【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記
第31回:初戦もてぎは練習走行トップ、予選でポールポジション獲得。そして決勝は?
2017年4月8日 00:00
滑り込みセーフで後期型86を手にして参戦可能になった2017年のGAZOO Racing 86/BRZ Race 第1戦もてぎラウンド。ここに至るまでのドタバタ劇は前回ご紹介した通り。クルマの購入からパーツの手配、さらには車両製作からカラーリングまで、各方面が一丸となって間に合わせてくれたことに感謝してもしきれない。レースに出場する喜びをここまで感じるシーズンは初めてといってもいいかもしれない。
さらにはレースで少しでも有利になるようにと、ナラシ運転に付き合ってくれた家族や友人にも感謝だ。今年からタッグを組むことになったメンテナンスガレージ「レボリューション」が担当するもう1台の86には、2016年にチャンピオンを獲得した佐々木雅弘選手が乗っているのだが、そのクルマは今年のはじめから3000km以上をサーキットで走り込み、その甲斐あってセッティングだけではなく、エンジンも軽くなり速さを増していることを聞いていた。だからこそ少しでもマイレージを稼ぐ必要があると、日ごろのアシとして使うだけでなく、夜になれば毎晩のように首都高速を使って東京~横浜間を3往復続けていた。
そこに巻き込まれたのが家族や友人である。乗り心地が決してよいとはいえないクルマにチャイルドシートを押し込み、家族3人で出掛けたこともしばしば。夜中に呼び出されて運転をさせられた友人も被害者だ。だが、おかげで開幕前に5300kmを走破! エンジンは日増しに軽くなり、戦闘力を備えることに成功したような気がする。
練習走行では全体トップをマーク。そして挑んだ予選
その手応えを感じたのはレースウィークの金曜日に行なわれた練習走行時のタイムだった。誰も叩き出していない2分19秒台をマークしてクラブマンシリーズの全体トップ! 地道に続けてきたナラシ走行が活きたといっても過言じゃない。さらには佐々木選手譲りのセッティングは確実に効いているし、ドライビングのアドバイスが少しずつ自分のものになっている感触もあった。これなら何とか戦えそうだ。ドタバタ劇の参戦だったにも関わらずここまで来られたのは、確実に佐々木選手のおかげなのだ。
だが、ハードルはまだまだ残っていた。予選が行なわれる土曜日の天候はとても微妙だったのだ。前日からの雨が残り路面はウェット。車検が行なわれる早朝時は、予選時までに路面が乾くかどうかが判断しにくい状況である。まずは少しでも時間に余裕をもっておこうと、いままで通りにすり減らしたタイヤで車検をほぼ一番乗りで受けて待機場所に戻った。
すると佐々木選手が「この路面状況と温度なら、新品タイヤのほうが有利かもしれないよ」というアドバイスをしてきたのだ。使用しているブリヂストン「POTENZA RE-71R」の新品は温まりが早く、路面温度が低い状況では有利に働くという特性を持っている。対して決勝におけるロングドライブでは熱ダレが懸念され、その点においてはすり減らしたタイヤのほうが安定したタイムを刻めるというメリットがあるのだ。新品で行くか、中古で行くか? かなり悩ましい状況だったのだ。車検も終えているのだからこのまま中古でもいいかという話にもなったのだが、予選で前に出なければ決勝における結果は見込めないのも事実。結局最後は新品で行こうという結論に達し、慌てて新品タイヤに装着し直してふたたび車検を受け直して予選に挑んだのだった。
新品タイヤは1発勝負。アタックを1周で終える必要がある。路面は少しずつ乾いて行く傾向にあるため、20分間の予選の後半でアタックをしようとなった。ライバルが周回を重ね、路面を乾かしてくれていることを祈りつつ、予選が始まって10分間はコースインせずにピットに留まっていた。この時間のなんとドキドキすることか。もしも1発で仕留められなければ、時間切れでタイムを記録することができずに後方に沈む可能性があるからだ。さらにはクリアラップを取れずに終わる可能性だってある。プレッシャーはハンパじゃない。
だが、予選アタックは順調に行った。ブレーキングで突っ込み過ぎないように慎重に。立ち上がりは少しでも早くアクセルを踏めるようにということを心掛け、どこも失敗することなく走り切ることに成功! 手元のロガーで見たラップタイムは、これまで見たことのない2分19秒フラットを記録している。本当か? 順位を示すタワーのトップに我がゼッケン84が出てこないため、不安がよぎっていた。しかし、それはもてぎのタワーの反応がわるかっただけの話で、実はブッチギリのポールポジションを獲得。しかもコースレコードのおまけつきだったというから驚くばかりだ。新品タイヤが生み出す1発のオイシイところを使い切れた結果である。
「あとは逃げ切るだけ」。だがしかし……
こうなればあとは逃げ切るのみ。翌日の決勝はミスなく淡々と走り切れば優勝できるに違いないと会う人会う人に言われ続けた。たしかにそうなのだが、ミスなく淡々がどれだけ難しいことか……。スタートはまずソツなくこなすことができた。後期型はファイナルギヤが4.3となり、転がり出しが鋭くなった印象があるが、そこでできるだけホイールスピンしないようにダッシュするには以前と違う感覚があった。半クラッチの使い方、そしてアクセルを踏み過ぎないようにすることがポイントだと佐々木選手に教わっていたが、ブッつけ本番だった割には成功である。
とはいえレースラップはなかなか上がらない。新品タイヤならではの、ブロックヨレに対応したドライビングをする必要があること、さらにはロングディスタンスを考えて空気圧をかなり低く走り出したこともまた運転を難しくしている。さらにはライバルとなる2番手の小野田貴俊選手は前期型モデルを使っているせいか、ギヤ比の問題でパッシングポイントで刺しに来るから厄介だ。しかし、トップにいる強みを生かしてマイペースで淡々と走り続けようと、できるだけ冷静にを心掛けた。
常にテールtoノーズ。僕から3番手の神谷選手までダンゴ状態がずっと続いていた7ラップ目の5コーナー立ち上がりで事態が急変した。2速から3速へとシフトアップする際に、完全にギヤが弾かれて入らなかったのだ。後続はオカマを掘りそうだったというほど失速し、2台にパスされてしまったのだ。原因は横Gが残っている状況でのシフトアップで、ただでさえシフトが入りにくい中で外側の縁石にタイヤを引っ掛けてクルマを振動させてしまったことのようだ。トランスミッションもエンジンも揺れている状況でクルマを震わせれば、シフトは入らなくて当然というわけ。完全に自分のドライブミスである。これは精神的な弱さが露呈したのかもしれない。その後は一度神谷選手を抜き返すが、抜ききれずに3位でチェッカー。とても苦いシーズン幕開けとなってしまった。
グリッドにつけるだけで幸せだと感じていたが、練習走行と予選で夢を見て欲を出し過ぎたのがいけなかったのか。レースを終えてからの落胆は過去最大級。その後は本日まで毎日のように酒をかっくらい、心ここにあらずという状況だった。本当に悔しい。ここまで支えてくれた皆さんの顔が浮かべば浮かぶほど涙しそうである。申し訳ありませんでした。けれども落ち込むのは今日までにしておく。次戦のオートポリスへ向けてふたたび心を引き締めて全力で戦うことを誓います!