【インプレッション・リポート】
フーガ ハイブリッド

Text by 岡本幸一郎


 現行フーガの登場からちょうど1年、日産初の市販ハイブリッド車(HV)である「フーガ ハイブリッド」が2010年11月に発売された。

 HVの分野ではいささか出遅れた感のあった日産だが、実は1モーター2クラッチ方式という独自システムの開発を進めており、それがいよいよ陽の目を見るに至ったわけだ。ガソリンエンジン車から遅れて市場投入となったのは、リチウムイオンバッテリー調達のための体制構築に時間を要したという事情による。

 フーガ ハイブリッドに関する情報でまずインパクトがあったのが、このクラスの10・15モード燃費で19.0km/Lを達成したことだ。同クラスのトヨタ「クラウン ハイブリッド」(15.8km/L)やレクサス「GS450h」(14.2km/L)に対しても、2割以上改善した数字となる。また、開発陣による実走テストで、横浜から鹿児島までの1373kmを無給油で走破したこともすでに報じられているが、計算すると21km/L近い実燃費をマークしたことになり、これは大したものだと思う。

フーガ ハイブリッドに搭載される1モーター2クラッチ方式の「ピュア ドライブ ハイブリッドシステム」

 実際に走ってみても、エンジンがとても頻繁に止まることに驚かされた。感覚としては、運転している時間のうち半分くらいはエンジンが止まっている印象。また、モーターのみで走行できる速度域が広く、高速巡航時でもモーターだけで走れる時間が長いのは、トヨタのHVシリーズでは味わえない感覚だ。

 ハイブリッドシステムの特徴としては、トルコン(トルクコンバーター)を持たない点が大きい。このため、駆動力がトルコンに吸収されることがないので、マニュアルトランスミッションと同等にロスが小さく、走りにダイレクト感があるというのがメリットになるが、一方でクラッチをつなぐ際にクッション役を担う部品がないため、唐突にガツンと衝撃を伴うというデメリットも挙げられる。EV走行時からエンジンが始動するときや、ゆるい上り勾配を上っている際にとくにこの症状が現れやすく感じた。

 ただし、以前に神奈川県横須賀市内にある日産のテストコース「追浜グランドライブ」で行われた先進技術説明会で、スカイラインに同システムの前身を搭載した試作車に乗せてもらう機会があったのだが、そのときの印象に比べると、はるかにスムーズになっていた。この問題を解決するために開発陣も相当に苦労したようだが、もう少し煮詰まっていればよかったというのが正直な印象だ。

 このクルマを求めるユーザー層がどう感じるかと想像しても、現状で文句の出ない最低ラインか、やや下回るぐらいかと思う。

エンジンはV型6気筒DOHC 3.5リッターを搭載高速巡航時もモーターだけで走れる時間が長い

 動力性能については、スカイラインの試作車は「これでもか!」というくらいパワフルな印象だったが、それと比べて少々なりをひそめたものの、ガソリン車の上級グレードに搭載する3.7リッターエンジンにひけをとらないポテンシャルを持っている。

 しかし、アクセルペダルを強く踏み込んだとき、実際に加速が始まるまでに大きいときで約1秒のタイムラグがあるのが気になる。フル加速するシチュエーションはそうそうあるものではないが、追い越し時など、いざというときほどレスポンスよく加速して欲しいものなので、もう少しタイムラグが小さいほうが好ましいと思う。

 フットワークについては、システム搭載により車両重量がガソリンエンジン車に対して130~140kg増となっているため、全体的にやや重くなった印象はあるものの、ベース車のよさを概ねそのまま受け継いでいる。

 気になったのは、なぜか直進性がやや甘いように感じられたことだ。この症状は電動パワステ搭載車に多く、当初はフーガ ハイブリッドも電動パワステを採用したのかと思ったのだが、実際に採用されたのは電動ではなく電動油圧式。理由は自然なフィーリングを追求したためとのことだが、実際には、中立付近が妙に軽く曖昧な印象を受けた。こちらも改善を望みたいポイントの1つだ。

 また、HVというと回生ブレーキの違和感も気になるところだが、フーガ ハイブリッドも協調回生を行っており、リーフと同じシステムを搭載する。現状では、高速域からのブレーキングは比較的スムーズなのだが、60km/h以下の低中速域からのブレーキングでは“カックン”となることが多く、ややペダル操作に対して制動Gの発生が一定しない感覚があった。リーフではもっと違和感が小さく感じたのだが、聞けば車重がだいぶ違うし、減速時にATがシフトダウンする分だけ、フーガ ハイブリッドでは難しい部分があるようだ。回生ブレーキの違和感というのは、EV(電気自動車)やHVの宿命でもあるわけだが、さらなる改善に期待したいと思う。

 静粛性についてはガソリン車と同様に優れており、なんら気になる部分はない。現行フーガはガソリンエンジン車も含めてアクティブノイズコントローラーを装着しており、これが非常によい仕事をしてくれているのだが、フーガ ハイブリッドはトルコンがなく、条件がガソリン車よりもシビアになるので、より積極的にアクティブノイズコントローラーを使うことで静粛性を高めていると言う。「ハイブリッドカーは静か」というイメージを損なわないよう、相当な努力を重ねて現状の静粛性をもたらしているわけである。

前席、後席ともに高い居住性、静粛性を誇る

 エクステリアでは、1色だけ専用色の「エターナルスノーホワイト」を用意したものの、バッヂとホイール以外にハイブリッドを表すものはない。

 インテリアも基本的な部分は共通で、銀粉をまぶした本木目パネルや、セミアニリン本革シート、ボーズ製のオーディオなど、ベース車譲りの特徴を受け継いでいるが、メーターまわりやカーウイングスナビゲーションシステムにハイブリッドならではの専用表示機能が設定されている点が異なる。

専用装備の18インチアルミホイール。タイヤサイズは245/50 R18フロントフェンダー部に配置するハイブリッドのバッヂマニュアルモード付きの7速ハイブリッドトランスミッションを搭載
前後席ともにセミアニリン本革シートを採用助手席はオットマン機能を搭載する

 言うまでもなく、エコに関する表示機能が充実しており、トリップメーターでEVモード走行距離を表示させる機能や、カーナビ画面に地図、エネルギーモニター、平均燃費/瞬間燃費の3画面を同時に表示させることができるなど、ハイブリッドカーでも初となる表示機能が与えられているのが特徴だ。また、メーターパネル中央のタコメーターとスピードメーターの間にエネルギーモニターを表示させることができるし、タコメーターがあること自体も特徴的だ。

 トヨタの多くのHVでは、タコメーターが廃されているケースは少なくないが、フーガ ハイブリッドはエンジンが止まるたびにタコメーターの針がゼロになるのを楽しめるのも、このクルマならではと言えよう。

 こうした一連の表示機能により、視覚的にエコドライブを意識させ、それを楽しみながら自然に運転の仕方もエコドライブになるという、好循環が期待できる。また、ガソリンエンジン車でほぼオプション扱いとなる、先進機能を持つ数々の安全装備を組み合わせた「セーフティシールドパッケージ」が標準で付くところもポイントだ。

メーターパネル。パネル中央にはエネルギーモニターなどを表示できるエネルギーモニターカーナビ画面は地図、エネルギーモニター、平均燃費/瞬間燃費の3画面表示が可能

 トランク容量についても、当初はゴルフバッグが2個しか積めなかったところ、形状を工夫して4個積めるようにしたとのこと。実際、ガソリン車に比べると奥行きこそ小さくなったものの、手前側が広く確保されているので、実用上はなんら問題はないと思う。やはり、このクルマの購入層を考えると、より多くの荷物を積めたほうがよいに決まっているし、ライバルのクラウン ハイブリッドだって4個積めるのだから、そこは負けるわけにはいかないというものだ。

 前述のとおり、近い将来に改善されるであろう点はいくつか見受けられたものの、エンジンが停止する時間が長かったのは、とても衝撃的だった。現在、欧州のプレミアムブランドも、さまざまな方式でハイブリッドシステムの開発を進めているので、このクラスでもいずれは燃費20km/L超というのが当たり前になっていくのかもしれないが、フーガ ハイブリッドはそれにいちはやく近づいた、記憶に残る1台になるのではないかと思う。


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2011年 1月 14日