2009年型のF1はこう変わった(パート2)

 前回に引き続き、今年の新型マシンをチームごとに見ていく。これまで、フェラーリ、トヨタ、マクラーレン、ウィリアムズ、ルノー、BMWザウバー、レッドブルが新車を発表して、テストに入っている。

フェラーリ F60
 真っ先に発表されたフェラーリのマシンは、今年フェラーリが会社創立60年ということで、F60と命名された。

 F60は、細長いノーズがほぼ真っ直ぐ前に伸び、ノーズ下面に流れる気流を積極的に車体下面に導こうとしている。フロントの翼端板は気流をタイヤの外側に導く形で、テストからは小型ウイングも追加装着された。フラップは大型の1エレメント(1枚)型。

 サイドポンツーンの前端は、衝撃吸収装置が収まった部分が前に飛び出した形をしている。そのため、上から見ると、途中で段の付いた形になり、前端の外側の部分が内側よりも後ろに下がった形になっている。コクピットに近い内側部分が前に出ているのは、気流を上下にさばくのにも利用されているようだ。実際、チーフデザイナーのニコラス・トンバジスも空気力学的な効果を狙ったと表明していた。


 この外側の1段下がったところには、バックミラーステーを兼ねた整流用垂直フェンス装着している。この垂直フェンスは、サイドポンツーン外側に沿って気流が流れるようにするもので、F60のものはスリットを入れた形を採用している。バックミラーはコクピット脇にあるほうが、ドライバーには視線移動量が小さく、楽なはず。それでもバックミラーを車体外側に置くのには空気力学的な理由がある。バックミラーはその後方の気流を激しく乱してしまう。これをコクピットの脇に置くと、リアウイングへ向う気流を乱す。そこで、車体の外側に置くチームも多い。

 以前は、バックミラーを車体外側に置くのは、前から見たときのシルエットをチムニーと一体化させることで、空気抵抗の増加分をバックミラーとチムニーとで2つで1つにしようとしたものと言われていた。だが、チムニーがなくなってもこの場所にバックミラーを置くことから、その実態は上に書いたとおり。また、ミラーによる乱流で車体外側の気流によい影響を及ぼそうとしているという説もあるが、これは実験をしないとはっきりしない。

 F60は、排気管が車体の上面に飛び出しているが、これは新ルールに違反した造形で、開幕戦には改修される予定。マニエッティ・マレリとの共同開発中のKERSは、他チームよりも技術的に遅れているとされていたが、2月のテストでかなり進歩したと言う。

トヨタ TF109
 トヨタは、TF109の発表をWebサイト上でだけというやり方にした。1970年代までのF1では、工場で完成直後に新車をお披露目するなど、発表会はシンプルだった。ところが、1970年代の末あたりからだんだんと派手な新車発表を行なうようになっていった。広告代理店にはお金が落ちたかもしれないが、ムダと思える過剰な装飾や演出も多かった。トヨタは、TF109で新たな新車発表の形式をF1界に提案した。

 TF109は、ノーズ先端を高くして、その下面に気流をまっすぐ流して、車体下面へ導こうとしている。この気流をよりうまく車体下面に導くように、ノーズの下とサイドポンツーン前には、気流改善用の小型のデフレクターも装着している。


 フロントウイングの翼端板は、今年のトレンドであるフロントタイヤの外側に気流を飛ばすタイプ。テストから、このフロントの翼端板に小型ウイングも追加装着された。

 サイドポンツーンは、トヨタとして初めて積極的なアンダーカット(下側のえぐり)を採用した。このアンダーカットは、サイドポンツーン外側に沿って流れる気流が勢いを保ったまま車体の後方に向かうようにさせるもので、ディフューザーの効果を高めている。これによって車体下面と路面とで発生するダウンフォースを増やす効果がある。

 サイドポンツーン前端外側には板状の垂直フェンスを装着している。テストからエンジンカウルの上には、「シャークフィン」と呼ばれる大型の気流制御板を装着している。

 ディフューザーは中央部が高くなった形を採用し、一説によると他チームよりもダウンフォース発生量が多いとされている。これは、レギュレーションの条文を詳細に解釈した結果、トヨタが見つけた形で、FIAもこれを合法と解釈した。他チームもトヨタとウィリアムズに追従すると見られている。

 ハイブリッド車技術で世界のトップを行くトヨタは、KERSも独自開発で最先端を行っている。だが、車体の重量配分を優先した結果、緒戦でのKERS投入は見送ると言う。

マクラーレン MP4-24

 MP4-24は、ノーズ前端が下がった形を採用した。これは、加速やブレーキングで車体にピッチング(前後の傾き)が起きても、ノーズの上下に分かれる気流の量の変化が小さくなるようにした設計だろう。ノーズ下面からコクピット下にかけてはアーチのように高くされ、ここから気流を車体下面に流そうとしている。この形は1993年のMP4/8でも採用していたもので、マクラーレンには実績のあるもの。

 フロントウイングのフラップは2エレメント(2枚翼)を採用。こうすることで、ウイングとフラップのキャンバー(反り)を大きくして、よりダウンフォース発生量を増やしている。しかも、2本の隙間があることで、ウイングとフラップの底面に適度な気流が入って、キャンバーを大きくしても気流が翼の裏面から剥離しにくくなり、ウイングとフラップの効果を高めやすい。ただしルール上、可動とできるフラップは左右1枚ずつなので、上側(後ろ側)のフラップだけとなり、6度の角度変化を付けても、その効果は大型の1枚フラップより小さくなる恐れもある。

 翼端板の気流は外側に飛ばされる形式で、それに呼応するように、フロントホイールのカバーの形状も複数試している。ブレーキを冷却してホイールから出て来る気流を、翼端板から車体外側にはじかれる気流に合流させることを期待した設計だ。

 

 

 サイドポンツーンを高くして、熱気が車体の後方までうまく抜けるようにしている。内部の熱気を輩出する通路を確保するように、サイドポンツーンのアンダーカットも控えめになっている。とくに側面はほぼ垂直に切り立った形になっている。だが、その外側にはフロアから低いフェンスを立てている。このフェンスで気流を後方に流す設計で、アンダーカットの代わりにしている。

 テストではライバルよりもやや優勢なタイムを出しているが、昨年型のリアウイングを装着していたこともあり、開幕までにリア周りのダウンフォース増加策を準備している可能性がうかがえる。

ウィリアムズ FW31
 FW31のノーズは、幅広く、前端がやや下がった形をしている。これで、気流を車体の上下に分けて、車体の下側に向かう気流を多く確保しようとしているようだ。ノーズの下面はやや膨らんだ形で、気流の改善やダウンフォース増加の効果がウワサされているが、実態解明には実験や解析が必要だ。

 サイドポンツーン前端をやや後ろにして、その前に小さなデフレクターを立てて、乱気流を外側に飛ばしている。サイドポンツーンの外側側面にも垂直フェンスを付け、これらで気流を制御している。


 サイドポンツーン後部では、外側の角を高くして、上面の気流を外側にこぼさずに後部のリアウイングやディフューザーに導いている。

 エアインダクションボックス側面にも小さな空気取り入れ口があり、これは油圧系統の冷却用のもの。

 KERSはフライホイールを使用した独自のものを開発中。詳細は未発表だが、フライホイールを使って運動エネルギーをためるが、そこにはコイルを使うことで、運動エネルギーを電気に変換する方法を利用するようだ。

ルノー R29
 R29は独立独歩な設計がなされている。ノーズ先端が高く幅広く、その下面がペリカンのくちばしのように膨らんでいる。両脇には側面と一体となったフェンスも付く。フェンスの中は、下面がなだらかに上に上がる形になっていて、これでダウンフォースを増やすとか、気流を制御しているとも言われる。ヘレステストでは、この小型フェンスがコクピット下付近まで延長されていた。アロンソは操縦しやすくなったと言い、セットアップを施したところ、最終日に2009年車としてはその日のトップタイムを出すほどに性能向上した。

 フロントウイングの翼端板は、他チームとは逆に、気流をフロントタイヤ内側に導く形を採用。フロントタイヤが向きを変えると、フロントウイングの気流と干渉してダウンフォースの発生量が変化しやすいが、R29の翼端板の形式ではこのダウンフォースの変化量が小さくなるはずだ。ただし、翼幅が少し短くなるぶん、ダウンフォースの最大量は少し減るかもしれない。


 サイドポンツーンはアンダーカットを強く付けている。一方、後部は上側を幅広く、下側はアンダーカットから狭まる、T字型のような断面にしている。これによって、アンダーカットからディフューザーに向う気流の勢いを保つ一方、上側の幅広い部分の中にラジエーターからの排熱路を確保している。エンジンカウルにはシャークフィンを発表時から採用している。

 フェラーリと同様にマニエッティ・マレリと共同開発中のKERSが、2月のテストで大幅な進歩をしたようだ。ルノーとフェラーリは、KERSの導入に執拗に反対してきたが、2月のテストで長足な進歩が見られたとたんに、KERS反対の声がトーンダウンしたのは、じつに興味深い。

BMW ザウバー F1.09
 F1.09 のノーズ先端は幅広く、上下面がほぼ同じ角度で広がる形としている。ノーズ下側には小型垂直フェンスを設けて、気流を制御している。

 フロントウイングのフラップはマクラーレンと同様に2エレメントを採用。翼端板はコの字型の断面形で、気流をフロントタイヤ外側に導く。

 サイドポンツーンの前には、整流装置は付けていなかったが、テストから小型のものを装着した。サイドポンツーンは外側の角が高く、ウィリアムズ同様に上面の気流を車体側面にこぼさずに、後方に導く形にしている。

 KERSの導入には最も積極的で、電気式を独自開発中。これによって、市販車の高効率ハイブリッド技術を確立したいとしている。そのため、唯一早い段階での実戦導入の意向を表明している。


レッドブル RB5
 RB5は、空力の鬼才といわれるエイドリアン・ニューウィーCTO(技術担当最高責任者)と、流体力学のスペシャリストであるテクニカルディレクターのジェフ・ウィリスらしいもので、空力性能と構造を細部まで検討した結果と言えるマシンだ。

 フロントウイングは、マクラーレンやBMWザウバーと同様2エレメントのフラップを備えている。ただし、RB5ではメインプレーン(主翼)と1枚目(前のほう)のフラップが、翼端板と接する翼端部分で一体になっている。ニューウィーは1988年にマーチ 881で初めてF1の設計をまとめたときも、同様な考えを採用していた。それは、翼端板と翼の接続部分に、フィレットという整流装置を付けることで、その部分の気流をより整えて、翼の効果を上げて、抵抗を小さくするもの。RB5のフロントウイングの翼端部分は、マーチ 881と同じ考えをよりシンプルな形で実現している。


 RB5は前後のサスペンションでも空力と構造のベストバランスを狙っている。フロントサスペンションでは、アッパーアームとステアリングタイロッドを一体にせず、ステアリングタイロッドをやや低い位置に独立して取り付けている。これは、1998年のマクラーレンMP4-13と同様なやり方で、サスペンションジオメトリー上での利点と、気流中に露出するステアリングタイロッドを構造上細くできることにより、空力上のマイナスを小さくする効果が見込まれる。

 フロントのプッシュロッドも、ノーズの上に2つの膨らみを付けることで、より立った形で配置できるようにしている。プッシュロッドをより立った形で配置することで、プッシュロッドはより細くても必要な剛性が得やすくなり、気流をより乱しにくくなって、空気抵抗も減らせる。

 リアサスペンションもロッドが細くできるプルロッドを利用している。これで、乱気流と空気抵抗の発生を極力抑えている。リアウイングの翼端板は車体の下端ギリギリ近くまで延ばし、ディフューザーの効果を助けるようにされている。

 RB5は、S・ベッテルが初日から新車勢のトップタイムを出すなど、好調なところを見せている。

 KERSについては、エンジンとともにルノーのものを流用する予定。

他チーム
 トロロッソは、レッドブルRB5のフェラーリエンジン版となる予定。

 フォースインディアは、マクラーレン・メルセデスの技術支援を受けた新型車を、3月1日にヘレスサーキット(スペイン)で公開し、そのまま4日間の合同テストに参加する予定。

 ホンダF1チームは新車の製作作業は継続していると言うが、新オーナー選定については、24日に本田技研工業の福井威夫社長が「買いたいという話はきているが、真面目に買うところはほとんどなく、難航している」と言及。チーム役員によるマネジメント・バイアウト案もあるが、日本のホンダはチーム解体も選択肢のひとつというスタンスを堅持している。

 

URL
FIA(英文)
http://www.fia.com/

(Text:小倉茂徳)
2009年2月25日