飯田裕子のCar Life Diary

VWのファンイベント「ヴェルターゼー・ツアー」を見てきた

ゲートをくぐった先には道路を埋め尽くす人とクルマが。ゲートの下から続くクルマの列は交互通行でその先数百mほど続き、左右の沿道は大勢の見物客でごった返していました。歩くのも大変だけど、ちょっと楽しかったりもして

 今年で32回を迎えたフォルクスワーゲンのファン・イベント「ヴェルターゼー・ツアー」を見に、オーストリアへ行ってきました。

 このイベント、そもそもゴルフGTIのオーナー向けに始まったイベントだったそうですが、今ではVWグループあげての一大イベントになっています。3日間で開催されるこのイベントには毎年20万人の人が集まるのだとか。それも頷けるほどの大盛況ぶりにカルチャーショックを覚えるほどでしたし、日本では見かけないカスタマイズ方法を知ることもできました。

 場所はオーストリアのライフニッツにあるヴェルター湖畔(ドイツ語で湖をゼーと言うそうです)。それはまさにクルマをテーマとしたお祭りでした。イベント前日、高速道路の最寄インターチェンジを降りると、そこはどう見てもこのイベントにやってきたと分かる人やクルマばかり。またそんなクルマを見て盛り上がろうという若い子たちが道路脇でBBQをしていたりもする様子からこちらも期待が高まり、イベントの盛り上がりを想像してワクワク……。実際には想像以上の人とクルマ、そしてVWグループの力の入れ方に圧倒されることになるとは、このときの私はまだ知りません。

人、ヒト、ひと…、時間とともにますます増える来場者の数は想像以上でした
オーストリアの民族衣装を着ていらしたゲストの母娘さん
この日のランチは名物(ソース含む)のソーセージ

 このイベントにVWグループが力を入れていると分かるのが、イベントのオープニング風景。司会者からこのイベントに参列しているメンバーの紹介をされただけで驚いてしまいました。先ずは地元オーストリア出身でポルシェ、アウディを経てVWの会長から現在は同社監査役会長を務めるフェルディナント・ピエヒ会長夫妻、マルティン・ヴィンターコルン会長、ウイリヒ・ハッケンベルグ博士、新型ゴルフのチーフデザイナー(だったと思う)のクラウス・ビショップ氏、ほかにもアウディ・クワトロの社長さんなどもいらしていたのです。1つのファン・イベントとしてはまるで国際モーターショー並みの豪華メンバーが揃い過ぎではありませんか!?

 しかも皆さんにこやか。そこで背中を向けられるのを承知でハッケンベルグ博士に声をかけると「なぁに?」的な素敵な笑顔で立ち止まってくださったから感激です。お天気もロケーションも素晴らしい場所で堅苦しいお話しをする気持ちなどはさらさらなく、この日もポロWRCに乗って舞台に登場したハッケンベルグ博士に、「WRCで活躍されていますね」と問いかけると、「エモーショナルなものを見せるならモータースポーツしかないですよ」とハッケンベルグ博士。さらに「でも勝たないと意味がないですね」と笑顔の奥でキラリと鋭く光る眼……。

警察車両もVW T5

 このイベントについて訪ねると、「いつもきていますよ。2007年に発表したW12エンジンを搭載したゴルフGTIなど、このイベントにふさわしいコンセプトカーの発表もいいでしょう? 毎年20万人もの人が集まるんです。その中には1年間お金を貯めてクルマを作ってくる人も沢山いるんです。こういうファンを大事しないといけないんですよ」とハッケンベルグ博士。

 モーターショーの会場やメディアに登場するヘッケンベルグ博士はいつも少し怖い顔をしていますが、この日だけは“ハッケンベルグさん”と声をかけたくなる柔らかい表情がとても印象的でした。今年の秋、もしフランクフルトショーに行ったとしても、きっとこの手は通用しませんからね(苦笑)。

 ところで肝心のイベントの方はと言えば、毎年VWが伝統&伝説的な注目車をココで発表することで知られているのだそうで、今回は登場間もない新型ゴルフGTIをベースに造られたコンセプトカー「デザイン ヴィジョンGTI」が登場。デザインもさることながらV6 3.0TSIエンジンを搭載するこのAWD(4WD)モデルは500PSを発生。ほかにも研修生によりデザインされたスペシャルモデル「GTI カブリオ 2.0TSI」の仕上がりのよさにも多くの来場者が注目していました。

 そして、この日の主役は舞台の外にもあり。湖畔の村の一角で行われるこのイベントでは数本の道路を開放しイベントブースや飲食店、グッズ販売店などが並んでいるのはもちろん、沿道を歩く人々に自分のクルマを見てほしいとばかりに参加車が長い渋滞(列)を作ります。とにかく人もクルマも多く、この日ばかりは止まっては進むクルマの列が写真を撮ったりオーナーに話かけたりするのにちょうどいい。VWのモデルのラインアップはゴルフ1に始まり、ほかにもビートルや1970年代のシロッコやパサート、1980年代後半に登場したコラードなどにも目がとまります。ほかにもアウディやセアト、シュコダなども列に加わり、カラフル&個性的なカスタムカーも会場の雰囲気を盛り上げていました。

 そしてVWブランドの国産車としての愛され方や楽しみ方に触れることができたのは大きな収穫です。日本でならトヨタ「スターレット」とか日産「マーチ」、マツダ「ファミリア」みたいなモデルが中心となって集まるイベント。しかしこのイベントはゴルフの中でも“GTI”という人気がありかつマニアックなモデルを中心としたファンミーティングからスタートしている点が、イベントの価値や魅力を高めているのかもしれません。

 今年初めてこのイベントを見ることができた私の感想は、圧倒的な数を占めていたゴルフとそのユーザーを例に挙げてみても、さまざまな世代の人とモデル、そして会場はオーストリアとは言えドイツ車であるVWの本国での国民車的な存在感はやはり日本とは違うということ。

 それは街中をごく普通にすれ違うVW車を見たって分かることではあり、当然と言えば当然ですが、そんな当たり前のことを少し刺激的なこのイベントで実感できたことはラッキーでした。日本でも富士スピードウェイで行われた盛大なVWのファンイベントを見に行ったことがありますが、それとはまた雰囲気が異なります。しかし日本には日本のゴルフの愛し方や楽しみ方があっていい。

 今回はVWグループのファンミーティングのリポートを「本国の方じゃこんなイベントもあるんだ、へぇ~」と、写真で見ていただければ幸いです。

このときばかりは駐車場もVWグループ車ばかり
ファミリーで参加していたその娘さんのつまらなそうな雰囲気がまた可愛かった(笑)
この時代のシロッコやパサートもカッコよく見えました。日本ではあまり見かけないかも
小さなホテルもこの日ばかりはこのイベントで貸し切り状態。こちらのワンコのボディーサイドにもVWマークが!
練り歩きならぬ“練り走り”? 自慢の愛車を見せるための超スロー走行は楽しそう。皆さんカメラを向けると素敵な笑顔を返してくれました
VWブースの展示車。毎年、ヴェルターゼーでは伝説になるようなモデルを発表するということで、今年の注目車は500PSのゴルフ「デザイン・ヴィジョン・GT」
デザイナーの研修生が造ったスペシャルモデル「GTI カブリオ」
VWがピックアップ本場の北米向けに作ったピックアップトラック「AMAROK」。実は欧州で売れすぎて北米にまわせないのだとか。確かにカッコイイ。このレーシングカートを楽しむための仕様(提案)はカート好きやラジコン好きの心をくすぐる?
こちらの車両はサビを活かしたカスタムをしていて「ラストスタイル」と呼ぶらしいです。素敵なカップルの彼が教えてくれました。彼らのクルマは内装も凝っていて、雰囲気がとても素敵でした
こちらも「ラストスタイル」仕様
かつてアメリカ車にはボディやルーフに合成皮革を使ったモデルが存在していましたが、今ではこんな使い方もされるんですね……、と感心したカスタマイズ例
誰かご存知であれば教えてください。今回、何台ものVW車のルーフにトイカーや旅行鞄を載せているクルマを発見したんです。どうしてなんだろう?

飯田裕子