【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記

第14回:装いを新たにクラブマンシリーズに参戦! 初戦の結果はなんと……

今年はクラブマンシリーズに参戦します

 ナンバー付きレースカーの「86 Racing」を購入しておよそ2年。これまで2万5000kmを走破し、GAZOO Racing 86/BRZ Raceに14戦も参加することができた。まずはこれまでにご協力いただいたすべての方々、そしてこの連載をご覧いただいた方々へ御礼を言いたいと思います。これまで本当にありがとうございました。おかげさまで40歳を迎えたオッサンアマチュアドライバーは、かなり充実した人生を送ることができました!

 まるで引退宣言かのような書き出しだが、実は2014年末の時点ではレースを辞めるつもりだった。GAZOO Racing 86/BRZ Raceは皆さんもご存じの通り、多くのプロドライバーが本気の体制で参戦し、上位争いを展開している。与えられるクルマは積載車移動が当たり前であり、ナンバー付きレースカーとはいえ、公道を走っている上位車両はほぼ存在しない。まさにプロのレースをやっているのが現状だ。

 対してコチラはといえば、ローン回数がまだ60回(84回からスタートだからかなり減りましたが)あるクルマを自走で運んでレースに参戦する体制。2014年のオートポリス大会では往復で3300kmも走るほどの辛い状況にあった。プロに少しでも近づきたいという思いでやってきたものの、現実はかなり厳しく、この体制では土台無理な話ではないかと意気消沈してしまったのだ。

 だが、今年のGAZOO Racing 86/BRZ Raceは昨年のレギュレーションとは打って変わり、プロフェッショナルシリーズとクラブマンシリーズに分けて行われると発表されたことで、レースに対する思いが再燃したのだ。

 プロフェッショナルシリーズは、主催者からプロドライバー認定された人のほかに、アマチュアドライバーでもプロにトライした人であれば参戦OK。タイヤは昨年と同じく、タイヤメーカーがGAZOO Racing 86/BRZ Race用に開発したタイヤを用いることが可能になり、さらにTRD(トヨタテクノクラフト)製の機械式LSDを取り付けることも許されたことがポイントだ。また、プロドライバーが参戦するに相応しい賞金設定(優勝30万円、シリーズ賞金300万円)になったこともトピックの1つ。対してエントリーフィーが4万3000円から6万5000円に引き上げられている。

 クラブマンシリーズは、主催者からプロドライバー認定された人以外が参加できるレース。タイヤはいわゆる市販ラジアルのみが使用可能。LSDについても純正のトルセンLSDを装着することしか許されていない。すなわち、クルマは昨年と同じで、タイヤのみを市販ラジアルにすれば即座に参戦することができるのだ。

我が86のカラーリングを一新。色遣いは昨年バージョンを踏襲しつつ、今季は使用タイヤをブリヂストン「POTENZA RE-71R」に変更したのに伴い、ロゴも同タイヤのものにした。カラーリングは昨年バージョンに続き、映画「ワイルドスピード」の劇用車のラッピングを担当したアートファクトリーが施してくれた

 自分に合っているレースはどちらか? それは言わずもがなクラブマンシリーズだと直感した。昨年、一度入賞したことはあるものの、シリーズポイントで上位に行くこともなく、その甲斐あって(?)プロドライバー認定されることもなかったおかげでクラブマンシリーズへの参戦も可能になったワタクシ。機械式LSDを購入する必要もなく、さらにはリーズナブルな価格でレースをできるとなれば、クラブマンシリーズに参戦する方が自然だと考えた。

 さらに、初年度から愛用しているブリヂストンタイヤが、「POTENZA RE-71R」をリリースしたこともクラブマンシリーズへの思いを後押ししてくれたのだ。そのタイヤについては関連記事をご覧いただきたいが、筑波サーキットを走った感触で「これならイケる!」という感触があったからこそ、再びレースに出たいと素直に思えたのだ。

ブリヂストン、POTENZA史上最速のストリートラジアル「RE-71R」説明&試乗会(後編)
http://car.watch.impress.co.jp/docs/review/20141217_680628.html

 このRE-71Rの評判は瞬く間に広まり、実際にはクラブマンシリーズの9割以上がこのタイヤを装着することになってしまった。つまり、タイヤによる優位性はない。ワンメイク状態に近くなってしまったのだ。これは嬉しいやら悲しいやら……。あとは己の腕を信じるのみ!

確実な手ごたえを感じた「POTENZA RE-71R」だが、クラブマンシリーズの9割以上が同タイヤを使用……。タイヤによる優位性がないので、己の腕を信じて今年1年頑張りたいと思います

ドライビングポジションの重要性を再確認

 こうして参戦することを決めたからには車両のリフレッシュである。昨年の最終戦でヒットしてしまった部分を板金するとともに、カラーリングを一新させることに。さらに使い古したトルセンLSDを、未使用に近いというものをネットオークションで購入して交換。ブレーキはキャリパーを新品にした。本当なら足まわりやエンジン、さらにはトランスミッションなどもリフレッシュしたいところだが、予算の関係でそれは見送りに……。

 ただ、自分でも手が届きそうなところは改善しようと思った。それはドライビングポジションが低すぎたことの改善である。現在レカロシートを使っているのだが、レールについては他社の超ローポジションレールを使っていたため、ほかのどのクルマよりも低い位置に座ることを可能にしていた。はじめはそれがレーシーだと喜んでいたが、実際のところはコーナーのイン側が見えず、攻めきれなかったところがしばしば。

 これではいけないと、レカロに精通しているASM横浜(http://autobacs-asm.com/)の門を叩き、相談してみることにした。すると、店長の金山さんから「現在装着されているレカロのTS-Gは、シート自体が低いアイポイントになる形状になっているため、それにこのレールを合わせたのであれば低すぎて当然です」というお言葉が。そこでレカロ純正のシートレールに変更し、アイポイントを少し引き上げることに成功。サーキットで程よいアイポイントが得られるようになった。シートとレールの組み合わせはかなり大切だということを思い知ったのでありました。

ドライビングポジションの改善を図るべく、レカロ専門店であるASM横浜の門を叩いた。店内にはあらゆるレカロが置いてあり、シートにまつわるあらゆる悩みを解決してくれる、頼もしいお店です
アイポイントを少し引き上げることに成功し、サーキットで程よいアイポイントが得られるようになった
ついでにハブとハブベアリングも交換。かなり滑らかに走り出すようになりました。昨年後半あたりはココが抵抗になっていた可能性もありそうです。メンテって大切ですね。また、キャリパー交換でブレーキの踏み応えがよくなりました。「カチッとした感じ」とでも言えばいいでしょうか。古いのは開いていたのかも

初のクラブマンシリーズ参戦、その結果は……?

 こうしてプチリフレッシュが完了した我が愛車を開幕戦が行われるツインリンクもてぎで走らせると、昨年とは打って変って乗りやすくなったことが印象的だ。ドライビングポジションが改善されたことにより、クルマを自分の支配下における感覚が高まり、クルマが小さく感じるのだ。

 タイヤについても昨年まで使っていた「POTENZA RE-11A 4.0」とは異なり、限界域が探りやすい感覚がGOOD! もちろん昨年よりも限界は落ちてはいるものの、昨年の序盤に使用していた「POTENZA RE-11A 3.0」よりも好タイムをマークしている。RE-71Rは3.0と4.0の中間くらいのポテンシャルと言えばいいのかもしれない。ただ、タイムを出すにはかなり繊細に乗らなければタイムが出ない。限界の一番おいしいところをなぞるように丁寧に扱ってはじめてタイムが出るような感覚なのだ。ちょっと乱暴なアマチュアドライバーを矯正するにはよいタイヤかも、そんなことを思わせるRE-71Rだった。

 こうして気をよくしながら走っていると、練習走行中に2番手のタイムを記録することに成功! これなら優勝だって夢じゃない。

第1戦ツインリンクもてぎのフリー走行時の様子。動画は2番手のタイムを出した時のもの。V字手前で縁石に乗ったためにキャリパー内のピストンが押し戻され、ブレーキが床に着きそうになって突っ込み過ぎ。ダウンヒルの進入も早すぎて突っ込み過ぎているところがポイントです

 だが、しかし、けれども、である。予選ではタイヤが暖まり、内圧も狙ったところに行ったであろう周回で、なんと前走車に引っ掛かってしまったのだ。遥か前方を走っていたからアタックに入ったのだが、その車両、実は今回がレース初参戦の方がドライブする車両だったらしく、みるみるうちに追いついてしまったのだ。トップから最後尾まで10秒も開きがあるこのクラブマンシリーズには、あらゆるドライバーがいる。だからこそ、より慎重なアタックラップが必要だったということだ。いずれにしても自らのミス。これで予選は7番手になってしまった。

 しかし、そのミスがなかったとしても上位を獲得できていたかは疑問だ。ポールポジションタイムは自分では見たこともないタイムだったし、自己ベストタイムでも3番手がやっと。クラブマンシリーズだからといって、そう簡単にトップには立てない。上位選手はかなりテストを繰り返し、プロドライバーの指導やロガーでの解析、さらにはタイヤの一番オイシイところを使えるようにタイヤを減らしてきているところがあるほど。クラブマンシリーズとはいっても内容はかなりシビアだ。

 ちなみにプロフェッショナルシリーズではトップと最後尾の差があまりなく、アタックラップ中に引っ掛かるようなことはなかったと聞く。参戦しているドライバーの何人かにお話しを伺ったが、昨年よりも予選がしやすくなったことを喜んでいる人が多かった。

 こうして4列目スタートとなった決勝。だが、練習時のタイムもあるし、あとは上を目指すだけだと奮起して挑むことに。だが、しかし、けれども……。スタート直後の2コーナー脱出時に前を走るクルマがスピン! その脇をすり抜けたが、スピンしたクルマのテールと僕のクルマのテールがヒットしてしまい、バンパーが外れかけてしまった。付いているのは左側のピン1つという状況で、バンパーを引きずりながら1周を走ることに。すると我が車両にオレンジボールという旗が提示されてしまった。ピットインして修復せよという合図である。ヒットした時にアライメントもずれ、ステアリングセンターが狂っていたこともあり、その場でリタイアすることを選択した。

 これはかなり残念な結末。しかし、これもまたレースだと受け止め、次戦でのリベンジを誓い、サーキットを後にした。次戦岡山では何としても好成績を収められるように頑張ってきますので、今年もまた応援よろしくお願いいたします!

2015年度開催日程

Rd.日程開催地サーキット
Rd.13月28日~29日栃木県ツインリンクもてぎ
Rd.24月25日~26日岡山県岡山国際サーキット
Rd.36月6日~7日静岡県富士スピードウェイ
Rd.47月11日~12日宮城県スポーツランドSUGO
Rd.58月1日~2日大分県オートポリス
Rd.68月23日北海道十勝スピードウェイ
Rd.79月26日~27日静岡県富士スピードウェイ
Rd.811月7日~8日三重県鈴鹿サーキット
特別戦未定未定未定

Photo:高橋 学

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。