マツダ「スカイアクティブ-D」の技術

 マツダ「CX-5」に搭載されてデビューしたクリーン・ディーゼルエンジン「スカイアクティブ-D」は、直列4気筒DOHC16バルブ 2.2リッター直噴ターボのスペックから、最高出力129kW(175PS)/4500rpm、最大トルク420Nm(42.8kgfm)/2000rpmを発生する。4リッターガソリンエンジンなみのトルクを出しつつ、JC08モード燃費は18km/Lを超える。

 そしてこのエンジンは、排出ガスに尿素を吹きつけるといった、コストや重量のかさむ「後処理」を行わずにNOxを低減し、ポスト新長期規制やユーロ6といった排出ガス規制をクリアしているのが大きな特徴だ。

スカイアクティブ-D CX-5
スカイアクティブ-D 2.2の性能曲線 従来型ディーゼルエンジンとのトルクの比較 従来型ディーゼルエンジンとの燃費の比較

圧縮比を下げて有害物質を低減
 ディーゼルエンジンの原理は、空気を燃焼室の中で圧縮し、圧縮による温度上昇の熱によって燃料を自然に着火させる仕組みだ。

 自然、つまり成り行きで燃やすため、燃焼は均一ではなく、まちまちになる。つまり、一部が高い温度で燃えたり、空気が足りないまま燃えたりする。そして温度が高いとNOxが、空気が足りないとPM(スス)が生まれる。NOxは光化学スモッグの原因になるし、PMは環境を汚す嫌われモノ。そして、これが、これまでのディーゼルの最大の問題であり、大きな課題となっていたのだ。

 そして、これまでディーゼルは、それらを減らすために直噴技術を進化させてきた。エンジンの回転数をコントロールするために、先に空気だけを圧縮し、後で燃料を直接に燃焼室に噴霧するのだが、着火をコントロールするには噴霧するタイミングや方法、量が大切となる。それを緻密に制御するために、さまざまな技術が生まれ採用されてきた。

 しかし、それでもディーゼルの排気ガスから、NOxとPMを無くすことはできなかった。最高の効率を考えれば、ピストンが燃焼室の一番上にあるとき(上死点)に燃やしたい。しかし、そこで燃やすと温度が高すぎる。そのため、ピストンが少し下がってから燃焼させていた。

 点火タイミングを遅らせるので、「リタード」と呼ばれる対処法だ。しかも、それでも規制をクリアできるほどNOxもPMも減らない。そのため、これまではフィルターでPMを取り除き、触媒でNOxを無害にしていたのだ。

 そこをマツダは燃焼自体を改善することで解決した。

 解決策は、圧縮比の低下であった。こうすることでピストンが上死点にあっても燃焼室内の温度と圧力は従来よりも低くなる。そのため、そこで燃料を噴霧させても着火までの時間が長くとれる。つまり燃料と空気が混ざる時間を作れる。燃料と空気がうまく混ざれば、燃えたときに局部的な高温部分や空気不足が発生しにくくなる。結果、NOxやPMも少なくなるというわけだ。

スカイアクティブ-Dと従来型ディーゼルエンジンの点火タイミングの違い
圧縮比を下げ、燃料と空気が均一に混ざるようにしてNOxやPMの発生を抑えた 低圧縮比により機械抵抗も減った

 さらに嬉しいのは、上死点で着火するため、着火を遅らせたときよりもピストンの仕事量を大きくなる。それは効率が高いことを意味する。

 さらに、圧縮が下がるとよいことがある。それは燃焼室内にかかる圧力も下がることだ。そうなると、これまで頑丈にしないと壊れるといって、重くガッチリと作ってきたエンジン自体を薄く軽くできるのだ。スカイアクティブDでは、シリンダーブロックをアルミ化し、ピストンやクランクの軽量化を行った。その結果、機械抵抗も低下。普通のガソリン・エンジン並みまで抵抗を減らすことに成功している。

低圧縮のデメリットを克服
 しかし、ディーゼルの低圧縮化にはデメリットもある。これまでは、そのデメリットをうまく解消できないため、なかなか低圧縮化が実現できなかった。それが低温化での始動性や暖気中の半失火。つまり、寒いときちんと燃えないという問題だ。

 その解決には、いくつかの方策が取られた。1つが高性能なインジェクター(マルチホールピエゾインジェクター)の採用だ。きめ細やかな燃料噴霧を可能とする高性能なインジェクターは高価な部品だが、「後処理にお金をかけるよりもこちらだ!」と採用したという。スカイアクティブ-Dに採用されたものは、1燃焼あたり9回の噴射を可能とする。また、インジェクターだけでなく、始動を補助するセラミックグロープラグも併用することで、確実な始動性を確保している。

 暖気中の半失火を防ぐのは、排気バルブの制御で対応した。吸気行程中にわずかに排気バルブを開くことで、1度燃焼して高温になった排気ガスを逆流させる。これで燃焼室の温度を高めて、着火の安定性を確かなものにしている。

 バルブの開閉をコントロールするために、排気側のカムに冷間時用のプロファイルが設定されており、冷間時に切り替えるようになっているのだ。

低圧縮では暖気中の半失火が問題に 可変バルブリフト機構 排気側のカム。2種類のカム・プロファイルが設定されている

PMは後処理で
 しかし、そうした工夫を施しても、燃焼だけでNOxとPMをゼロにすることはできなかった。ちなみに、NOxとPMの発生はトレードオフの関係にある。NOxを減らそうと燃える温度を下げればPMが増え、逆にすればNOxが増えてしまう。そこでマツダは、燃焼ではNOx低減に力を入れた。なぜならNOxとPMでは後処理の大変さが違うからだ。

 簡単に言えば、PMはフィルターを使えば、そのほとんどを取り除くことができる。触媒などが必要なNOxの無害化よりも、簡単で安価だという。つまり燃焼でNOxを減らし、フィルターでPMを排除し、最終的に両方の排出を減らすという狙いである。

 スカイアクティブ-Dは、こうした技術を積み重ねることによって、欧州(ユーロ6)だけでなく日本の厳しい規制(ポスト新長期)をクリアすることに成功しているのだ。

【お詫びと訂正】ディーゼルエンジンの原理について、誤解を招きやすい表現があったので修正しました。

【訂正】SKYACTIV-D 2.2のエンジン性能曲線を変更しました。変更理由については、マツダのWebサイト(http://www.mazda.co.jp/philosophy/tech/env/info/20140207.html)をご覧ください。

CarテクノロジーWatch バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/tech/


(鈴木ケンイチ )
2012年 3月 21日