インプレッション

レクサス「RC」「RC F」

“かっこよさ”を直感

 レクサスが2005年に日本でスタートして9年あまり。ようやく「RC」のようなクルマが現れたことを喜ばしく思う。ずっと言われているとおり、もう長らく日本車の中で寂しい状態が続いているカテゴリーがクーペである。売れないカテゴリーにわざわざ車種をラインアップするメーカーがないのは当然だろう。

 しかし、それでもクーペは本質的にかっこいいものであり、憧れる人は大勢いる。むろん、日常の足として使うクルマが別に使い勝手のよろしくないクーペである必要性はないのだが、それでも不便さを補ってあまりある魅力があれば、欲しいという人は少なくないはずだ。

 そこに現れたのが、「ラディカルなクーペ」を意味するRCの車名が与えられたクーペ専用のニューモデル。「レクサスのイメージを変える」という目的のため、RCでは見るものを魅了し、乗るものを情熱的にさせるエモーショナルなデザインと走行性能を追求したと開発関係者も熱く語っていたとおり。実車を前にすると、たしかにデザインは文句なく“かっこいい”と素直に思う。

 よく見るとボディーの造形は非常に凝っていて、膨らませたり、凹ませたり、尖がらせたり、つまんだり、意表を突くラインを入れたり、クロームパーツを配したりと、相当いろいろなことをやっている。クーペとしての美しさを全身で表現しつつ、ディテールにいろいろな要素を与えたエクステリアは、誰の目にも印象に残るものに仕上がっている。そこには、できる限りのことをやってやるというデザイナーの強い思いが感じらせる。

RC350 Fスポーツ。ボディーカラーは「ラディアンレッド」
ヘッドライトには「3眼フルLEDヘッドランプ&LEDフロントターンシグナルランプ」を標準装備

 コクピットはボディーサイズ相応の広さ感があると同時に、適度にタイトでもあるのだが、これで狭いと感じる人はセダンを選ぶべきだろう。乗り込んだ瞬間に、レクサスがモットーとしているスポーティさとエレガントさが上手く表現されていることを感じる。レクサスにはインテリアデザインや素材の組み合わせ方においても、欧州プレミアムブランド勢とは一味違った、独特のものがあるとかねてより感じていたが、このRCではより巧みになっている印象を受けた。

 後席はむろん広くはなく、膝前や頭上のクリアランスもないが、シート自体は大きめのサイズが確保されていて、座ってしまえば意外と使えそうな印象だ。

クーペらしい緊張感を伴うタイトな車内。インテリアカラーはブラックで、オーナメントパネルはバンブー
フロントシートの外側肩口に備えられたレバーを操作してリアシートに乗り込む
本革シートの座り心地は良好だが、リアを絞り込んだクーペボディーで頭上や膝前のスペースは限定的
ラゲッジスペースは374L。深さ、奥行きともにしっかり確保されている

走りの本命は、やはりRC350 Fスポーツ

直列4気筒 2.5リッターの「2AR-FSE」エンジンと「1KM」モーターを組み合わせて採用する300h。エンジンは最高出力131kW(178PS)/6000rpm、最大トルク221Nm(22.5kgm)/4200-4800rpm。モーターは最高出力105kW(143PS)、最大トルク300Nm(30.6kgm)となる

 まずは、売れ筋となるであろうハイブリッドモデルの「300h」から試乗。静粛性は申し分なし。加減速については、トヨタ/レクサスのハイブリッドカーというと、とくに小排気量モデルではアクセルペダルの操作に対して加速がリニアでないことが気になりがちだ。しかし、RCではエンジン回転数をきめ細かく制御して、人間の感性と一致するよう心がけたと開発関係者も述べるとおり、実際にもまずまずの仕上がりとなっている。低速域におけるブレーキの扱いと微速発進時のところは、まだ課題がないとは言えないまでも、概ね大きな不満はない。

と開発関係者も述べるとおり、実際にも

 走り出すと、まず快適性に優れていることを実感する。不快な振動のないスッキリとした乗り味を実現している。加えて、生まれながらにスポーツクーペであるRCは、たとえFスポーツでなくてもスポーティな走りを十分に楽しむことができる。これには、構造用接着剤などの採用により剛性の向上した新しいボディーが大いに効いていることに違いない。「IS」や「NX」でもそれまでのレクサス車との違いを感じたが、RCではさらにまた新しい次元に入ったような印象だ。

「ソニックチタニウム」のボディーカラーをまとったRC 300h バージョンL
シート表皮にはセミアリニン本革を採用。オーナメントパネルはアガチス/ダークブラウン色の縞杢となっている

 続いて、走りの本命である「RC350 Fスポーツ」に乗り換え。多くの専用パーツが与えられたFスポーツの内外装は、スポーティなキャラクターを好むユーザーの期待に大いに応えるものだ。ISでも話題となった可動式メーターリングを備えたメーターも、あらためて心くすぐられる。さらには同じく表皮一体発泡シートの心地よい包まれ感についても、そのよさを再確認することができた。

 RC350のFスポーツのみ、後輪操舵も行う「LDH(レクサス・ダイナミック・ハンドリングシステム)」を標準装備しているが、これにより、走り始めて最初にステアリングを切った瞬間から、俊敏な回頭性を味わえることが印象的だ。おそらく、サーキットのようなシーンでは剛性不足を感じることもあるだろうが、コーナーの連なる都市高速を含む公道を、ちょっと速めのペースで走るには本当に気持ちがよい。300hと比べてややフロントヘビーな印象もあるものの、俊敏性と安定感をより一段上のレベルで身に着けている。

自然吸気の3.5リッターV型6気筒エンジンを搭載するRC350 Fスポーツ。最高出力234kW(318PS)/6400rpm、最大トルク380Nm(38.7kgm)/4800rpmを発生
LDHの効果で俊敏な回頭性が味わえるRC350 Fスポーツ。タイヤサイズは前後で異なり、フロントが235/40 R19、リアが265/35 R19

 搭載する3.5リッターのV型6気筒エンジンは、十分すぎる力感はもとより吹け上がりも絶品。重厚感と軽快さの共存するエキゾーストサウンドも心地よい。かつてはこのクラスでは当たり前と思われていた、これぐらいの排気量を持つ自然吸気V6エンジンも貴重になってきたわけで、それを現実的な価格帯で味わえることは魅力的な話だと思う。走りを楽しむのであれば、やはりRC350のFスポーツが大本命だ。

5.0リッターV型8気筒エンジンと新兵器「TVD」にシビレた!

タイヤサイズはフロント255/35 ZR19、275/35 ZR19。フロントブレーキはブレンボ製対向6ピストンアルミキャリパーとφ380mmローターを組み合わせて採用する

 最後に「RC F」を拝借。今回は通常のカタログだけでなく、プレス資料やらなにやらまですべてRCとは別に用意されていたことがまず印象的だったのだが、それだけ力が入っているということだろう。

 アグレッシブさを増した外観は、RCよりもさらに存在感がある。プラス2気筒分、ボンネット前端の形状がふくらんでいることによっても違いは一目瞭然であることに加え、向上したパフォーマンスに合わせてグリル開口部を拡大して冷却性能高めるなど、この外観には走るための機能が深く関連している。また、専用に仕立てられたインテリアの雰囲気も、RCに対してさらに特別感が増している。

ボンネットやルーフパネルなどにカーボンパネルを採用するRC F Carbon Exterior package。価格はRC Fが953万円、RC F Carbon Exterior packageが1030万円

「F」といえばまずエンジンに注目だが、5.0リッターV型8気筒エンジンは目覚めるときの音からして気分を大いに盛り上げてくれる。野太く迫力あるサウンドは大排気量のマルチシリンダーエンジンならでは。アクセルを踏み込むと、強烈な加速Gが立ち上がるとともに、解き放たれたかのようなサウンドを発する。

「IS F」を踏襲したといいながらも、共有となるのはシリンダーブロックのみ。各部の変更により、IS Fに対してエンジンの回転域が500rpmばかり拡大しており、大排気量ながら7300rpmという高いレッドゾーンを実現している。

5.0リッターV型8気筒の2UR-GSEエンジン。最高出力351kW(477PS)/7100rpm、最大トルク530Nm(54.0kgm)/4800-5600rpmを発生

 ドライブすると、さすがは「サウンドとレスポンスを磨き上げた」と開発関係者が胸を張るだけのことはあるという印象。大排気量の自然吸気エンジンならではと言える、アクセルペダルと一体化したような鋭いピックアップと痛快な吹け上がりを身に着けている。最近では同様のキャラクターを持つ欧州勢のハイパフォーマンスモデルは、ダウンサイジング過給エンジンという次のステージにシフトしているところだ。その現実だけを見るとRC Fは遅れているように感じられるが、むしろそうなったことで「本当はこっちのほうがいいよね」ということをあらためて実感できる。

オプションで新たに設定された「TVD(Torque Vectoring Differential)」の装着車と非装着車を両方乗り比べて、市街地走行でどれほど違いが出るものかと思っていたのだが、これがけっこう違った。これは、ランサーエボリューションの「AYC(アクティブヨーコントロール)」のようなものと考えると分かりやすい。状況により後輪の左右で駆動力配分を調整し、ハンドリング特性を変えるというシステムだ。

 モードを切り替えると、街なかのちょっとしたコーナーでもターンインの回頭性が予想と大きく違って面白かった。「サーキット」をチョイスすると、むしろ応答性は穏やかになって安定志向の走りになることも分かった。おそらく、クローズドコースで本格的なスポーツ走行をすれば違いがもっと如実に出ることだろう。また、TVDがあるとステアリングフィール自体もよくなる。オプション価格は43万2000円と安くはないとはいえ、選べばそれなりの価値を感じることができるシステムだ。

後輪駆動車として世界初採用の装備となる「TVD(Torque Vectoring Differential)」のカットモデル
精密電動アクチュエーターにより100分の1秒単位での左右トルク配分を実現
TVDは「スタンダード」「スラローム」「サーキット」の3種類のモードを設定

 それなりに高価だが、大きなドライビングプレジャーを与えてくれるRC Fは、メルセデス・ベンツのAMGやBMWのM、ジャガーのRあたりを対象に比べると、はっちゃけぶりでは彼らのほうが弾けている、ただ、派手ならいいというわけではないし、現状でも十分に刺激的で、もちろん速く、安心して乗れる懐の深さを備えている。それこそこのクルマのキャラクターに違いない。内外装デザインのについても、レクサスならではの世界観を表現することができていると思う。

ドイツ勢を中心に強豪がひしめくこのカテゴリーの中でも、日本発のハイパフォーマンスクーペとして世界に認められる存在に成長するよう願いたい。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛