オグたん式「F1の読み方」

ケータハムF1チーム新体制へ

 イギリスGP直前の7月2日に、ケータハムF1チームが売却されたことが発表された。チームを購入したのは、スイスと中東の投資家たちによるグループとされ、元スパイカーやフォース・インディア、HRTといったF1チームの代表だったコリン・コレス氏がそのアドバイザーを務める。

 この買収に伴い、これまでチーム代表だったシリル・アビテブール氏は退任し、元にいたルノーのF1エンジン部門に役員として復帰した。一方、新たなチーム代表には、かつてコレス氏が代表を務めたF1チームでドライバーを務めたクリスチャン・アルバース氏が就任した。そしてドイツGPを前にさらなる役員人事と、40人あまりのスタッフの解雇が発表された。

 エア・アジアを所有するトニー・フェルナンデス氏がチームオーナーから離れたことに伴い、GEの航空エンジン部門がチームのスポンサーから離れた。また、航空機メーカーのエアバスも離れるとみられている。

 チームの売却については発表の2カ月ほど前から噂されていたが、前オーナーのフェルナンデス氏とチームはこれを否定する発表をしていた。そのため、7月2日の売却完了の発表はチームメンバーにとって電撃的なものだった。実際、メンバーが事実を知らされたのは発表の前日で、チームメンバーが新オーナーと初顔合わせとなったのはイギリスGPの会場であるシルバーストーンサーキットだった。

 シーズン開幕前にフェルナンデス氏は、今季結果が出せなければチームをたたむと宣告しており、その決定はシーズン半ばで断行されてしまった。だが、それはビジネスマンであるフェルナンデス氏から見れば、当然の判断だったのかもしれない。

 実際、チームの経営状態は芳しくなく、マシンは満足に完走できず、素性がよいのかわるいのかもはっきりしなかった。アップデートも投入できないでいたため、ライバルとの差は開くばかり。追い打ちをかけるようにモナコGPでジュール・ビアンキが入賞したことで、ライバルチームであるマルシャと大きな差をつけられてしまった。これは、ケータハムチームの現状ではなかなかひっくり返せない点差と考えたのだろう。

 投入した資金に対しマイナスばかりで何の利益もないというのが、フェルナンデス氏にとってのケータハムF1チームだったのだろう。これは、今回売却したのがF1チームだけということでも伺える。「セブン」を製造販売するスポーツカー部門のケータハムカーズはグループに残っている。ここは特に軽自動車エンジンを搭載した「セブン 160」の受注と販売が好調だ。また、ドライバーが持参金を持ってきてくれることから、経営が成り立ちやすいGP2チームは傘下に残している。

ケータハムの今後のドライバーは?

 今回のチーム買収劇の中で、チームのリザーブ(控え)ドライバーのロビン・フラインスは比較的明るい表情だった。というのも、フラインスは新代表のアルバースと同じオランダ人で、持参金額も大きいとされているため、正ドライバー登用へのチャンスがあると感じているようだった。

 新経営陣は、現在フォーミュラ・ルノー3.5に参戦しているカルロス・サインツ・ジュニアと交渉しているとも伝えられ、元ラリーチャンピオンの息子であるサインツ・ジュニア側もこの報道を認めている。

 しかし、新経営陣はまた小林可夢偉の重要性を理解しているようだ。小林自身は、買収発表直後のイギリスGPでとても落ち着いた表情を見せていた。小林はチームと今年いっぱいのドライバー契約を交わしており、買収されてオーナーシップが変わろうとも、この契約書がある限りチーム側は小林を起用することになるからだ。また、前オーナーとチーム代表同様、チーム再建には小林の経験と実力が必要と考えている様子が伝わってもきている。

 小林は、今回のチーム買収についても、それまでの財政が厳しく、予選、決勝で満足に戦えなかった状況よりも、むしろ改善の兆しがあるかもしれないという前向きの捉え方をしていた。

 新オーナーたちと新代表が、今後どう判断するかはまだ分からない。莫大な資金を必要とするF1なので、“カネ”を優先する判断をしないともいえない。だが、少なくとも現状ではチームは小林の才能を必要とし、小林もチームの体制変更に前向きな姿勢であり、うまく両者の想いがつながればよりよい方向になるだろう。

 チームはこれまで投入できなかったアップデートを、ベルギーGPで投入するという。日本GPで小林が、これまでよりもよい状況で戦えるようになることを期待し祈るばかりである。

F1のたそがれ

 ドイツGPは、空席が目立つ中での開催となった。ホッケンハイムのスタンドは観客の大部分を収容するとても巨大なものなので、多少の空席ができてもおかしくはない。だが、今年のF1の空席の多さは際立っていた。2012年のF1開催時には、主催者発表で6万枚のチケットが売れたとしているが、今年はそれを下回りそうだ。ただでさえ財政が厳しく、それゆえに2つのサーキットで隔年開催の持ち回りとしたドイツGPだったが、これではホッケンハイムがGP開催から手を引いてしまいかねず、ひいてはニュルブルクリンクも開催できなくなってしまうかもしれない。

 こうした人々のF1離れは、ドイツGPに始まったことではなかった。全世界のF1のテレビ視聴者人口は2011年から毎年減少しており、今年はこの減少傾向がさらに加速している。イギリスGPで直接聞いたところによると、ヨーロッパでの有料放送はF1の視聴者数が大きく落ち込み、このままではいつまで放送が続けられるか分からないという放送局もでているほどだ。

 では、なぜこうなってしまったのだろうか。ある説では、2013年までのセバスチャン・ベッテルとレッドブルチームの圧勝が続いたせいだという。そして、今年もメルセデスAMG勢の勝利が続いてばかりだからだと。だが、それはややもすると責任転嫁のようにも思える。そのほかにも、ノーズに代表される不恰好なマシン、静かなエンジン音、フラップの操作で行う人工的で見せかけの追い抜きなどが挙げられている。

 排気ガスの勢いをより有効活用するために、ターボチャージャーの効率を高める開発を進めれば音が小さくなっていくということは、WEC(FIA世界耐久選手権)のアウディのディーゼルターボで分かっていたことだった。ハイブリッド化を進めたマシンは、ブレーキ操作もコンピューター制御になり、ドライバーの操縦技量を競うというF1本来の魅力を大きく削いでいるとも視聴者に受け取られているようだ。

 しかし、ハイブリッドの技術開発という点では、WECのLMP1 HY(ハイブリッド)クラスのマシンよりもF1は制約が多く、技術的にも競技の観点からも中途半端になりがちだ。パワートレーン開発にメーカーが莫大な費用をかけ、それに伴いチームにも多大な費用負担を強いながら「結局中途半端な前進か」と、ファンにとってつまらないと思う要素が増えてしまっているのではないか?

 一方、F1ではレース開催契約金やテレビ放映権料などの商業収益の半額がチーム間で分配される。この観客と視聴者減少は、F1とチームの将来により大きな影となってくるだろう。すると、チームはさらに商業分配金の分け前を増やすことを求めるだろう。それは、開催契約金とテレビ放映権料の増加をもたらすことになる。結果、開催できてもチケットはさらに高額となり、開催できないサーキットが出てくるだろう。また、放送ができなくなるテレビ局も増えかねない。

 チームはコスト抑制のことを話題にはするが、なかなか総意をまとめられないでいる。だが、ケータハムF1のような状況になっているチームはほかにもいくつかあるという。むしろ、ケータハムF1は買い手がついただけ幸せだという声も聞かれたほどだ。もう待ったなしでチームも動かなければならないときだろう。しかし、それができないでいる。

 仮にチームのコストを現在より数十分の1から100分の1にして、年間予算が30億円くらいの1990年代レベルにしたらどうだろう。下位チームはそれでもこの金額を集めるのは大変だという。だが、全チームが30億円かそれ以下で運営できたら、理想的な状況ができるかもしれない。

 予算の大幅削減でチームが求める分配金が減れば、開催契約金も下がり、伝統的なグランプリが復活するかもしれない。チケットはより安くなり、より多く、より幅広い世代のお客様がサーキットに来られるようになるかもしれない。これはアメリカのインディカーがよいモデルとなる。たとえば、2年前のデータで恐縮だが、デトロイトでは2日間のスタンド指定席でも110ドルで、パドックパスはわずか25ドルだった。こんなにパドックパスが安くても、パドックが人でごった返すことはなかった。インディカーでは「オートグラフセッション」と称して、全ドライバーが参加するサイン会の時間をしっかり設けていて、その時間帯にサインをもらえたり、ドライバーと交流できるようになっているからだ。しかも、ドライバーたちはできる限りファンにサインをしたり写真に納まったりするように努力している。つまり、25ドル払ってパドックにいかなくてもファンには事足りるようになっているし、パドックでドライバーを追ってサインを求めなくてもよいようになっている。パドックに入りたい人は、むしろマシンをより近くで観たいとか、そうした目的がより強くなっている。

 先日、イギリスGPに行ったが、その姿勢はインディカーとはまったく逆だった。現在のF1用のピットとパドックは奥まったところにあり、コース脇を遠回りしないと入れない。そして、その途中にはいくつかのパスチェックもあり、人をより遠ざけるようにできている。運営上は楽でよいかもしれないが、いまだにファンを遠ざけているように思えた。

 ドイツGPは極端な例としても、各地のサーキットでチケットを完売させることに苦労している。だが、F1を運営する側はいまだに人を払い、“見せてやっている”というような高飛車なスタンスを貫いている。

 イギリスGPのパドックの空気や、ドイツGPの観客席の映像は、F1のたそがれを感じた。いまここで改善策を見つけないと、F1はどん底を迎えることになるだろう。だが、半面どん底を迎えて痛みを知ることで、初めて改善すべきことができるようになるのかもしれない。先ほど例に出したインディカーも、IRLとして発足した1990年代半ばはインディ500以外、閑古鳥が鳴くイベントばかりだった。そこで、観客を最優先とした考え方がより強くなって、現代のようにまで回復できたのだから。

 イギリスGPでのセバスチャン・ベッテルとフェルナンド・アロンソのバトル、名門ウィリアムズの復活、メルセデスAMGドライバーたちの激しい戦いなど、F1には優れたドライバーやチームによる魅力的な走りとバトルがまだ残っている。これが失われてしまう前に、F1は方向性をきちんと見出すべきではないだろうか。

メキシコGPが復帰

 一方、7月23日にはメキシコGPが2015年から開催されることが正式に発表された。契約期間は2019年までで、開催コースはかつてメキシコGPが開催されたメキシコシティのエルマノス・ロドリゲスサーキットとなる。サーキットは施設が改修され、高速でのクラッシュが多く危険だった最終コーナーは、安全対策としてその手前にクランク状のコーナーを設けて、通過速度をやや落としている。だが、ほかの部分はほぼ以前と同様である。

 そもそもメキシコGPは、鈴鹿サーキットがオープンしたのと同じ1962年から始まっていた。その年はノンチャンピオン戦だったが、翌年からはワールドチャンピオンシップとして開催されていた。この当時の開催決定には、サーキットに名を残すリカルドとペドロのロドリゲス兄弟の活躍があった。現在、ペレスとグティエレスが活躍する状況とも似ている。F1ドライバーも2人参戦しているため、メキシコではF1のファン層がふたたび拡大している。

 メキシコの経済状況好転も、F1開催への後押しとなっている。ニュースで報じられる麻薬組織絡みの殺人事件はもっぱら北部の州でのことで、経済状況も比較的よくなったメキシコシティは地元の人たちによると安全とのことである。

 歴史と伝統のあるグランプリがF1の開催カレンダーに復帰するのを歓迎したい。

18インチホイールを導入?

 イギリスGP直後に2日間の居残りテストがシルバーストーンサーキットで行われた。その中で、ピレリは来年導入を目指したテストとして、ロータスF1チームの協力を得て18インチホイールのタイヤを試した。

 18インチ導入テストは、以下の理由から必然的な帰結といえる。

現在の13インチホイールはサイズが小さく、サイドウォール(タイヤの側面の部分)が高いハイプロファイルのタイヤになっている。これは、昔のタイヤのように見えてしまう。現在の乗用車でももっとサイドウォールが低いロープロファイルになっている。

18インチによるロープロファイル化は、タイヤ側面のゴムが変形しにくくなってステアリングの応答性がよくなり、より俊敏な動きになるなどの効果が期待できる。

 FIAインスティテュートは、F1マシンの追突時に回転する後輪で後続車の前輪が巻き上げられ、追突した車両が高く飛ばされるのを防ぐにも、大径のホイールにしてタイヤをロープロファイルにするのが有効という発表を2010年にしていた。これは現在のタイヤでは空気バネになって、より高くマシンを跳ね飛ばしてしまうということと、ロープロファイルタイヤにすると飛び方が小さくなるということを、実験で実証した結果に基づくものだった。ただ、当時はホイールを大きくするとブレーキディスクも大きくなり、ひいてはブレーキ性能が上がることで追い抜きをしにくくさせるという懸念があった。だが、現在はエネルギー回生があるおかげもあって、リアブレーキにおいては性能よりもより軽量なことでキャリパーが選ばれるほどになった。

 このように18インチホイール化にメリットが多いことは、2009年の新規タイヤ供給メーカー選定でもミシュランが説いていた。だが、これが却下されミシュランは選定から外れた。今年のタイヤ供給メーカー選定でも同様だった。

 ではなぜ18インチホイール化が遅れたのか。それはF1チームの反対によるものだった。理由はホイールを13インチから18インチに変更することで、コストがかさむというのだ。たしかにコストはかかる。だが、F1チームが普段使っている金額からすれば、それは大きな額なのだろうか? こういう何かにブレーキをかけるときだけまとまり、進歩を抑えてしまい、一方で市販車には応用しにくいFRIC(前後関連)サスペンションやエキゾーストブローの開発に手間と時間と費用をかけていた。エキゾーストブローの空力への利用は今年から禁止となり、FRICも現在廃止の方向で動いているが、もっと早くから制約をかけてもよかったはずである。そうすれば、無駄に労力と費用をかけないで済んだのだから。

F1は夏休み、でもレースはいっぱい

 8月はF1が夏休みをとる。だが、8月の週末はそのほかのレースでいっぱいだ。

 8月のインディカーは毎週レースで、月末にはもう最終戦を迎える。佐藤琢磨は不運続きだったが、トロントのレース2で入賞。多重衝突を巧みに避けて上位に上がるという幸運もつかんだ。インディカーはセッティングと戦略、激しいレースを戦い抜くドライバー技術と持久力、めまぐるしく動くチャンスをつかみ取る力と、まさに知力、体力、時の運である。運を取り戻しつつある佐藤の終盤の追い上げに期待したい。また、チャンピオン争いも熾烈で、おそらく最終戦までもつれ込むだろう。

 国内レースでは、8月23日~24日にスーパーフォーミュラ第4戦がツインリンクもてぎで開催される。この第4戦から、最終まで使う新型エンジンが投入できるようになる。新設計となったエンジンでホンダがトヨタのとの差を挽回するのか、それともトヨタがさらに引き離すのか? しかも、その開発競争はより高効率なダウンサイジングターボエンジンの技術開発を促進し、より環境負荷が少なく、より燃費がよく、しかも走りが楽しい近未来のクルマへとつながっている。SF14になって、より接近戦と追い抜きがしやすくなったが、追い抜きの難しいツインリンクもてぎでこれがどう功を奏するのかも見どころ。場内のホンダ・コレクションホールでは、現在F1の特別展示が開催されており、常設展示以外の車両も展示されている。場内イベントもいっぱいの第4戦は必見だ。

 8月の最後には伝統の鈴鹿1000㎞レースも開催される。今年の新規定GT500にとって、初の1000㎞レースとなる。GT500では、先日の鈴鹿テストと菅生戦ではホンダNSX勢が力を伸ばしてきた。GT300はまさに混戦状態。両クラスとも誰が勝ってもおかしくない1000㎞レースは、人とマシンの耐久性を試す戦いになる。

 このほか、8月第1週の週末には、鈴鹿サーキットでソーラーカーレースと電動車両によるEne-1GPが開催される。ソーラーカーはFIA選手権もかかっていて、勝てばワールドチャンピオンである。Ene-1 GPは中学生から参戦できる入門クラスから、高度な電気自動車技術を養うレベルまでさまざま。ソーラーカーと電気自動車という、未来に向けた技術開発と人材育成という点で実に興味深いレースだ。そして、仲間と感動を分かち合う姿は、高校野球などのアマチュアスポーツと同様の爽やかさがある。

 暑い夏だが、熱く楽しいレースを!

小倉茂徳