【インプレッション・リポート】
スバル「インプレッサXV」

Text by 岡本幸一郎


 インプレッサのクロスオーバーモデル「インプレッサXV」が発売された。5ドアハッチバックのインプレッサをベースに、SUVライクに仕立てた、いわばインプレッサ版アウトバックといった存在。

 2010年3月のジュネーブショーで初披露されてほどなく欧州で発売。手頃な価格とサイズで楽しそうな雰囲気のあるこのクルマの発売を、この路線が受けている欧州だけでなく、日本でも待っていた人は少なくないのではと思う。ちなみに車名の「XV」の、「X」はクロスオーバー、「V」はビークルの意味らしい。コンセプトは「スバルが提案する新しいクロスオーバー“Active Sports Gear”」という。

 ベース車となるインプレッサ5ドアハッチバックからの変更点は、エクステリアがメイン。アウトドアイメージの意匠とされたバンパーやグリル、サイドクラッディングやルーフレールの追加など、見てのとおりだ。また、Cピラーまでまわりこんだ大型ルーフスポイラーの追加により、ハッチバックというよりショートワゴンのようなフォルムにも見える。

 4430×1770×1520mm(全長×全幅×全高)というボディーサイズは、ベース車に対し15mm長く、30mmワイドで、45mm背が高くなっているが、これはすべて専用エクステリアパーツの装着によるもの。しかし、この車高なら立体駐車場にもまったく問題なく収まる。

 一見すると、最低地上高が高くなったようにも見えるのだが、実はタイヤサイズはベース車と同じで、155mmという最低地上高にも変化はない。ただ、バランス的にタイヤが小さく見えるようになった気もしなくないが、SUVテイストとはいえカジュアルでとっつきやすい雰囲気にまとまっている。

 インテリアのつくり自体はベース車から変わった部分はないが、シートのステッチをダークブラウンとしたほか、ドアトリムやセンターコンソールにも同じ素材の表皮を用いているのが特徴だ。

 クルマが放つ雰囲気からして、なんとなくユーティリティが上がっているような錯覚に見舞われるところだが、既存の5ドアハッチバックのベース車とまったく同じである。ただ、しっかりとしたルーフレールがオプションではなく標準で備わるので、ルーフキャリア等を付けたい人には、こちらのほうが便利ではある。

 日本仕様のエンジンおよびグレードは2タイプで、81kW(110PS)の1.5リッターDOHCを搭載する「1.5i」と、103kW(140PS)の2リッターSOHCを搭載する「2.0i」の設定。トランスミッションは、両グレードとも4速ATがあり、1.5iのみ5速MTも選べ、そのすべてにおいてFFとAWDの両方の駆動方式が選べる。AWDシステムは、AT車はアクティブトルクスプリット方式、MT車はビスカスLSD付センターデフ方式となる。

 価格帯は、1.5iが178万5000円~200万5500円、2.0iが197万4000円~214万2000円。ハッチバックモデルの車両価格の下限が149万1000円なので、けっこう価格が上がっているかと思いきやそうでもない。装備品を考慮すると、XVの1.5iのベースは、ハッチバックの1.5i-S(価格168万円~190万500円)、XVの2.0iはベースも2.0i(189万円~205万8000円)という感じになるので、実は10万円程度の差でしかない。こうなると俄然、買い得感があるように思えてくるというものだ。

 そういえば、筆者はジュネーブショーには行っていないのだが、偶然このクルマを4月に神奈川某所の富士重工のモータープールで見かけたことがある。ズラリと並んだインプレッサXVは、当時はまだ日本でどういう扱いになるのかさだかではなかったが、ハッチバックよりもバリューが高そうに見えて、もし自分がインプレッサを買うとしたらコッチのほうが断然イイじゃん、早く日本でも売ってくれればよいのに、と感じたものだ。

 それが現実のものとなったのは、WRX系の改良の1週間前にあたる6月24日だ。あわせてインプレッサシリーズの一部改良が行われ、各グレードの装備類が若干見直されるとともに、XVのテーマカラーにもなっている新色カメリアレッド・パールがハッチバックにも採用された。

 内外装やパワートレインについては述べてきたとおりだが、シャシーはベース車に対し、リアスタビライザーの追加、ダンパー減衰力の最適化など手が加えられている。ちなみに車両重量の差は30kgと考えてよいだろう。

 走りについては、ベース車よりも見た目の印象とは裏腹に、軽快感が増した印象だ。ベース車についてあらためていうと、当初は快適性に振りすぎた印象があって、やや軟弱な印象があった。ところが、2009年秋の改良で、スプリングレートの最適化や、ダンパーの減衰特性の見直しとともに、リアに振動を効果的に吸収するバルブ構造を採用するなどの変更が施され、さらにステアリングの特性も変更したことで、しっかり感が増し、操縦安定性が向上した。

 そして今回のXVも、しなやかに動くサスペンションは、ストローク量も確保されていて、乗り心地が十分によい上、欧州車的な、より引き締まった印象も備わった。さらに、スタビライザーが追加されたことで、ロール剛性も高まり、姿勢変化が抑えられている。持ち前のシンメトリカルAWDによる低い重心高と前後左右の重量配分の好バランスがもたらす安定感もアドバンテージだ。

XVのサスペンションは、よりスポーティに味付けしたという

 このクルマのルックスにも見合う、悪路走破性についても、ベース車から何か変わったわけではないが、もともと優れているのでヨシだろう。まあ、SUVといっても、本当にクロカン性能が必要なシチュエーションというのは、ここ日本にはほとんどないわけで、ようするに降雪地で満足に走ってくれればOKだと思う。そうなると惜しいのは、横滑り防止装置の設定がない点で、ここはなるべく早く対処して欲しいところだ。

 そんなインプレッサ XVの7月の受注台数は、月販目標200台の約2.2倍に達したとのこと。価格も安いので、もっと多くても驚かないところだが、なんとなくこのクルマに対するスバルのPR活動が、ちょっと手薄のような気もしなくないところではある。

 個人的には、このプチ・アウトバック的な感じはけっこう好み。少なくとも、WRX STIではないハッチバックのインプレッサを買うのならXVのほうがイイと思うし、たとえばフィットあたりのBセグメント車と比べても価格は大差なくて、得られる満足感はずっと大きいのではと思っている。

 ただし、動力性能については、2リッター、1.5リッターともども、どちらもイマイチ。燃費のカタログ値だってよろしくはない。水平対向エンジンは低速トルクがないとか、ATが4速ATだからダメとかというのは短絡的な発想で正しくないと思う。それらについては改めて述べるとして、とにかく現状のドライバビリティは少なからず不満が残る。とくに1.5リッターを買うとなると、割り切りというかガマンへの覚悟も必要だろう。

せっかく他がよい分、エンジンのポテンシャルが残念でならない

 ちなみに欧州では、ディーゼルターボの設定もある。日本でも、なにもWRX STIほどでなくてよいから、ハッチバックの2.0GTのような、あるいは、いつぞやのアウトバックXTのように評判のよいターボエンジンを積んだクルマを、たとえ台数限定でもよいから、発売してくれればと思ってしまった。逆にいうと、それをやる価値があると思うくらい、このクルマの商品コンセプトには賛同しているという意味とご理解いただけると幸いである。

2010年 9月 6日