伊豆大島でEV

 先日、椿まつり開催にあわせて、初めて伊豆大島に行ってきました。岡田港に降り立った際の私の第一印象は想像以上に寒く、そして駐車場や町中を走る品川ナンバーの軽自動車の多いこと(そう、伊豆大島は東京都ですから)。私にとって初めての伊豆大島は確かに観光的な魅力が色々とあり、それについても後ほどご紹介したいと思いますが、目的は「再生エネルギー、電気自動車を活用した観光環境地域づくり事業」についての取材でした。

 東京都は地球温暖化対策推進に際し、地域の特性にあった対策を進めるため、大島町に電気自動車(EV)と太陽光発電を導入し実証実験を行うことを採択。同時に昨年9月に伊豆大島が「日本ジオパーク」認定を受けたことで、三原山という活火山を持つ同島の自然環境を観光産業の促進の軸とし、それを環境負荷の低い方法で進めていく取組が行われることになりました。つまり、環境と観光を融合させた町づくりを目指したい、ということなのです。そこで、環境負荷の低い街づくりや観光を行うアイデアのひとつが、EVを太陽光発電で走らせるという取り組みです。

 大島町は東京都のサポートを受け、昨年9月に三菱「i-MiEV」を2台購入。同時に200Vの充電スタンド4機を設置し、町役場には2台のEVの消費電力と同等分の発電が可能なソーラーパネルも設置しました。2台のi-MiEVは公用車、島民や観光客向けのレンタカーとして使うために町役場で保管充電されていて、大島町ではすでにシンポジウムや地元の方を対象とした試乗会なども行われています。

大島町が導入したi-MiEV。後方には充電器が見える大島町役場のソーラーパネル。その前にある4台のi-MiEVは試乗会のために用意されたもの大島町役場内にある太陽光発電システムのモニター。当日はあいにくの天気で発電量は少なかった

 今回i-MiEVは椿まつりのオープニングセレモニーの先頭を飾り、午後には島民向け試乗会が行われました。実際にハンドルを握られた皆さんは同様に静かで想像以上に力強く走ることに感心。また経済的にも税金が軽自動車同様と安く、ガソリン代が高い島の方にとって電気で走ってくれること、さらに環境にも優しいことから確かな魅力を感じられていたようです。が、「もう少し車輌価格が安ければね~」という声も少なくなく、よいクルマなのは分かるけれど、購入に至るまでの決断にはなかなか至らない様子でした。

 ただし、伊豆大島は島をぐるっと1周しても約52km。町の方たちの日々の移動距離も少ないのだとか。そこでEVに対しても「1日に長くても50-60km走れればいい」と航続距離に不安や不満を抱く方も少なく、EVがとても合う環境にあるのは確かであり、だからこそ皆さんEVに興味を抱くわけなのです。

 島民向け試乗会に参加していた86歳の児玉さんは、長く乗っていたディーゼルのライトバンから買い替えるクルマを探していたところ、ジャパネットタカタの番組でi-MiEVが紹介されたのを見て興味を持ち、本土のディーラーと購入の契約を済ませたという方。「フツーの軽より静かで税金も安く、ちょっと走るくらいだからむしろ燃料代が安く済んで助かる」と、納車を心待ちにしているお1人でした。

 また17年前に大島町に移住し、有機栽培をしながら炭と薪で暮らす松崎さんは、これまでの移動はオートバイだったそうですが、お年を考え4輪の購入を検討。そんなとき、島民に配布された広告でi-MiEVを知り「ガソリン自動車に抵抗があったので、EVならいいなと思いました」とのこと。大島の人々の人柄はもちろん自然環境にも魅せられたという松崎さんらしいEVの購入動機です。

1月29日~3月18日まで開催される椿まつりのオープニングセレモニー。パレードをi-MiEVが先導したパレードの手前で焼いているのは「くさや」
椿まつりのオープニングでは、「再生エネルギー、電気自動車を活用した観光環境地域づくり事業」を受託したJTB法人東京の川村益之社長
パレードの後、大島町役場で島民向けのEV試乗会が開催された。試乗車はi-MiEVだが、島ではMINICAB MiEVにも需要がある

 初めての伊豆大島訪問となった私にとっても、お世辞抜きで様々な伊豆大島の魅力を感じることができました。今回、私たち取材陣は町役場からi-MiEVに乗って三原山周辺のジオサイトを巡るツアーに連れていっていただきましたが、活火山の雄大さを数十分とわずかな時間ながら(ツアーコースはいくつかあります)実際に歩いて体験することもできたのです。1986年に全島民避難を余儀なくされた噴火が起きたものの「噴火と再生を繰り返す大島の自然と共に暮らしている」と言います。海岸沿いを走る道路脇には約15,000年間に100~200年ごとに発生した大噴火によって積み上げられた地層の大切断面のダイナミックさや自然の創造物としての美しさに圧倒されました。

 そんな風にi-MiEVで山を上がったり下りたり、低地を走行したりしていると走行性能に何の不満もないことや、バッテリーの減り方や、下り坂などでの回生の様子も知ることができました。それから、寒かったので暖房を付けたらバッテリーの減り具合が早まったことも……。実際に私たちCar Watchチームが乗ったi-MiEVのバッテリーは、ほとんど無くなってしまいました。この日、約55kmをヒーターを使用しながら走行し、他車に比べて少々ハード目に、しかも余計に登坂路を往復したりもしたことが原因で、他のメディアの残量はまだ余裕がありました。つまり、普通に走行する分には航続距離ももう少し伸びるわけで、観光にも生活の足としても十分に使えるはず。

当日の三原山はなんと雪! 雪は年に4日ほどしか降らないそうです。ガイドの西谷さんは伊豆大島の自然をこよなく愛する森林インストラクター。大島の成り立ちや自然を楽しく教えてくれまました
地層切断面にいくつもの溶岩流跡。大島には火山島ならではの景観が溢れています
大島はサイクリスト天国でもあります。排気ガスを出さないEVと自転車は相性バッチリ充電器は三原山山頂口にもあります

 そして伊豆大島は自然やオーガニック好きの女性にもおすすめ! 三原山ハイキングを含む環境エコツアーや温泉、塗っても食べても体によい椿油に、ビタミンB2やカロチンを多く含み、抗酸化作用もある明日葉も美味しくいただけます。

 実は今回の事業には、JTBという我々にとっては旅行会社のイメージが強い会社が参加しています。大島町の川島理史町長は、大島に限らず日本の観光の低迷を不安視されており、環境と観光の両立が今の大島の目標だと言います。JTBはこれまでよりも魅力的な地域づくり(観光地)をするためのお手伝いを、プランニングから参入して行うことも企業としてかなり積極的に行っているのだとか。

 初めて訪れた島で新たに様々なことを知ることができた2日間となりました。次回はプライベートでもう1度行きたいと思います。伊豆大島、マジでいいところですよ~。

伊豆大島へは竹芝桟橋から高速船で1時間45分ミス大島の松木愛菜さん(右)と川島町長
大島特産の椿油を作る高田製油所。椿の実を砕き、蒸してから圧搾します。宿には「椿油フォンデュ」なんてメニューもあります

飯田裕子のCar Life Diary バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/cld/

(飯田裕子 )
2012年 2月 3日