インプレッション

ベントレー「コンチネンタル GTC V8」

 2012年1月のニューヨーク・ショーにて、新世代のV型8気筒4リッター ツインターボエンジンとともに待望のデビューを果たしたベントレー「コンチネンタル GT V8」および「コンチネンタル GTC V8」。この極めて意欲的な新世代スーパースポーツの日本上陸は、まずは今年夏にクーペ版のコンチネンタルGT V8から開始されたのち、このほど数カ月の遅れは取ったものの、コンバーチブル版であるコンチネンタル GTC V8も日本上陸を果たすことになった。

いいトコ取りのリーズナブルモデル

 ベントレー コンチネンタル GTC V8は、シャシーとコンバーチブル・ボディをW型12気筒仕様の「コンチネンタル GTC」から、そしてパワートレーンを早くも大成功作という評価を得ているコンチネンタル GT V8 クーペから流用する、「いいトコ取り」のモデルと言えるだろう。

 コンチネンタル GTシリーズは、世界に数あるスーパーカーの中でも最重量級に属するモデルとして知られるが、GTC V8もその例に漏れず、車両重量2470㎏の堂々たる体躯を持つ。それでもGTC W12バージョンの2495㎏と比べると、25㎏のダイエットに成功したことになる。ちなみにこれは、クーペ版のGTとGT V8との間に開いたウェイト差と共通の数値である。

 一方エンジンは、アウディと共同開発された4リッター直噴V8ツインターボ。当然と言うべきだろうがスペックはコンチネンタル GT V8とまったく同じで、373kW(507PS)/6000rpmの最高出力と、660Nm(67.3kgm)/1700rpmの最大トルクを発生する。

 トランスミッションは、2013年後期モデル以降のW12バージョンにも採用されることになったクロスレシオ8速ATをGT V8とともに先行装備。この組み合わせによって0-100km/h加速タイムはGT V8より0.2秒の遅れをとる5秒。最高速もGT V8より2km/hダウンとなる301km/hをマークするという。

 また、パーシャルスロットルの領域では4気筒の動作を止め、V型4気筒エンジンとなる「可変シリンダーシステム」が採用されているのもGT V8と同じ。メーカーから発表されたデータによると、フルタンク状態で826kmの走行を可能とする燃費性能もマークするという。そしてCO2の排出量はGT V8の246g/kmに対し、GTC V8では254g/kmを達成するとされている。

日本での販売価格はコンチネンタル GT V8の2166万6000円から約114万円アップとなる2380万円。つまり、W12版のコンチネンタル GTCの2640万円はもちろん、GTクーペの2415万円と比べてもリーズナブルとなるが、それはあくまで比較すれば……の話である。この価格をお買い得と見るか、あるいは贅沢と見るかは、このあとじっくりと検分してみることにしよう。

V8サウンドと爽快な加速感をオープンで

 今年9月、初めてステアリングを握るチャンスが与えられたコンチネンタル GT V8クーペに乗った時の感動は、わずか2カ月程度で忘れられるようなものではない。

 試乗する以前に危惧していた、GT W12ツインターボ搭載モデルに比べて3分の2に過ぎない絶対的排気量から予想されるパワー&トルク不足が、まったくと言ってよいほど感じられなかったばかりか、ドライバーの意思と感性に従ってスピードを乗せてゆく印象、そして軽快にして「陽性」なパワーフィールについては、ある意味W12版を上回っているかにも思えてしまったのだ。

 そしてその好印象は、GT V8プラス175㎏という重量増が付きまとうはずのコンチネンタル GTC V8でも、まったく変わることはなかった。この日の試乗コースとなった八ヶ岳高原ラインや天女山に登るタイトコーナーでも、まさしく豪快と言うほかない加速フィールを披露してくれたのである。

 また、これはW12版のコンチネンタルGTCでも感じたことだが、ソフトトップを降ろした際にエンジンの咆哮が格段に鮮明に聴こえてくるのも、やはりオープンカーの大きなメリットと言えよう。特にV8エンジンの排気音は、W12ツインターボのそれよりも明らかに「陽性」で、ドライバーの気分を大いに高揚させてくれる。それがオープン時には一切の遮蔽物の無い状態で堪能できるのだがら、体感できるパワーフィールはクローズドのGT V8クーペ以上に爽快かつスポーティなものとなっていたのだ。

 ちなみに今回の試乗の舞台となった八ヶ岳はかなり寒かったのだが、それでもサイドウインドーを前後・左右とも立て、オートエアコンの暖房を強めに効かせてしまえば、青天井のコックピットは快適この上ない。

 ともあれ、新しいV8ツインターボ・エンジンと8速ATのもたらすパフォーマンスとフィーリングは、コンチネンタル GT V8だけではなくGTC V8でも最高のマッチングを見せてくれたのは、正直に言ってしまえば事前にあるていど予想がついていたとはいえ、ベントレー・ファンを自認する筆者にとってはこの上なく嬉しいことだった。

古典的ブリティッシュ・スポーツカーの味わい

 今回、我々のテストドライブに供されたベントレー・コンチネンタル GTC V8は、「グレイシャー・ブルー(Glacier Blue)」という、ヴィヴィッドなソリッドカラーにペイントされていた。MGミジェットやMGB、あるいはトライアンフTR4など、1960年代のブリティッシュ・ライトウェイト・スポーツカーによく見られたものに似た、明るいパステルブルーである。

 日本で見るベントレーのボディカラーといえば、特に近年ではいかにも「セレブ好み」な白ないしは黒ばかりが目立つ中、メタリックのまったく入らないパステルカラーはちょっと奇をてらったかのようにも思われがちだが、実際に自身の目で見てみると印象はその正反対であることに驚かされてしまった。

 2012年2月に実現したコンチネンタル GTC W12版の試乗の際には、ベントレーの身上であるガッシリとした骨格にセクシーとも言えるボディラインが組み合わされたことで、いかにもブリティッシュスポーツ的にグラマラスなボディラインが体現されたスタイルことに感銘を受けたが、今回の試乗車のごとくオーセンティックなカラーに塗られると、これも’60s的なダークブルー/アイボリーのコンビカラー本革インテリアと組み合わせも相まって、イギリス製スポーツカーが「世界の恋人」と呼ばれていた旧きよき時代を連想させてくれるのだ。

 しかし、何よりもオーセンティックなブリティッシュ感を感じさせてくれたのは、ワインディングロードにおける走りである。冒頭で述べたとおりGTC V8の成り立ちは、コンチネンタル GTC W12とGT V8のいいトコ取り。GT V8と同じく、主にノーズまわりを中心に25㎏の減量を果たしたことに加えて、テール側に重量のかさむソフトトップとその電動開閉システムが配されたGTC V8では、結果として前後の重量バランスがコンチネンタルGTシリーズでも随一のものとなったことになる。

 そして実際のハンドリングマナーも、スペック上の数値から予想されるどおりのものとなっていたのだ。コーナーの曲率を問わずナチュラルで、あらゆる速度域でも扱いやすい。アンダーステアもW12版のGTCはもちろんGT V8よりも軽微に感じられるが、そこはやはりAWDである。ちょっとやそっとのスピードでは、まるで危なげもなくコーナーをクリアしてゆくスタビリティを見せつける。

 かつての硬派なスポーツカー・ドライバーは「冬こそオープンカーの愉しみを堪能すべき」と説いていた。それは現在となっては、もはやアナクロ的な愉悦なのかもしれないが、このクルマでもトップを大胆に開け放ち、冷たい外気とV8サウンドを味わいつつワインディングを攻めたくなってしまうのだ。

 スポーツカーとして純粋にドライビングを愉しむということが、かつてのベントレーには望むべくもない資質だったのは、いくらベントレー信者の筆者とて否定しない。しかし近年のコンチネンタル GT系では不断の努力をもって、着々と「リアルスポーツ化」を図っていると実感している。

 そんな中にあって、一般的なイメージではゴージャスに都会やリゾート地のストリートを流す「プロムナードカー」の要素が強いはずのコンチネンタル GTC V8が、実は伝統的なブリティッシュ・スポーツカーの雰囲気を最も色濃く再現していたことには、思わず快哉を叫びたくなってしまったのである。

 今年後半になって、高級輸入車マーケットの市況はかなり好転の兆しを見せているとも言われるが、それはベントレーも例外ではない。特にコンチネンタル GT V8の発売された8月以降のベントレーは、予想を遥かに上回る売れ行きを見せているという。

 そして、既に数十台がデリバリーされたとされるコンチネンタル GT V8のオーナー、およびGTC V8のオーダーを済ませた顧客ともに、これまでのベントレーの購買層からは大幅な若返りが図られたとも言われるが、今回乗せていただいた印象からすれば、GTC V8は、ベテランのエンスージアトの鑑賞眼にも充分耐えうる逸品であると断言したい。これまで現代ベントレーをやや遠巻きに見ていた、旧来のブリティッシュ・スポーツカー愛好家にも、是非お勧めしたい1台なのである。

(武田公実)