開発進む、次世代自動車向けエネルギー

 東京ビッグサイトで2月29日~3月3日に開催された新エネルギー、省エネルギーに関する展示会「スマートエネルギーWeek 2012」に行ってきました。これは水素・燃料電池展、2次電池展、太陽電池展を含む7つの展示会が同時に開催されたもので、3日間で合計9万3000人もの方が足を運ばれたのだとか。

 この展示会は商談ベースの催しで、モーターショーのように誰でもが入場できるイベントではありません。その分、紹介される内容は超専門的で、我々がふだん目にすることのないパーツや材料、機構、制御などを展示しており、出展企業は現在の商品から近未来の将来性のある技術などを他企業にアピールする場となっています。今回はそういった難しい展示を広く浅くながらも見ていった中で感じたことを紹介させていただきます。

東京ビッグサイトの東/西展示棟をめいっぱい使って行われたスマートエネルギーWeek 2012。昨年以上に出展社数も規模も伸びているのだとか

 

HySUT(水素供給・利用技術研究組合)ではトヨタ、ホンダ、日産が燃料電池車を、また水素充填機も展示/紹介されていました

 まず燃料電池車(FCV)はどうなっているのか。HySUT(水素供給・利用技術研究組合)は毎年この展示会に出展していて、各社の技術や水素ステーション(充填機)などを紹介しています。

 今回は各社とも、技術的な展示に大きな変更や進化を具体的に示す内容は特になかったような印象がありました。トヨタ、日産、ホンダは、2015年に燃料電池車を市販化すると発表しています。具体的な紹介が新たになされていなかったことをポジティブに捉えれば、実車化に向けた開発が水面下で進んでいると考えられます。

 燃料電池車の市販化に向けネックになっているのは、やはり価格。燃料電池車の開発が始まった当初は1台2億円などと言われた車輌価格は、近い将来1000万円台くらいまで下げたいと考えているのだとか。現在は各社で高価な白金の使用量を減らす研究・開発が進められ、市販化に向けて品質管理を含む耐久性への現実的な取り組みを行っていると、壁に並んだボードでは紹介されていました。

 インフラも重要です。充填機を参考出品しているメーカーに値段を聞くと、「値段はまだまだ付けられるレベルではない」と言います。燃料電池車が3年後の市販化を目指すためには、水素ステーションの数をイッキに増やして利便性を高めるために、充填機そのもののコストダウンなども必要でしょう。より現実的な段階へと進むためには、インフラとハード両面の整備や進化が普及に向けて求められるのではないでしょうか。

 3年後の市販化……どんなカタチで実現するのか、私にはまだ先が見えませんでした。「まだ3年もあるから」という見方をする方もいます。が、開発現場における3年間という時間が長いのか短いのか、私には計り知れません。あと3年……と思えるからです。

トヨタのFCVは水素タンクやバッテリー搭載位置などをスケルトンで紹介各自動車メーカーの説明員から直接お話しを伺うこともできましたが、壁には現在のFCVの性能や開発内容などを説明するボードが並んでいました。例えば日産の技術進化の内容がコチラ。写真がちょっとピンぼけですみません
岩谷産業の水素充填機(一部)。コレだけでは水素充填ステーションとして完全ではないのですが、メインの機器を展示していたようです。こちらで価格の見通しを伺ったのですが、「値段はつけられません」と言われてしまいました。これがまだまだ現実なのですね

 

リチウムイオン電池の性能向上に向けた技術開発/研究の展示の一例

 電気自動車(EV)やハイブリッド(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)にとってはリチウムイオン電池の進化にも期待したいものです。もっと早く、沢山充電ができてもうちょっと長距離移動が可能になれば……HVについては電気の出し入れが速くなることも性能をより向上させることにも繋がります。リチウムイオン電池はまだまだ改良が進むそうです。

 例えば2006年に経済産業省から出た「次世代自動車向け電池の将来に向けた提言」と題する報告書があります。そこには大幅な性能向上とコストダウンをめざし、当時のリチウムイオン電池の性能に対し、エネルギー密度を1.5倍、コストを1/7にするために、正極と負極、電解液などに新しい材料を用いたり、製造プロセスや材料構成の改善を重ねる必要がある、とあります。さらにもっと先(2030年)を見据えると、エネルギー密度は当時の7倍、コストは1/40を目指さなければならないと目標が立てられています。

 それらに向けて、国と大学や企業が開発や研究を行っているそうです。今回会場でも負極の材料はカーボン系のもので、違いはないようでしたが、正極については様々な材料や性能などが紹介されていました。詳しい材料内容や現実性についてまでは、私の知識からは何とも……しかし、技術の研究や開発が行われていることはこの場で実感することができました。

材料などの展示も各社工夫を凝らしていましたが、正直なところ私には単に黒い粉にしか見えない……?鉛バッテリーだって進化しているんですリチウムイオン電池を使ったEVを試作するメーカーで。「可愛いEVが展示されているな」と思ったら、光岡自動車のステッカーが……

 

中国のBYD。自動車用バッテリーの展示を期待していたのですが、家庭用(非常用)蓄電池の展示ばかりで、残念でした

 会場では海外のパビリオンも目にとまったというか、気になりました。電池の世界では中国や韓国が全世界に進出しており、日本はそれらと戦っているという現実もあります。PCや携帯のリチウムイオンバッテリーの2011年のシェアは、日本の震災の影響もあるようですが、韓国が日本を抜いてトップに立っています。

 そんなわけでモーターショーとは違った、普段目に見えない技術競争を生々しく新鮮に見ることができた今回の展示会。主催者のお話しによると、スマートエネルギーWeekは7つの展示会から構成されていますが、全体的に昨年以上に出展社数、規模が伸びているのだとか。そしてどの展示会も日本最大、世界最大という規模での開催であり、この場を新製品や新技術の発表の場として活用し、新エネルギー、省エネルギー関連製品が一堂に集まる場として確立しつつあると実感しているそうです。私もそれには納得です。この記憶をもとに、また来年も覗いてみたいと思います。

海外パビリオンも目立ちました。例えばドイツやフィンランド、アメリカやカナダ、台湾、韓国など。主催者によると中でもアジアのメーカーの進出が進んでいるのだとか。韓国パビリオンは今年初めての登場だそうです

飯田裕子のCar Life Diary バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/cld/

(飯田裕子 )
2012年 3月 15日