【インプレッション・リポート】
メルセデス・ベンツ「Bクラス」

Text by まるも亜希子


 

 新型Bクラスは、未来のプレミアムコンパクトのあるべき姿──。2011年9月のフランクフルト・モーターショーでワールドプレミアとなった、メルセデス・ベンツ「Bクラス」の2代目モデルには、そのような明確なメッセージが込められているという。10月初旬、ドイツのシュツットガルトで行われた先行試乗会にて、統括責任者のヨルグ・プリグル氏はそう力強く語った。

プラットフォームとパワートレーンを刷新
 現行の初代モデルは2005年のデビュー以来、累計で70万台以上を販売し、中国でも予想外の人気を博している。ゆえに、一見するとそのデザインやパッケージングはそれほど変わりなく、保守的なモデルチェンジのように思えるかもしれない。実際、新型の全長4395mmは現行モデルよりわずか+84mm、全幅1786mmは+8mmと最低限の拡大にとどまった。

 ただし、興味をそそるのが-48mmと低くなった全高である。ここに、大変身とも言える新型Bクラスを紐解くヒントが見えている。それはプリグル氏曰く「革新的な発明に等しい」という、新開発プラットフォームの投入だ。

 未来のEVやFCEVまでをも含めた、複数の駆動系に対応可能なダブルレイヤー構造となっており、このBクラスを基軸として、2年以内にFCEVなどのバリエーションを続々とラインナップしていく計画だと言う。これはまさしく、メルセデス・ベンツが遥か未来を見据え、なおかつプレミアムコンパクトの新たな展開に打って出るために、温めてきたものなのだ。

 

 そのプラットフォームに加え、パワートレーンも全て新開発されている。1.6リッターの直列4気筒ガソリン直噴ターボエンジンは、BlueDIRECT V6/V8に導入された第3世代の直噴システムをベースとした、156HP/250Nmの「B200」と122HP/200Nmの「B180」の2種。そしてCクラスからSクラスまでに採用済みの第3世代コモンレール・システムをさらに進化させた、1.8リッター直列4気筒ディーゼルターボエンジンは136HP/300Nmの「B200 CDI」と、109HP/250Nmの「B180 CDI」の2種。

 トランスミッションは3年かけて開発したという小型の7速DCT(デュアルクラッチAT)と、新開発の6速MTが用意されており、エンジンもトランスミッションも全て自社製だ。そのため、Bクラスに全車標準装備となるアイドリングストップ機構「ECOスタートストップシステム」を組み込むにあたっても、微細なる調整まで完璧にできたのだという。もちろん、高効率化や排ガス規制への対応、軽量化など最新パワートレーンにふさわしい性能は、ガソリン、ディーゼルともに申し分ないとのこと。このうち日本に導入が予定されているのは、ガソリンエンジン2種+7速DCTモデルとなっている。

 ここまでパワートレーンに気合いが入っていれば、当然気になるのは足まわりだ。サスペンションはフロントがマクファーソンストラット、リアには新型の4リンクを与え、前後にスタビライザーが付く。オプションでスポーツパッケージも設定されており、20mmのローダウンサスとスポーツダンパーに、ダイレクトステア・システムの組み合わせでより高い俊敏性を出している。日本には、どうやらこちらのスポーツパッケージのみの導入となるようだ。

 また、試乗車として用意されていた17インチ全てのタイヤが、ランフラットを選択していたのもトピックだろう。これはスペースを稼ぐためだと言うが、このクラスへのランフラット採用がどのように作用するのか、とても興味深いところだ。

コンパクトでも安全装備満載
 さて、冒頭でプリグル氏が新型Bクラスを「プレミアムコンパクトの未来像」と言ったが、それが具体的に最もよく表れているのは、恐らく安全性の部分だろう。

 かつてEクラスに初めて横滑り防止装置「ESP」を導入したのと同様に、コンパクトクラスとしては世界初となるレーダー型衝突警告システム「コリジョンプリベンションアシスト」を、Bクラス全車に標準装備とした。

 これは35km/h以上で走行中に、レーダーで前方の障害物を検知しているのにドライバーが気づいていない可能性のある場合に、画面表示と音声で警告を出し、ドライバーがブレーキを踏むと障害物までの距離と踏力を計算して、ブレーキアシストによって衝突を回避するというもの。スバルのアイサイトのような自動ブレーキではないが、従来のコンパクトクラスにはなかった安全システムである。メルセデス・ベンツでは、このコリジョンプリベンションアシストの搭載により、追突事故を20%減らすことができ、ユーザーが万一の時に負担する損害賠償を25%以上減らせると試算している。

 さらに、Sクラスなど上級モデルに採用されている安全装備から、厳選してBクラスへと流用してきたものも少なくない。「アダプティブハイビームアシスト」や、「アクティブパーキングアシスト」などのほか、コンパクトクラスに初採用となる「PRE-SAFE」もその1つだ。

 2002年にSクラスから導入されており、万一の際にシートベルトを締め付ける機能、横転の恐れがある場合にはサイドウインドウとスライディングルーフを閉じる機能、レストレイントシステム(非常時にシートベルトを締め上げる乗員拘束システム)の効果を最大限に発揮するために、電動シートの姿勢を最適に調整する機能などが作動する。またレストレイントシステムは前席だけでなく後席にも装備され、シートベルトテンショナーやベルトフォースリミッターなども完璧だ。

 ここまで安全性にこだわる理由は、やはりBクラスがファミリーカーにも適しているからだという。これまで一般的に見て、コンパクトクラスでは前席の安全性よりも後席の安全性が軽視されてきた感がある。それを、Bクラスは払拭してくれたのだった。

しゃれていて、かつ機能的なインテリア
 それではドアを開け、室内に乗り込んでみる。インテリアは今回、メルセデス・ベンツが「新次元の質感」を実現したと言うように、初代とはまったく違う印象を受けた。どちらかというと保守的なほどシンプルに徹していたインパネの造形は、パッと見ただけでも華やかでデザイン性を強調したものになっている。とくに、ダッシュボードを覆う立体トリムに4タイプもの色や素材感が用意されていたり、エアコンアウトレットが十字型ノズルの大きな円形モチーフだったりと、全体的に洒落っ気が漂っている。

 かといって、機能性がスポイルされたわけではなく、進化したマルチメディアシステム「COMANDオンライン」が搭載され、手元にCOMANDコントローラーが置かれたおかげで、むしろ操作性は向上した。COMANDオンラインにはグーグルなどのアプリが内蔵されていて、停車中にインターネットが使える便利さは、まだ他のコンパクトクラスには無いものだ。

 そして、気になる室内の居住性だが、これはもう文句なしに広い。全高が低くなったというのに、頭上のゆとりは身長163cmの私でも拳3個分とたっぷりあるし、後席の足下は拳4個分ものスペースが空く。これはEクラスよりも広いレッグスペースで、前後最大140mmのスライドができるのが便利だ。座面や背もたれのクッション、大きさともにしっかりしているし、幅広のセンターアームレストが備わるので、くつろいで座っていられる。サイドのベルトラインが高めなので、すっぽりと包まれて座る感覚がありながら、頭上は高いので視界に窮屈感がない。オプションでスライディングルーフが付くモデルならば、開放感があってさらに心地いい空間だ。

 また、シートアレンジの操作性にも感心した。後席は6:4分割で前倒しができ、左右とも倒せばきっちりフラットになる。さらに助手席も前倒しができるので、2m45cmの長尺物の積載が可能だ。女性に嬉しいポイントとしては、操作レバーが大きく掴みやすいことと、6:4分割の大きな方でも何とか片手で復帰操作ができることだ。これが重すぎるクルマは、結局アレンジ操作が面倒になってしまうもの。

 プリグル氏に「女性へのアピールポイントは?」と聞いたところ、Bクラスは20代の独身世代から30代・40代の子育て世代、そして50代以上の熟年世代まで、あらゆる女性たちの意見を参考にしたらしい。それによって変更した部分の1つに、リアゲートの開閉グリップ形状がある。これまでは凹み型だったのをバー型にし、5本指でしっかり握れるようにしたとのことだった。

 ラゲッジスペースの容量は後席のスライドによって、488Lから666Lを確保でき、フラットで積み込みしやすいスペースだ。トランクスルー機能もあるので、後席を倒さずともスキーなど長い荷物を積むことができる。

既存のコンパクトよりも遥か高いレベルにある
 試乗はシュツットガルトのメルセデス・ベンツ本社を出て、高速道路から一般道へと降り、のどかな田園風景と軽い山道、小さな街中を走るというコース。つまり、ファーストカーになりえるコンパクトカーに求められる、あらゆるステージを走ることができた。

 最初にドライブしたのはB200で、17インチのランフラットタイヤを履いたモデルだ。エンジンを始動すると、デフォルトでECOモードになっている。そのため、ややおっとりした加速フィールと、あまり俊敏とは言えないステアフィールだな、というのが最初の感想だった。

 とくに高速道路では、流れについていけないことはないが「もうちょっと初期トルクに力が欲しいな」と思わせる程度。ただそれは一般道に降りればあまり感じなかったので、慣れてしまえば日常の移動はECOモードで足りるのかもしれない。簡単ではあるが燃費を計測してみたところ、カタログ数値で5.9~6.2L/100kmとあるところを、実測では8.5L/100km(11.7km/L)とまずまずの燃費が出た。

 次にB200をノーマルモードでドライブしてみると、先ほどよりも発進加速が鋭くなり、ステアフィールもややシッカリ感がある。速度がのってからの加速は相変わらず穏やかだけれども、高速道路ではそれが上質な印象を醸し出して、静かさや剛性感と相まって、心地良いクルージングができる。山道では、ステアリングがもう少し敏感に反応してくれればいいなと思う場面もあったが、それが街中では落ち着いた挙動を得ることになり、一貫して感じたのは大らかなテイストだった。

 助手席、後席の乗り心地では、ランフラットタイヤとのマッチングがまだ決まっていないのか、ゴトゴトという振動が見られるところがあったものの、ガッチリとした守られ感はものすごい。ファミリーカーとしては好ましいものだった。

 次に乗り換えたのはB180だ。これはB200よりデチューンされるわけだが、同様に穏やかなECOモードからノーマルモードに切り替えると、発進から軽快感が増していて、山道ではキビキビとした感覚で走っていける。B200よりも若々しい印象だ。こちらはスポーツパッケージ装着車で、前席では先ほどよりも剛性感のある乗り心地。タイヤは変わらず17インチのランフラットだったので、ローダウンなどが効いているのだろう。ちなみに後席でも、左右の揺れが抑えられているのか先ほどより乗り心地がよく感じた。日本仕様ではB200にもスポーツパッケージが付くはずなので、これは楽しみだ。

 そして両グレードに通じて感じたのは、ECOスタートストップシステムの滑らかさ。まったく違和感がないので、最初はアイドルストップしていても気がつかなかったほどだ。さすが、自社製のエンジンとミッションでしっかり擦り合わせをした結果が出ている。

 この後、日本には導入されないディーゼルモデルにも乗ったのだが、正直に言うとそちらはさらに素晴らしかった。発進、加速フィールだけでなく、ハンドリングも乗り心地もガソリンモデルに勝っていると感じてしまった。でもそれを言うと悔しくなるばかりなので、ここらで留めておこうと思う。

 総じて新型Bクラスは、既存のコンパクトクラスからは遥か高いレベルにあることが確認できた。「史上最大のモデルチェンジ」という触れ込みは本当だと実感した。だから、新しい基準を創造するというメルセデス・ベンツの意識は必ず現実のものとなるだろうし、ダウンサイジングの波がさらに加速するであろう日本市場においても、これほど合致しそうなモデルはない。脱ミニバン派はもちろん、長く乗り続けたいポストファミリーにとっても、新型Bクラスは魅力的な存在だ。


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2011年 12月 5日