【インプレッション・リポート】
レクサス「LS」

Text by 河村康彦


 NSXやユーノス・ロードスター、さらには初代レガシィや4WDメカニズムを得ての“復刻”となったスカイラインGT-Rなどが姿を現し、今なお「日本車のヴィンテージ・イヤー」と語り継がれる1989年。振り返れば、いわゆる“バブル景気”真っ盛りでもあったそんな時代にやはり初代モデルが誕生したのが、レクサス「LS」だ。

 当時、「レクサス」のブランドがまだ展開されていなかった日本市場に向けては「セルシオ」としてローンチされたこのモデルは、それまでの日本車とはまさに次元を異にする作り込みレベルの高さや、世界のプレステージカーの頂点に立つ圧倒的な静粛性が評価をされ、特に歴史と伝統への拘りが薄い米国市場では大ヒット。

 それから早くも23年。2006年から発売されていた現行4代目のモデルに大きなリファインの手が加えられ、現在でも最大マーケットであるアメリカで、このほどワールド・プレミアが華々しく行われた。

マイナーチェンジではなく“メジャーチェンジ”
 「いわゆるマイナーチェンジのレベルには留まらず、言うなれば“メジャーチェンジ”とでも表現したいほどに大規模なリファインを行った」――3点の世界初アイテムを新採用し、クルマを構成する主要6000ほどのパーツの内、実に約3000点を新たなものに置き換えたという今回の改良を、開発陣はこのように紹介する。

 なるほど、そう言われると誰もがすんなりと納得できてしまいそうな要因は、新型のマスクが例の“スピンドル・グリル”の採用で、これまでとは大きく雰囲気を変えている点にもありそうだ。

 CT200hで“予兆”が示され、新型GSでその全貌が表された新世代レクサス車に共通のアイコンであるこのマスクは、これまではいかにもフォーマルなイメージが際立ったLSに、何ともダイナミックかつスポーティな新たな表情をもたらしている。

 あるいは、LSをショーファー・ドリブンとして用いて来たようなこれまでのユーザーの中からは、「今度の表情は、ちょっとアグレッシブに過ぎる」といった意見も聞かれるかも知れない。少なくとも、従来型よりも賛否が強く分かれる事は避けられないだろう。

 けれども、そんなちょっと物議を醸しそうにも思える新しいLSの顔付きは、1度目にすれば強く記憶の中に残るインパクトの持ち主でもある。その強い存在感は、これまでのモデルには無かったもの。メルセデス・ベンツやBMWを筆頭に、プレミアム・ブランドが群雄割拠というこの時代、まずはよりエモーショナルなルックスによってブランド認知度を引き上げたいという昨今のレクサスの戦略には、個人的には賛同をしたい。点灯時のL字型がより強調されたテールランプや、フロント・ホイールアーチからの連続感がより明確になったロッカーパネルの造形なども、基本的には好意的に受け取れるもの。今度のLSのアピアランスは、かくして確かに「新しく」なっている。

LS600h

 一方のインテリアは、ダッシュボードが“フルモデルチェンジ”された事による新鮮さの向上が著しい。正直なところ、従来型のダッシボードの造形は、2006年にデビューの時点ですでに「やや旧態依然」という印象が拭えないものだった。

 センターパネル最上段に空調ベゼルをレイアウトし、その下に両脇を空調やオーディオ系のスイッチで挟まれたタッチ式スクリーンを配するというフォーマットは、何とも“普通のトヨタ車流”が抜けないものだったし、各部の質感は確かに高かったものの、デザイン全般は最上級のフラッグシップ・サルーンとしては、いささか物足りなくも思えるものだった。

 それが今度は、左右ドアトリムへと繋がる水平軸を強調したダッシュボードのセンター最上部に大型のスクリーンをレイアウトし、それをこれも最新レクサスに共通するコントローラーである「リモートタッチ」によって操作するタイプへと一新。BMWの「iDrive」やメルセデス・ベンツの「COMANDシステム」などが登場して久しい今では、そんな操作系も決して目新しいとは言えないし、トランスミッションとメカニカルに結合されていて移設が困難と思われるATセレクターが従来同様にレイアウトされ、前出リモートタッチの位置がやや遠いといった少々気になるポイントもあるものの、それでもインテリア全般のイメージが「随分近代的になった」という印象を発散している事は間違いない。

 

 12.3インチと大きなディスプレイの見やすさもさることながら、GPSを利用した時刻修正機能を備えるアナログ式時計や、エアコンのみならずシートのヒーターやクーラーも動員した4席独立式の温度調整機構「クライメイト・コンシェルジュ」、さらにはインテリア・イルミネーションをドアのロック状況やエンジン始動、運転の状況に応じて変化させる「アドバンスド・イルミネーションシステム」の採用など、様々な装備をアップデートさせた点も見逃せない。

 ちなみに、そんな新型LSのインテリアでのいかにも日本のフラッグシップ・サルーンらしいアイテムが、ダッシュボード・サイドとステアリング・ホイールに設定をされた「縞杢(しまもく)」仕上げ。合板の積層切り出し材に職人の手による独特な技法で加工を施す事で完成されるそれは、製作に38日間もを要する拘りの一品とのこと。そこでは新たに加えられた「トパーズブラウン」を含めて6種のカラーが用意をされると共に、選択可能な表面加工の種類も従来以上にその幅が拡大されたという。

LS460 Fスポーツ

乗り味が大幅に改善
 しかし、そんな最新のLSで「通常のマイナーチェンジのレベルを超えている」と個人的に最も感心できたのは、実はその走りのリファインぶりに関してだった。

 時間的な制約から、今回カリフォルニアのシリコンバレー近郊で開催された国際試乗会の場でデストドライブできたのは、北米仕様の「600h エグゼクティブ」と、同じく北米仕様の「460 Fスポーツ」という2モデル。新設グレードである後者は、メッシュパターンのブラック仕上げグリルや専用塗装仕上げのホイールなどのよりスポーティな装いが施された上で、10mmローダウンの「スポーツ・エアサスペンション」や、6ポットのブレンボ製フロント・ブレーキキャリパー、トルセンLSDなどを標準装備とした「ドライバーのためのLS」という位置づけ。

 ちなみに、このグレードはハイブリッド・モデルである600hにも設定され、4WDモデルであるこちらはトルセンLSDが省かれる一方で、前後スタビの中間に挿入されたアクチュエーターがロールの制御を行うアクティブ・スタビライザーがシリーズ中で唯一装備される。

 まずはFスポーツでスタートを切ると、即座に感じられたのはその乗り味が以前のLSよりも全般にスッキリとした点だった。実は、後に600hでも同様の印象を感じることになるこうした乗り味は、新型LSでの大きな美点となっている。

 これまでのLSの、周辺ライバルたちに対する大きなウイークポイントは、サスペンションは路面凹凸をソフトに受け止めるのに、ボディフロアのブルブル振動が収まらず、乗り味のスッキリ感に乏しいことだった。それが、今回のLSでは大きく改善されている。

 「エンジンのマウントを大幅に変更し、ドア上部開口部にレクサス初となる“レーザースクリュー溶接”の技術を採用。ルーフヘッダーには接着剤を用いた上で剛性を50%高めたフロア・トンネルブレースを採用し、カウルとダッシュの溶接スポットを増打ち等々……」と、この部分の印象の改善は、そうしたリファインの成果であるに違いない。

LS460 Fスポーツ

 

 ATセレクター手前にあるドライビング・モードセレクターで「スポーツプラス」のモードを選択すると、ロール軽減を目的にコーナリング時の内外輪でのダンピングの差が約20%拡大される。が、そんなモードを選択しても高い快適性は十分にキープされ、このポジションを敢えて常用するのも悪くはなさそうだ。

 公道上でのテストドライブゆえ特に高い横G領域までは試せていないが、ワインディング・セクションでのハンドリングの自在度も満足できるものだった。

 決してハードな乗り味とはならない一方で、無駄な動きが抑えられたボディの挙動は、なるほどこのモデルに“ドライバーズカー”としてのキャラクターを確実に加えている。「Fスポーツ」を名乗るのであれば、前出スポーツプラスのモードではステアリング・ギア比をもう少し早めてもよさそうだし、エンジン出力をより高めて貰っても優れたバランスは保てそうにさえ思えた。

 というよりも、LSというモデルでよりダイナミックな走りのイメージを表現したいのであれば、もはやこのレベルには留まらず、よりピュアなスポーツバージョンである“LS F”(?)の開発へとステップを進めるべきだろう。メルセデスに「AMG」があり、BMWには「M」が存在するのだから、より強固なブランド力の構築という点でも、もはや「Fスポーツ」では物足りないのだ!

さすがはフラッグシップ・サルーン
 そんな夢を考えながら600hへと乗り換えると、こちらでは世界屈指のストロング・ハイブリッドシステムがもたらす、固有の加速のテイストが、今でも魅力的に映るものだった。

 アイドリング停止の状態からまずは電気モーターによってスタートを切り、そこから全くシームレスに加速力の主役がV8エンジンへと切り替わるさまは、デビュー後5年が経過した現在でもいまだ新鮮。

 4WDシステムの搭載を含めた車両重量増加の影響もあってか、軽快感ではLS460に及ばないし、例の乗り味の“スッキリ感”に関しても比べると少々先行を許す印象はあるものの、それでも従来型に対する進化の程度は明らかだ。

 せっかくの機会だからとドライバーズシートを同乗者に譲り、リアシートで“ショーファー・ドリブン”を気取ってもみたが、こちらではフロントシートで感じる以上に従来型に対するブルブル振動の改善度合いが著しい。無論、目に入るあらゆる部分の質感は素晴らしく高く、この点でも「さすがはフラッグシップ・サルーン」という思いを全ての人に提供してくれるに違いない。

 いずれにしても、そんな最新のLSの走りというのは、メルセデス「Sクラス」、BMW「7シリーズ」を筆頭とする周辺コンペティターのレベルをキャッチアップしたと素直に実感できるものだった。なるほど、そんな点でもやはり今回のリファインの“跳び幅”は、「単なるマイナーチェンジの水準には留まっていない」という謳い文句は、納得できるものなのだ。

 とはいえ、そんな大幅なリフィインの手が下された最新のLSにも、“死角”がないわけではない。

 その筆頭は、今回はそのパワーパックに関して、特に環境性能の点で基本的には手が加えられなかった事にある。

 今回、600hの欧州複合サイクルでのCO2排出量は、従来型よりも9%ほど低減され、199g/kmと初めて200g/kmの大台を割り込んだ。しかし、例えばBMWの7シリーズには0-100km/h加速タイムを600hよりもコンマ6秒も速い5.5秒という俊足でクリアしつつ、CO2排出量は大幅に少ない149g/kmという値を達成した「740d」なるディーゼル・モデルが存在する。

 他方で、メルセデスのSクラスには、今のところそこまで強力なコンペティターは存在をしていないが、しかし、こちらは間もなく開催されるパリのモーターショーで、オールニュー・モデルがヴェールを脱ぐと専らの噂であることを忘れてはならないだろう。

 この期に及んでLS460のエンジンには、アイドリング停止のデバイスが用意されなかったことにも、いささかの時代遅れ感が否めない。確かに、このモデルがメインターゲットとするアメリカの市場では、そうしたデバイスは不要視され、装備されても実際には殆ど使われないというのも事実ではある。

 が、だからといってそんなローカルな事情に甘えていたのでは、世界で戦うフラッグシップ・モデルとしては何とも力不足というイメージが付きまとう。言うなれば、「過剰な記号性こそがモノを言う」こうしたモデルが並ぶ舞台で戦うためには、常にあらゆる面でライバルをリードするスペックが不可欠なのだ。

 なるほど、進化をした前後双方へのプリクラッシュ・セーフティシステムや、遮光ビームを巧みに用いるアダプティブ・ハイビームシステム、改良型のレーンキープ・アシスト・ステアリングやブラインドスポット・モニターの新採用などで、現時点では最先端の安全装備という点でもライバル各車を確実にキャッチアップしたと言えるのが新型LSではあるだろう。が、しかしそれは同時に、先に紹介した走りのポテンシャルも含め、「ライバルに大きく先んじた」とまでは言えないというのもまた現実なのだ。

 このタイミングでかくも大規模な“メジャーチェンジ”に打って出たということは、「まだ数年はこのモデルを継続販売する」と受け取るのが自然でもあるはず。となれば、今の立ち位置では「この先も安泰」とは受け取れないのが、正直ちょっと心配にもなる。

 しかし、これからも不断のリファインの姿勢を貫いて行けば、次のフルモデルチェンジではライバルに一矢報いる事も決して不可能ではないはず――そんな勢いを感じさせ、大いなる期待感を持たせてくれるのが、今度のLSの仕上がりでもある。


インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2012年 8月 20日