2009~2010年ストーブリーグの動向(その2)メルセデス、マクラーレン、その他編

[メルセデスGP]豊富な資金が生んだドリームチーム
 昨年のチャンピオンチームだったブロウンGPは、今季に向けて大きく変わった。チームはダイムラーに株式の75.1%を譲渡。これでチーム名はメルセデスGPに変わり、メルセデス・ベンツのワークスチームのステータスは、マクラーレンからこのチームに移った。

 マシンの名前も「W01」と、メルセデス伝統のコードネーム「W=ヴァーゲン=車両」を持つ、純粋なシルバーアローが復活した。さらに、メインスポンサーとして昨年までザウバーを支援してきたペトロナスがついた。株式譲渡とメインスポンサー獲得でチームには多額のキャッシュフローが生まれ、財務がかなり楽になったようだ。それがスーパースターの起用にも結びついた。

 ドライバーは前年の王者ジェンソン・バトンがマクラーレン、ルーベンス・バリチェロがウィリアムズへ移籍し、その空席にはまずニコ・ロズベルグが収まった。ロズベルグは、ドイツ国籍ながら、モナコ育ちで、イギリスの大学にも通ったコスモポリタン。昨年までウィリアムズに在籍し、予選アタックの上手さはトップクラスと言われる。

 そしてもう1人には、ミハエル・シューマッハーが2006年以来の復帰を発表し、オールドイツ人ドライバーとなった。シューマッハーは昨年フェリペ・マッサが負傷欠場した際にフェラーリから復帰出走を試みたが、テスト走行の結果、昨年春にスーパーバイクのテスト中に転倒した際に負傷した首が完治していないという理由で、復帰を断念していた。だが、シューマッハーは以来、首を完治し、トレーニングを重ねて、体も「現役」のレベルに戻してきた。走りたいという思いがシューマッハーを動かしたと言う。

 また、このチームのロス・ブラウン代表は、ベネトン(現ルノー)、フェラーリで、シューマッハーが7度チャンピオンを獲得した際のパートナー。2人には深い信頼関係と絆があった。さらに、若手時代のシューマッハーを育成、支援してくれたのがベンツだったのだが、ベンツがF1に参戦して以来、シューマッハーはともに戦うことができないまま引退していた。シューマッハーにとって、やり残した仕事を完遂し、かつての恩返しをするという理由もあった。

 シューマッハーの加入によって、周囲ではロズベルグがナンバー2としてないがしろにされるのではないかという声が出ている。だが、どういう状況であれ、ロズベルグにとってはチャンスでもある。予選、決勝でシューマッハーを打ち負かせば、ロズベルグの評価はより高まるはず。また、1982年にマクラーレンで現役復帰したニキ・ラウダから1984年以降アラン・プロストが同チームで戦いながら、帝王学を盗み、叩き込まれたのと同様に、復帰したシューマッハーが強さを見せれば、ロズベルグはすぐそばでその「勝ち方」を盗むことができる。レースで勝つこと、チャンピオンシップを勝ち抜くこと、ロズベルグにこの技と経験が備われば、次世代を担うスーパースターに開花することも可能だ。

[マクラーレン]2人のエースドライバーの管理がカギ
 一方、マクラーレンは新車「MP4-25」を従来と同じ銀色としたが、チームのステータスは独立したものになる。チームの株式の40%はダイムラーが所有しているが、これは2011年末までにマクラーレンが買い戻すことが決まった。これによって、買い戻し額は不明だが、ダイムラーにはマクラーレンから株式譲渡にともなう収入ができる。おそらくこの見込みが、ブラウンGPの株式取得を可能としたのだろう。だが、エンジン供給は、現行のエンジン規定が残る2012年末まではマクラーレンも継続して受けられるようになっている。

 ドライバーはバトンの加入で、2008年のルイス・ハミルトンと並んでチャンピオン・コンビとなった。しかも、この2人はともにイギリスのイングランド出身であるため、イギリスでの人気は絶大。大口スポンサーのサンタンデール銀行はスペイン企業で、フェルナンド・アロンソとともにフェラーリに移ることが危惧されたが、同社はイギリスでの支社展開に力を入れていることから、このドライバーの組み合わせは支援継続を勝ち取るにも好都合だった。

 ただし、2人のチャンピオン経験者の組み合わせは、とても難しいチーム運営を強いられることになるだろう。新車発表会では、ハミルトンがやや年長のバトンを立てるような姿勢を見せていたが、実戦となれば話は別になる。ハミルトンは王座奪還、バトンは王座防衛に意欲を燃やす。そして、ハミルトンはシューマッハーとの初の直接対決、バトンも初めてシューマッハーと対等に戦えるというチャンスを得て、よりエキサイトしてくるだろう。

 2007年のハミルトン対アロンソ、あるいは1988~1989年のプロスト対セナのように、マクラーレンはドライバーを対等の立場にしたことで、チームに不協和音を招いた経験があった。だが、今回はチームの代表がロン・デニスからマーティン・ウィットマーシュに変わっている。チーム成功のカギは、昨年失敗したマシンからの性能回復と、ウィットマーシュのドライバー管理の手腕である。

[ウィリアムズ]コスワースの新開発エンジンに期待
 昨年、ウィリアムズはトヨタとエンジン供給を契約期間よりも1年前倒しして終了した。当初、その後のエンジンはルノーが有力とみられていた。それは、一昨年のシンガポールGPでネルソン・ピケJrが故意にクラッシュしてレース展開をアロンソ有利にもっていこうとしたという問題での公聴会に向けて、ウィリアムズチームだけが公式文書でルノー擁護の要請を提出したことからもうかがえた。だが、その後、ルノーのF1継続が怪しくなったこともあり、エンジン供給元はコスワースに変わった。

 コスワースは、2006年以来のF1復帰で、新規のエンジンとなる。そのため、開幕戦までは開発も可能となる。そこでウィリアムズが、その開発パートナーとなった。コスワースにとって実践経験のない新規参入チームではなく、経験豊富なウィリアムズと組めるメリットは大きい。

 ウィリアムズにとっても、公表はしていないが、この開発パートナー契約でエンジン供給費を浮かせているはず。1970年代終わりにウィリアムズは、現在ジャッドエンジンで知られるエンジン・ディヴェロップメントのジョン・ジャッドとともに、コスワースを尋ねてF1用DFVエンジンのスペシャルチューンエンジンを作る相談をした。だが、コスワースの創設者でDFVエンジンの生みの親であり、毒舌家としても知られるキース・ダックワースに冷たくあしらわれて、門前払いされたことがあった。

 そのウィリアムズが、コスワースに手を差し伸べたとは、歴史とは皮肉である。だが、一方で、1980年代のホンダ、1990年代前半のルノー、1990年代後半から2000年代初頭のBMWと、ウィリアムズと組んだエンジンメーカーは実戦力を高めた実績もあり、ウィリアムズによる開発力は、新たな人材が主体となってエンジン開発をするコスワースの期待も大きい。すでに、合同テストではコスワースの新F1担当スタッフたちが、ウィリアムズのもとで経験と学習を積んでいる。

 ドライバーは、ブロウンGPから移籍したルーベンス・バリチェロと、昨年のGP2チャンピオンのニコ・ヒュルケンベルク。バリチェロは昨年再びトップ争いに復帰。気力も取り戻している。フェラーリ時代もホンダ~ブロウンGP時代もマシンの開発能力とセットアップ能力に高い定評がある。

 ヒュルケンベルクは一昨年からウィリアムズの庇護のもとにあり、テスト走行の機会が頻繁に与えられていた。ところが、昨年の春のテストでコースアウトやミスが目立ち、チーム内での評価を下げていた。だが、昨年のGP2でチャンピオンを獲得し、速さと勝負強さを見せたことでチーム内での評価が再び向上した。経験も意欲も豊富なベテランと強気の新人のコンビにチーム復活を託す。

 スポンサー不足気味で財政は楽ではないが、昨年独自開発していたKERS(運動エネルギー回生システム)は、ポルシェ911GT3に採用されることが決まり、資金回収ができそうな見込み。

[レッドブル]上昇基調を維持するか
 メルセデスGPとは逆に、レッドブルは昨シーズンからの体制を維持し変化がない。ドライバーは、昨シーズン途中の段階で、セバスティアン・フェテルとマーク・ウェバーのコンビ継続が確定していた。変化のない連続性で、昨年からの上昇基調を維持しそうなところ。

 リザーブドライバーも、有望株のダニエル・リカルドとブレンドン・ハートリーが継続。レッドブルとトロロッソのリザーブとなる。

 今年最初の合同テストであるバレンシアテストは欠席し、ファクトリー内での新車開発期間を延ばす方法を採ってきた。7軸のシャシーテスト装置など、現代のシミュレーション技術の進歩の恩恵をフルに活用してきた。

[トロロッソ]初のオリジナル設計マシン?
 昨年までトロロッソは、レッドブルのフェラーリエンジン搭載車版のマシンを走らせていた。だが、今年からは、各チームがオリジナル設計のマシンで参戦する規定が強化された。

 そのため、トロロッソは、レッドブルのマシン開発部門企業であるレッドブル・テクノロジーズの技術データは共用しながら、テクニカルディレクターのジョルジョ・アスカネリを中心に独自にマシンを設計製作した。そのため、他チームが不況の影響を受けて人員削減をする中、トロロッソはイタリア・ファエンツァのファクトリーに、約50名を増員した。だが、できあがった新車STR5は、小さな違いはあるが、ほぼレッドブルの新車同様だった。

 ドライバーは、セバスティアン・ブエミの継続が確定していたが、新車発表と同時にハイメ・アルグエルスアリの継続も決定した。ブエミは伸び盛りであり、昨年は途中のハンガリーGPから事前のテストもなく起用されたアルグエルスアリも、今季は開幕前のテストも受けて、さらなる成長が期待される。

[フォースインディア]テクニカルディレクター以外は変更なし
 昨年躍進したフォースインディアも、大きく体制を変えなかった。ドライバーはエイドリアン・スーティルと昨年イタリアGPからレギュラードライバーに昇格したヴィタントニオ・リウッツィを維持。

 唯一の変化は、テクニカルディレクターのジェームス・キーがザウバーに転出したこと。キーは、前身のジョーダン時代からチームの技術部門に在籍し、今年の新車VJM03の設計開発も指揮した。キーはテストで新車の性能が良好なことを見届けてからチームを去った。ザウバーでは、これまでテクニカルディレクターを務めたウィリー・ランプが引退し、4月からその後任にキーが就任する。

[ヴァージンレーシング]コストパフォーマンス重視の新興チーム
 新興チームのなかで、最も早く体制と新車を発表したのがこのチーム。F3の名門マナー(マノーとカナ表記するところが多いが、マナーという表記が英語発音に近い)チームを母体に、ヴァージングループの支援で結成したF1チーム。新車の開発は、ニック・ワース率いるワース・リサーチが担当する。

 同社は、昨年アメリカン・ルマンを制したアキュラのプロトタイプカーを開発、製造したことでも知られる。ワース自身もシムテックやベネトンでF1の開発経験があるが、成功例はなく、今回は結果を出すことに燃えている。チームの規模から新車開発への費用負担を抑えるのと、参戦決定からテスト開始まで1年もなかったため、新車の空力開発は時間と手間と費用がかかる風洞実験をやめ、CFD(コンピューターによる流体力学解析)のみにするという、斬新な手法を取り入れた。

 ドライバーは、昨年までトヨタにいたティモ・グロックと、ルノーのリザーブドライバーだったルーカス・ディ・グラッシを起用した。グロックはGP2時代からマシン開発力に定評があった。ディ・グラッシはGP2で着実に入賞とポイントを重ねるレース展開が得意。新興チームにとって、コストパフォーマンスを考えてもよいドライバー選択と言える。

[ロータスF1レーシング]28年ぶりにロードカー部門と統一
 チーム・ロータスは、モノコックシャシー、スポンサーカラー、グラウンドエフェクト、カーボンモノコック、アクティヴサスペンションと、かつてF1の改革者として大活躍してきた名門チームだった。だが、1990年代には低迷し、1994年に倒産してF1から姿を消した。

 この「チーム・ロータス」の命名権を得て、起こされたのが今回のロータスF1レーシング。チームの経営陣と出資母体には、エア・アジア代表でもあるトニー・フェルナンデスが中心となり、自動車メーカーのプロトンなどマレーシアの政府系企業が参画している。そのため、チームの国籍はマレーシアで、将来はチームの本拠地をマレーシアのセパンサーキットのそばに新設するという。ただし、現状ではチームの本拠地は、ロータスの本拠地であるイギリスのノーフォーク州にあり、元トムスGBやル・マンのアウディUKチームやベントレーチームのファクトリーだった場所を利用している。

 市販車メーカーであるロータス・カーズとロータス・グループは、今回F1チームとの直接的な関係に言及してはいない。だが、ロータス・グループの親会社であるプロトンがチームのメインの出資者のひとつであることから、関連があることが分かる。

 また、チームの発足決定と呼応するように、ロータス・カーズは代表取締役にダニー・バハーを、モータースポーツ担当にクラウディオ・ベロを起用した。バハーは、レッドブル在籍中には、現在のレッドブルチームとトロロッソチームによるF1展開を始めた中心人物として知られ、前任地のフェラーリではグローバル・ブランディング部門を統括していた。ベロは、以前フェラーリF1チームの広報部長として活躍し、以後マセラティなどフィアットグループのモータースポーツ部門で活躍した経歴がある。このように、ロータス・カーズもレース色を強めている。

 発表された新型F1マシンの名前は、T127(Tはタイプの意味で、Tと略するのもロータス内部の伝統に忠実なやりかた)で、ロータス・カーズと一連の設計ナンバーを用いる点は以前と同じ。新車発表もロンドンで行い、これも全盛期のチーム・ロータスのやり方に倣っており、その会場にはヘイゼル・チャップマン夫人や、長男でクラシック・チーム・ロータス(CTL)を主催するクライブ・チャップマンも出席。CTLからは、歴代のロータスF1の中から、T49、T79 などのチャンピオンマシンも展示され、新チームが創業家のチャップマン家とも良好な関係であることも示された。もしも、ロータス・カーズとF1チームが同じグループになり、CTLとの協力関係もより一層深まれば、1982年12月にコーリン・チャップマンが逝去したあと分離されて以来初の再統合になる。

 T127は、マイク・ガスコインを中心に設計開発された。ガスコインはチーム・ロータスでの経験はなかったが、ノーフォーク州出身で、ロータスの本拠地であるウィモンダムのカレッジでも学んだ、ロータスの本拠地に育った生粋の「門前の小僧」。

 ドライバーはヤルノ・トゥルーリとヘイッキ・コバライネンを起用。トゥルーリとガスコインは、トヨタチーム以来の信頼関係がある。コバライネンはマクラーレンでは明確なナンバー2扱いだったが、新チームではより自由に戦えそうだと意欲を燃やしている。

 ロータス・カーズも、すでにこの2人をプロモーションに起用し、トゥルーリはエヴォーラのワンメイクレース用車両の開発テストも担当している。

[カンポス・メタ1]
 このほか新興チームでは、カンポス・メタ1とUSF1がエントリー承認されている。だが、両チームとも開幕前のテストに参加できないほど苦境にある。

 カンポス・メタ1は、元F1ドライバーでアロンソを発掘したアドリアン・カンポスがGP2チームを売却した資金をもとに独自のF3チームをF1チームに発展させたもの。だが、世界的な不況のあおりをうけて、資金難に直面。ダラーラに開発を委託した車輛も、支払いの滞りから出荷されない状況になっていた。この苦境のなかで、カンポスは自身の持ち株をパートナーのホセ・ラモン・カラバンテに売却。さらに、カラバンテは、F1のプロモーターであるバーニー・エクレストンの仲介によって、元スパイカーのチーム代表だったコリン・コレスを代表に起用。これで、チームの状況改善を図ろうとしている。この結果、カンポスは代表権を一切失ったが、名誉職としてチームに残ることも検討されている。

 ドライバーには、ブルーノ・セナが決まっていたが、ここへきてUSF1と契約したホセ・マリア・ロペスの移籍加入の動きも出ている

[USF1]
 USF1は、アメリカのシノースカロライナ州シャーロットに本拠地を置いたチームで、以前リジェなどで活躍したエンジニアのケン・アンダーソンと、元ウィリアムズの広報渉外担当を務め、昨年まではアメリカのスピードチャンネルのF1レポーターを勤めたピーター・ウィンザーによって起こされた。

 シャーロットはNASCARのチームが本拠地を置く街で、アメリカのレース産業の中心地。その周辺には、部品メーカーのほか、大学などの専門の研究開発期間があり、良好な立地条件だった。また、過去30年間アメリカではフォーミュラSAEが開催され、レーシングカーに関する高度な設計、製作技術を備えた大学生が多数生まれている。そのため、優秀な人材も見つけやすい。

 だが、アメリカで始まった不況の影響で、チームはスポンサーが得られず苦境に陥っている。You Tubeの創業者の1人でCEOでもあるチャド・ハーレーを出資者として迎えたが、それでも状況はあまりよくない。そのため、チームは開幕3戦の欠場を申請した。F1の運営規定であるコンコルド協定が停止状態だった昨年までは、3戦まで欠場してもよいという解釈があった。だが、昨年新協定が批准された。FIAはUSF1の動きを受けて、この新コンコルド協定でもF1のスポティングレギュレーションでも、1戦の欠場も許されないと言明。それでも、USF1側は開幕から4戦の欠場の道を模索している。

 これを受けて、USGF1と契約したホセ・マリア・ロペスは、カンポス・メタ1への移籍の可能性を模索し始めている。

 フォーミュラSAEとUSGPでアメリカの技術系学生には、F1の波が起きたのだが、ここでこのチームが消えてしまうのは残念である。

 そもそも、USF1もカンポス・メタ1もFIAが提唱した、年間予算4000万ポンド(約60億円)というバジェットキャップ制のもとでエントリーをしていた。だが、このバジェットキャップ制は、FOTAによって廃案に追い込まれてしまった。結果、新規参入チームにとっては「だまし」のようなエントリーになってしまった。確かに、FIA提案には、実施と取り締まりの点で難しい点もあったかもしれないが、スポンサーが減る中で予算削減は急務であったはず。もしも、カンポス・メタ1やUSF1が消えていったとしたら、それは既存のチームにとって未来の自分の姿と考えるべきだろう。年間、400億円、500億円などという予算は異常でしかない。

[ステファンGP]
 F1のエントリーは認められていないが、脱落したチームの間隙を狙ってステファンGPというチームも動いている。このチームは、セルビア出身のゾラン・ステファノビッチが起こしたもので、セルビアのベオグラードに本拠地を置く。だが、実際は、昨年撤退したトヨタが開発していた車両と機材と施設と人員によるもの。

 すでに車両は完成して、エンジン始動もできており、ポルトガルのアルガルベサーキットでテストをしようとしていたのだが、正式にエントリーが認められていない状況であるため、ブリヂストンタイヤ供給ができないことになった。そのため、テストを断念している。ドライバーには中嶋一貴を予定し、元チャンピオンのジャック・ヴィルヌーヴも復帰に興味を示している。

 現行のF1規定では、参戦枠は13チーム26台までとされ、14チーム目のステファンGPは参戦できない状況ではある。FIAは14チームへの拡大を提案したが、チーム側はこれを拒否した。しかし、ファンからみれば、26台よりも、28台のほうが華やかで楽しいはず。

 F1チームの利益団体であるFOTAは、昨年の分裂騒ぎからひんぱんに「ファンのために」という言葉を多用する。しかし、それは白々しく聞こえる。本当に、ファンのためにと思うなら、目先の分配金よりも、参戦枠の拡大こそ重視すべきだろう。参戦チームが多いことは、リストラされた仲間たちの再雇用先にもなる。目先の分配金に固執するところに、年間予算と費用が肥大化した現代のF1チームの病的な部分がうかがえる。恐竜のように、肥大化したものはいずれ滅びてしまう。F1にとって、今が、建設的な考えと健全な状態にパラダイムシフトするラストチャンスかもしれない。

 次回は、新車の動向をお伝えする。

URL
FIA(英文)
http://www.fia.com/
The Official Formula 1 Website(F1公式サイト、英文)
http://www.formula1.com/

バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/f1_ogutan/

(Text:小倉茂徳)
2010年 3月 2日