インプレッション

マツダ「ロードスター(ND)プロトタイプ」

ドライビング環境へのこだわりを実感

 このときがくるのを心から楽しみにしていた。これまで何度か実車を目にする機会こそあったものの、乗ることは許されなかった4代目となる新型「ロードスター(ND)」のプロトタイプを、いよいよ実際にドライブできる機会が訪れた。かつて初代ロードスター(NA)を所有していた筆者は、愛車がRX-7(FD3S)に変わってからもロードスター専門誌に携わったりして、ロードスターの動向には常に着目していた。

 初代ロードスターでは、「ヒラリ感」と表現されたロードスター特有の乗り味に、筆者も初めてドライブしたときには衝撃を覚え、本当に「運転して楽しい!」と思ったものだ。それから25年。「原点回帰」を図るという新型が果たしてどのようなクルマに仕上がっているのか、非常に興味深く思っていた。

 試乗にあたり、山本修弘主査は「守るために変えていく」というメッセージを強調していた。その意味するところを、ぜひ感じ取りたいところだ。

 このところマツダ車のデザイン力の高さには感心させられてばかりだが、初めて見たときから、筆者は新型ロードスターのスタイリングもかなり気に入っている。

 ボディーサイズは3代目のNC型よりもだいぶ小さくされながらも、存在感はむしろ大きくなったように思えるほど。前後のデザインには歴代ロードスターとは異質の要素を採り入れて新しさを表現するとともに、ボディーパネルに強いラインを一切入れることなく全体的に豊かな表情を表現しているところも新しい。横から見たときの前後セクションの配分も絶妙で、デザイナーがこだわったとおり、オープンカーとしてもっともカッコよく見えるようになっていると思う。

 このように全面的に刷新されていながらも、すぐにでもなじめてしまいそうな、ロードスターらしさを身に着けているところもよい。

現時点で6月以降に発売とアナウンスされている新型ロードスター(ND)のプロトタイプ。詳細なスペックは現段階で発表されていないが、開発目標値としてボディーサイズは3915×1730×1235mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2315mmとの数値が明らかになっている。車重も現行のNCロードスター比で100kg超の軽量化を実現したという

 この日用意された3台は、いずれも日本向けの直列4気筒1.5リッター直噴エンジンを搭載する右ハンドル仕様の6速MTだ。ドアを開けて乗り込み、シートポジションの低さを実感。従来のNC型に比べると、それほど極端には下げられていないものの、新型モデルの試乗直前に乗った初代ロードスターと比べると段違いの低さで、隔世の感がある。

 このところマツダが大いに力を注いでいるドライビングポジションについても、一連のスカイアクティブ採用モデルと同様にこだわったことがうかがえた。シートやペダル類の位置がオフセットしている印象もなく、シフトノブも適切な場所に配されているし、NC型のようにドリンクホルダーを使うとシフト操作の邪魔になってしまうということもなかった。シートクッションの右側には小さなダイヤルが付いていて、回すとシートの前側が上下する。ロードスターには初採用となる同機構のおかげで、より快適なポジションを取れるようになったのもよい。

 また、低められたボンネットや、フロントピラーを後方に配して左右の見開き角が拡大したことで、より開放的な前方視界が確保されている。

ブラックを基調とする新型ロードスターのインテリア(撮影車は左ハンドル仕様)。レザーシートやシフトブーツ、ステアリングなどに赤いステッチが入る、上質な仕上がり。シートクッション右側のダイヤルを回すとシートの前側が上下する機構を備え、より精密なシートポジションを得ることが可能になった

レスポンスと吹け上がりが素晴らしい1.5リッターエンジン

 もちろんオープンのまま、いざコースイン。

 エンジンは1.5リッターでこれだけ楽しめれば十分すぎる。基本的には「アクセラ」に搭載されたものがベースで、アクセラのときも2.0リッターエンジンと比べて回転フィールがよく感じたものだが、ロードスターに搭載するにあたり相応しい味付けを追求したと開発関係者が述べていた、まさしくそのとおりに仕上がっていた。

 まずレスポンスが素晴らしい。アクセルを踏んだ瞬間に遅れることなくパッと前に出て、荷重がリアに移る感覚がある。さらに踏み込むと、このエンジン、本当に1.5リッターなのかと思うくらい元気よく吹け上がり、レッドゾーンの7500rpmまで勢いを衰えさせることなくキッチリ回る。全体の回転フィールも予想よりもずっとスムーズで、NC型のような吸気サウンドを増幅して車内へと伝える「インダクションサウンドエンハンサー」を用いることなく、心地よいスポーティなサウンドを実現しているところもよい。これは素晴らしい!

 マツダのレシプロエンジンで、ここまでフィーリングのよさを感じたことはかつてない。加えて、アクセルオフにしたときの回転落ちが速いのも好印象。これもMTを楽しむ上では重要なことだと思う。

 もう1つ感じたのが、ヒール&トゥがしやすいこと。オルガン式ペダルでもここまでできることに感心させられた。エンジンだけでなくトランスミッションもスカイアクティブによる新開発のもので、シフトフィールは入りやすすぎるぐらいスムーズだ。いささか軽すぎる気もしたのだが、誰でも楽しめるようにするにはこれぐらいがよいと判断したのだろう。

試乗車の直列4気筒1.5リッターエンジン。このほか北米仕様では2.0リッターエンジンのラインアップもあることが明らかになっている

「守るために変えていく」の意味するものは?

 新型ロードスターはスカイアクティブで唯一の後輪駆動車となるわけで、しかもロードスターというキャラクターに合わせてどのようなハンドリングに仕上がっているのか、非常に興味深く思っていたのだが、答えはちょっと意外な気もする、一連の既出モデルとは少々違った印象の乗り味であった。

 具体的には、リアサスペンションをあまり動かさないようにしながら、フロントサスペンションはよく動くようにセッティングされている。横Gをかけたりブレーキングをかけたりしてもリアはあまり動くことはなく、フロントのみが操作したとおりに反応してノーズが動く。これによりリアのスタビリティが高いので少々のことでは流れることもなく、フロントの姿勢により曲がり方が決まっていく、という感じの乗り味に仕上がっている。

 せっかくのクローズドコースなので、最初は全開で走らせていたら、ややフロントの動きが大きく出すぎるように感じた。ところが、ややペースを落とし気味に走ってみたところ、これが実に按配がよい。リアが安定している中で、フロントが意図したとおりリニアに反応して、これからどのように曲がるか、曲がっている最中どうなっているのか、クルマの状態がまさしく手に取るように分かるのだ。なるほど、これが2015年の“人馬一体”なのか。誰でも楽しめることを重視した乗り味といえそうだ。

「守るために変えていく」の意味すること。それはロードスターならではの、25年間ずっと培われてきた運転する歓びにほかならない。そして新型ロードスターは、これまでよりもずっと優しく、誰でもその歓びを味わえるように仕上げられていた。市販開始までもう少し時間があるが、ロードスターを愛する人はもちろん、少しでも多くの人にこのクルマに関心を持っていただき、その素晴らしさを知ってもらえると幸いに思う。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。