インプレッション

フォード「フォーカス」(2015年改良モデル)

誕生から5年目でのリファイン

 見ての通りのニューフェイス――大型の台形グリルやボンネット上の力強い“パワードーム”が、まずは見た目の新しさを印象付ける大幅なリファインが施された最新のフォード「フォーカス」をテストドライブした。

 3代目となる現行フォーカスが日本に導入されたのは2013年。そこからのカウントではまだ3年弱だが、実はグローバルな視点から見れば「誕生から5年目でのリファイン」ということになるのが、ここに紹介する最新モデルだ。

 一見してハンサムになったな、と感じられる新型のドライバーズシートへと乗り込んで、早速ポジションを決める。日本導入モデルはもちろん右ハンドル仕様だが、ステアリングやペダル類のレイアウトに違和感はまったくなし。このクラスのモデルとしては珍しく対向式ワイパーを採用するフォーカスだが、払拭時に右側Aピラー付近の拭き残し量が小さくなるように、静止時には右側ブレードが上側となる右ハンドル対応のレイアウトをしっかり採用済みだ。

 ドアミラーの上下双方に“抜け”がよく、ミラーケース背後に生まれる死角がさほど気にならないのも好印象。一方で、輸入車だからと右左折時にコラム左側のレバーを操作してしまうと、突然ワイパーが動き始めて面食らう。実は、この最新フォーカスも従来型同様のタイ工場製。タイ仕様でもウインカーレバーはコラム右側に配置をされるということなので、奇しくもこの部分に関しては「国産車と同様の流儀になる」ということのようだ。

10月3日に発売された、大幅改良を受けた新型「フォーカス」。標準グレードの「スポーツ エコブースト」、上級グレードの「スポーツプラス エコブースト」の2モデルを設定。今回撮影した「スポーツプラス エコブースト」の価格は349万円。ボディーサイズは4385×1810×1470㎜(全長×全幅×全高)でホイールベースは2650mm。ステアリング位置は右のみの設定。乗車定員は5名
エクステリアでは、大型の台形グリルやエンジンフード中央部が隆起した「パワードーム」を採用するとともに、スポーティなスタイリングを強調する「スポーツ・ボディキット」などを標準装備。今回の改良でヘッドランプ(HID)やテールランプのデザインも変更を受けている
17インチアルミホイールを標準装備
空力性能が高そうなリアスポイラーも標準装備となる
今回の大幅改良で従来の自然吸気 直列4気筒2.0リッターエンジン&6速DCTから直列4気筒DOHC 1.5リッター直噴ターボ&6速ATの組み合わせに変更。最高出力は132kW(180PS)/6000rpm、最大トルクは240Nm(24.5kgm)/1600-5000rpmと、従来から10PS/38Nm出力が向上するとともに、燃費性能は約20%改善され、JC08モード燃費は14.3km/Lを実現している

 日本に導入されるモデルは、1ボディー/1エンジン/1トランスミッションに2グレードという設定。今回テストドライブを行った「スポーツプラス エコブースト」は、レザーシートに加えレーダー式クルーズコントロールやレーンキープ・システム、リアビューカメラなど、ドライバー・アシスト・アイテムを充実させた上級モデルという位置付け。ベースグレードの「スポーツ エコブースト」との間に外観上の差異はないものの、“キャンディーレッド”のボディーカラーは「スポーツ エコブースト」には用意されず、上級グレードのみの専用色という設定だ。

 インテリアの質感は、このクラスの標準レベルという印象。チープな雰囲気は漂わない一方で、ゴルフを筆頭とした周辺ライバルに対し、特に抜きん出ていると感心する部分も見当たらない。

 ATセレクター側面のスイッチを親指で操作する、決して扱いやすいとは思えなかったシーケンシャル変速操作時の独特のロジックが、ようやくオーソドックスなシフトパドル方式に変更されたのは朗報。オプション設定ながら、オリジナルのセンターディスプレイをそのまま生かして、ナビゲーションシステム機能を使うことができるのも嬉しいポイントだ。

 一方で、せっかく用意された音声操作機能は日本向けにはローカライズされておらず、何と英語の発声しか受け付けてくれない。それも“カタカナ英語”レベルでは通用せずネイティブな音声を要求してくるので、日本でこの機能の恩恵に預かれる人はわずかになりそうだ。

「スポーツプラス エコブースト」のインテリア
新型フォーカスでは新たにパドルシフトを採用した6速ATを搭載。「スポーツプラス エコブースト」ではレザーシート&運転席パワーシートを標準装備したほか、安全装備としてACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)や、車線逸脱警告/車線逸脱補正システム「レーンキープ・システム」、前方車両に接近しすぎると警告を行う「ディスタンス・インディケーション(前方車間警告表示)」などを標準装備。50km/h以下で走行中に作動する自動ブレーキシステムは全グレードに標準装備される
後席は6:4分割可倒式を採用
タコメーターとスピードメーターの間にレイアウトされる液晶モニターの表示例。文字は英文で、日本語表示はされない
インパネ中央にあるモニターの表示例。縦列駐車および後退による車庫入れを行う際にハンドル操作を自動で行う「アクティブ・パークアシスト」の操作もここで行う

日本でもあと10倍は売れても不思議はない

 今回行われたリファインの中でも最大ポイントとなる、従来の自然吸気 直列4気筒2.0リッターエンジンからスイッチされた直列4気筒DOHC 1.5リッター直噴ターボのダウンサイズユニット「エコブースト・エンジン」にいよいよ火を入れる。

 と、すでにこの段階から実感できるのが、静粛性が向上したことだ。エンジンルームからの透過音は明確にそのボリュームを下げ、それゆえ走り始める以前の段階から上質感が増している。そして、そんな好印象は走り出した後も継続。実は、新型ではガラスの厚みアップやカーペットの改良などで静粛性の向上が図られ、その効果が大いに現れているというわけだ。

 6速ATと組み合わされた新エンジンが生み出す動力性能は、排気量が大きく上回っていた従来型に対しても、まったくヒケをとらない強力さ。それもそのはずで、180PSという最高出力、240Nmという最大トルク値は従来型を上回るもの。特に、最新ターボエンジンの例に漏れず1600rpmという低い回転数から発せられる最大トルク値により、こうした低回転域を常用する街乗りシーンでの力強さは、大幅に向上しているのだ。

 そんな街乗りシーンでの走りがなかなか爽快感に富んでいるのは、特に低速域では軽くすっきりした操舵感を味わわせてくれるステアリングの味付けによる部分も大きい。その一方でちょっと気になったのは、前述のようにパフォーマンス面では十二分に満足できるエンジンが発する振動が全般にやや大きめで、時にそれがペダル類にまで伝わるのを意識させられてしまうことだ。

 トルコン式ステップATの強みで微低速時の動きは滑らかである一方、駆動力のタイトな伝達感が少々希薄で、昨今のATの中にあっては滑り感が大きめなのも、爽快で気分のよい走りの演出に向けてはまだリファインの余地を残しているように思える。

 ところで、そもそもフォーカスの走りの美点は、軽快かつ正確なハンドリングの感覚にもあった。そうした特長は新型にも受け継がれている。いや、それどころかそうした好ましいポイントはしっかりとキープしたままに、乗り味の上質さには確実に磨きが掛かっているのが新型の乗り味なのだ。

 接地性の高さにも繋がるサスペンションの動きはより滑らかさを増し、結果として走りのポテンシャルとともに快適性が確実にアップ。その上で、すでに述べたように静粛性も高まっているから、走り全体の質感が1クラスアップしたような感覚を抱くというわけだ。

 端的に言って、日本ではまだまだ知名度が今1つなのがフォーカスというモデル。しかし、そのポテンシャルはどのようなアングルから見ても、かくも高いものなのだ。実は、日本以外の多くの国でトップセラーを記録しているというのも“さもありなん”。日本でもあと10倍は売れてもまったく不思議はないと真にそう思える“実力車”が、このモデルであるというわけだ。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は、2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式にしてようやく1万kmを突破したばかりの“オリジナル型”スマート、2001年式にしてこちらは2013年に10万kmを突破したルポGTI。「きっと“ピエヒの夢”に違いないこんな採算度外視? の拘りのスモールカーは、もう永遠に生まれ得ないだろう……」と手放せなくなった“ルポ蔵”ことルポGTIは、ドイツ・フランクフルト空港近くの地下パーキングに置き去り中。

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Photo:中野英幸