電子機器に支えられる現代のクルマ

 本誌読者の方には始めてお目にかかる方も多いかと思いますが、大原と申します。普段はPC Watchで、時折よく分からない記事などを書かせていただいております。

 実のところ筆者はもっぱらバイクの人で、車は一応運転できるというか、アメリカ出張の折は必ず自分でレンタカー運転しておりますし、国内でも必要に応じてレンタカーもしくはカーシェアリングの利用はしているのですが、頻度としてはバイクの方が圧倒的に高い、という人です。

 そんなわけで車そのものについてはあまり語るべき事を持ち合わせていないのですが、車の中身、それもエレクトロニクス関連について説明せよというお達しをいただきましたので、今月から少しづつ色々な話をご紹介してゆきたいと思います。よろしくお願いいたします。


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P1:1955年の時点でも(ヘッドライトとかテールランプなど)電装品はあるが、それは単にバッテリーとスイッチで繋がってるだけのもので、電子機器は皆無である

 というわけでまず1回目は、そもそもどれだけ沢山のエレクトロニクス機器が車に詰め込まれているか、という話。ここで言うエレクトロニクス機器には、たとえば後付けのカーナビやらレーダー探知機やらTVやらオーディオやら、というモノは入れていない。ただある程度高級な車になると、(レーダー探知機はともかく)カーナビは標準オプションになりつつあるから、将来的にはこうしたものも数に入れなければいけないだろう。

 それはともかく、では車の中にはどのくらいの電子機器が詰め込まれているか、というのがこちら(P1)。このP1~P4とP6は2007年10月にサンノゼで開催された「MicroProcessor Forum」というイベントでデンソーの石原秀昭氏(IC技術1部 IP開発室 室長)が講演した時のスライドを使わせていただいているのだが、2004年の時点でトヨタの車両には70個くらいのECU(Electronic Control Unit)が搭載されているとしている。恐らく現時点で、トップエンドの機種は100近いECUが組み込まれていると思われる。

 では、ECUがどこに使われているのか? あるいはなぜ使わないといけないのか? を、例を挙げて説明してみよう。図1は4ドア車におけるパワーウインドーの構図である。これをECUを一切使わない場合、

・各ドアの昇降スイッチからモーター(赤色)
・運転席に設けられた、各ウインドー用のスイッチ(青色)
・運転席の集中ウインドーロック(緑色)

の3系統の配線が必要になる。もし助手席にも集中ウインドーロックが設けられると、さらにもう1系統配線が増える計算だ。また運転席のウインドー操作には、ワンタッチオープン/クローズの機能が別途必要になる。

図1:ECUを使わないで4ドア車のパワーウインドーを作ると

 問題は、この配線が割と馬鹿にならないことだ。というのはモーターのON/OFFだから普通は12Vを通すことになるし、モーターは動き始めにそれなりの電力が必要になるから、あまり細い配線では耐えられない。またノイズでウインドーが誤動作するのはありがたくないので、シールドも必要になる。ということで、ヘタをするとこの配線だけで数kgの重さになりかねないし、メンテナンスも大変である。

 そこで、すべてのモーターに、専用のECUを搭載するとどうなるか? というのが図2である。各ドアのスイッチは全部、1度それぞれのECUに接続し、このECUでモーター制御を行うと共に、自分のドア以外の操作に対しては共有バス(図2の緑色)にその命令を流すという仕組みだ。

図2:ECUを使った4ドア車のパワーウインドー

 これにより、まず配線が大幅に簡素化される。ECU同士を繋ぐバスは、単に信号を送るだけだから、ノイズ対策のシールドを施してもずっと軽いし、なにより本数が大幅に減る。製造やメンテナンス性も改善するし、例えば助手席にも集中ウインドーロック機能をつけたければ、スイッチを1個増やしてECUに対応する機能を追加すれば、それで事足りる。

P2:1970年代に登場したEFI(Electronic Fuel Injection:電子制御燃料噴射)とか、1980年代に登場したESA(Electronic Spark Advance:電子進角制御)が、ECUのはしりといってよいかもしれない

 デメリットは当然、ECUのコストが増えることだ。パワーウインドー制御程度だと8~16bitマイコン1個で事足りるから、チップ単体で0.8~1ドル程度、周辺回路の部品なども込みにして3~5ドル程度のコストアップとなる。4ドアなら12~20ドルの価格上昇の要因になるわけだ。

 2000年くらいまでは、この20ドルという金額は自動車業界では許容されにくい(特に低価格帯向けでは許容されなかった)価格なのだが、最近はこれを許容する動きになっている。というのは、配線の節約による重量軽減が燃費向上に効果があると認められてきたからで、加えてECUにセンサーをいくつか追加することで、例えばアンチピンチ(指挟み防止)機能を追加する、といった付加価値を見出すことができるようになった。あるいは、エンジンOFFにあわせて自動的にウインドーを閉める、なんてことも(ニーズがあるかどうかはともかくとして)容易にできるようになった。

 他にもドアミラーやワイパー、エアコンなど細かいところにECUを入れることで、よりユーザビリティを改善すると共に、省エネ化に繋がる工夫をする、というのが昨今の流行であり、結果としてECUの数はうなぎ上りになっているわけだ。このあたりがまとまっているのが、P2である。


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 ECUは当初はエンジン制御にまず投入された。当時はECUの価格も高く、また周辺回路がそれなりに必要だったから、エンジンまわりなどに1つとか2つ搭載される程度だった。ところがECU自身の小型化・高性能化・低価格化が進み、その一方でECUに求められる要求が増えてきた結果、より大量にECUが使われるようになってきたわけだ。

 P3は、2006年当時の車に実際に搭載されているECUの数々、そしてP4は今後利用される用途をまとめたものとなる。先の文章ではパワーウインドーとかミラーなど、あまり自動車の運行に直接関係無いものを取り上げたが、実際はエンジン制御や車体制御、エアバッグなど多くの箇所に既にECUが使われていることが分かる。

P3:これはあくまで模式図であって、実際の車の構成はもっと複雑であるP4:高級車では、ここに示すいくつかのシステムは既に実装されている。ミリ波レーダーはその一例

 この方向性はP4にもある通り、さらに進化する。まず安全面という点では交通事故死者0を目指す、という業界コンセンサスがあり、例えば車体制御ではバランスを崩さないように車速や加速度、サスペンションの動きなどを判断してアクセルやステアリングの動きを補正したり、どうしても衝突が避けられないと判断したらシートベルトを早めに締めたり、衝突時になるべく安全な角度になるように制御するといったシステム、あるいは歩行者などの衝突を事前に検知してこれを避けるといったシステムが色々と研究されており、こうしたシステムにはより一層のECUが必要になるという次第だ。

 ちなみにP1~4はデンソーの資料ということもありもっぱら国内の車両をベースとしたデータだが、ではヨーロッパでは? ということでP5にダイムラーの資料を挙げよう。2009年にリリースされたEクラス(W212)の場合で既に67ECUに達している。

 再び石原氏のプレゼンテーションに戻ると、既に2007年の時点で自動車1台に使われる半導体(ECU以外も含む)の量は、6インチのシリコンウェハ1枚に相当する、なんて試算も出ている。6インチウェハ、というのは例えば普通のマイコンなら数百個、IntelとかAMDが出しているPC用のCPUでも数十個が取れる分量にあたるわけで、要するに最近の車はこうしたものが大量に搭載され、しかもそれが普段は見えないように隠された状態で使われているという訳である。

 さて、ここまでの話は「そのECUって何よ?」という話を明確に説明しないまま進めてきた。次回はそのECUの中身について、細かくご紹介したい。

P5:これは今年6月にアメリカで開催された「Freescale Technology Forum 2011」において、ダイムラーによる「Ethernet for Vehicle-internet Communication」というセッションが行われたが、そのセッション資料より。この内容はまた改めて別に説明することになるだろうP6:ちなみにECUはいわゆるマイコンをベースとしたもので、他にシリコンベースの様々なセンサーや、電力制御用の半導体がここには含まれる。電力制御、というのは旧来ならリレーなどを使っていた部分を置き換えるもので、特にEV(電気自動車)などではこれが大量に利用されることになる。このあたりの詳細もまた改めてそのうち

カーエレWatch バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/cew/


(大原雄介 )
2011年 8月 25日