【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記

第11回:まだまだレースについて学ぶことが多かった第8戦富士

 シーズン終盤に差し掛かってきた「GAZOO Racing 86/BRZ Race」は、今回の富士スピードウェイでなんと8戦目。残すは第9戦オートポリス(10月12日)と第10戦鈴鹿サーキット(11月8日~9日)となる。すなわち今回のレースは関東人として地元最終戦。前回の富士では5位入賞を果たしただけに、気合はいつも以上である。

 だから消耗品として名高い(?)純正トルセンLSDを泣く泣く新品注文。ブレーキローターだって新品だ。次々に届く請求書を眺めながら、いまにも出そうなため息をグッと堪え、「ここが勝負どころ!」と自分に言い聞かせることもしばしば。大好きな食後のデザートを我慢し、ガラにもなく筋トレを行いながら、請求書で打ちのめされそうになった気持ちを静めていく。このストイックさ、かなり素敵!?(笑)

 ただ、ぶったるんだメタボ体型と精神的な部分は相変わらずか? 40歳間近にしてレース参戦を再び開始し、チャレンジング精神旺盛なのかと思いきや、考え方はかなり保守的。乗り継いだクルマはスポーツカーばかり。20年以上通い続けているラーメン屋や定食屋のメニューは変化することがない。一度決まれば突っ走るばかり。頑固オヤジはこうして作られていくのかもしれない。

写真右がPOTENZA RE-11A 3.0、写真左がPOTENZA RE-11A 4.0。4.0は前回の岡山大会のタイミングでマイナーチェンジが行われ、低温からの発熱やウエット性能が進化した

 話がやや脱線してしまったが、こんな頑固さがレースにも影響を及ぼしてくる。それはタイヤ選択だ。現在装着しているブリヂストン「POTENZA RE-11A 4.0」は、前回の岡山大会のタイミングでマイナーチェンジが行われ、低温からの発熱やウエット性能を進化させてきた。だが、個人的には旧バージョンのカチッとしたステアフィールが捨てがたく、在庫があるというそれを何とか手に入れて富士入りした。前回の好調をもう一度、というわけだ。

 しかし、いま考えてみればそれが間違いの始まりだった。9月後半の富士はかなり涼しく、タイヤがなかなか温まらない。普段なら予選は水温も油温も上がり切らないところを狙い1ラップアタックで終えているのだが、結局は3アタックしてようやくベストタイムが出るという始末。クルマが発熱し切ったところでベストが出るという悪循環をもたらしたのだ。結果は予選A組10番手。総合19位という結果に終わった。これは明らかにタイヤのミスチョイス。自分の頑固さを悔いた。新しいものを素直に受け入れる柔軟な頭、これがいま必要なことだろう。ただ、唯一の救いは自己ベストタイムを更新できたこと。気候が涼しくなったのだから当然の結果なのだが、進化幅の理由にクルマのセットアップや自分のスキルが挙げられなかったところが非常に残念である。

 前回の富士のように、予選でシングルグリッドを得られなかった理由がもう1つある。それは今回の予選A組のメンツが強豪揃いだったこと。つまりはプロドライバーが多くいたのだ。さらには新製品を登場させたライバルメーカーのタイヤを装着しているクルマが数台……。激戦区に進化を拒否した者が入り込んだのだから、かつてより沈んでも当たり前。いつまでも現状に留まっていては置いて行かれることを学んだのだ。

セーフティカー先導中の致命的なミス

 そんな現実を突きつけられた予選だったが、決勝レースを諦めたわけではない。混戦になればまだまだレースの行方は分からないのだから……。平常心を保つことを心掛け、冷静にスタートすると、オープニングラップは予想通りの混戦ぶり。時にはコーナーで3ワイド、4ワイドになることもあるくらい接触スレスレのバトルが始まった。そこで2台をパスすることに成功。その後のやる気にも十分繋がった。

 だが、隊列ができ上がってしまえば後は安定したもの。ただひたすら前がミスすることを待ってジッと我慢するばかりだった。すると、接触によりスピンしたクルマが1台、さらに単独スピンで戦線離脱するクルマがいたりと、順調に順位アップをすることができた。待っていればイイことがあるのだ。

 レースが動いたのは終盤だった。後続で大きなクラッシュがありセーフティカーが入ったのだ。およそ2周にわたりスロー走行が続いたため、ヒート仕切ったクルマとタイヤをクールダウン。息が上がってきたオッサンの身体もそこでリフレッシュできた。

 セーフティカーがいなくなりレースが再開される時、そこで新たなる課題を発見した。それはローリングスタートの難しさと、セーフティカー先導中に致命的なミスをしていることが発覚したのだ。前車とのタイミングを図るのは経験が必要なことかもしれないが、もう1つの致命的なミスは、明日からでも改善できそうなこと。それはスロー走行中にレコードライン以外のところを通っているらしく、タイヤカスを思いっきり拾っていたのだ。おかげで再スタートの時にタイヤのグリップはフルに発揮できず、前車との差がそこで生まれてしまったのだ。分かっているようで分かっていなかったこんな事実が見えたことも、今回の大きな収穫だった。

 その後はゼッケン700番の杉原直弥選手とバトルを楽しみながら14位でゴール。テール・トゥ・ノーズでチェッカーを受けた。ま、負けたのは僕でしたが……。

 レース後「楽しかったです!」と挨拶しに行ったのだが、そこで新たな事実が発覚。なんと僕が杉原選手に接触していたのだ。フロントバンパー左脇には杉原選手のタイヤ痕が。これは本当に申し訳なく謝罪。すると杉原選手は「レースだからこれくらいは仕方ないですね」といってくれたのだ。本当に申し訳ありませんでした。

こちらが杉原選手に接触した際のタイヤ痕。ぶつかってしまい、本当に申し訳ありませんでした!

 だが、これは僕にとってかなりショックな出来事だった。なにせ接触したことを自覚していなかったのだから。後に車載ビデオを見てみると、オープニングラップの13コーナーで接触したことが分かった。3ワイドの真ん中で13コーナーに入り、僕はIN側にいるクルマと当らないように右のミラーを確認していた時に、フロントバンパー左側で杉原選手を押していたようだ。まだまだ冷静にすべてを見ることができていない事実を突きつけられたように感じた。

 こうしてシーズン終盤の8戦目にして、まだまだ学ぶべきところがあった今回のレース。反省すべきところはきちんと反省し、次のレースに繋げようと誓ったのでありました。

来シーズンのGAZOO Racing 86/BRZ Raceはプロクラスとアマチュアクラスに分けてレースが行われることが決定している。それを踏まえ、プロクラスに出ようと考えているドライバーを中心にミーティングが行われた。レギュレーションに対する意見をまとめ、主催者へ向けて要望しようというのが目的だ。ドライバーの取りまとめを行ったのは、この富士でシリーズチャンピオンを獲得した谷口信輝選手である。こうした場を設けていただいたことに感謝だ。要望としては、機械式LSDを解禁してコストダウンを図ること。スピードリミッターを解除することで、無理な追い越しが減り、逆に安全になる可能性があるということ。タイヤのレギュレーションも見直しが必要かもしれないなど、さまざまな話し合いが行われた。来シーズンはこのレースがどう変化して行くのか? その動向に注目していきたい

Photo:高橋 学

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。