カーバッテリーで停電・節電対策のバックアップ電源
メンテナンスフリーバッテリー「20-55」
メーカー:ACデルコ
購入価格:1万円

 

 3月11日発生の東日本大震災などで東日本の電力事情がひっ迫していることはご存じのとおり。お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈り申し上げると共に、被災された皆さまに心からお見舞いを申し上げたい。

 震災直後に東京電力管内で行われていた計画停電は、当面実施されなくなっているが、夏場になるとエアコン使用量が増えることもあり、再度計画停電が始まることや、予想外の停電が起こる可能性もある。また、今もまだ余震が続いているので、突発的な停電が起こる可能性も十分に考えられる。

 こういった状況であるので、急遽停電対策に備える簡易バックアップ電源を用意してみた。この電源はカーバッテリーを電源として、カーグッズの関連パーツを揃えれば簡単に実現できる。12Vのカー電装品であればそのままつなげばよいし、AC100Vの家電ならDC/ACインバーターを接続して利用可能になる。停電時の心強い味方になるだろう。

カーバッテリー(中央上)を活用したバックアップ電源システム。今回はいくつかのカーグッズを組み合わせてみた。手前の各種機器を動作させることができた

 今回はこの電源システムを、なるべく既存のパーツを使って単純にコネクターをつなげるだけで構築してみることにした。ギボシ端子をカシメたりハンダをつけたりなどといった工具を使わずに、電気の知識がそれほどなくてもパーツを揃えれば、容易にできるものとした。ただし、カーバッテリーは容量が大きいので、プラス(+/赤)とマイナス(ー/黒)の端子やコードを金属などで接触させるショートだけは、絶対に起きないよう万全の注意をして作業してほしい。ショートすると火花が出て、最悪火災になる可能性もある。また、充電時には水素が発生することがあるので、密閉した室内では作業を行わず、通気のよい場所で充電するように注意する。

 今回紹介している使い方は、必ずしもメーカーが想定している状態ではないため、あくまでも自己責任にて製作、運用してほしい。

 この電源システムは、西日本や停電がない状況であれば、ピーク電力シフトに活用することもできる。いずれ夏の日中は電力が不足気味になる。電力会社が発電所で発電した電力は、貯めることなくその時点で使うのが基本。ここで難しいのは常に使用量よりも大目に発電し続けていないとならないことだ。そのため使用量のピーク(最大値)を見越して発電しているのだが、そのピーク電力をあまり大きくできない状況になっているので、強く節電を呼びかけているわけだ。

 このピーク時間帯は、春なら18~19時、夏なら10~14時頃などとおおよそ同じパターンになっている。この時間に少しでもバッテリーで電力を使用して、充電を電力の余っている夜間に行うことで、使用量を多少でも平均化できるという理屈だ。バッテリーでは、それほど大きな電力の機器は使用できないが、電気の使用を我慢して控えることなく節電に貢献できることになる。

 準備するのは以下のものになる。ソケットやコード、ターミナル以外は、すでに持っている方も多いだろう。

・カーバッテリー
・DC/ACインバーター
・カーバッテリー用充電器
・シガーライターソケット
・電源接続用コード
・バッテリ-タ-ミナル

 カーバッテリーは古くなって交換したものでも十分利用可能だ。この際バッテリーを自分で交換して、残ったバッテリーを電源に活用するとよいだろう。なお、カーバッテリーは空になるまで放電し過ぎると著しく性能を損なってしまうので、使い過ぎには十分に注意する。完全に使い切るまで使う目的の鉛蓄電池は、ディープサイクルバッテリーというタイプになる。長時間電気を使いたいならこちらを用意しよう。

 バッテリーでどのくらいの電力がまかなえるかは、バッテリー容量として「55Ah」などと表記されている。国産自動車に搭載されているバッテリー(JIS)は「5時間率(5HR)」と呼ばれ、容量の1/5の電流を放電し、10.2Vまで放電できる容量が表記されている。欧州車バッテリー(DIN、EN)は「20時間率(20HR)」、オートバイ用バッテリーは「10時間率(10HR)」が採用されている。

 たとえば、国産車用の「55B24(R/L)」という型番で36Ah使えるバッテリーの場合、合計6Aの機器を6時間使うことができる計算になるが、この容量は理論上の限界値なので、ここまでは放電させないようにセーブして使用したい。計画停電では3時間だったので、ライトや小型電気製品なら問題ない容量だ。

 実際にはテスターか車用のバッテリーモニターを接続しておいて、12V以下に落ちないように見ておけば万全だと思う。このバッテリー型番「55B24」の「55」は容量のように感じるが、これは性能値を表示しているので注意しておこう。ラベルやカタログページなどで実容量を調べておきたい。

 カーバッテリーでは電源コードを直接接続することはできず、接続には専用ターミナルが必要になるので用意する。

愛車用に使えるカーバッテリーを新調した。ACデルコ「20-55」という型番。容量は20時間率で55Ahある。ACデルコというメーカーは聞き慣れないかもしれないが、アメリカ車などによく採用されているバッテリーターミナル。エーモン工業「バッテリーターミナル F225」。+と-の表記があり、太さが異なるものにすることで同じ端子にしか入らない仕組みになっているカーバッテリーとケーブルはターミナルでつなぐ必要がある。そのままではコード類はつながらない

 バッテリーからは、シガーライターソケットと電源コードを使って接続する。

 今回はエーモン工業製の既成電源取り出しケーブルを使用したので、すでに配線済みのギボシ端子を接続していくだけで配線が完了する。ギボシ端子のカシメができるなら、自作してもよいだろう。注意点は必ずバッテリーに近い位置にヒューズを入れることだ。ショートや過電流での加熱事故を防ぐためだ。製品のケーブルには10Aのヒューズが入っている。

 ギボシ端子とケーブルの制作をしたい場合、カーグッズ・ミニレビューの以前の記事「100円均一で売っている圧着工具を試す」に詳しく書かれているので参考にチャレンジしてみてほしい。

 コード類の配線を終えてから、バッテリーの+側から接続し、次に-側をつなぐ。逆に外す際には逆にマイナスから外す。

 バッテリーに接続した+端子部分は、絶縁目的でプラスチックやゴム、紙などの素材で覆いをしておく。+側端子をカバーするターミナルカバーも販売されている。金属部品が触れてショートしてしまうことを防ぐためだ。万一とはいえ地震で落ちてきたモノでショートしてしまわないとも限らない。万全を期してほしい。

バッテリーとの接続ケーブル。エーモン工業「電源取り出しコード E341」。あらかじめ端子とヒューズが配線されている装着されているヒューズは10Aシガーライターソケット。エーモン工業「線付ソケット(メス)E329」
必要に応じてコンセント分岐にタップなどを用意する。スイッチ付きだと元でOFFにできるため便利ケーブルとシガーライターソケットのギボシ端子をつなげる。+とーの極性が、正しくつながる形状になっている+側をバッテリーターミナルとつなぐ。ケーブルの+側は丸形端子になっていてギボシ端子で外すことができるようになっている。まずはこちらをバッテリーに接続する
-側は外しやすくクワ型端子になっているので、差し込むようにして接続する。写真は分かりやすいようになにも付けていないが、この時点で+側の絶縁をして作業をしたほうが安全だターミナルカバーが手に入らなかったので、ビニールテープにて代用して+側を絶縁した。不意のショートを防ぐためにも、+端子になんらかのカバーをしておく全体の接続状況。くどいようだが接続を見せるため+端子のカバーを外している

カーバッテリー用充電器には、手持ちのセルスター工業「CC-30AT」を使った。バッテリーの種類をシールドか開放かを選べば、後は自動で充電してくれる

 使用するには、停電前の充電が必要になる。充電にはカーバッテリー用充電器を使う。深夜のあまり電気が使われない時間帯に充電しておくとよいだろう。我が家はオール電化住宅契約なので、23時から7時までの電気料金が一般よりも安く設定されている。この時間帯に充電することにした。

 重要なのは、密閉型バッテリーとはいっても、充電時にはまれに水素が放出されることがある。水素はちょっとした火花で爆発する可能性がある。必ず通気のある屋外か、排気ファンのある場所で充電してほしい。

 夜間に充電開始時刻を自動制御したい場合には、24時間タイマーを用意すると便利だ。充電終了は通常自動的に切れるようになっている。

 DC/ACインバーターは、バッテリーの直流(DC)13.8Vを家庭用コンセントの交流(AC)100Vに変換してくれる装置だ。100Vのコンセント用機器を接続して使いたい場合に用意する。

 選択ポイントは、単純に利用できる電力(ワット数)で選べばよいだろう。利用できる電力が大きいほうが高価になる。ただむやみに大きな電力が利用できるモデルを選んでも、バッテリーが短時間しか利用できないうえ、アイドル時の電力消費も多いだけで、大電力機器を使わないならまったく無駄なのでほどほどの容量がよい。

 車内のシガーライターソケットでも使うことを考えた場合、ヒューズで150~180Wあたりに限られていることがほとんどなので、それ以下が使いやすいだろう。今回選択した接続ケーブルにも10Aのヒューズが入っているので、120W以上流れるとヒューズが飛ぶ(切れる)。出力ワット数は、通常パッケージに書かれているのは瞬間最大値で、定格出力と書かれているのが常時使える電力値だ。

 また、普通車の13.8V(12V)以外にトラック用として24V用インバーターや、形状が似ている24Vから12Vに変換するDC/DCコンバーターもあるので、間違えて選ばないように注意してほしい。DC/ACインバーターは、カーグッズ・ミニレビューでもレビューされているので参考にしてみてほしい。

カー用DC/ACインバーター
USB給電端子装備の350W DC/ACインバーター
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/minigoods/20101224_414597.html
車内でノートパソコンやスマートフォンを手軽に充電
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/minigoods/20101203_411195.html

 一般的なDC/ACインバーターで得られる交流電流は、疑似正弦波と呼ばれる矩形波(パルス波)と正弦波(サイン波)の中間の波形になっている。簡単に言えば歪みの大きな交流波形が作られるということ。このため家電の中にはうまく動作できない機器もあるので注意する。精密機器やマイコン制御の機器などがそれにあたる。家庭用コンセントから出力されるものと同等の正弦波を得る必要がある場合には、正弦波出力のインバーターを選ぶ必要があるが、こちらはかなり高価になるのであくまで必要な場合にのみ選ぼう。特にパッケージに正弦波と書かれてなければ疑似正弦波と考えてよい。

 当然だが、車載対応の13.8Vで動作する電化製品を動かすだけであれば、DC/ACインバーターは不要。シガーライターソケットを使うか、バッテリー間にヒューズをいれて直接接続して使える。

今回は、手持ちのアルインコ製DC/ACインバーター(現在は販売されていない)を用意した。普段は車内でノートパソコンを使うために利用している車載用の電化製品ならそのまま利用できる。これはカーグッズ・ミニレビュー「暗いダッシュボード下を明るく照らす」で紹介したLEDライト。夜の停電時に威力を発揮しそう

 100V用の家電を使う際には、必要に応じて以下のものもあると便利だ。

・コンセント増設用のテーブルタップなど
・ワットモニター(使用電力のモニター)
・バッテリー電圧モニタ(過放電をモニター)

 ワットモニターは、使用中機器の総電力量を把握しておくのに便利。オーバーロード時にはヒューズは切れるが、その前にワット数を把握して抑止できる。

 使用中にテスターでバッテリー端子間の電圧を測っておいたが、使い始めは12.3Vだったのが、60W程度を3時間使ったあたりでちょうど12.0Vを切るようになってきた。停電時のちょっとした作業には十分使えるだろう。あまり欲張って使いすぎると、バッテリーは極端に劣化するので、ほどほどが肝心。

 今回使ってみて問題がなかったのは以下のような機器だった。

・蛍光灯電気スタンド(約10W)
・携帯や携帯ゲーム機などの充電
・ノートパソコンの使用(約30W)
・小型扇風機(約40W)
・光ファイバー終端装置+無線LANルーター(約40W)

 実際にはノートパソコンは付属バッテリーで動作可能なのであまり意味がないが、動作時間をさらに延ばすことが可能になる。実はこの電源システム、計画停電が実施された際に自宅で停電時でも光回線を保全するために作ったものだった。回線局側も停電している場合は無駄だが、自宅側のみの停電であれば、終端装置やルーターに通電さえすれば回線が利用できる。電話も光回線のため、こちらを利用できるようにしておく意義もある。

 なお、消費電力が大きなドライヤーやヒーター関連、電子レンジ、電子ジャー、小型冷蔵庫などは、使用開始時の電力が大きく動かない可能性が高い。そもそも長時間使えないので実用的ではないだろう。またデスクトップパソコンや大きめの薄型テレビは、モデルによって消費電力が大きく異なることと、疑似正弦波でトラブルが起こる電源(アクティブPFC回路を使った電源では異常発熱する)である場合もあるので、ケースバイケースとなる。家電であればなんでも使えるものではないことを心得て注意しながら使ってほしい。

 これから夏にかけては、エアコンは数時間我慢して、扇風機さえ動作すれば乗り切れると思う。停電時やピークタイムシフト貢献に、カーバッテリーを工夫しながら活用してみてほしい。

サンワサプライ「ワットモニター TAP-TST8」。使用電力を確認できる機器を接続するとリアルタイムで使用ワット数が表示されるので、使い過ぎないように監視できる。30W前後使っている状態使用中はテスターでバッテリー端子間の電圧を測っておいた。電圧が低下し過ぎるのを監視する。写真は、60Wで3時間使用したときの電圧

(村上俊一)
2011年 5月 13日

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