インプレッション

メルセデス・ベンツ「Vクラス」(2016年フルモデルチェンジ)

1~3列目まで快適な座り心地

「メルセデス・ベンツがミニバンを造るとこうなる」という分かりやすい1台、それが新型「Vクラス」だ。最大の特徴は、メルセデス・ベンツ各モデルが搭載する先進安全技術ADAS(Advanced Driver Assistance Systems)である「レーダーセーフティパッケージ」を採用した「プレミアムミニバン」であること。加えて、ユーザーの使い勝手に合わせて標準/ロング/エクストラロングという3タイプのボディサイズから選べる点も、国産ミニバンに対するアドバンテージだ。

 ボディサイズの詳細は以下のとおり。標準ボディは全長4905mm/ホイールベース3200mm/リアオーバーハング800mm、ロングボディは5105mm/3200mm/1045mm、エクストラロングボディは5380mm/3430mm/1045mmといった具合。全幅1930mmと全高1880mmは3タイプとも同一だ。シート配列は全タイプとも3列で、乗車定員は2/2/3名の7名とこちらも共通する。

 標準ボディはトヨタ「アルファード」の4935mm、日産「エルグランド」の4975mm、ホンダ「オデッセイ」の4830mm(数値は各モデルの最大全長)とほぼ同じであるが、国産勢は全幅/全高がそれぞれ1850mm/1950mm、1850mm/1815mm、1820mm/1715mm(同順順番で各モデルの最大値)と若干小さい。

今回撮影した「V 220 d アバンギャルド エクストラロング」(オブシディアンブラック)のボディサイズは5380×1930×1880mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース3430mm。乗車定員は7名で、価格は730万円。なお、新型Vクラスでは全長5150mm/ホイールベース3200mmの「V 220 d アバンギャルド ロング」、全長4905mm/ホイールベース3200mmの「V 220 d」「V 220 d トレンド」も設定する
5ツインスポーク18インチアルミホイール(タイヤサイズ:245/45 R18)を装着
新型Vクラスではリアゲートに開閉式のリアウィンドウが備わる。写真左はリアゲートを、右はリアウィンドウを開けたところ。リアウィンドウの開閉はリアゲートの開閉に対して半分程度のスペースで済むので、狭い場所での荷物の出し入れにとても便利

 こうしてカタログスペックだけで比べてみると、たとえばアルファードを少し幅広にしたイメージを持たれると思うが、見比べてみると違いは歴然。Vクラスはボディに垂直面が多く、3面ともにウィンドウ面積が大きいため数値以上に大きさを感じる。もっとも、垂直面といいつつ絶壁ではなく、実際には段差のほとんどないフラッシュサーフェス化された3次元的なうねりが織り込まれた滑らかな面構成となるのだが、いかんせん押し出しが強い。なかでも試乗したエクストラロングボディとなると、ミニバンというよりちょっとした「マイクロバス」(いわゆる小型バス)といった雰囲気がある。

 今回はミニバンということもあって、試乗を行なう前に2列目シートと3列目シートの具合をチェックしてみた。挟み込み防止機構が付いた電動デュアルスライディングドアを開けて車内に乗り込む。「やっぱり広い……、はずなんだけど圧迫感があるな」というのが第一印象だ。ひときわ大きなエクストラロングボディなのに、乗り込むとそれほど広さを感じない。

 その理由はシートサイズにあった。2列目、3列目ともに座面/背もたれ部分が国産ミニバンのそれからすると格段に大きく、とくに3列目は国産の2列目シートと同等かそれ以上に大きく非常にゆったりしている。つまり、3列合わせて7名分のでっかいシートが鎮座しているため車内が狭く感じられたのだ。

ベージュを基調にしたインテリア。撮影車ではナッパレザーシート、レザーインテリアパッケージ(ダッシュボード、ドア内張り、センターコンソール)、ステンレスアクセル&ブレーキペダル(ラバースタッド付き)、シートベンチレーター(前席)、収納式センターテーブル(スライド、取り外し可能)、アンスラサイトウッド調インテリアトリムをセットにした「ナッパレザーエクスクルーシブパッケージ」(60万円)、「リアエンターテインメントシステム」(27万円)、「フロントコンソールボックス」(16万2000円)などを装備する
8.4インチのディスプレイを持つインフォテインメントシステム「COMANDシステム」は、センターコンソールのコントローラーで操作を行なう。ディスプレイにはナビや車両設定、燃費などのほか、インターネット接続による天気情報などの表示も可能
メーターパネル中央に高精細表示のカラーマルチファンクションディスプレイが備わる。スピードメーターは260km/hまで刻まれる。タコメーターのレッドゾーンは4200rpmから
吊り下げ式のアクセル/ブレーキペダル
前席頭上にレイアウトされるスイッチ類
オプション設定のリアエンターテインメントシステム
大柄なボディを持つだけにバックカメラなどは必須。新型Vクラスでは4つのカメラにより前方視界、後方視界に加え自車を真上から見るような「トップビュー」表示も可能
ラゲッジスペースでは上下を2つに分割する「ラゲッジルームセパレーター」(V 220 d トレンド以外に全車標準装備)が備わり、リアウィンドウを開けることで簡単に荷物の出し入れが行なえる。耐荷重は約50kg。また、ラゲッジスペースを大きく使いたいときは跳ね上げることも可能

 肝心の座り心地は、見かけどおりに大満足。2列目は言うに及ばず、3列目であっても足下スペースを含め快適そのもの。シート座面が国産ミニバン勢よりも10cm程度高く、ゆったり脚が伸ばせる点も個人的には高評価だ。エクストラロングはレザーシートが標準装備となるが、オプションの「エクスクルーシブパッケージ」を選択すると、標準のレザー表皮よりも上質で丁寧な鞣し工程を経たナッパレザーシートにグレードアップされるのだが、表皮云々という以前にシートの骨格が大きくしっかりしており、身体を預けた際の安堵感は大げさではなく飛行機のシート並。さすがに「ビジネスクラス」級ではなく「プレミアムエコノミー」級ではあるが。

 クルマはシートが大切であると改めて実感したのだが、もっとも欧米ではこのシートサイズと造り込みがなければ立派な体躯の乗員が快適に過ごすことができない。冒頭の「メルセデス・ベンツがミニバンを造ると~」、という話は、彼らが多人数で快適に移動することを考えれば至極当然であったのだ。

写真左から3列目、2列目、1列目。2列目と3列目シートは脱着式を採用するほか、対座シートレイアウトにすることもできる
トレイ付きの「収納式センターテーブル」を使っているところ。左右2枚の天板を広げることでテーブルとして利用できる

 ちなみに2列目、3列目のシートはすべて取り外しが可能。そのため、シートベルトはシート内蔵型となり、当然むちゃくちゃ重く、脱着にはかなりの時間が必要だ。加えて、外したシートの保管場所をどうするのかという疑問も沸いてくるが……。その点、駆使するかどうかは別として、ほぼワンアクションでシートアレンジが複数楽しめる国産ミニバン勢のカラクリには、ただただ感心するばかり。

エンジンは2.2リッターディーゼルターボのみの展開

 搭載エンジンは直列4気筒DOHC 2.2リッター直噴ディーゼルターボ「OM651」1本。これで勝負をかけてきた。ハイブリッドモデルのみならずマルチシリンダーでラインアップを増やす国産ミニバン勢に対抗するには、これくらいの割り切りが必要だったか。いずれにしろ、Vクラスの車両重量は2280~2490kgと重量級であるため、トルク特性に優れるディーゼルが有利である点は間違いない。

 このエンジンは、すでにCクラスやEクラスに搭載されているものと型式こそ同じだが、Vクラス用として日本の道路事情に合わせた専用チューン(163PS/3800rpm、380Nm/1400-2400rpm)が施されている。具体的には、ターボによる過給効果が得られにくい低回転域から多用する中回転域まで最大トルクを発揮させ、メルセデス・ベンツが謳うプレミアムミニバンにふさわしい静かで上質な走りを実現。

 これにより、従来モデルが搭載していたV型6気筒3.5リッターエンジンから最大トルクを40Nm大きくしながら、発生回転数は1100rpm低く抑えられた。トランスミッションは7速ギヤ段を持つ「7G-TRONIC PLUS」で、ステアリングコラム右脇のダイレクトシフト(フルロジックコントロール式)との組み合わせだ。JC08モード燃費は従来モデルから約2倍(!)の15.3km/Lへと向上。前面投影面積の大きなボディで空力面では不利ながら、ディーゼルだけに高速巡航燃費も期待できるだろう。

直列4気筒DOHC 2.2リッター直噴ディーゼルターボ「OM651」エンジンは最高出力120kW(163PS)/3800rpm、最大トルク380Nm(38.7kgm)/1400-2400rpmを発生。JC08モード燃費は全グレードにわたり15.3km/Lをマークし、エコカー減税によって自動車取得税と自動車重量税が免税(100%減税)される

 ドライブフィールはスペックどおり、タイヤのひと転がり目から力強さが際立つ。日本ではポスト新長期規制、欧州ではユーロ6レベルをクリアしてこそ“クリーンディーゼル”の称号が得られるが、クリーンなエミッションの獲得と引き替えに極低回転域でのトルク不足を招くことが多い。こうした事象は意外にも、排気量1万2000cc以上の大型トラック&バス用ディーゼルエンジンでも同じことで、低排気量になればなるほどこうしたトレードオフの関係は顕在化する。

 OM651型では、他のメルセデス・ベンツのディーゼルエンジン同様に、アフタートリートメントとしてDPF(ディーゼル微粒子除去装置)とSCR(選択触媒還元方式)のダブル触媒によるBlueTECシステムを搭載するが、登場から10年以上が経過した今、技術の熟成とともに高い走行性能と優れた環境対応力を併せ持つまでに成長した。

 ちなみに、今後も排出ガス規制は厳しくなる傾向にあるが、相克するNOxとPMの排出問題で後処理として対応が迫られるのは主にNOxだ。つまり、将来的にはNOxをさらに高度な次元で取り除く必要性が出てくるわけだが、そうなると原資であるAdBlue(尿素水)の消費が増えてくる。現在、アフタートリートメントの性能、とりわけAdBlueの消費量についてはあまり取り沙汰されていないが、10年もしないうちに競争領域の1つに加わるはずだ。

 話は少しそれたが、Vクラスの走りは力強く、そして柔軟性に富んだものでストレスがない。アクセルストロークは同社のセダンタイプよりも意図的に深めだが、これによって加速度の変化量(加速度を微分した数値)に応じたアクセルコントロールが無意識に行なえるため、イメージどおりの加速フィールを生み出しやすい。ロングドライブになりがちなミニバンにはありがたい特性だ。

 しかも、右足の踏み込み量だけでなく踏み込み速度にもしっかりと応答してくれるため、微速から中速域までの加速、たとえば、ここでは40km/hまでじわっと加速、合流シーンでは80km/hまで一気にという使い分けも容易だ。

 プレミアムミニバンを謳うだけに車両価格は535万円(これは受注生産グレードなので、実質は1つ上のグレードである620万円が実質のボトムグレードか)~730万円という高価格帯となるが、3タイプのボディサイズ、そして扱いやすくて低燃費なディーゼルエンジンを武器に日本のユーザーにどこまで受け入れられるのか。今後の展開が楽しみなミニバンだ。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員

Photo:高橋 学