北京モーターショーを通して中国を知る!?(前編)

 2年前に初めて中国を訪れたのが、北京で行われた「Auto China」。隔年で上海と交互に開催されるこのショーを、再び北京で見てきました。

 広大な中国のマーケットを、一言で語るのは難しいと思います。アメリカのようにクルマ文化が成熟した国でも、土地によってクルマに求める価値観が違うと感じているからです。

 例えば小排気量でもボディーが大きいセダンが売れる都市部。アウディ「A4」とかBMW「3シリーズ」のロングボディーなどが中国専用モデルとして存在することに、2年前はカルチャーショックを受けました。

 一方で安価な小型車でも、初めての自動車を手に入れることに憧れる人も何百万といるマーケットです。中国の自動車マーケットは短期間で拡大しつつも、まだまだこれから。そこにはまだ私の知らない、独自のマーケットもあるでしょう。

 卵と鶏の話ではないけれど、クルマが先か人のニーズが先か……モデル展開はさておき、環境対策についてはクルマが先に行う必要がありそうです。北京市内の渋滞は相変わらず深刻であり、大気汚染から目を逸らすことは政府も許さない状況だと聞いています。

 ところで海外の国際ショーは、クルマのみならずその国のクルマ文化(傾向)を知ったり、日本にはないスケールやセンスを持つ展示などを見る楽しみがあると思うのです。これまで欧米のショーでは「さすが~」と驚くことが多い一方、前回の北京ではまだまだ苦笑する場面も少なくはなかったのですが、今年は大きな進化と洗練が感じられました。注目の車種はすでに紹介されていると思われるので、私は雑感をお伝えしたいと思います。

 今年の北京モーターショーに出展したメーカーは2000社とも聞いており、1125車種が展示され、うち120台が世界初登場だったそうです。それだけの展示を行った会場の面積は22万m2。これはアジア地区のみならず、世界最大規模のモーターショーと言われています。会場に足を踏み入れると、そこはまるで初めて訪れた巨大アウトレットモール状態。地図を片手にクタクタになるほど歩きまわった2日間でした。

 まず、先にも述べたように会場全体の印象が2年前に比べさらに洗練され、まさに国際ショーらしき雰囲気へと変わっていました。例えば2年前までのショーで話題の1つにもなっていた「着ぐるみ」たちの姿が減り、会場の雰囲気は他国のショーと変わらぬ様子です。

 中国らしさが感じられたのは、ブースに龍のモチーフが採用されていたり、普段なら陶磁器などに絵付けされるような中国テイストの絵や模様がクルマのボディーに描かれていたりしたところです。特に今年は辰年であり、また中国で龍はおめでたいキャラクターゆえ好まれるようですが、ビジターにとってはオリエンタルな雰囲気に足が止まることも少なくありませんでした。

Auto Chinaらしさが感じられるクルマやブース。赤い「スマート」のモデル名は「Dragon Edition」でした

 誰がどう見てもコピーとしか思えず、苦笑するしかなかったモデルは、今年は激減していたように感じました。「このクルマの雰囲気はあのメーカーのあのクルマに似ている?」と思うようなモデルも見受けられましたが、その程度ならどこの国のクルマでもある話。デザイン面では明らかに洗練され、個性が感じられるモデルが増えていました。

 そんな背景には、例えばピニンファリーナのような企業が直接携わっていたり、周囲に刺激を与えているのでしょう。2年ほど前には中国メーカーによる買収の噂も飛び交ったピニンファリーナですが、今回のショーではコンセプトカーを発表し、その存在をアピールしていました。

 また中国系メーカー(欧米や日本車以外)の展示車の、遠目に見ても造りがイマイチと思うモデルも、今回はほとんどなかったような……自社開発のエンジンやトランスミッション、高い安全性能をアピールする展示も増えていたように感じ、各社の技術の進化と自信が感じられました。

 また、中国のショーは販売第一、お客様が一番。プレスデーとは名ばかりで、一般の方と思しき方々もジャンジャンと来場します。とくにプレスデーの2日目には、会場の展示はすっかり模様替えされ、台上のモデル以外の平地に置かれたモデルの横にはセールスマンらしき説明員が立ち、お客様の対応に追われていました。

 そんな中で私が感心したのは接客態度。事前に私がプレスであることをジェスチャーで説明したにもかかわらず、笑顔で「どうぞ」と応えてくれたばかりか、私がクルマに乗りこもうとした際には私の頭がドア開口部にぶつからないよう、頭上にさりげなく手を差し入れてくれたのです。このさり気なさが絶妙。日本でもリムジンや一部タクシーでは行われているこの気配り、ちょっと新鮮でした。中国でこのような接客をスタッフに教育していること、またこのような接客のセンスを持っているという点に少々驚かされました。

 帰りの飛行機から眺めると、中国の小さな町(村)では道路整備もこれからという風景を見ることもできます。中国はやっぱりスケールが違う。眼下に見える一見のどかな村でクルマのない暮らしをしている人々にまであえてクルマの所有を望んだりはしないけれど、こういう土地にまでクルマやクルマ文化が浸透するのは、まだ先のことなのだろうか……なんてことを考えながら、クルマ社会が成熟した国、日本に戻ったのでした。

BYDのEVタクシー(左)とタクシー充電ステーションの完成模型(右、6月完成予定)。担当者とのコミュニケーションに間違いがなければ、BYDは2010年から深セン市でEVタクシーを運行しており、すでに300台のEVタクシーと200のEVバスが走行中。今後EVタクシーを1000台、EVバスを500台増やす計画らしいBYDのEVタクシーのインテリア。質感はけっしてわるくはない
吉利(汽車)「熊猫」(ジーリー「パンダ」)は個人的に好きな1台。日本円で約65万円~と低価格なモデルなのですが、価格の割に質感は十分。メーカー自身が安全性能にも力を入れている点にも好感が持てます吉利ほど大々的に安全をアピールしていたメーカーは思い出せません吉利の自社開発という「BMCS」は、走行中にタイヤがバーストしてもクルマの走行安定性を保つシステムだとか。立派なシミュレーターも用意され、誰でも体験できるようになっていました。このシミュレーターの大きくて立派なところ、少し羨ましかったです
私が参加したプレスカンファレンスの中でもっとも多くの人が詰めかけていたと感じたのがヒュンダイ。中国に進出して10年が経ち、ますます中国マーケットに力を入れていくことを強調していました。そして2台の新型車を発表ヒュンダイの5代目「エラントラ」の中国専用モデル。フロントバンパーやグリルのデザインが変更されています。2012年の北米カー・オブ・ザ・イヤー乗用車部門を受賞した実力車
ニューヨークショーで発表された3代目「サンタフェ」は中国でも10月から発売するそうです。デザインも質感も好感が持てましたサイドウインドウにムービーを投影してクルマの特徴を紹介。こういうアイデアが韓国らしく、「やるな~」と感心しました
前回同様、フォルクスワーゲン・グループはE5ホールにグループ8ブランドを集結。欧州ブランドらしいブースづくりが行われていました。このホールはもっとも奥まった場所にあるのですが、人も多く注目度は高かったですアウディは「A6ロング」の「e-トロン」を発表。コレも日本では見られないアウディの1台日本でも発売された「Q3」。海外のショーでは早くも「RS」がコンセプトモデルながら登場!
「ザ・ビートル」のEVモデル「E-バグスター」。北京ではカブリオレモデルが登場。EVである以前に、そもそもこのスタイルならザ・ビートル・カブリオレも人気が出るだろうなぁと思えたのでした色とりどり、カタチも様々なモデルを多数展示していたフォルクスワーゲンブースは、ちょっとしたテーマパークのようでした
会場のマップ。22万m2に2000社、1125台というモデルが展示されており、人の数もハンパじゃなく、毎日この中を歩くだけでもヘトヘトになってしまいましたメルセデス・ベンツはバン専門のブースも構えていました。他にもブラバスやRUFなどのチューニングメーカーも出展しており、中国の自動車マーケットの勢いと、それに乗り遅れんと力を入れるメーカーの意気込みをひしひしと感じました2年前に比べれた激減した着ぐるみの宣伝部隊。あまり多くて、造りがチャチなものに出会うと会場の雰囲気も下がるように感じましたが、たまに出会えるとちょっと嬉しく、気持ちが和みました
東京モーターショーではクーペが展示されたBMWのプラグインハイブリッド・スーパースポーツ「i8コンセプト」。北京で登場したスパイダーはオープンでもガルウイングになっているところが「や~る~(流石)」って感じです「まるでMINI!」力帆(リーファン)の「320」は、改良モデルも展示されていたのですが、写真の既存モデルと併売するところも中国らしい? お値段を聞いたらMTが2万9800元(1元=13円換算で39万円!?)、ATが4万8900元戦地の生々しい映像を流していることで気になったのがZA AUTO。ヘビーデューティーな乗り物ばかりを展示し、ユーザーのイメージを喚起する映像を流していました。2011年のリビアの内戦で、同社のSUVが使われていたのだとか。中国車のニーズの幅広さを改めて実感しました

飯田裕子のCar Life Diary バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/cld/

(飯田裕子 )
2012年 5月 10日