで重さ感はだいぶ払拭されている。

 16インチタイヤが選べるのは今のところディーゼルのみで、たわみ感はやはり小さく、操縦性がシャープになるのはメリットであるものの、乗り心地を含めた全体のバランスは15インチのほうが微妙にまとまりがよいように感じられた。

素直な出力特性とフラットな走りが魅力のガソリン

直列4気筒DOHC 1.3リッター直噴ガソリンエンジン「SKYACTIV-G 1.3」の最高出力は68kW(92PS)/6000rpm、最大トルクは121Nm(12.3kgm)/4000rpm。JC08モード燃費は21.8km/L~24.6km/L(2WD)

 一方のガソリンも、ディーゼルに押されて影が薄く感じられるところだが、こちらは初出しの1.3リッター版となる。

 けっしてパワフルという印象ではないものの、こちらのスムーズで素直なパワーフィールもこれまた心地よい。前述のように、ディーゼルが状況によっては本来の姿でないところを感じるのに対し、ガソリンはそれがあまりない。ついにマツダも走行モードの切り替えを導入したのは時代を感じさせる部分だが、「SPORT」モードを選択することで走りの印象はかなり変わる。

ガソリン車の最上級グレードとなる13S L Package(2WD/176万400円)。ボディーサイズは4060×1695×1500mm(全長×全幅×全高)。オプションのCD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー(フルセグ、3万2400円)が付く。15インチアルミホイールを装着(タイヤサイズ:185/65 R15 88S)
XD Touring L Packageと同様、オフホワイトレザーを採用するインテリア。シートのセンターを通る赤いストライプがスポーティな印象を高めている。13C、13S、13S L PackageのAT車は自動的に低いギヤ段に設定され、力強い加速が得られる「SPORT」モードを設定。モードの操作はシフトノブ付近に設定されるスイッチで行える
後席は6:4分割可倒式となる

 MTとATではディーゼルほど走りの印象に違いはないが、MTについてはディーゼルが6速のところ、5速になるのは少々残念。ただし、シフトフィールは5速のほうがよいようにも感じられた。

 ディーゼルに対しAT同士で100㎏、MT同士で80㎏も前軸重が軽いので、ハンドリングは軽快そのもの。イナーシャをあまり感じさせない鼻先の軽さが心地よい。また、ガソリンのほうが前後バランスにも優れるせいか、ディーゼルでは荒れた路面を走るとやや気になったバタつき感もガソリンにはなく、全体的にフラット感がある。

写真左はディーゼルの6速MT、写真右はガソリンの5速MT

 そしてあらためて思ったのは、このクラスでステップATが選べることのメリットだ。いまやこのクラスは日本勢はCVT、欧州勢はDCTかAMTが主流となり、ステップATが選べるのは「MINI」ぐらいになった。CVTにもDCTにもメリットがある半面、デメリットも多々ある。筆者はもっとも万能なトランスミッションはトルコン+プラネタリーギヤによるステップATだと考えていて、それがBセグメントのデミオで選べることを、喜ばしく思う次第である。

 また、運転していてあらためて実感したのは自然なドライビングポジションだ。欧州車はもとより、日本製のBセグメント車でも、これがちゃんとできている車種は実はほぼない。デミオはそこに大いにこだわって設計されており、それを運転してしっかり感じ取れるところが素晴らしいと思う。

 ご参考まで、マツダコネクトにも言及しておこう。アクセラで出た当初から、いささか行き届いていない印象を持っていたのだが、マツダでは全力を挙げて改善に取り組んでいるという。開発関係者によると、「すでにかなり改善しましたが、今後も定期的に改善していきます」とのことだったので、期待してよいだろう。

 やはり期待どおり印象は上々だったデミオ。次の機会には市街地や高速道路など、一般ユーザーが日常的に使うようなシチュエーションであらためて試してみたいと思う。

13Cをのぞく全グレードに標準装備される。FacebookやTwitterの読み上げ、インターネットラジオの視聴、ハンズフリー通話、ナビゲーション機能などを搭載するカー・コネクティビティ・システム「MAZDA CONNECT(マツダコネクト)」。燃費情報や各種メンテナンス情報、i-DM情報などに加え、i-ELOOP搭載車はその制御情報も確認できる

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸