EVに最適? 東芝の2次電池「SCiB」

 三菱自動車の電気自動車(EV)「i-MiEV」やホンダの電動2輪車「EV-neo」などへの採用事例が増え、俄然注目を高めるのが東芝の2次電池「SCiB」だ。

 「寿命の長さ」「優れた急速充電対応能力」「低温への強さ」などの美点を備える「SCiB」であるが、自動車やバイクに使用すると考えれば、「安全性の高さ」が最も注目すべき特徴だろう。今回は、「SCiB」の「安全性の高さ」の理由を中心に説明したい。

SCiBのセル(左)とモジュールi-MiEV用のセル
SCiBは充放電を6000回しても80%以上の容量を維持している充電にかかる時間が短い低温に強い

 

SCiBの構造

極材を変えて安全性と長寿命を実現
 東芝の2次電池「SCiB」の特徴は、その内部の構成にある。通常のリチウムイオン電池は、プラスの正極材にリチウムとマンガンなどの金属酸化物を置き、マイナスの負極材に炭素を使用する。一方、「SCiB」はプラス側にマンガン、マイナス側にチタン酸リチウムを使う。この独自の構成によって、「SCiB」は高い安全性と長寿命を手に入れることに成功したのだ。

 まず、SCiBが長寿命の理由から説明しよう。「電池が長寿命である」ということは、劣化が少ないことを意味する。劣化とは電池の容量の減少であり、それを引き起こすのが電池内部のマイナス極で発生する「析出」だ。

 析出とは、溶けていたものが固まって姿を現すこと。リチウムイオン電池でいえば、充電を繰り返すことで、プラス極にある物質が電解液に溶け出し、マイナス側で固まる。温度が高ければマンガンが固まるし、低ければリチウムが固まる。そうなると、どんどん電池の溜め込める電気は減る。つまり劣化してしまうのだ。

 それに対してSCiBは、マイナス側のチタン酸リチウムの表面にマンガンが固まりにくいという性質がある。また低温下でも、リチウムがマイナス側に固まらないことが確認されている。そのため、劣化が少ない=寿命が長いという特性を得ることができたのだ。

 ちなみにチタン酸リチウムは、酸化チタンの一種である。酸化チタンは、いわゆるUVカットの化粧品などに使われるごく身近な物質。これにリチウムを合成させたのが、チタン酸リチウムというわけだ。

チタン酸リチウムが事故を防ぐ
 このチタン酸リチウムには、面白い特性がある。それはリチウムイオンを持っているときは電気をよく通す性質なのだが、そのリチウムイオンを完全に放出してしまうと電気を通しにくくなる。この性質が、万一の交通事故などで2次電池が破損し、内部で短絡(ショート)が起きてしまったときの熱暴走・発火を食い止めるカギとなった。

 クルマでのリチウムイオン電池使用で危惧されるのは、万一の交通事故による電池自体の破損だ。電池が潰れてしまったり、金属片などが貫通すると電池内部が破壊されてしまう。そのときにセパレーターで分離されていたプラス側の物質とマイナス側の物質が直接に触れてしまう。いわゆるショートという状態で、これが大きな問題になるのだ。

 電池の内部でショートが発生すると、その部分に一気に電気が流れる。そのときの電流・電圧は普段の使用で想定する以上のもの。するとその部分の温度が上昇し、その温度上昇によって内部の素材が破壊され、さらに熱が上昇するという負のスパイラルが始まる。いわゆる熱暴走だ。そして最終的に酸素に触れて発火! これが、リチウムイオン電池の破損の最悪のシナリオとなる。

 では、「SCiB」の内部でショートが起きたらどうなるのか? 当然、短絡した部分には一気に電気が流れる。しかし、接する表面のチタン酸リチウムが、持っているリチウムイオンをすべて放出してしまうと、一転して電気をシャットダウン。つまり短絡部に接するチタン酸リチウムがショートの拡大を防ぐ役割を果たしてくれるのだ。また、チタン酸リチウムはそれ自体が熱に強く、ほぼ燃えないという特性がある。

 そうした特性によって、SCiBは万一のショート時でも、温度上昇が緩やかになり、また熱暴走を起こしにくい=「高い安全性」を実現しているのだ。

SCiBはショートしても熱暴走を起こしにくい

 パソコンや携帯電話でのリチウムイオン電池の発火事故の事例を見ると、何十万、何百万という出荷の中のたった1つの事故が、非常に大きな事件になることがある。これが人の命を載せて走るクルマであれば、なおさら大きな事件になってしまうだろう。

 そうした視点で考えれば、2次電池における安全性の高さは重要な条件となる。そういう意味で、東芝の2次電池「SCiB」は高いポテンシャルを秘めた存在なのだ。

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(鈴木ケンイチ )
2012年 5月 16日