9月の3戦で見えてきた後半戦の展望

 8月が夏休み期間だったおかげで、9月は3戦も開催された。ベルギーGPのスパ・フランコルシャンは鈴鹿をはじめ後半戦につながるコース、イタリアGPのモンツァは唯一スペシャル仕様を投入する高速コースであり、シンガポールGPのマリーナベイサーキットはストリートコースでのナイトレースと特徴的なコースばかりで、じつに興味深い3戦だった。

 ベルギーGPは、夏休みが開けて後半から終盤への勢力を伺うのにも格好のレースになるはずだった。だが、初日がウェット絡みとなり、アップデートなど充分にテストできないまま予選、決勝となってしまった。

 そのため、予選での結果をそのまま後半戦での「速さ」とそのランキングとは完全には言いにくい部分があった。そして決勝では、1コーナーでの接触事故により、フェルナンド・アロンソとルイス・ハミルトンが0周リタイヤになってしまった。それでも、コース特性からやや特殊ではあるけれども、イタリアGPとシンガポールGPも合わせて見ていくと、大まかながら後半戦の速さや強さが見えてきた。

速さで抜けているマクラーレン
 マクラーレンMP4-27は、速さで1つ抜きに出ている。ベルギーGPではジェンソン・バトンがポールポジションから逃げ切って優勝。イタリアGPでもハミルトンがポール・トゥ・ウィンだった。また、バトンもリタイヤするまでよい走りをしていた。シンガポールGPでもハミルトンが2位以下を大きく引き離していたし、バトンも2位に入った。

 MP4-27はスパ、モンツァ、マリーナベイと特性が異なるコースで、オールラウンドな速さをみせた。マシンはタイヤの性能をうまく引き出してスピードに活かす一方、タイヤの消耗や性能低下をなるべく抑える特性も出している。バランスがよくなっているMP4-27で、バトンもフロントタイヤの温まりのわるさに苦しむといった、夏休み前に見られた現象に悩まされなくなった。

 半面、MP4-27にはマシントラブルの不安もある。イタリアGPではバトン車が燃料のピックアップ(タンク内からの燃料の吸い出し)に問題が発生してリタイヤした。これについてマクラーレンのテクニカルディレクター、パディ・ロウは「ストップした原因となった個所はつかめたが、なぜそうなったのかはつかめていない」と発言。具体的なことは明らかにされなかったが、やや不安を残している。


 シンガポールGPでもトップを走行中のハミルトン車にギヤボックストラブルが発生。「3速がダメになり、その後ニュートラルに入ったままになった」と、ハミルトンは状況を説明した。確かにストリートコースのマリーナベイは、シフトチェンジ回数が1周あたり80回と多く、ギヤボックスへの負担も大きい。ただ、規定では4戦連続で使えるギヤボックスにすることが求められている以上、これは不安な材料だろう。

 チャンピオン争いを考えると、ハミルトンにはまだ充分チャンスがあり、バトンも全戦表彰台に上がれば希望がなんとかつながるところにいる。コンストラクターズチャンピオンシップでは、現在トップのフェラーリと2番手のマクラーレンの差は36ポイントで逆転も可能なところ。

 残り6戦の中で、マクラーレンはその速さをもってチャンピオン争いに食い込みたいところ。しかし、残り6戦となるとノーポイント、あるいは低ポイントでの入賞は避けなければならない。すると、リタイヤやギヤボックス交換による5グリッド降格ペナルティは避けなければならない。マクラーレンにとって、マシンの信頼性がより大きな不安材料になり、信頼性向上がより重要になっている。


速さでやや劣るフェラーリ
 フェラーリのアロンソはシンガポールGP終了時点で194ポイントを獲得し、ドライバーズランキングトップをいく。しかし、夏休み前の時点で40ポイントもあった2番手との差は、29ポイント差まで縮まってしまった。

 夏休み明けのフェラーリF2012は、決してわるくはないようで、予選、決勝を上位で戦える戦闘力をもっている。だが、トップ争いをできるものではないようだ。アロンソはイタリアGPとシンガポールGPで3位を獲得しているが、「これが限界だった」というアロンソの言葉のとおりだろう。むしろレース巧者であるアロンソのおかげに寄るところが大きいように見える。

 マッサもベルギーGPで5位、イタリアGPで4位、シンガポールGPで8位と善戦した。とくにシンガポールGPでは、オープニングラップでの接触からピットストップをして、最下位からの追い上げての8位だった。マッサはマシンに信頼が置けるようになればかなりの速さと強さを出せる。こうした結果を見ると、F2012は決してわるくはないが、圧倒的な速さと戦闘力がないことがここでも伺える。

 シンガポールGP終了時点でのドライバーズランキングでは、上にも記したようにアロンソ194ポイント、2番手セバスチャン・ベッテル165ポイントと、29ポイント差ある。この点差ならまだ1戦だけでトップを明け渡すことはないが、仮にライバルであるベッテルかキミ・ライコネン、ルイス・ハミルトンのうち1人が優勝を続け、アロンソが3位以下を続けると、チャンピオン争いは俄然厳しいものになってしまう。特にマクラーレンが強い現状では、フェラーリはチャンピオンを獲得するために終盤戦へ向けてF2012をもう少し速く、強くするアップデートが欲しいところだ。


レッドブルの苦闘と希望
 夏休み前までレッドブルRB8は、フロア部分のエアスクープ、エンジンマッピング、手動の車高調整装置など、次々とその“武器”を封じられてきた。それでも、RB8は大きく戦闘力を落とさなかった。イタリアGPは例外として、ベッテルは常に上位で入賞し、マーク・ウェバーも入賞を続けていたが、シンガポールでは白線外からの追い越しによるレースタイムへの20秒加算により、10位から11位へと落ちてしまった。

 レッドブルは、なにか1つの技が封じられても、それを補うものをすぐに持ち込んでくるという、卓越した車体開発能力を持っていることが、今季もよく示されている。

 半面、電装系や駆動系に不安がまだつきまとっている。イタリアGPでは、ベッテル車にオルタネーターのトラブルが発生して無得点になってしまった。この部品はエンジンとともにルノーから供給されるもので、実際にはイタリアの電装専門メーカーであるマニエッティ・マレリが製造したものである。

 ルノーは、ベルギーGPから新型のオルタネーターを投入したが、これがイタリアGPでトラブルを起こした。ルノーエンジンを使う他チームでもイタリアGPで同様な兆候が出ていたものがあったと言う。


 シンガポールGPでルノーは、予選と決勝ではヨーロッパGPからハンガリーGPまで使った旧型のオルタネーターを使用する一方、金曜日のフリー走行では対策を施した最新型をテストしていた。この最新型のテスト結果が良好なら、早ければ日本GPから新型を装着することになる。それでも、残り6戦の中でポイントの取りこぼしが大きく影響することを考えると、不安な材料ではある。

 日本GPが行われる鈴鹿サーキットは中速や高速のコーナーもあり、レッドブルRB8には好都合なコースとなる。ベッテルはチャンピオン争いの流れを引き寄せるためにも、シンガポールからの連勝と、鈴鹿3連覇を狙ってくるだろう。ウェバーもまたチャンピオン獲得への希望をつなぐには、鈴鹿での優勝は必須条件になるはずで、レッドブル勢は速さを見せてくるだろう。

 イタリアGPでは、ルノーエンジンのピークパワーによるトップスピードの遅さがあったが、コーナー出口からの加速性能を重視したギヤ比設定と、コーナリングを得意とするマシンの特性、残り6戦のコース特性を考えると、終盤戦に勝機が見出せそうだ。チャンピオン争いをより面白いものにしてくれそうである。

着実に稼ぐロータスとライコネン
 ロータスのキミ・ライコネンが149ポイントでランキング3位につけ、展開次第では充分チャンピオンを争えるところにいる。

 ライコネンは中国GP以外今年の全レースで入賞し、着実にポイントを稼いでいる。ロマン・グロジャンは速さではライコネンを凌ぐが、粗さも目立ってしまった。

 E20は高い戦闘力をみせ、トップ争いもあと少しというところ。終盤6戦でライコネンがチャンピオン争いに踏みとどまるには、この「あと少し」がとても重要となる。しかし、この「あと少し」が達成できるかどうかは分からない。ロータスチームの技術スタッフは優れた人材が揃っている。ただ、レッドブル、マクラーレン、フェラーリのように次々とアップデートを繰り出せるほどの資金力があるかは疑問となってしまう。

うまくいかないメルセデスAMG
 メルセデスAMGは、なかなか上手くいかない。9月11日から13日にフランスのマニクールサーキットで行われた若手ドライバーテストでも、マクラーレン風のサイドポンツーンと排気口や、ロータス風のリヤウイングの翼から気流を出して空気抵抗を減らすことでスピードをあげる装置をテストするなど、積極的に開発を行った。そして、シンガポールGPではこのテストしたサイドポンツーンと排気口を投入。装備としては他のチームとほぼ横並びになれた。だが、色々と開発をするものの、なかなか結果向上に結び付かない。

 他チームも多く採用しているこの新型のサイドポンツーンと排気口は、一般的にディフューザーなどの効果を高めてリヤ回りの空力性能を高めることが期待される。メルセデスAMGのW03はタイヤの消耗や性能低下が早く、決勝でとれる戦略が限られているだけでなく、予選でもタイヤ温存のためにコース上が空いたセッション中盤での1回だけのアタックや、ピットを出てタイムを出さずに戻るという消極策を採らざるを得ないままだ。

 シンガポールGP終了の時点では、夏休み明けのアップデートもドライバーは「効果は出ている」と言うが、大きな改善にはつながっていないようだ。

 メルセデスAMGチームは現在コンストラクターズランキングでは、136ポイントの5番手。6番手のザウバーとは35ポイント差。残り6戦で5位をこれを守り抜けるかという戦いになっているのは、メルセデス・ベンツとしても本意ではないだろう。クルマの販売が落ちている中、来年以降のことを考えると、メルセデスAMGチームとしては何か光る結果を出したいところだ。


当たり外れが大きいザウバー
 ザウバーは、当たり外れの差が大きい展開を続けている。

 ベルギーGPではC31のセットアップが決まり、予選で小林可夢偉が2番手、セルヒオ・ペレスが5番手につけた。だが、決勝は1コーナーでの多重衝突に巻き込まれてしまうという不運があった。

 イタリアGPでは、決勝でタイヤ選択と戦略がうまくはまったペレスが2位を獲得した。シンガポールGPでは予選で2台とも苦戦。決勝でもウェバーへのペナルティでペレスが繰り上げで10位になった。小林は予選でひどいオーバステアに苦しめられ、まったく戦えないマシンで決勝にも臨まざるを得なかった。

 ザウバーチームは資金力で弱いチームであり、毎年シーズン終盤になると大きな進歩は見込めなかった。しかし、今季は日本GPを含む終盤戦にアップデートを多数投入すると言う。うまくこれらが決まれば、終盤になって好成績を出してきているフォース・インディアの脅威から逃れるとともに、上手くいけばメルセデスAMGのワークスチームを凌ぐコンストラクターズ5位を獲れるかもしれない。

 だが、技術スタッフの力量がこれらを効果的に使いこなせるかどうかは不安点だろう。C31というマシンは、うまくセットアップが決まればベルギーGPの予選のように速さが出る。しかし、セットアップがうまくできないとどうしようもないマシンにも陥りやすいようである。この当たり外れが大きく出てしまうのは、マシンの特性もあるだろうが、限られた時間でうまくマシンをセットアップできるかどうかという、エンジニアをはじめとした技術スタッフの力量によるところも認めざるを得ないだろう。

 また、戦略についてもペレス担当は上手くやった実績があるが、小林担当は消極的なやり方が多いように見えてしまう。ドライバー2人の実力はともに高いので、マシンのアップデート投入を上手く活かすだけの現場のチーム力によって、終盤6戦の成績は大きく左右されそうだ。

フォース・インディア、ウィリアムズ他
 フォース・インディアがそのスピードを速さと結果に結び付けてきている。そして、表彰台まであと1歩の4位にまで迫っている。もともとスピードランキングでは常に上位に並ぶチームだが、段々とラップ全体の速さに結びつけてきている。またポール・ディ・レスタ、ニコ・ヒュルケンベルクの若手2人も、経験を積むたびにその才能を伸ばしている。

 ウィリアムズは結果にこそ結び付かないが、パストール・マルドナドが予選で速さを見せている。シンガポールGPでは、マルドナドは予選2位だったが油圧系統のトラブルでリタイヤだった。ブルーノ・セナは予選でうまく行かず、ギヤボックスも交換したことで22番手スタートになったが、リタイヤするまで入賞圏を争うほどの追い上げをみせていた。FW34は速さがあるが、信頼性がネックになっているところも出てきている。信頼性が高まれば、フォース・インディア、ザウバーとともに上位のワークス勢を脅かし、終盤の戦いをより面白くしてくれるだろう。

若手ドライバーについて
 9月11日から13日まで、マニクールサーキットで若手ドライバーのためのテスト走行会が行われた。これには先述のメルセデスAMG、フォース・インディア、フェラーリの3チームが参加した。ジュール・ビアンキは初日と3日目がフェラーリ、2日目はフォース・インディアと多忙な中で、連日トップタイムを出した。

 フェラーリは、2日目に育成ドライバーでシミュレーターのテストドライバーを担当するダビデ・リゴンを起用。フォース・インディアは、1日目にルイス・ラジア、3日目にロドルフォ・ゴンザレスのGP2ドライバーを乗せた。メルセデスAMGは2日目までフォーミュラ・ルノー3.5で上位を戦うサム・バードを、3日目には今季GP2にスポット参戦したあと耐久レースになどに出ているブレンドン・ハートリーを起用した。

 若手テストの本来の目的は、若手ドライバーの才能を見極めるとともに、F1に乗せることで、チャンスが来たときにF1により慣れた状態で実戦に臨めるようにすることであるはず。特に今回のメルセデスAMGは、これを新型サイドポンツーンと排気口のテストに利用していた。この排気ガスを使った空力装置は風洞実験では再現できず、実走テストが一番の開発テストになるからだ。だが、これでは若手テストの本来の目的は充分に果たせてないことになってしまう。

 半面、イタリアGPとシンガポールGPでHRTはP1で中国人ドライバーのマ・チンファを走らせた。だが、その起用とライセンス発給には疑問が残る。マは、昨年の中国ツーリングカー選手権でチャンピオンとなった。だがそのフォーミュラ経験は、2010年のスーパーリーグフォーミュラどまりで、いずれもフォーミュラでは目立った成績がなかった。実際モンツァでのP1では、同じマシンのペドロ・デ・ラ・ロサより3秒近く遅く、セッショントップタイムより5.8秒も遅かった。これで同じコース上を走るのは他のドライバーにとって極めて危険である。

 もしも、追い抜きの動作の中で考えの行き違いが起きてラインが交錯したら、マシンは飛んでしまい大事故になりかねない。また、ドライバー本人にも、速いマシンをよけるのに忙しく大した経験にもならないどころか、挫折感を与えかねない。

 もう少し上級のフォーミュラで実戦経験を積ませるか、テストでしっかりしたタイムを出せるようになってから出走させるべきだ。そのためにも若手テストは、マシンのテストではなく若手のための走行をしっかりさせるべきだろう。モータースポーツの世界的な拡大はよいことだが、FIAのライセンスの発給にもより正しい判断とより公正な基準が必要だろう。

 上記の例は特別だったが、現在F1に上がってくる若手は優れた才能を備えたものばかりだ。その一方で粗さが目立つ例もある。ベルギーGPのスタート直後の多重衝突事故の原因を作ったとして、グロジャンが1戦出走停止処分を受けた。この処分は妥当であろう。だが、若手ドライバーに正しいレースの仕方を教える機会も必要なのかもしれない。

 F1直下のGP2は、相手を蹴散らしてでも前に出てF1に行くという、粗い行為がその始まりから見られた。そして病院送りになったドライバーも少なくない。マシンの安全性が高まったから病院送りでも比較的軽症で済んできたが、マシンが他のコクピットの真上に落ちれば、下側のマシンのドライバーが死亡する事故になることは確実である。

 近年のGP2はその粗さがより目立っていた。他のスポーツでは、マイナーリーグは選手に経験を積ませてトップクラス昇格のチャンスを与えるものであるとともに、選手への教育機関でもあることが多い。だがGP2、GP3は教育機関となっているだろうか? 確かに、タイヤの使い方など実戦に絡むことは経験を積ませている。しかし、フェアなドライビングと言う点ではマイナス面のほうが出てきているようだ。

 F1は1981年にカーボンコンポジットモノコックが導入されて以来、クラッシュ時の安全性が高くなった。さらに、1994年のローラント・ラッツェンベルガー、アイルトン・セナの死亡事故と、カール・ヴェンドリンガーの脳挫傷事故からF1の安全性はさらに大きな進歩を遂げた。そしてその成果は、各種フォーミュラにももたらされた。安全のために研究者は多大な努力をしてきたが、それで得られた安全性にドライバーは過信して危険でダーティーなドライビングをしていないか。

 もう一度、ドライバーに安全でクリーンなドライビングをするための教育が必要なのではないだろうか。特に若手のドライバーやGP2やGP3あたりのドライバーにも、教育の機会を与えてもよいのではないだろうか。

 アルミニウム合金板によるモノコック時代では、激しくクラッシュするとモノコックが壊れて中のドライバーは重傷か死亡というケースがほとんどだった。そのぶん、当時のドライバーはフェアでクリーンなレースを心がけ、ギリギリのところで相手のラインを尊重した。このギリギリのところで相手を尊重するフェアな戦いが、本当のトッププロなのではないだろうか?

 グロジャンのベルギーGPでの行為について、より厳しく非難し、より厳しい罰則を求める声もある。確かに粗いドライビングであった。しかし厳しすぎる罰則もまた、才能を潰すことになってしまうだろう。伝説的なF1ドライバー、ジル・ヴィルヌーヴもそのデビュー当時は相手を巻き込むクラッシュが多く、危険なドライバーとして非難されたこともあった。しかし、フェラーリが擁護し、育てたことで、(危険な臭いはするものの)闘志あふれる天才ドライバーとなった。アイルトン・セナも若手時代には、当時のベテランたちから「危険なドライバー」として非難された。そのセナは、ミハエル・シューマッハーを「危険なドライバー」として非難し、1994年のパシフィックGPでは当時の若手ドライバーについてもその粗さを非難していた。

 いつの時代にも粗さと速さと才能の関係は、その評価が色々と分かれるところではある。ただ、願わくば、ハイレベルでフェアな戦いを見たいものである。

 F1の常任ドクターを務め、FIAの安全研究機関としてFIAインティテュートを立ち上げ、モータースポーツの安全と医療の向上に力を注いできたシド・ワトキンス博士が、9月12日にその天寿をまっとうされた。

 ワトキンス博士にはとても長い間親しくしてもらい、色々な相談、質問をさせてもらってきた。はっきりと包み隠さず、ズバリとものを言うワトキンス先生が、現在の若手のドライバーの粗さについてどう思うか話し合ってみたかった。

 1つ言えることは、「安全マージンが大きくなると、ドライバーは以前よりもさらにリスクを冒すようになる」ということである。これは、FIA インスティテュートも参加したSAEの会議でもよく使われたフレーズで、このことはプロでも一般ドライバーでも同様であるという。

 だが、どこかで歯止めをかけるようにさせるべきであろう。

WEC(世界耐久選手権)
 FIA WECはとても面白い展開になっている。6月のル・マン24時間(WEC第3戦)でデビューしたトヨタのハイブリッドマシン「TS030」は、その後の第4戦のシルバーストン6時間でアウディのディーゼルハイブリッド「R18 eトロン クワトロ」とデッドヒートを展開したのは、前回記したとおり。

 9月15日にはブラジルのインテルラゴスで第5戦サンパウロ6時間が開催され、トヨタTS030がポール・トゥ・ウィンを達成した。3戦目でのスピード優勝だった。

 TS030はデビュー時から速さをみせていたが、シルバーストンではアウディよりも1回ピットストップが多かった分で負けていた。だが、インテルラゴスでは、終始トップを守り、ピットストップ回数でも負けなかった。トヨタはマシンの燃費効率をかなり改善してきたのだろう。

 対するアウディは、ディーゼルハイブリッド1台、ディーゼルターボ1台の体制をディーゼルハイブリッド2台体制に改めると言う。アウディのディーゼルターボは多年に渡ってル・マン24時間をはじめ世界中で主要な耐久レースを席巻してきたマシンである。それを引っ込めざるを得ない状況にするほど、ハイブリッドレーサーの性能進化が速いということでもある。

 トヨタ対アウディのハイブリッドレーサーの技術競争は、今月末にバーレーンでの6時間レースを経て、10月14日にはWEC富士耐久6時間として日本にやってくる。この近未来の自動車技術革新を見るという点でも、激しいバトルを見るという点でも、プロトタイプ、GTと多彩なマシンによるバトルを見るという点でも、必見のレースだ。

歴史と伝統を誇る日本
 9月1日、2日に鈴鹿サーキットは、「鈴鹿サーキット50周年アニバーサリーデー」を開催し、往年のマシン、バイク、レーサーたち多数集まった。めくるめく夢のような週末だった。当日の詳しい内容については、素晴らしい画像とともに記事が掲載されているので、そちらをご覧いただきたい。

 鈴鹿サーキットがオープンして50年。これは凄いことである。自動車の歴史を振り返っても、カール・ベンツが1885年に最初のガソリン車を完成してから約130年。その半分近くの歴史があるのだから。しかも、日本のモータースポーツの歴史となると、1902年には大倉喜七郎男爵がイギリスのブルックランズサーキットで開催されたモンタギューカップレースで2位になっている。その後、大倉男爵は日本のモータリゼーションに多大な貢献をした。昭和初期には日本の各地で自動車レースが開催され、1936年には多摩川の河川敷に常設サーキットとして多摩川スピードウェイが作られ、そこで自動車レースが行われていた。

 自動車レースは戦争によって中断してしまったが、日本の自動車と自動車レースの歴史は長く、アジア地域では群を抜いた先進国である。

 その先進性は今も変わらず、F1、モトGPの開催も日本はアジアでの先駆者であり、国内レースのレベルは今もアジアで突出したハイレベルであり、高度な戦略や突き詰めたセッティングは、欧米のそれを凌ぐ部分もあるほど。

 だが、その半面おもしろさや魅力を伝える機会は減ってきていた。

 鈴鹿サーキットが開設50周年を迎え、富士スピードウェイも2016年には創設50年を迎える。これを機会に、もっとモータースポーツの魅力と、その歴史を語り継いでいくこと必要であり、先人達が高齢になっていくのをみると、それは急務であると思う。


 一方、新たな世代へのアピールも必要だろう。先日、フォーミュラ・ニッポンは、菅生戦の前に宮城県の小学校3校を嵯峨宏紀、中嶋一貴の両ドライバーとそのマシンが訪問する活動を実施した。5、6年生を対象に理科と社会科の特別授業を行い、最後はフォーミュラ・ニッポンの実車を見て、実際にエンジン音を体感してもらった。実車を見て、エンジン音を体感した子供たちの表情はどれも活き活きしていて、レーシングカーのカッコよさを知ってもらえたようだった。

 モータースポーツはテレビの地上波での露出が減ってしまった。ならば、こうして子供たちなど新たな世代にその魅力を伝える活動は有意義だと思う。

 子供の時の鮮烈な体験は強く印象に残る。鈴鹿のF1でセナを見た少年が、佐藤琢磨としてF1を走り、インディカーで活躍している。日本GPや国内レースを見た子供たちや、フォーミュラ・ニッポンの学校訪問を体験した子供たちの中から、新たなモータースポーツファンや、日本のモータースポーツと伝統を担う人が出てくるだろう。

 10月は7日にF1日本GP、14日にWEC 富士耐久6時間、21日には鈴鹿サーキットでWTCC(ツーリングカー世界選手権)、さらに28日にはツインリンクもてぎでSUPER GT最終戦と、盛りだくさんだ。

 また20、21日にはお台場で各種モータースポーツを気軽に見て親しめる「モータースポーツJAPAN」も開催される。暑さも収まり、外出にはよい季節になってきたので、モータースポーツもライブでご覧いただければと思う。

URL
FIA(英文)
http://www.fia.com/
The Official Formula 1 Website(F1公式サイト、英文)
http://www.formula1.com/

バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/f1_ogutan/

(Text:小倉茂徳)
2012年 9月 28日