誰でも楽しめるD1
ドリフトと言うと、私の場合は峠の走り屋さんを思い出します。身近なところには箱根や大垂水峠などがあり、一時はギャラリーコーナーが人や車でいっぱいになっていたようです。経験談としてお話しできないのは、走行はもっぱら夜だったから。飯田家では息子は見に行くことができても、娘の夜の外出に対してはとても厳しかったのです。
しかし今の私がいるのは、たった一度だけ見に行った大垂水峠で、市販車のスポーティな走りに魅せられてしまったことから始まっています。それから未経験者向けに開催されたジムカーナレッスンに参加して“タイムアップ賞”をいただき、ますます火がつき(単純です)、当時のツーリングカー選手権の最高峰レース「グループA」を観に行って、サーキットを走ってみたいと思ったのでした。
お仕事の先輩たちには、かつて競技ラリーに夢中になっていた方もいます。彼らの時代はアスファルトよりもダート路の走行がさかんだったそうで、当時は走るところ(林道)なんていくらでもあったそうです。が、それもどんどん厳しくなり、今では林道の入口にゲートができ、一般車両の乗り入れはほぼ不可能になっています。
ラリーをする人もドリフトする人もレースをする人も、今やダートラ場やサーキットで練習するほかない時代です。まあ、仕方ないでしょう。
ところで先日、私にとってそんな当時のことを懐かしく思い出させてくれたイベントがありました。
先日、開催11年目を迎えた「D1グランプリ」を、お台場で初観戦してきたのです。会場の背景にはフジテレビなど大きなビルが立ち並び、街中での開催というところに新鮮な感覚を抱きました。1万人分の観戦シートはほぼ満席(前売りチケットは完売だったのだとか)。
「TOKYO DRIFT IN ODAIBA」はシリーズ戦に組み込まれていて、土日の2日間で第1戦、第2戦を開催。日曜日のチケットが完売したこともあり、会場内はどこも大賑わい! |
選手たちの技量はもちろん、マシンのチューニングやタイヤ選びなどによるレベルの高いパフォーマンスが観客たちの大歓声と拍手を生み、スタンドは笑顔でいっぱいでした。スタンドで1人観戦していた私でさえ「うわぁ~」と控えめながらも声をあげずにはいられず、気付くと微笑んでしまっていた次第です。周囲を見渡せばみんながイイ顔して観ていたんです。
競技ですからルールも色々とあるのですが、1台でパフォーマンスを見せる「単走」と2台が接近しながらドリフトする「追走」の2種目があり、そのどちらにもそれぞれに見どころがあり、観客が飽きることなどまったくありません。一般的なレースだと、周回によっては目の前を淡々と通過することもあるわけですが、D1グランプリの場合は走行1本ごとのガチンコ勝負ですから、驚きや感動のレベルに違いこそあれど、毎回期待してドリフトの妙技を見届けることになります。
予選を勝ち残った選手たちはトーナメント方式で対戦していく。追走は2台がそれぞれ1回ずつ先行する側、後追いする側となって走行。ドリフトアングルやタイミング、先行車との距離、白煙の立ち方など様々な角度から審査され、勝敗は決まる |
また、スピード感のあるドリフトを間近で見られる距離感と迫力も、まるで峠でガードレール越しにギャラリーをしているみたいで独特だと感じました。使用されるマシンは昭和の時代のものから現代のクルマまで様々。それがまた面白い。
今回のお台場では土日で2戦が行われたのですが、私が観戦した日曜日は単走・追走ともに、サドンデスの後に川畑真人選手(Team TOYOTIRES DRIFT with GP SPORS)が勝利。審査員が甲乙付け難いと判断されるとサドンデスになるのですが、再戦を待ち望む観客のほうが先に拍手で、サドンデスをアピールするというやりとりに、会場内がますます盛り上がり、最後は審査員も観客も納得&大歓声で川畑選手の勝利を称えました。
表彰式。第2戦の追走のリザルトは、1位 川畑真人(RPS13)、2位 今村陽一(S15)、3位 たかやまけんじ(FD3S)。総合順位は1位 川畑、2位 今村、3位 佐久間達也(S15)となった |
ちなみに川畑選手の練習場所は、もっぱら日本海間瀬サーキットやおわらサーキットなどのサーキットだそうです。関係者の方いわく今やドリフトの練習を行えるサーキットが全国に増え、練習がしやすい環境になってきていると言います。また、同じ意味ではありますが、今や峠の“ギャラリー”あらため競技の“観客”も、レベルの高いドリフトを安心して観戦できる時代なんですね。
川畑さんにドライビングで心がけていることをうかがうと、「お客さんをいかに喜ばせるドリフトを見せられるか」なのだとか。開催11年目を迎えるD1グランプリは今さらながら、もの凄くエンターテイメント性の高いイベントだと実感。クルマやルールに詳しくなくても、サーカスやプロスポーツを見るみたいな感覚で観戦することができるのではないでしょうか。
そして彼らの迫力ある走りに感化され、クルマやドライビング、そしてモータースポーツに興味を持つ人たちが増えたらいいのですが……ドリフト界でも“体験ドリフト”なんてあるのかしら。そしたらかつての私みたいに、火がついちゃう人もいるかもしれません。私もやってみたいな……あっ、私こそ火がついてしまったりして(笑)。いやいや、求む若者たちよ~っ!
(飯田裕子 )
2011年 6月 10日